第三十話 クリスマスの亡者
久し振りすぎる更新……すんません。
町が広がる広がる。
一ヶ月前と比較しても段違いだ。タイムラプスにでもして経過を観察したい物である。なんか娯楽施設まで出来てるし、デートスポットとして紹介されることもあるのだとか。帰れ。
後のニュースと言えば……、新宿駅ダンジョンの攻略情報が公開されたことだろうか。一ヶ月前に捜索隊が入り、全貌とは言わずともある程度構造を把握したらしい。情報をみる限り、新宿駅はかなり摩訶不思議空間になり果てているようであった。
朝起きて散歩したり訓練したり飯食ったりして、おコタでゲームしながら寝転がる平穏な日々。
そんな中、突然アラームが鳴り始めた。
『ご主人様! 冒険者によって中層の攻略が開始されました』
な、何おう!?
「規模は!?」
『五人パーティー2つ、六人パーティー3つ、ソロが三人です』
ガチ攻略規模じゃねえか!
何故だ? なぜ突然攻略を始めたんだ?
食糧目当てなら上層で十分事足りるはず。彼らに危険を冒してまで中層を攻略する理由は特にない。
……正直この程度で攻略されるほど甘くはないのだが、まあ彼らの理由くらいは知っておきたい物なのだ。
『ご主人様、今回の攻略が開始された理由が推測できました』
「ん、なんだ?」
『今日が何の日か、覚えていらっしゃいますか?』
む。
確か今日は12月24日だったはず……
ん? ちょっといやな予感がするぞ?
「クリスマスイブ、だな。……それが?」
『ではもう一つ尋ねさせていただきます。このダンジョン周辺が、最近デートスポットとして紹介されているのはご存じでしょうか』
「誠に遺憾ながら、そうだな」
うん? この問答にいやな予感を払拭出来ないんだが?
『おそらく、クリスマスの負け犬がやけを起こしたのでは無いかと』
「は?」
『今回のメンバーは、ほとんどが日本人です。また連携に難があること、レベルがそこそこ高いことから、即席パーティーであると推測できます。ですが各々のやる気と団結力は目を見張る物があります』
なんかコアが、しょうもないことを冷静に分析している気がする。
『よって、このダンジョン周辺の町や、上層に溢れかえったカップル達に殺意を抱いた男達が、怒りをぶつけるために攻略に乗り出したのではないかと』
「いや気持ちは分かるが馬鹿だろう。……というか、え? 上層がカップルで溢れかえっているの? え?」
『DPが大量に確保できています』
「あ、うん。それは良かったね。ていうか、え? ここリア充の巣窟になっているの?」
カップル達の桃色空気と、男達の怒号がここまで伝わってきているような気がした。
「……なあ、上層の難易度上げない?」
『やめて下さい』
非リアの攻略速度がすごい件。
なんか命を省みずというか、勢いとノリで突き進んでいるというか、マッピングはしていても迷いが無いというか、そんな感じ。
中層の一階層は上層二回層と構造は変わらない。ただ宝箱が少なくなり、罠や敵が多く強力になる。
そして部屋と廊下の間に扉があり、ランダムに開くようになっている。これで簡単に、一定時間で迷路の構造が変わる階層となっており、それ故攻略速度は遅くなると踏んでいたのだが。
奴ら狂戦士とでも言わんばかりの振る舞いで、モンスター達を出会っては殺し出会っては殺しと繰り返している。まるで自分の中の高ぶりを叩きつけるかの如く。
そして野性的とも言える勘で、強力な罠を尽く避け、正解に近い道を選び取っているのだ。
「……このままだと、中層一階層は攻略されるな」
『ですね』
あまりノリと勢いで攻略しないで欲しいものなのだが。
「まあ中層二階層は無理だろう。アレ攻略すんのは至難の業だ」
『私の自信作ですから』
コアが自慢するような音声で言うが、人工音声でどうやって感情を表現しているというのだろうか。まあ分かってしまう俺も俺か。
中層二階層のコンセプトは「最小のDPで最大の効果を」だ。
俺のアイディアを元に、スパコン以上のスペックを持つコアが計算して作り上げた、芸術的とも言える階層。
野生の勘程度では、攻略できる訳がないのだ。
「リア充爆発しろぉ!!」
「シネやクソカップルが!」
「ダンジョンでいちゃつくなやゴラァ!!」
「スケルトンがいちゃついてんじゃねぇ!!」
阿鼻叫喚の絵面である。
全国のカップルに怒りを顕わにし、自らの不運を嘆き殺戮を繰り返す。
「お! これ下の階層への階段じゃね?」
「意外と行けるもんでござるな」
「魔物氏ねぇ! 魔物氏ねぇ!」
一行の目の前に現れた階段は、立体構造であるこの階層の部屋と部屋をつなぐ階段よりも長かった。
「正直階段ばかりで、どれが下の階層に繋がる階段か分からんのだが」
「おい、行くなら行かねーと、扉が閉まっちまうぞ」
「飛び込め飛び込め、とりあえず行っちまえ」
一行のマッピングはまだ半分ほどしか埋まっておらず、正解の道筋が変わるこの階層では、帰りに迷うこと間違いないのだが、彼らにそれを気にしたそぶりは見られない。
勢いだけで突き進む。彼等の頭に撤退という文字はない。……今のところは。
「ん? また同じ構造か?」
「とりあえずマッピング始めますよー」
「頼んだでござる」
そしてまた馬鹿の一つ覚えのように突き進み始める。
その勢いたるや圧倒的であり、さも攻略は順調に進んでいるかのように思えた。
だが、
「あ、すみません」
とマッピングを担当していた者から声がかかる。
「ん? 何だ?」
「彼女とデート☆ じゃねーよコラァ!!」
「あ、ちょっと黙って。静かに殲滅してくれ。で、何だ?」
「はぁ」
困った顔を浮かべながら言うことには、
「どうもマッピングがおかしいんですよ。どうも交わっているというか」
「立体構造なんだから交わっていても可笑しくないだろ」
「いえ。高さは同じはずなのに、被っているんです。この部屋は一回通ったはずの道なのに、周囲は全然違う構造なんですよ」
「見せて見ろ」
そう言われ、マッピングされていたタブレットが渡される。
ちなみにマッピングはタブレットなどで行われるのが主流である。それ専用のソフトも幾つか発売されており、売れ行きは順調だ。
本来立体構造であるためマッピングは難易度が高いのだが、レイヤーの機能を使えば難しくはなかったはずであった。
「……本当だな。レイヤーは同じなのに被ってやがる。間違いとかじゃねぇよな?」
「こんな部屋と廊下のダンジョンで、間違いませんよ」
その後いくら悩んでも答えは出ず、流石に疲労が溜まってきたからか、一行は撤退を余儀なくされた。
無論、半分ほどしかできていないマッピングのせいで、帰るのがかなり大変であったのは、言うまでもない話である。
冒険者達が撤退していく姿を最後に、モニターの映像を切った。
「これで解決、と。マッピングもあまり出来てないだろうし、全体的な攻略の貢献度は低めだな」
『ただ、難易度のランクが引き上げられる可能性もありますが』
「まずマッピングが正確じゃないことを疑われるだろう。強行軍だったからな。それにもし証言を認められて難易度が引き上がっても、上層は危険じゃないから排除すべき脅威としては見られないはずだ」
まあそれに、下層まで出来た今のダンジョンならば、攻略に力を入れたところで返り討ちに出来るはずだ。
「中層二階の効果のほどを試せたんだ。どちらかといえば黒字だろう。再調査が入る可能性があるから、とりあえず注意しておけ」
『了解しました。ご主人様』