第二十七話 ダサい必殺技ども
前回のあらすじ
空竜を、罠のあるポイントに誘導することに成功した。
うーむ。二次選考落ちましたね。
まあしょうがない。
あ、「勇者ですか?いいえ最強目指す凡人です」は通過したらしいですよ。
ふざけんな許さん。←心狭っ
このポイントは、俺の家にほど近い。
この手に持っている魔法杖は、空竜の元に向かう前に差しておいたものだ。
ポイントの印として、という理由と、森の中の戦い(逃亡劇?)のどさくさで、なくなってしまう可能性も有るからだ。まあ別に複製してもう一本用意してもいいんだが。
何より長い詠唱が必要な魔法を、あんな状況で使えるわけもないのだが。
空竜が徐々に地面に降りてくる。
『満身創痍だな人間。』
んでもって話しかけてくる。
満身創痍なのは演技で、HPは四分の一も減っていないんだけどね。
なんとなく、空竜は鑑定技能を持ち合わせていないのだろうと考えていた。
ま、持っていたのなら俺と最初に対峙した瞬間、警戒して然るべきだから。
ついでに言うと、こいつがステータスを偽装していたとも考えていない。
そもそもステータスというのはあの神様の後付けだし、《偽装》という能力は、実績解除の時の一覧にもなかった。
あの一覧に能力が全て載っているとは考えにくいが、こんな一般的な能力を隠す意味が分からん。
故に、ステータスを偽装する能力は無いと考えている。
一覧で見れるのは能力の名前だけで、内容は分からない。
そのため、全く違う名前の能力でステータスを偽装できる可能性もあるのだが。
ま、とにかく目の前の空竜は、俺が満身創痍で、自分の圧倒的優位な状況だと疑っていないわけだ。
そしておそらく
『散々侮辱されたのだ。我が直接手に掛け、殺してやろう。』
空竜は笑いながら言う。
そう言ってくると思っていた。
こいつはプライドが高い。
散々防がれたブレスで殺してくる可能性もあったのだが、今は有り得ない。
空竜のステータスを再確認する。
Lv.1015 スカエド 空竜
HP 10859/10860
MP 103/17980
能力 「空竜の息吹」
あの息吹は一発でおよそ2000弱のMPを消費する。
それを奴はすでに六発も撃っている。
もうMPが残っていないのだ。
息吹は頭打ち。
そうなると、プライドの高い空竜なら、自らの手(足?)で罰を下したくなるだろう。
散々逃げ回ったかいがあったというものだ。
空竜は羽ばたきを止め、ドシンと轟音を慣らしながら地面に降り立った。
────今だ!!
「コア!」
『了解!ご主人様!』
俺のかけ声とともに、パキンと何かが割れる音と共に、俺や空竜に大きな影が落とされた。
はるか上空に現れたのは、レンガで出来た、天井。
いや、超極薄で超広範囲の「部屋」だ。
空竜が目を見張り、上空に意識を向けた瞬間、空竜の足元が消失した。
一辺二十メートルにも渡る穴が出来、下には全面がレンガで覆い尽くされた穴があった。
「──落とし穴は基本だろ?」
まあ空飛ぶ魔物に落とし穴は無いと思うが、と苦笑する。
『小癪な!!』
空竜はその羽を羽ばたこうとするが、甘い。
上空高くの「部屋」が、お前の意識を上に向けるためだけの囮な訳が無いだろう。
次の瞬間、超極薄の部屋から、大量の、幾千の肉塊が雨あられのように降ってくる。
その肉塊は、空竜にぶつかると飛び散り、腐臭を撒き散らす。
そう。この肉塊とはゾンビだ。
数千にもおよぶゾンビが、途絶えること無い豪雨のように降り注いでいる。
「即興必殺、怪物の雨」
大量の肉塊の、重力加速度を持った衝撃に、空竜は羽ばたきを阻害される。
結果、空竜は落とし穴の底に叩きつけられる事になった。
このゾンビ達は、「ダンジョン保護」をかけられたゾンビだ。
彼らはコアの高速演算によって、上空の、下に口を開けた部屋で大量に召喚された。
「ダンジョン保護」を受けたゾンビは、空竜の体にぶつかり、弾けて死んだ後、上空の部屋で再び召喚されて、落ちる。
後はその繰り返しだ。
最初に召喚してしまえば、途切れることなく連続的に降り注ぐ。
まさに怪物の雨。
すごくシュールでダサい。
これタービンつければ永遠に電力を供給する水力発電気(肉力?)になりそうだな、とどうでも良いことを考える。
すでにオプションで電力無限供給しているのだが。
腐って柔らかいゾンビの体は、空竜の体に余すことなく衝撃を伝え、ついでに腐臭を撒き散らして空竜の精神を削る。
精神攻撃も基本だよね。
ちなみに、空竜が落ちているこの巨大落とし穴は、空竜の位置が多少ずれていてもその巨体が落ちるように、また落ちれば容易に抜け出せないように、広く、深く作ってある。
そのサイズ実に、縦20M×横20M×高さ40M。
まともに作れば16000ものDPが吹っ飛ぶ。
それはさすがに無駄遣いだ。
だが、DPを節約する方法もある。
あらかじめ部屋を設置する前に、穴を掘って空間を開けておくと、消費DPを十分の一以下にまで押さえることができるのだ。
では、この短時間でどのようにしてこの穴を掘ったのか。
ここで登場するのが最上級のスコップである。
このスコップの能力は2つ。
一つは、使用者の属性によらず、簡易な土魔法を使えるというもの。
ただ穴を開けることしかできないが、一掘りで五メートルほどの穴を掘れるのだ。まあこれにはそこそこMPがいるのだが。
二つ目は、土限定のアイテムボックス。
簡単に言えば、掘った土をスコップの中に収納できる。
任意のタイミングで吐き出させる事が可能だ。
容量もかなり多く、この落とし穴を掘ったときの土は全て飲み込んでしまった。
ちなみに耐久力もなかなか。
さすが最上級である。
きっと土木工事現場では大いに役立つことだろう。
だが、なぜこのスコップが「最上級の武器の宝箱」に入っていたのかは謎だ。
さて、そのように大穴を掘った後は、部屋を設置して、超広範囲の落とし穴を作ればいっちょ上がりだ。
『貴様!!我にこのようなことをして、許しておけると思うなよ!?』
なんか空竜がほざいているが、もう遅い。
この罠は、空竜相手を殺すためには、あまり有効ではない。
これは全て、空竜をダンジョンの部屋に入れることを目的としたものだ。
殺して、DPを得るために。
ダンジョンの支配領域であっても、ダンジョンの部屋の外でコイツを殺すとDPは手には入らない。
それは惜しい。
これは全て空竜からDPを搾り取る為に策を練ったのだ。
───俺の家を壊した賠償金、命を持って払ってもらうぜ?
『ご主人様。落とし穴の口を閉じます。』
「いや待て。」
もともと、空竜を殺す術は、俺たちには無いに等しい。
そのため落とし穴を閉じて、拘束する予定だったのだ。
だが、奴の息吹を見て、閃いたことがある。
「ちょっと思いついたことをやってみる。」
そう言って俺は右手に魔法杖を持ち、九本の触手を全て解放した。
「複製触手」
触手の一本に俺の右手を複製する。
それを長い詠唱を経て、呪属性魔法でゾンビ化─ネクロマンシーする。
俺は四つん這いになり、地面をしっかりと、めり込むほどに四肢で掴む。
腕を複製した触手を中心に置き、周りを残りの八本の触手で、螺旋状に、花の蕾のように囲む。
蕾の先、つまり触手の先を僅かに開き、その銃口を空竜に向ける。
四つん這いの俺に、触手でできた巨大な球根が乗っているような状態。
そして俺は、これまた長すぎる詠唱で、蕾の中心にある雄しべのような触手についた右腕に『自爆』をかける。
「──開花!」
あの『自爆』の巨大な爆発力を、一方向のみに、ビームのように向けることができたら。
俺が考えたのはそれである。
俺の右腕に込められた膨大な魔力を爆発させる『自爆』、それによって生まれた爆発エネルギーは、衝撃吸収性のある触手に囲まれ、蕾の先の一点から噴出する。
銃身に刻まれたライフリングのごとく、触手の螺旋が爆発エネルギーに螺旋の回転を持たせ、回転するエネルギーは自 収束性をもって、レーザー、ビームのように発射された。
その高密度なエネルギーは、高濃度の呪属性魔力エネルギーに変換され、音を圧倒的に上回る速度で空竜の首に直撃する。
呪属性エネルギーと空竜の体にあった魔力が共鳴し、擬似的な『自爆』のように爆発。
──結果、空竜の首の細胞を蹂躙し、肉片が散乱、空竜のその巨大な頭をぶっ飛ばし、大爆発を起こすことになった。
爆発は雨のように降っていたゾンビを空中で分解し、落とし穴に幾千万のヒビをいれる。
少し遅れた轟音とともに、爆発の余波が落とし穴から上空に吹き出し、砂埃や枯れ葉を巻き上げ、森を揺らした。
まるでトン単位の榴爆弾が爆発したような光景に、俺は唖然とするしかなかった。
『1030225DPを回収しました。』
「大収穫だな。」
約百万のDPが手には入った。
罠に使ったDPを差し引いても、大黒字である。
『しかしご主人様があのような技を開発していたとは。』
「いや、俺も思いつきだったし、あんなに威力が出るとは思わなんだ。」
まああの大爆発は、空竜の魔力あってこそのものだろう。
それでも、俺の手持ちの最大の攻撃力をもった必殺技である事には変わりない。
「惜しむべきは、やたらと準備に時間がかかることと、消費MPが多すぎることか。」
長い長い詠唱を二回もしなければならない上に、触手をあの形にして、狙いを定めなければならない。
その上、至近距離だと自分を巻き込む形になるから、迂闊には使えない。
完全に遠距離攻撃専用である。
それに、この一撃で俺のMPはほとんどすっからかんになってしまった。
ダンジョンに引きこもるつもりだったから、攻撃力を手に入れることはあまり考えていなかったが、そろそろ武器を手に入れるなどを視野に入れる必要があるかもな。
『後、あの技の欠点は、ダサすぎることでしょうか。』
うるせえ。
我が目を覚ましたところは、暗い部屋の中であった。
はて、何故こんなところにいるのか。
うっすらとした記憶を探ってみると、だんだんと思い出してきた。
そうだ、我はあの人間を追って、罠にはまり、殺されたはずだ。
あの凶悪な魔法によって。
あれはやばい。
あの攻撃に込められた魔力。我でも一度にあれほどの魔力をつぎ込んだ魔法など撃てない。
あれはただの人間ではなかった。
長く生きてきたが、目に見たもののなかで、あの人間ほど恐ろしいものはない。
あれは手を出してはいかん存在だったのだ。
はて?
あれほどの魔法を受けて、何故我は生きておる。
ふと浮かんだ疑問に自答する暇もなく、我に声をかけるものがいた。
「お、スカエド。起きたか。」
あ、あ、あの人間だ。
『な、なぜ、我は生きておる。』
「あぁ、お前の死体を、ここのボスモンスターとして死体召喚したんだよ。……ていうか記憶が残っているのか。」
死体召喚?
わけがわからない。
「ま、簡単に言えばお前はこのダンジョンのボスモンスターになってしまったわけだ。」
なるほど、目の前の人間はダンジョンマスターだったのか。
それにしては正気な気がするし、まだまだ疑問がはれないのだが、どうやら我はこの人間に逆らうことができぬらしい。
逆らおうとしても 我の心にある何かが邪魔をするのだ。
隷属状態に近い。
我はこの人間の支配下にあるという事だ。
「で、お前を生かした理由なんだが、簡単に言えば贖罪だ。」
『な……』
それは、一度死んだ時点で償っていないのだろうか。
我のそのような疑問は、続く人間の一言でつぶされた。
「というのは、建て前でな。お前を倒したとき、かなりの経験値が入ってな。15レベル位上がったんだよ。流石空竜。」
そう言って人間は、何かを唱えると、その尻尾のような何かで、球根のような形をつくった。
あれは……あの時のあれだ!
や、やめろ!それだけは我に向けるでない!
「つーわけで、これからレベルアップ装置として使わせてもらうわ。大丈夫大丈夫!ここの部屋は特別頑丈に作ったし、ボスモンスターだから死んでも生き返るし、1日一回殺すぐらいが限度だから。」
人間は悪魔のような笑みを浮かべる。
いや、悪魔だ。悪魔だこいつ。
『や、やめてくれ!せめて一思いに殺してたも!』
「やだ。」
それから毎晩、空竜の部屋から悲鳴が聞こえることとなる。
案の定、レベルアップに使われる空竜。
こいつ鬼畜だなぁと、書きながら思います。
謎の新連載。
エタる兆候?
どうせ大学受験で長期休載するので変わりない。