第二十五話 みんな、丸太は持ったか?※
前回のあらすじ
空竜は思ったよりも強くなかった。
空竜さんとのバトル開始。
Q,呪属性魔法が弱すぎて、後のインフレ臭がすごい。
A,活躍します。インフレもするでしょう。(流石に例の複製触手ほどの改造は行わないはず。)ご都合主義ですチートですそういう話ですしょうがない。
我の前に一人の屑が現れた。
身の程を知らぬ愚か者め。
我が腕で薙払おうとする前に、奴は口を開いた。
「ようこそwelcomeいらっしゃい。歓迎するぞ不法侵入者。」
次の瞬間、我は肩に鈍い衝撃を覚えた。
「さて、空竜スカエド君。君には家を破壊した損害賠償を払ってもらわなければならない。その命をもって、だ。了承するかい?…………っていうか損害賠償って言葉通じるのか?そもそも竜相手に言葉が通じるのか?」
空竜を挑発する目的なのだが、もしも言葉が通じないとなると、ほかの方法を探さなければならない。
取りあえず適当にその辺の木を引き抜いて投げてみたが、それも効果があるか否か……
『我を愚弄するな人間風情が。』
お、言葉は通じたようだ。
『先程我に攻撃したのはお前か?』
うむ。ダメージは無さそうだが攻撃と認識されるということは、何かがぶつかった感覚はあったってことだな。
僥倖僥倖。
「もちろんだ。むしろ他に誰がいる?」
『なめた口を聞きおって。覚悟は?死ぬ覚悟はもちろんとうに出来ているのだろうな?』
「何故?」
『分かり切ったことだろう。貴様莫迦なのか?人間は皆莫迦だな。……莫迦に分かりやすいように説明してやる。我に攻撃したからには、寛大な我も看過できぬといっておるのだ。』
「先に攻撃したのはお前だろうが。」
『……?何を言っておる。』
「お前が、先に、俺の家を攻撃しただろ。って言ってんだよ。」
『家?………あぁ、あの。なるほどな、身の程知らずの馬鹿とは貴様か。』
「身の程知らずの馬鹿?誰がだよ。」
『貴様だ。……まあ言っても理解できんだろう事だ。』
なんかやたらと人間を馬鹿にするな。
『それより我は今腹が立っている。特に人間にな。いい加減醜い時間稼ぎはやめたらどうだ?例え命乞いをしようとも逃がして返す気は無いぞ?』
おやおや相当ご立腹のようだ。
あの程度で怒るとは、大分気が短いな。まあキレて外に飛び出て来ちゃった俺が言うのも何だが。
しかし、人間に怒ってる、か。
何やら理由がありそうだな。
「何故そんなに人間風情に怒っているんだ?人間になにをされた?」
『命乞いはせんのか?……まあいい、冥土の土産に教えてやろう。我はつい先ほど、我が寝床を破壊されたのだ。卑しい人間にな。奴ら、謝りもせずに我の姿を見るなり逃げおった。……ああ、思い出したらさらに腹が立ってきた。貴様に仕返ししてやろう。人間よ、家を壊された時点で逃げれば良かったのにな。運がないと思え。』
お、おう。
いや、なんというか、はは。
「ははは、」
『む?』
「くははははははは!」
『なんだ!?なにがおかしい!?』
なにがおかしいって、お前が、だろ。
いや滑稽、滑稽、こりゃ傑作だ。
なんだ?喜劇か?コントか?漫画か?
馬鹿だこいつ。本物の莫迦だ。
「お前自分の家壊されて怒って、八つ当たりで他人様の家ぶっこわしたのか?やるねぇ。」
『貴様なんだ?何が言いたい!?』
「分かり切ったことだろう。貴様莫迦なのか?竜は皆莫迦だな。……莫迦に分かりやすいように説明してやる。自分の命差し出して謝るか、さっさと死ね。」
『…………!!』
元々怒りを体現しているような険しく鋭い竜王の顔がさらに歪む。
シワに刻まれた感情は怒りだ。
いやはや、キレやすい。自己評価が「寛大」らしいが「短気」の間違いだからなそれ。
次の瞬間、竜王はその屈強な脚で地面を蹴り、爆速的に俺に迫りながら、長い首を伸ばして噛みつこうとしてきた。
俺はすぐさま横に跳び躱す。だが顎を閉じたときの風圧で、俺の体は少し流された。
俺は強靭な肉体を持つが、体重は変わらない。
目の前のこいつと比べると、格段に軽いのだ。
今の状況において体重の差は当初から懸念していた大きなデメリットだ。
「複製触手」
取りあえず俺は九本の触手を解放する。
なんか空竜が目を見開いているが、知ったことではない。
そのうちの二本で背後の木を掴み、パチンコの要領で俺自身の体を後ろに飛ばした。
パチンコの様にするだけでなく、一本の触手だけを使ってぶら下がったり、方向転換したりと複雑な動きも出来る。
触手を使った立体機動だ。
触手自体がブースターとなり、自由に動くため、某巨人を駆逐する人達の立体機動装置よりもある意味では使い勝手がいい。
まあ俺の触手は壁に刺さったりしないから、森の中とかじゃないとフル活用できないんだがな。
空竜と距離を取ったので、先程と同じように、適当な木を触手で巻き取って根ごと引っこ抜く。
「複製魔法」
俺の触手のうち、七本に丸太が複製された。
空竜が羽を羽ばたこうとするので、七本のうち六本を空竜に向け投げる。
空竜の羽ばたきを阻害した後、俺はさらに丸太を複製し、のこる二本の触手で立体機動を始めた。
木々の間を縫うように後退しつつ、木を複製して空竜に投げる。
複製魔法は質量もあるが、特に技術的に優れているもの、希少な物ほど消費MPが多い。
つまり、なんの加工もしていないただの木はそこそこ少ないMPで複製する事が可能だ。
その上、ここら周辺は既にコアによってダンジョン領域に指定されているため、複製魔法による消費MPを肩代わりできる。
俺の触手の力で投げても、ただの木ではダメージにはならない。実際、空竜のHPは減っていない。
だが妨害にはなる。
ある程度の質量を持ち、比較的柔らかい「木」という素材は、弾丸のマッシュルーミングのように効率的に衝撃を伝え、空竜の羽ばたきと進撃を妨害する。
丸太は某吸血鬼の島で大活躍の武器なのだ。なめない方がいい。
俺は触手を使って森を立体的に高速移動しているが、この速度には限界がある。
余りに強い力で森の木を掴むと、引っこ抜いてしまい致命的な隙になりかねないのだ。
それ故に、空竜が飛んだら追いつかれる可能性がある。
今でさえ、妨害していながらもギリギリのカーチェイスを繰り広げているのだ。
空竜はその巨体と体で森の木々を押し倒しながら進んでくる。
とんだ自然破壊だ。
なるほど、これが空竜が天災と呼ばれる由縁か、などと下らないことを考えていると、空竜が動きを止めた。
スタミナ切れか?
取りあえずポイントまで誘導できないと作戦もクソもないので、もっと追いかけてほしいんだが。
空竜は顎を開き、口の中に白く渦巻く光を溜め込み、次の瞬間それを極太ビームのように発射した。
「チッ、息吹だったか!」
俺は木をつかんだ二本の触手で自身の体を横に投げ飛ばす。
空竜の息吹は枯れ葉で覆われた斜面にぶつかると、着地点から暴風と共に放射状に白い閃光を飛ばした。
「ぐあっ!?」
有効範囲が思いの外広い。
俺はかなり距離を取ったのだが、それでも余波の風圧に飛ばされた。
空中で体勢を建て直し、滑るように斜面に着地し、触手で木を掴んでようやく止まった。
自分の姿を確認してみると、服は数カ所切れ、浅い切り傷がいくつか体にあった。
「いや、それより……」
俺が風に飛ばされた事で出来た隙は大きい。
既に空竜はその巨大な四つの翼で空を飛んでいた。
「飛ぶことを許しちまったか………まあいい。やることは変わらない。」
俺は再び木を複製し、空竜を狙って投げる。
空を飛ぶことで空竜はその大部分を避けられるようになったが、俺の投げる木の速度も速い。
その上木もかなりの大きさであるので、全てをかわすことは困難だ。
今も俺の投げた木の内の一本が翼に当たり、空竜は僅かにバランスを崩す。
一瞬の時間稼ぎだが、それでも俺にとっては大きい。
「しかし、さっきの切り傷は何だったんだ?」
木を投げ、後退しつつ呟く。
別に独り言ではない。
『鎌鼬のような物ではないでしょうか?木の葉は舞っただけでしたし。』
ポケットにしまっているモバイルコアからの返答だ。
何度も言うようだが、ここはダンジョンの支配領域なので、コアはここでも返答できるのだ。
「鎌鼬って……まじでファンタジーだな。」
そもそも鎌鼬ってのは風の刃でも真空の刃でもない。空気中に出来た真空層と周りの空気との気圧差で、皮膚や服といった薄いものが割れるように裂かれるだけだ。
自然現象で生み出される鎌鼬では血が出るほどの傷は負わせられないと言われている。
水の刃と並ぶ、個人的に考える実用性のない魔法なのだ。
しかし、現に固い俺の体に傷を負わせている。
やっぱ魔法すげえな。物理法則無視ですか。
まあ物理法則無視の筆頭、複製魔法を使っている俺が言うのもアレだが。
『先ほどの息吹で、気になったことがあるのですが。』
「ん?なんだ?」
お、羽にクリーンヒットした。
空竜が大きくバランスを崩す。
『ダンジョンの観察機能を使用し、第三者視点から俯瞰して観察していたのですが、どうもあの息吹は高圧の空気弾といった代物ではなく、どちらかというと爆弾の様なものだと思われます。』
「どういうことだ?」
『何かにぶつかってから始めて爆発を起こすということです。ご主人様を飛ばした風圧は、息吹が地面にぶつかった余波ではなく、地面に当たることで始めて発動した風魔法だということです。』
「徹甲弾ではなく炸裂弾みたいなものってことか?」
『だいたいその解釈であってます。』
なるほどな。確かにダンジョンの地上部に出来ていたクレーターも、息吹が斜めにぶつかったのに、楕円じゃなくて円状だった。
高圧の風でなく、物体にぶつかることで初めて作動する爆発風魔法か。
尽く物理法則も無視する息吹だこと。
まあ、それなら一つ試してみるか。
ブレスの説明分かりにくかったでしょうか。
だからといって絵では説明できませんが。
対象をブレスの風圧で吹き飛ばすのではなく、ブレスが対象に当たってから初めて爆風が起こるのです。
攻撃自体に術式が含まれている特殊攻撃です。竜ならではって奴でしょう。