第二十四話 格上
前回のあらすじ
空竜襲来
くそ、半数逃がした。
我が寝床を汚し、破壊した人間どもを、半分も。
忌々しい。
忌々しい低級生物が。
我の眷属達を殺したのは大目に見よう。
虫が虫を殺し食うのは当然だからだ。
だが何故虫が我が住処を破壊したのだ?
誰の許しを得た。
身の程も弁えずに、やはり虫には相応のちっぽけな脳しか存在しないのか。
いや、格の違いは理解しているのか。
我がこの姿を現した途端に、奴らめ蜘蛛の児が散るように逃げていった。
だからこそ憤る。
忌々しい。
我が住処を、安寧の土地を破壊し、謝罪の一つすらせずに尻を見せて逃げ帰りおった。
我が羽ばたく風に呑まれ胴体を折り、我の鱗に触れただけで爆ぜ、我の爪に、牙に触れただけで大穴が空く肉袋が。
しかも奴らめ、我の知識にも無いような怪しげな鉄塊を動かしてまんまと逃げおおせおった。
それ自体は柔い。
我の身体よりも小さく、我が掴めば木の実のようにひしゃげ潰れる淡い存在だ。
だが速かった。
アレのせいで逃げられた。
忌々しい。
我の腹に溜まった熱糞のような熔岩のような怒りが喉を焼いている。
何をすればせいせいするだろうか。
家を息で吹き飛ばすか?
村を風で押しつぶすか?
町を腕で壊し尽くすか?
街を息吹で焼き飛ばすか?
国を身体で踏み潰すか?
人間という種を洞穴の隅まで滅ぼしてやろうか。
…………やめだ。やめ。
我は何を憤っているのだ。
たかが虫だ。
虫相手だぞ?
何を憤慨している?
絶対的上位種である竜を統べる王が、下級生物の愚行一ツ一ツに腹を立てるか?
否、否だ。
寛容であれ、竜王よ。
屑の塵など、愚行など、今に始まったことじゃあないじゃないか。
容赦せよ竜王よ。
まずは新たな住処を探すのだ。
眷属を増やすのも、人間を鏖殺すのもその後だ。
我の住処たる場を探すのだ。
羽ばたきが悪い。
空気が汚れているのか。
空の竜王として看過できぬ事態だ。
どうせ屑の愚行であろう。
十年したら、本当に奴らを鏖にするのも良いかもしれない。
ふと地上を見ると、魔力の集結点のような場所がある。
いや、本来その中心は魔力が溜まってしかるべきだが、中心には不自然なほど魔力を感じない。
そしてそこには一つの住処があった。
人間の住処だ。
屑の住処だ。
虫の巣だ。
ほとほと呆れかえる。
そこは、その魔力の渦は、相当する存在が住んでしかるべきだ。
上位精霊、妖精、上位竜、そんな者が住んでしかるべきなのだ。
そこに人間が?屑が住むだと?
この身の程を知らん莫迦どもが。
生殖しか能が無く、数を増やすことしか知らん、ただ数が多いだけの低級生物が?
思い上がるのもいい加減にしろ。ここは、この地上は、この星は、お前等の所有物ではないのだぞ。
ああ、忌々しい。
全く持って忌々しい。
忘れていた怒りが再び火を着け燃え上がってくる。
そうか、貴様等はそうなのか。
我が物顔で他生物の地を分捕ろうとする愚かな生物。
クソの様な生き物め。
そこはお前達が住んで良い場所ではない。
我は山に、空に住む故、その平地は要らないが、他の上級生物が欲するはずだ。
少なくとも貴様等のような屑ではない。
しかるべき者に明け渡せ。
『破壊してやる。一片も残さず。』
我は竜の力を解放する。
竜のみに使用を許された魔力。
口に溜め、吐息とともに吐き出し破壊を尽くす。
『空竜の息吹』
圧縮された風の魔力の塊は、その建造物に着弾するとともに莫大なエネルギーを解放する。
それはあらゆる物質を吹き飛ばし、蹂躙する。
ドゴォオォォオォォォオンンンン……
我はこの一撃を以て破壊し尽くすつもりであったが、思いの外堅いらしい。半分も残ってしまった。
『空竜の息吹』
ドゴォオォォオォォォオンンンン………
我は二度目の息吹を放ち、今度こそ跡形もなくその家を破壊した。
『先程の攻撃は竜の息吹だと予想されます。』
ああ、ドラゴンと言えばブレスだよな。何故か知らんが。
『映像を回復しました。』
「よし映せ。」
『了解。』
パソコンの画面に再び青空が映る。
さっきまで半分残っていた壁はもう無い。
「竜はいないな。去ったのか?」
『ここが目的でなかったとしたら、何故攻撃したのでしょう。そもそも何故竜がこんな所に?』
「近くの、S級が討伐に行ったというワイバーンじゃないか?」
『いえ、ワイバーンは亜竜で、竜とは似て非なるものです。ワイバーンはブレスも吐けません。』
「じゃあ、ワイバーンを従えているとか」
『ワイバーンを従える竜は聞いたことがありませんが、その上位種の風竜を統べる、空竜という存在は伝説上に存在します。翼を4つ持っているという特徴も合致します。』
「強いのか?」
『世界に四体しか存在しない竜王の一体ですから。』
「ふむ。」
俺たちが話し合っている間、ルドルフが震えながら聞いてきた。
「お、おい、まさかあの竜王と戦おうなんて思っていないだろうな。」
「ん?当然だろ?」
「ああ、そっか、良かった。」
「我が家を傷つけられて怒らない家主がどこにいる?」
「は!?」
例え相手がどんな存在であろうと、我が家を傷つけた奴を俺は許さない。
第一に、俺は腹が立っている。
「畜生!俺は帰るからな!?巻き込まずに勝手にやってろってんだ!」
「いや、お前はここにいろ。ルドルフ。」
「は!?」
「あのブレスはお前の家のある町まで破壊する可能性がある。なんだかんだいってここが一番安全だ。」
何よりコイツという駒を無くしたくない。
一応商人という形にしているから、家にいなくても不自然じゃないだろう。
怒りで血は沸騰しそうに熱いが、頭は非常に冷静だ。
『しかし、本当に大丈夫ですか?ご主人様。竜王といえばまさしく天災。起きてしまったらしょうがないもの、防ぎようのない絶対的脅威の象徴です。』
「理解しているさ。いかに相手が格上なのかも。だが、俺にはお前がいるだろう。こっちの利点全部利用して狩ってやるよ。」
「ふざけてる……狂っているよお前等……」
ルドルフが信じられないものを見るような目で俺を見ている。
「あっちは俺達を殺そうとはしていないんだぞ!?もうどっかいっているのに何故追いかけるんだ?放っとけばいいだろ、見逃してもらえばいいだろ!?」
「お前、あんなこと俺に聞いときながらわかっていないのか?」
「は!?」
「俺のような引きこもりにとっては、部屋の中こそが世界なんだよ。部屋を害した奴を放っておくとか、自宅警備員の名折れだろうが。」
俺はコアに作戦を伝え、最上級のスコップと魔法杖と斧を持って 、空竜を狩るために外に出た。
一通りの仕込みを終えた俺は、様子を見るため大きく跳び上がる。
地上でたむろしていた冒険者達やパン仙人は、とっくに逃げ去ったみたいだ。
そりゃあそうか、竜が飛んできたら逃げるよな。普通。
お、だいたい一キロ先の山に空竜発見。
山の斜面に止まって休憩しているな。
もうどこかに飛び去っていたりしたらどうしようもなかったからな。助かったぜ。
コアに空竜の場所を伝える。
コアはダンジョンの支配領域を細くのばし、空竜を囲おうとする。
ついでにここまでのルートも支配領域にしてもらおう。
無駄に広げても解除すれば半分はDPとして戻ってくるからな。
「なんだかんだいって、格上との戦いは初めてだな。」
いや、一応ゴブリンも格上だったのか?
うーむ。認めたくない。
まあ相手が格上だろうが関係ない。俺は怒りをぶつけるだけだからな。
だからといって怒りで我を忘れて負けては本末転倒だ。
しっかり相手を見極めて、確実に勝つ算段を冷静に建てなければ。
走って移動し、空竜が間近で見れる距離まで近づく。
どうやらあいつはまだこっちに気づいていないみたいだ。
別に不意打ちで必殺の攻撃かます訳じゃないから気づかれてもいいんだが。
どうやらここら一帯をダンジョンの支配領域に出来たみたいだ。
では、竜王のステータスをのぞかせてもらいますか。
Lv.1015 スカエド 空竜
HP 10860/10860
MP 11853/17980
能力 「空竜の息吹」
………あれ?
慌てて俺のステータスを見てみる。
Lv.1258 糸目 隆司 人間(?)
HP 6838/6838
MP 9865/10757
能力 「複製魔法」「複製触手」
《悲報》竜王があんまり格上でも無かった件
レベルが同じでも、種族によってステータスにばらつきがあります。
すくなくとも同じLv.5の糸目とゴブリンでは四、五倍差がありました。
故にレベルでは糸目が勝っててもステータスでは空竜が一枚上です。
ただ、ゲームでも敵モンスターはプレイヤーよりステータスが高かったりするので、これくらいの差では主人公的に格上ではありません。