第二十二話 ラースボア
前回のあらすじ
魔法が思いのほか楽しくない。
呪文が厨二で恥ずかしい。
そして芸術は爆発だ。
俺には九本の触手がある。
それぞれに目と腕を複製する。
よって今、俺には五対と一本の腕が存在することになる。
この多くの腕を使って!
………俺は!
『何やってるんですかご主人様……』
「ゲーム五本同時攻略。」
そう。五対の腕があるなら、五つのゲームを同時に楽しめるということだ。
ゲームの操作はそれぞれの触手の根本にある、複製された脳が、それぞれの触手に複製された目を介して行っている。
そして余った一本の腕は、俺に菓子を適度に食べさせのどが渇けば水を飲ませてくれる仕様である。
『それ、楽しいんですか?』
「おう。なかなかおもしろいぞ。」
『すくなくとも四本のゲームは、ご主人様ではなく触手の並列思考が遊んでいると思いますが…』
「いや、こいつらの脳は一応俺自身と繋がっているんだよ。お陰でやたら楽しい感情が伝わってくる。」
『…………それ楽しいんですか……?』
あ、スマ◯ラやってる脳から悲壮感が伝わってきた。吹っ飛ばされたか。
モ◯ハンやってる脳から残虐的な快感が伝わってくる。お前剥ぎ取ってるな。
「失念していた………五本同時に攻略すると……早くゲームが無くなってしまうということを……」
『さいですか』
俺にとってゲームおよび漫画の類は非常に希少だ。
まず第一に、複製しても意味がないことだ。ハードを複製する事は出来るが、ソフトや漫画を複製しても意味がない。同じ物を3つ用意したところで三倍楽しめる訳ではないからな。
故にこれはルドルフ頼みなのだ。
ルドルフが月一のペースで何本かゲームを買ってくるので、それに頼るしか入手方法がない。
だから、今ゲームのストックを使い切ってしまうのは完全に愚策であった。
『パソコンでゲームをすれば良いじゃないですか。』
「ダウンロード版で?でもなぁ、ダンジョンの管理をコアに任せているのにさらに負担をかけるわけにもなぁ…」
『いや私はもはやスパコンですから問題ありませんよ?』
「いや確かにマ◯クラでもいくら工業mod入れて無茶なことしても、フリーズもバグも起こらないくらいスペック高いが、お前少し俺がミスりそうになると、勝手に操作してくるだろ。」
『………いてもたってもいられず……』
「あー、ルドルフが都合よく買ってきてくれないかな。」
『五日前に買ってきたばかりでしょうが。』
そのとき、ピンポーンというインターホンのような音がした。
もちろん、この家に訪問客が来たなんて事はない。
この合図は、ルドルフだ。
「お!ゲーム買ってきてくれたかな?」
『あり得ないとおもいますが……』
そう言ってからコアはルドルフと通信状態になる。
「おう、どうしたルドルフ」
『いやぁ、ひさしぶりに昼飯を頂こうと思ってだな。ついでに手みやげもあるぜ?』
「お?ゲームか?ゲームか?」
『んなわきゃねーだろ。』
「よし帰れ」
『ひでえ!!』
ブチッ
ここでルドルフとの回線を切る。
『魔法関連で役に立ったのですから、お招きしても良かったのでは?』
「ああ。それもそうだな。明日にでも家に入れるか。」
『あくまでも今日では無いんですね……』
「いやもしかしたらゲーム買ってきてくれるかもしれないだろ?」
『な、なるほど。』
俺は触手を使って冷蔵庫から新しくコーラを複製して、空になったコップに注いでいく。
しかし今のところ問題はないが、コーラにも賞味期限はあるので、やはりルドルフの存在は重要である。
「あー、暇だな。……そうだ、コア。お前ゲームとか作れる?」
『何とかなると思いますが、どのような物なのですか?』
何か思惑があるとかではない。
ただの暇つぶしである。
「モンスター主役のMMORPG。」
『MMORPGとか難易度高!』
「キャラメイキングとか無しで、種族を設定して遊ぶ。スライムとかゴブリンとか。んで、レベルが上がると進化して、スキルとかが派生していく。」
『プレイヤーがモンスターを率いるとかではなく本当にプレイヤーがモンスターですか。』
「ギルドの代わりにダンジョンとか、敵キャラが人間とかだとおもしろくね?」
『まあ面白いとは思いますが…。スライム極める人とか居そうですよね。』
「ちなみに言語スキルを習得しないとまともにチャット出来ない鬼畜仕様。」
『MMORPGの意味!』
またコップが空になったので、新しくコーラを注ぐ。
「そういや、ダンジョンの中で強くなろうとするモンスターが居たな。ウチに。」
『ああ、彼のことですか。』
彼とは、俺がダンジョンマスターになったばかりのころに、食料調達のためにレッドボアを殺した時の子レッドボアである。
俺は奴と激しい戦闘をした後、生け捕りにしてダンジョンの中に持ち帰ったのだ。
その後、彼はやたらと俺につっかかる(?)ようになったのだ。
そしてここ数ヶ月は、自らダンジョンの中でモンスターと戦闘し、レベルアップし続けている。
「未だに母親のことを怒っているのか?自然の摂理なのだし、もう忘れれば良いだろうに。」
『母親を殺った張本人が言うことではありませんね。まあ私は、それが理由では無い気がしますが。』
「ん?じゃあ何でだ?」
『ご主人様に負けたのが悔しかったのでは?』
「え?何その戦闘狂。」
『今では下層の一階層を修行の場所にしているらしいですよ?』
「まじか、だいぶ強くなったな。いつかマジで寝首かかれるかもしれない。」
『あ、噂をすれば、帰ってきましたよ?』
コアの声に振り返ってみると、大きく成長した彼ことレッドボアが、隠し扉から帰ってきた。
ちなみに一応ペットという立ち位置なので、彼はいつもここで寝ている。
彼は俺を一睨みし、自分の寝床に寝転がった。
「んー、見違えるほど大きくなったな……大きすぎない?」
『成体のレッドボアよりも大きいのでは。』
10ヶ月でここまで成長するものか?
「ちょっと鑑定してみるか。」
Lv.95 ラースボア
HP 356/1267
MP 89/89
「お前いつの間に種族変わったんだ!?」
前はレッドボア(幼体)だったはずだが、今では(幼体)が外れる所か明らかに上位種っぽいのに進化していた。
よくみれば確かに、牙がかなり立派になり、体毛には不思議な模様がある。
『怒りのパワーで覚醒って奴ですか。』
「しかも元レッドボアとは思えないほど強くなってるぞ。」
俺達が驚きを隠せずに感想を言い合っていると、それに気づいたラースボアが俺を睨みながら起き上がり、訓練ルームに向かって歩き出した。
ちらちらとこちらを見ながら……睨みながら?歩いている。
「ついてこいって事か?」
『おそらく……』
何がしたいんだこいつ。
まあ大人しくついていくと、ラースボアは備え付けの回復薬(宝箱産)を口だけで器用に飲み、自らのHPを回復させると、少し離れたところで俺に向かい合った。
「ん、なんだ?決闘か?」
『(寝首をかかずに正面からってことは、やっぱり負けたことが悔しいんですかね。)』
なるほど、やろうってのか。
今のあいつの実力なら、十分の一状態(ダンジョン保護状態)の俺と良い勝負が出来るだろう。
だが、なんとなくだがあいつはそんなことを望んでいない気がする。
「わかった。なら全力で行くぜ。『解除』」
ダンジョン保護を解除した瞬間、俺の身体に力が溢れる。
なんたってステータスが十倍になったんだからな。正確に言えば戻ったんだが。
「いくぜ?」
「ガフッ」
俺のかけ声に対して、ラースボアが鼻を鳴らす。
さあ久しぶりに全力でやってやろうか。
つってもある程度手加減しないとダンジョンが壊れてしまうんだけどね。
なんとか壊さないように戦ったよ。もちろん圧倒したが。
まあ四つ足動物だからな、複雑な戦闘技術とかが無い分、ほんとうに身体能力で勝った方が勝つのだ。
ラースボアも負けるのは分かっていたようで、気絶から意識を取り戻すと、すぐに鼻を鳴らして自分の寝床へと向かった。
なんかあいつとは良いライバル関係になれそうだぜ。
お久しぶりのうり坊である。
まだまだ成長株である。