第二十一話 レッツマジック
前回のあらすじ
ルドルフやっぱりファインプレー
『属性判定の宝玉は、宝玉に手を触れて少量の魔力を流すことで属性判定を行います。』
「少量でいいのか?」
『ええ。この宝玉でわかるのは魔力の属性だけですので。それにあまり多く流すと壊れてしまう可能性があります。』
「なるほど。」
とりあえずコアさんに宝玉の使い方を教えてもらっている。
魔力はダンジョン内なら感知できるし、それで魔力の出し方みたいなのは何となくわかる。
まあ魔力だけだしても媒体が無ければ何も起こらないんだがな。
「うし。じゃあいくぞ。」
うーむ。緊張の瞬間だ。
俺はゆっくり慎重に、手のひらから宝玉へ魔力を流し始める。
すると宝玉の中心に、光が出始めた。
黒色の。
『黒は呪属性ですね。』
「うー………あー………うーん……呪属性か……うん。」
闇とかじゃ無いんだよな。
属性は、火、水、土、風、と聖、呪、そして無の七属性だ。
基本四属性は説明要らず。
聖属性は回復や支援に特化した属性。アンデッドには非常に有効。
そして呪属性は、主にネクロマンシー。てかほぼイコール。
相手のステータスを下げる呪詛という魔法もあるが、一割程度だし成功確率も高くないという、微妙な感じ。
ちなみに無属性はそれほど地位は低くない。というか結構便利だ。
無属性魔法って言うのはどの属性の人間も使うことが出来る、便利系の魔法だ。例えば状態保存とか、魔力爆発とか、結界とか、最上級だとアイテムボックスや転移も出来るらしい。
誰でも使うことは出来るが、無属性の人間は他の属性を使えない分、無属性魔法に特化している。
属性持ちは無属性に無属性魔法では勝てないし、習得できても中級までだ。それゆえ、無属性はそこそこ優遇されている。
よって、呪属性が七属性の中で最も地位が低く、人気もないのだ。
だからこそ、さっきの俺の反応。
いや、わかるよ、アンデッドダンジョンのダンジョンマスターは呪属性であるべきなのかもしれないよ。
しかしだな、肝心のネクロマンシーも、このダンジョンがあれば要らないのだ。というか、死体がゾンビを超えて生き返ってしまう。
ゾンビもスケルトンもすでに大量に配下にいる。
たしかに、呪詛は有効な魔法かもしれない。一割って結構でかいからな。
それに呪詛をアンデッドにかけると、アンデッドのステータスをあげることも出来る。
まあ有用っちゃ有用だ。
だが目新しい事が出来ない。
ザ・魔法を使えない。
上げて落とされた気分だぜ。俺も炎を飛ばすとか水の壁を作るとかしてみたかった。
数分前のうきうきしていた俺に忠告したいくらいだ。
「でもコアの魔導書には結構呪属性魔法が書かれているし、練習はしてみるか。」
『そうですね。』
魔法の実験のために、いつもロボゴーレムと戦闘訓練を行っている訓練ルームに来た。
「まずは定番のネクロマンシーからやってみるか。」
レッツ三分マジック
チャララッチャッチャッ♪
チャララッチャッチャッ♪
チャララッチャッチャッチャッ♪
チャッチャッチャッチャーーン♪
というわけで、まずはゴブリンの死体を用意します。
綺麗な死体のままだと効果がよくわからんので、適当に傷つけておきます。
そしてこちらが、傷を付け終わった死体です。
うん、真面目にやろう。
これは死体に鞭打つような行為だが、この死体は俺の複製魔法で用意したものだから、死者への冒涜にはならんだろう。多分。
さて、後は杖に魔力を込めつつ呪文を唱えるだけだ。
そう。呪文を唱えるのだ。
無詠唱の能力なんて持ち合わせていないし、能力がなくても無詠唱で魔法を放てるらしいが、それには長年の修行と熟練の技術が必要だとか。
そんなもん出来るわけ無いので、律儀に呪文を唱えなければならない。
呪文。
呪文だ。
あいにく俺は厨二病じゃない。
はっきり言ってこっぱずかしい。
何故長々と厨二ワードを連発せねばならんのだ。
無詠唱でいいだろ。戦闘的にも。
まあそんなこといってもしょうがない。
唱えねば実験できない。
覚悟を決めろ糸目!
「世に願うは呪い 力は狗を殺す 屍よ我が意に沿い動き出せ 『死霊術』」
恥っっっっっずっ!
思いの外恥ずいぞこれ!
唱えてる途中「俺何してるんだろう」って自問自答したぞ。
やべえ今すぐ寝室のベッドの布団に頭つっこみたい。
これを敵の眼前で唱えられる奴の度胸すげえ。
まあとりあえず、魔法は発動した。
ぶっちゃけ魔力はほとんど使っていない。
ていうかレベルが高すぎてMPが多すぎるせいな気がするが。
ゴブリンに黒い靄のような光が集まる。
アンデッド召喚シーンに似てるな。
確かにどっちもアンデッドを生み出す事に変わりはないから当然か。
靄が晴れると、中には一匹のゴブリンのような何かがいた。
つけておいた傷はそのまま。それどころか所々腐っている。
目も焦点が合っていない。
典型的なゾンビだ。
Lv.5 ゾンビ
HP 16/16
MP 11/11
ステータスではゴブリンゾンビではなく、ただのゾンビとなっている。
使用したMPは16だ。まあ所詮初級魔法だからな。
どの種族がゾンビ化してもゾンビなのか。
このダンジョンで召喚できるゾンビは全部人型だが、そういう仕様なのだろうか。
とりあえず色々検証してみる。
まず、ゾンビ化前、というか俺が複製した素体のゴブリンはレベル10だったはずだ。
すると、ゾンビ化するとレベルが5下がるのか、半分になるのかだろう。
どちらにせよ、弱体化すると言うことだ。
ダンジョンの死体召喚は、レベルの劣化が起こらないので、このネクロマンシーはダンジョンの死体召喚の劣化版ということになる。
これだけで呪属性のメリットの半分以上は消えた気がする。
ネクロマンシーで生み出したゾンビは簡単な命令はこなせるようだが、難しい命令はわからないらしい。
この辺は召喚したアンデッドと同じなので、アンデッドか下級モンスターの特徴なのだろう。
「世に願うは呪い 力は蟲を殺す 我が怨念よ顕現し敵を貪れ『呪詛』」
これは本来敵のステータスを下げる魔法だ。
だが、回復魔法でダメージを受けるアンデッドにかけると逆の効果が得られる。
Lv.5 ゾンビ
HP 18/16
MP 12/11
へえ、こういう表記になるのか。消費したMPは5。これも初級だからね。
呪詛は重ね掛け出来る。
他にもゾンビを召喚して検証したところ、重ね掛けするほど、呪詛の成功確率は下がった。
一回目で二分の一、二回目で四分の一、三回目で八分の一の確率で成功するようだ。
上げ幅は変わらない。つまり、呪詛は詳しく言えば、元のステータスの一割を減らす魔法ということになる。
つまり、理論上は呪詛を10回重ね掛け出来れば、相手を殺すことが出来ると言うことだ。
まあ十回目は1024分の1という途方もない成功確率になる。
統合すれば、2の55乗回呪詛を唱えれば敵を殺せるかもしれないということだ。
うん。馬鹿げてるね。
さあ、次に一足跳びに上級の呪魔法を試してみよう。
といっても、中級とかが死霊を呼び出してのアンデッド召喚とかで、どうみてもダンジョンの召喚の劣化版にしか思えないからなんだが。
ちなみに上級とか初級の違いってのは、使用する魔力の大きさでしかないようだ。
ぶっちゃけ技術とか必要ない。技術が必要なのは、詠唱破棄とかそういうのだ。知識があると新しく魔法を使えたりするらしい。
ただ、級があがると何故か呪文が長くなる相関関係があるので、詠唱省略とかの技術は必要になってくるのだ。
「我が求めるは呪の化身 彼は光を滅し 死霊を導かん 力は狗王を消し殺し 夜に怨嗟の声を響かせんと 我が愚者よ 汝、彼の声をもって我が意志に従い 汝の體に主罰を以て 敵を屠り身を滅ぼさん『自爆』」
長っ
ドブチャァン
うわグロっ!
ゾンビとなったゴブリンが、俺の魔法で爆発した。
これが呪属性上級魔法『自爆』。
俺が呪属性魔法で従えた任意のアンデッドを自爆させる魔法だ。
証拠隠滅とか、捨て身の特効とかに便利そうだが、見たところ攻撃力はそう高くない。
しかし消費MPは135。これは結構な量だ。
たしかこれは爆発させる死体の自体の魔力を使っているらしいから、レベルが低くMPも高くなかったゾンビだったからだろう。
あれだけレベルの低いゴブリンのゾンビでこの消費量だ。自爆させるアンデッドの魔力が多いほど消費魔力も多くなるらしい。
リッチとか自爆させたらどうなるんだろうな。
あと、ダンジョンのアンデッドは俺の呪魔法で生み出したわけではないから、自爆はさせられないようだ。
ついでに俺の呪魔法のアンデッドはダンジョンのモンスターには出来ないようだ。
「ダンジョン保護」でガンガン爆発させる事も出来ないらしい。残念。
もともとゾンビを三体用意していたので、残るは二体だ。
さあ、お次は最上級魔法でもやってみようか。
「我が祈るは呪詛の神なり 彼は天を夜闇に染め 怒りを以て陽の光を払い 地を枯れ 汝に諸々の罪をもって國を与えん 怨霊を従え 世を呪い 魔の児に接吻す 力は王神を消し殺し 蟲を滅ぼさん 地を震わせ 木の杖を以て空を砕き 闇白の決を執り 信者たれ 願いを聞き給え 信者は己の體を以て信者を砕かん 穴を開けよ 首を折らん 狂い苦し汝を滅ぼさん 最たる者よ 怒りを放ち 主の命を心の臟に刻め 『霊闘蟲毒』」
長え!!
ぐどい!
ださい!
ブチャッ
あ、ゾンビの一体がもう一体を殺した。
…
……
…………
………そして何もおこらなかった。
…おい、やめろ。木魚と鈴をならすんじゃない。
ポクポクポクチーンじゃねえ。
これはただの選択ミスだ。この場で使うもんじゃなかった。もっと一杯アンデッドがいる場所で使うもんだった。
消費MPは4640
コストに全く見合わぬ結果が出た。
いやこれ本当は凄い魔法なんだよ。
でも結構やばい奴だから、このダンジョンではもうやらん。
危険なんだよな。なんでそんな魔法使ったのかって?調子に乗ってましたすみません。
しかし呪文が長すぎて、実戦で使えるもんじゃないな。もともと使うシチュエーションなんてあり得るのかは疑問だが。
実戦的なのは呪詛くらいか。
アンデッドを特攻(投げる)させて、遠距離攻撃として自爆を使うのもありだな。ちょっと呪文と準備に時間がかかるのが欠点かな。
やっぱ詠唱破棄とかあると便利だろうな。全くやり方がわからんので試しようがないが。
ちなみに詠唱省略は、その名の通り呪文を省略して、短くできる。
詠唱破棄は、魔法の名前を言うだけで魔法を発動できる。
無詠唱はノーモーションで魔法を発動できる。
しかし、これらを使うと魔法の威力が落ちるらしい。
多分これらの能力は威力を下げずに魔法を打てると言うことなのだろう。
能力に火属性魔法とかあったんだが、それはどうちがうのだろう。
火を自由に操れるとか?
わからん。
まあいいか、とりあえず今日は不発の最上級魔法でだいぶMP使っちまったからもう寝ます。
実験の続きは明日で。
おやすみ。
翌日、ちょっと思いついたことがあったので、訓練ルームにいって試してみる。
まず、複製触手で触手の先に俺の腕を複製する。
この腕は、厳密に言えば死体だ。
それを触手が神経に接続して操っている。
触手の操作を切ると、完全な死体となるはずだ。
この腕をネクロマンシーで操るとどうなるだろう。
試してみる価値はある。
「世に願うは呪い 力は狗を殺す 屍よ我が意に沿い動き出せ 『死霊術』」
う、結構MPを使ったな。1000近くだ。
それだけ俺の死体が強力なんだろう。
どうやら死体の一部でもゾンビ化出来るらしい。
ゾンビ化した腕を操ってみるが、なかなか上手く行かない。
どちらかというと、触手で操った方が操りやすいな。
そう都合良くは行かないか。
まあもう一つ試したいことはある。
俺はMPが高い。つまり死体も魔力をかなり持っているはずだ。
これに自爆を使うとどうなるか。
結構な爆発が起こると予想している。
念のため触手をなるべくのばして遠ざけ、呪文を唱える。
「我が求めるは呪の化身 彼は光を滅し 死霊を導かん 力は狗王を消し殺し 夜に怨嗟の声を響かせんと 我が愚者よ 汝、彼の声をもって我が意志に従い 汝の體に主罰を以て 敵を屠り身を滅ぼさん『自爆』」
ドッガアアアアアァァァァァァァァァンンンン……
強烈な衝撃波と共に、ダンジョン全体が揺れた。
粉塵が舞い、地をえぐる。
『ご主人様!!!? 大丈夫ですか!?』
コアの俺を心配する声が聞こえてきた。
土煙がだんだんと晴れてくる。
「ああ、なんとかな。」
予想以上の威力だった。
粉塵が晴れた光景は目を見張るものであった。
訓練ルームの壁は崩れ、土が見えている。
俺の腕があった所には大きなクレーターが出来ていた。
俺の高ステータスな体でも危なかったかもしれない。
とっさに守ってくれた触手に感謝だ。
触手が衝撃を吸収してくれたお陰で俺の体はかすり傷程度で済んでいた。
衝撃を受け止めた触手は、爆発に晒された面ははじけて爛れているが、未だに原型を留めていた。
腕を固定していた触手も、ボロボロになりながらも未だに繋がっている。
爆発の威力も予想外だが、触手の衝撃吸収度も予想外だった。
ほんととって良かったぜ、触手。
『ご主人様!ほんっっとうに、無茶はやめてください。お願いします。』
「………ああ、少しばかり魔法に浮かれていたのかもな。気をつける。」
とりあえず、この魔法は保留だ。
高威力だが、地形を破壊しかねないし、必要なMPも6000近くと膨大だ。
少し危険すぎる。 このまま使うのではなく、何かしら応用方法を考えなければならないな。
俺はボロボロの触手を再生しながら、そう思った。
ようやく魔法。
主人公が全属性持ちとか、そういうカッコイイのはありえません。
しかしご都合主義は相変わらず。
空竜さんの影が薄い気がするが大丈夫か?