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外七話 ギルマスの開発事情

皆さんが疑問に思っている、ガソリンどうなってんの問題の話です。

ギルドマスターの開発力は53万だ!

「ギルドマスター?」


カチャカチャ


「…………ギルドマスター!」


カチャッ……ジャキッ


「………………キセルさん!!」

「ん?」

「もう!何度も呼びかけたのに。」


キセルが自身の名を呼ぶ声の方を振り返ると、そこにはギルド職員の制服を着た一人の黒髪の女性が立っていた。

きりっとした目にメガネをかけ、後ろで一つに髪を結んだ彼女の外見は、仕事が出来る美人秘書である。


「どうしましたか?アリア副ギルドマスター。」

「いえ。最近ずっと研究室に引きこもっておられたので、心配になりまして。」

「むっ、そうですか。それはすみませんでした。でも心配はありませんよ?あちらの世界で行き詰まっていた研究に、新たな発見が目白押しで、長い寿命の中でも非常に充実した時間を過ごしています。」

「それは良いと思いますが、やっぱり外の空気を吸った方が体にいいですよ?既に『マギ燃料』を開発したのですし。」


彼女の言うマギ燃料とは、ギルドマスターの研究員が開発した、ガソリンや灯油の代替品である。

ギルドマスターの研究室は、正式名称を国立魔工第一研究所という。

キセルが所長であり、魔法と工学、科学を融合させる機関だ。日本人と異世界がそれぞれの技術を持ち寄り、日夜研究している。

既に様々な日本の医療機関や大学、民間の研究機関は、異世界人の雇用を増やし、魔法を研究に取り入れている。

しかし、そこでは科学、工学に魔法を応用、利用するのが主目的であり、対して国立魔工研究所では魔法に科学を応用する研究をしている。

日本人のあらゆる希望者を募り、組織化した結果、特に日本人は変人達が集う場所となった。


その日本人研究員の中の一人が、こんな発言をした。


『火属性の魔石って、火薬みたいに使えるんじゃね?』


彼はマンガ、アニメ、ラノベをこよなく愛するオタクであり、その知識からでた発言であったが、これが研究所に激震を及ぼした。

魔石は魔物の体内に存在する石で、その中に魔力を込めることができる。

さらに火属性などの属性を持たせた魔力をこめると色が変わり、その属性の魔石に変わる事が知られていた。

しかし魔石はあくまで魔力を蓄えるものとして使われており、魔道具においても電池のような扱いしかされていなかった。


しかし、彼の発言を重く見たギルドマスターが研究所ごとその研究をさせ、火属性の魔石が火打ち石のような性質を持ち、粉末にすると火薬や燃料のような性質を持つことがわかった。

その後、ギルドマスター自身が風属性の魔石粉末と火属性の魔石粉末を合わせると、より大きな炎が上がることを発見。

さらに、ミニトレントの樹液に粉末を溶かし、液体燃料を作り出した。

ミニトレントはトレントよりも小さい、草のような魔物で、トレントと違い、その幹を加工しても魔法杖にはならない。

しかし、その木の実は食用となり、繁殖しやすく栽培が簡単なので、異世界では畑があったほどのものである。

その樹液には魔素が多く含まれており、可燃性であったため、魔石粉末を溶かす事で効率的に燃えることがわかった。


さらにギルドマスターが、火属性と風属性の魔石粉末の配分を変えることで燃焼の性質が変わり、ガソリンや灯油に似た性質を持たせることが出来る事を発見した。これがマギ燃料である。

そのため、現在走っている車のほとんどは、ガソリンの代わりにマギ燃料を使うようになっている。

研究所ではそれぞれの研究員が様々な研究をしており、最近ではスライムを使った、プラスチックに似たスライム樹脂が発明されている。


「いやいや、そうは言いますけど、これでも息抜き中なんですよ?」

「……そうなんですか?全く見えませんけど。」


アリアの言い分は正しい。

キセルは白衣に片眼鏡、金属加工術を施した工具に、ミニトレント樹液のペンを持って、なにやら金属の塊を弄っているところなのだ。

ちなみにミニトレントの樹液を溝に流すことで、魔法陣を刻むことが出来る。このペンはそのためのものだ。


「完全にこれは私の趣味なのですよ。ちょうど、魔電機の開発が一段落ついたところでしてね。」

「その、魔電機というのも、そこまで急いで開発する必要は無いと思うのですが。」

「いや、それの開発も重要なんですよ。マギ燃料は自動車走行用のガソリンとしての生産量は間に合っていますが、発電用の石油代替品を生産できるほどの量が無いんですよ。それに、燃料を燃やしてタービンを燃やすより、魔力を直接電気に変換できた方が効率的ですしね。」

「わかりました。もういいです。」


アリアは諦めたようにため息をついた。


「それで、息抜きのために何を作っておられたのですか?」

「ああ、これですか?これは銃と言うものですよ。」

「以前おっしゃっていた物ですか。ただの金属の筒にしか見えませんが……」

「大まかにはそれで合ってますよ。ちょっと複雑な機構がついている筒ですし。」


キセルは作業していた、幾らか分解されているアサルトライフルを手に持って眺めた。


「これが武器ですか?そうは見えませんが……」

「いや、コレはすごい武器ですよ?中級魔法よりも威力は少ないですが、速度が速く、ほとんどノーモーション 遠距離攻撃が出来ます。弓矢よりも射程が長く、それでいてある程度の訓練で誰でも同じ火力を出せる武器。これが発明されてから、戦争の形がだいぶ変わったようですが、頷けます。それほどに強力な兵器です。」

「ふーん。」


アリアも銃をのぞき込むが、未だに疑惑の目をしている。


「それで、ギルドマスターはこれに何の改造をしているんですか?」

「いや、この銃ってのは、対人戦では非常に強力なのですが、魔物相手だと心許ないのです。D級程度が相手なら非常に強力でしょうが、C級の硬い皮膚を持つ魔物には効果薄ですし、B級以上だと相手にもなりません。使い手によって威力が増す代物でもありませんし。」(以下ギルドマスターの台詞は読み飛ばしても問題ありません。)

「へえ。」

「弾薬を魔石粉末に代替できることはわかりましたし、そこに魔法陣を組み込めばさらに威力が上がりますが、結局反動や銃身の耐久性をあげないことには威力が高くても扱えない物になってしまいます。」

「はあ。」

「銃身に状態保存の魔法陣を刻むことで、ある程度耐久性をあげることは出来ました。今は反動を軽減する装置を考案中です。マズルブレーキでも限界がありますし。そこで利用できるのが魔力爆発です。魔力爆発には魔法陣に刻むことで、威力と維持時間を変えることが出来ます。維持時間とはあらゆる魔法に組み込まれているもので、魔力が擬似的な物理的効果をもたらす状態を維持する時間のことで、その術式にこめた魔力量に依存します。維持時間を終えると、その魔法は質量を持たないエネルギー体の魔素に戻ります。これを利用して、真空状態の金属筒の片方に維持時間を非常に短くした魔法陣を刻みます。これを作動させると、片側で増加した圧力のため筒にはその方向の力が生まれます。そしてその圧が筒内で均等になる前に維持時間が終了し、ただの魔素に変わります。魔素は質量を持たないためもう片側には何の力も及ぼさず、結果として筒には瞬間的な一方向の力が生み出される事となります。これを引き金を引くと同時に作動させることで発射時の反動を打ち消す事が出来ます。しかしモーメントの釣り合いをとり、跳ね上げを軽減するために幾つかの反動軽減装置を銃に取り付ける必要がありますし、そのため銃身が重くなってしまいます。また力の量が変わると相乗的に反動が生まれ、暴発する可能性もありますので、魔力爆発の魔法陣の魔力量と威力の研究をする必要がありそうです。」

「…………はあ」

「しかし真空状態というのはこの世界の科学技術でしか作り出せませんね。そもそも元素と言った概念もこの世界にきて初めて知りましたし。あちらの世界に居たときは全く考えもしなかった代物です。まだまだ実用化にはほど遠いですが、将来的にはフルオートマチックに対応できるようにもしたいです。しかし今のところ弾丸発射と反動軽減装置のタイミングが少しでも違うと連射する度にぶれ幅が大きくなってしまいます。そこは要検討ですね。機関銃の銃身に状態保存と冷却の術式を施すことで焼き付きを防止してより長い連射時間を実現できます。さらに弾丸すらも銃身内で精製することが出来れば、弾切れのない恐ろしい兵器ができそうです。しかし状態保存と冷却の術式は空気中の魔素を取り込むことで充分な効果が得られますが、魔力爆発や弾丸生成には瞬間的な魔力が必要なので、結果として人間の魔力を使うことになりそうです。そうすると弾丸生成はそこそこに魔力を消費しますから無限とはいきませんか。そういえば、今の段階では反動軽減装置は使う度に中の魔素密度が高くなり、魔力爆発の威力が下がってくることが問題ですが、その魔素を吸収して再利用できれば一石二鳥の結果が得られそうです。一石二鳥とはこちらのことわざだそうですよ?トレントの穴にレッドボアと同じ意味だそうです。まあそれは良いとして、今構想段階にあるのは弾丸に極小魔法陣を刻むことで、着弾と同時に何らかの魔法的効果を及ぼすように出来たら、A級以上の魔物にも非常に有効な攻撃になりそうです。この極小魔法陣はこちらの技術を利用すれば何とかなりそうですね。しかしこの世界の技術は素晴らしい。一つの効果を作るために非常に回りくどいことをしていますが、そのために非常に精密かつ小規模的な技術の発展がめざましい。世界が広く、かつて戦争が多発していたためか、私たちの世界よりもより効率的に人を殺傷する兵器の技術が高い。私達の世界ではデザインに凝って余計な機構をつける物もいるようです。よりかっこいい武器がロマンですが、こちらの世界では技術的に存在不可能な、しかし攻撃力の高い効果的な武器が浪漫武器と呼ばれているようで、誉められたことではありませんが価値観の相違がありそうです。しかし私もデザインより機能を取る人種ですので賞賛できますね。将来的にはそのような………」

「キセルさん!もういいです!よくわかりましたから!!」


アリアが耳から煙を出しながらマシンガントークするキセルを止める。アリアは技術的な知識には乏しかった。


「うーん。まだ話したり無いのですが……」

「……あれで、ですか。……そういえば、以前におっしゃっていたワイバーンの翼膜が手に入りそうですよ?」

「お、そうですか。」

「ワイバーンの翼膜なんて、何に使うんですか?」

「ふむ。ワイバーンに限らずあらゆる飛行可能なドラゴンに関する事なのですが、こちらの世界の科学技術をもってしても、アレほどの巨体があのサイズの羽をはばたくだけで空を飛ぶことは不可能だと言われています。もともとは風属性の魔法をかけていると言われていましたが、はばたく様子を観察する限りそんなことはなさそうです。しかもあの羽根、結構重いんですよね。そこでこちらの日本人研究員が、重力を操っているのではないかと考えまして、つまり羽ばたく度に一時的に羽根の重力を消したりする事で飛んでいるのではないかと。翼膜が異常な魔素を帯びているのを考えると、それも無視できなくて、研究材料が欲しかったのです。」

「ああ、良かった。話が短い……」

「なんですか失礼な。」


ほっとため息をつくアリアに、キセルは眉を寄せた。


「そうだ、お茶をいれてきますね?」

「ああ、ちょうど喉が乾いていたのでお願いします。しかし、あなたは私の秘書じゃないんですよ?今はギルドマスター代理ですし。そういえば、あなたはしっかりギルドマスターの代理をつとめていますか?そちらの方が大変でしょう。」

「いえ、問題ありません。ギルドマスターが頑張ってくれたおかげで、運営も安定してきましたし。」

「そうですか。あなたの事ですから、私のためにワイバーンを討伐させたり、私の面子を守るために無理な依頼をしていそうですが、要らぬ心配だったようです。」

「ギクッ!」

「………やってないのですよね?」


ちなみにキセルはニュースの類をこの数週間全く見ておらず、アリアの報告分しか情報を得ていなかった。


「だ、大丈夫ですよ!しっかりとギルドマスターの責任を果たしています!」

「ふむ。しかしあなたは私に盲目的な部分がありますからね。若い人に好意を寄せられるのは嬉しいことですが、何にせよ程度をわきまえて……」

「……へっ!?」

「ん?」


キセルの言葉に赤くなるアリア。

それを不思議な目で見るキセル。

そして流れる沈黙。


「こ、好意って……いつから……」

「ん、ああ、五年前位からですか。私も伊達に長く生きていませんし、鈍感じゃないのですよ?…というかあれだけ熱い視線を向けられて気づかないわけが……」

「う、うわああああああああ!!!」

「アリア!?」


顔から火がでる勢いで赤く染まった顔を抑えながら、アリアは廊下を走っていく。


「お、お茶は……」


そんなアリアにキセルは、手を伸ばし呆然とするしかなかった。


こういうの考えるの楽しいですよね。

しかし前話と含めて説明回しかないという……。


ちなみにアリアさんは、仕事は出来ますがギルドマスターのことになると公私混同気味です。


そういえば、ネット小説大賞一次選考を通過したみたいです。やったね!

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