第十八話 ダンジョン(?)
外話かどうか悩みましたが、結局ふつうにしました。
だが主人公は出てこない!
二人の冒険者が、畑とも荒野とも言える道を歩いていた。
二人は約10ヶ月前に日本に来た、異世界人だった。
ここには珍しい魔物など居ない。レッドボアや、ゴブリン、オークといったありふれた魔物ばかりだ。
彼らはCランクの冒険者であり、わざわざこんな人のいない辺鄙なところを、車もなしに歩く必要はない。
しかし彼らの目的は、この道の先にあった。
「おっ、見えてきたぜ。」
「やっぱ自転車買った方が良かったかね?ちょっと徒歩で来るには遠かったか。」
「……なんかこっち来てから感覚が麻痺してるな。たった1、2時間の距離を遠いって……」
「電車とかバスになれちまったからな…」
二人の視線の先にあったのは、テーマパークのようにずらっと並んでいる自動車や自転車、そしてまた別のところにあるテントや屋台。
そしてぽつんと建っている一軒家であった。
「おい、そこ段差あるぜ。」
「っとあぶね。」
二人がここに来た理由は、前日に遡る。
前日、二人は町の居酒屋で、次の予定を話し込んでいた。
チビチビと飲んでいるのは米を原材料とした日本酒である。
日本に来て10ヶ月。もう米食や魚料理には慣れてきたところである。
「おっさん!アレ追加で!」
「あいよ!魔物と大豆と魚のどれだい?」
「俺らのナリみてみろよ。大豆なわけないだろ?魔物だ魔物。」
「はいはいっ」
注文した男、斧使いのダセルは空になった猪口に、また酒をついだ。
「はあ、俺らも慣れたもんだな。」
「パンのない生活もな。しかし、久しぶりにパンを食べたいもんだ。もちもちパン以外の。」
「ばっかおまえ、あんな高級なもん買えるわきゃねーだろ。もちもちパンでさえ、俺らのとっちゃ高級食材だ。」
「でもよ、こっちのパンって、俺らのよりも相当美味いらしいぜ?」
「もちもちパンでも格段にうめーからな。」
「Aランクになれば、パンもクッキーも食べ放題か。うらやましいぜ。」
二人は揃ってため息をつく。
そこで、店員の若者が料理を届けに来た。
「へいおまち!石ホタテの魔物醤油焼きね。」
「おっ!」
「おい、俺にも分けてくれよ?」
さっそく食べようとしたダセルの皿から、魔法使いのカンボがホタテを一つ箸でつまんだ。
1124事件以降、日本の食生活に大きな変化があった。
特に顕著だったのは、パンと醤油とビールの高騰である。
日本の周囲が障壁に囲まれて以降、穀物、特に麦、大豆の供給が大幅に減少したのである。
一概に理由は、輸入の不可能性にあった。
小麦、大麦が少なくなった事により、パン、ビールが大量生産出来なくなり、また大豆が少なくなった事により、醤油、味噌、豆腐が市場に出回らなくなった。さらには、餌となる穀物が少なくなったことで肉、牛乳、鶏卵さえもが高騰したのである。
パンの代用として、大半を米粉で作ったパンが売られたが、牛乳、卵も高くなっていたため、毎日食べるほどお手頃な値段にはならなかった。
大豆のようなマメを体に蓄える、ビーンズピジョンという魔物を狩ることで、魔物大豆を手に入れることができたが、大豆の醤油と魔物大豆の醤油はどこか味が違い、日本人を満足させるにいたらなかった。また、代用品として魚醤が用いられることもあった。(ビーンズピジョンは鳩の魔物。攻撃方法は豆鉄砲。鳩が豆鉄砲を撃ってくると言う新形態。)
食肉は、冒険者が狩ってきたレッドボアやオーク、マッドカウの肉が変わりに出回るようになったが、鶏卵、牛乳の生産には飼育する必要があり、高騰したままであった。(マッドカウは牛の魔物。その肉と牛乳は非常に美味。水場に住む。攻撃方法は突進。)
おかげで最近は、かつてのパン食を懐かしむ異世界人や、大豆の醤油と冷えたビールを追い求める日本人が増加しているのである。
ホタテを食べ終えたところで、ダセルがカンボに言った。
「おい、そういえば、こんな噂知ってるか?」
「噂?」
「ああ、ここの近くに、変なダンジョンがあるって噂さ。」
「変、ねぇ。なにが?」
「それがどうもな、小麦や大豆が簡単に手に入るダンジョンらしい。」
「……はあ?なんだそれ。宝箱に小麦が入っていたりすんのか?」
「ああ。まさにその通りだ。」
「……いや、いやいや、なんだその庶民派ダンジョン。」
「おう。その噂、マジだぜ?」
二人の会話に、隣のカウンター席に座っていた大柄な男が入ってきた。
「ん?あんたも冒険者なのか?」
「おう。Cランクのな。ザンギっていうんだ。よろしくな。」
「おお。俺らもCだ。俺がカンボ。あっちがダセル。よろしく。んで、噂が本当だってのは、どういうことだ?」
「どう言うことも何も、俺は二日前にそのダンジョンに行ったんだよ。」
「……本当か?」
「おうよ。そのときに作ってもらったんだが……」
そう言って、ザンギは自分の鞄をあさり始めた。
「お、あったあった。これよ。」
「こ、これは……!」
「パンだ!食パンだ!」
ザンギが取り出したのは、一斤の食パンが入った紙袋であった。
「こ、こいつをどこで?」
「パン屋の親父に作ってもらったのさ。ちなみに今はこの町でビールを予約中。」
ザンギ曰わく、そのダンジョンの宝箱には、麦や大豆が入っていると言うこと。
宝箱はかなりの数が存在すること。
ダンジョン内のモンスターは弱く、比較的簡単に小麦や大豆を入手できると言うこと。
そして、ダンジョンの近くの屋台や、町の特定の店に小麦を持ち込めば、パンやビールを作ってくれると言うことであった。
「んじゃ、噂は本当だったのか……!」
「おう。こっちのパンは美味いぜ?」
「ごくっ…!」
美味い話である。いろんな意味で美味い話である。
そのときすでに、二人の心は決まっていた。
テントが集まった一画に行くと、屋台と車、そして冒険者と思われる者達が集まって騒いでいる所があった。
そこに近づくと、屋台にいた一人の女性が二人に話しかけた。
「あれ?お兄さん達新顔?」
「ん、ああ。そうだ。君は?」
「私は、この青空パン屋の看板娘。キャシーよ。」
「Cランク冒険者のダセルだ。」
「カンボだ。よろしく。」
「よろしく。ここに来たって事は、ダンジョンに潜るんでしょ?」
「ああ。ちょっとパンが食べたくてね。」
「じゃあ、ダンジョンで取れた小麦と牛乳を持ってきてくれたら、店主がその分のパンを格安で売るから。」
「おーけー。…ちなみに、店主ってのは俺らの世界の人間なのか?」
「いや、日本人だよ。私は拾われただけ。故郷の味とは違うけど、私の折り紙付きだから。」
「キャシーちゃんの折り紙付きってなんだよ?まあ、美味いのは認めるがな。」
騒いでいた冒険者のひとりが、パンを食べながら会話に入ってきた。
「はは!なんたってパン仙人のパンだからな!」
「パン仙人?」
「おう。見た目が仙人なんだよ。……っと、噂をすればってやつだ。」
冒険者の視線の方向から、一台のトラックが走ってきた。
トラックは屋台の近くで停車し、ドアから白い髭を蓄えた老人が下りてきた。
「ん?見たこと無い顔じゃな。新顔かい?」
「店主。お帰りなさい。」
「ああ、なるほど。」
ダセルとガンボは、その店主と呼ばれた男を一目みて納得した。
容貌がまさしく仙人だったのである。
ちなみに、異世界の仙人とは、魔法、武道のいずれかを極めんと、山にこもって修行する求道者をあらわす。外見のイメージは日本と変わらない。
「店主は時々街に行って、卵とか他の食材を買ってくるのよ。店主はパン以外はからきしなので、サイドメニューは私が担当しているんだ。………っと、ダンジョンに潜るんだっけ。」
「ああ。ここにいると早くパンを食べたくなっちまう。」
「ダンジョンに入った経験はある?」
「Dランクに数回、Cランクに二回だな。」
「十分。まだギルドの調査が終わってないけど、推定EかDって言われてるから。」
「調査が終わってないって事は、地図は売られてもいないのか。
」
「うん。残念だけど。あ、でも一回層は四つのエリアにわかれてるってのはわかってるの。」
「エリア?」
「そう。で、エリアごとに宝箱から手にはいる食材が変わるのよ。最初の階段を下りて、右前の扉は麦エリア。左前の扉は大豆エリア。左後ろの扉は飼料用トウモロコシエリア。右後ろの扉が牛乳エリアよ。二人分なら一回層だけでも十分な量が手にはいるから、むちゃして下の階層に行かないでね?」
「小麦以外にもあるのか。まあ、大丈夫だ。今回の俺たちの目的はパンだからな。」
「んじゃ、行ってくるぜキャシーちゃん。」
「いってらっしゃい。罠とモンスターに気をつけてね。」
二人はダンジョンの入り口である、一軒家の中に入っていった。
数日後、青空パン屋の前で、パンを幸せそうに頬張るダセルとガンボの姿があったという。
パンだけでなくうどんとかラーメンとか全滅ですね。
現代日本人には辛すぎる。まあ一番影響でかいのは多分飼料。
自給率は小麦が14%、大豆が6%位だったと記憶しています。大豆は食用に限ると26%という話もありますが。
Q,10ヶ月でそこまで影響でるのか?
A,フィクションです。実在する人物、組織とは関係ありません。
突然更新が止まっても、エタった訳ではなく、成績不振のため怒ったマイペアレンツがスマホを解約しただけだと思うので、一年後くらいには再開すると思います。(浪人しなかった場合。)
ああ、本当に解約されそうで怖い……。
(↑勉強しろ)
2016/3/18 大麦の描写を追加
ちなみに大麦の自給率は8%ですって。