第十七話 龍の卵※
キリをよくしようとしたら、すこし長くなりすぎました。
まあ、長いことにはいいでしょう。多分。
あと今回挿し絵が出てきます。拙い絵とか言ってはいけない。
前回のあらすじ
糸目、触手を手に入れ、どんどん主人公のビジュアルからかけ離れる。
能力を手に入れると、それの使い方が何となくわかる。
そのため触手をどうやって使うかは分かっているのだが、見た目とか細かい特長は使ってみないと分からないのだ。
つまり、触手がどういうタイプの見た目なのか、出すまで分からないという事。
とりあえず出してみるが、緊張の瞬間だ。さてどういうタイプか。
タコか、イカか、ナ◯トの九尾か殺せ◯せーか、東◯喰種か、はたまたエロゲか。
せめてエロゲみたいな、ボコボコした気持ち悪い見た目はやめてほしい。最悪殺せ◯せーでも構わない。
あ、でもあまりぬるぬるしないでくれると助かる。
「触手!」
能力を発動すると、腰のあたりから結構な質量のものが生えてきた。
うーん、どちらかというと東◯喰種のカ◯キさんぽいな。
色は白いけど、吸盤があるわけでもなく、先が細くなってる位だ。
でも別にザラザラはしてないな。どちらかというとブニブニ?
かなり感触は柔らかい。
出せるのは九本か。毛も生えていたら九尾っぽかったんだけど、毛の一本もないブニブニだからなあ。
とりあえずぬるぬるしてなくて良かった。
とりあえず動かしてみると、手足のように動かすには違和感があるけど、思ったよりも自由に動くみたいだ。
もしかしたら手よりも細かい動きが出来るかもしれない。
引き締めようと意識すると、触手の一本が細くなった。
太さも変えられるのか…、あ、でも細くなってもブニブニだ。
色々実験してみたところ、触手は結構力が強いことがわかった。
俺の本体の腕の半分くらいの力までは出せる。それが九本とかえげつない。
しかし、触手自体がブニブニしており、衝撃吸収能力にやたらと長けていたので、触手自体で攻撃することは難しそうだ。
東◯喰種みたいにスパッとかザパッとはできない。
まあ触手に武器を持たせれば攻撃は出来るか。
あとこの触手はかなり器用だ。
吸盤は無いけど、柄をクルクルと触手で巻けば、シャベルとかも持つことが出来る。
さらに俺の右手よりも繊細に動くから驚いた。右手に持った鉛筆で、フリーハンドで直線を書くより、触手でもって書く方がきれいなのだ。
機械並の精密さをもっているので、これからのロボット作りに役立ちそうだ。
さすがに九本の触手を、別々に自由に動かすことは難しい。
触手を動かすことに違和感はなくなったが、別々に動かすには脳が足りない。
並列思考でも持ってなきゃ無理だ。
三本くらいなら自由に動かせるので、それくらいをいつも使うことにしよう。
どうやら触手は、普通に使うときはMPを消費しないらしい。
いくら激しく動かしても、疲労感はあってもHPやMPは消費されないみたいだ。
ためしに触手の一本を切ってみると、痛覚はなかった。
そして切断面からあたらしい触手が生えてきた。気持ち悪い。
そしてどうやらこの再生にはMPを消費するみたいだ。一本で20MP位。
収納しようと思えば、触手は徐々に縮んで、最終的には腰を触ってもわからないくらいにはできるようだ。
常時出さなきゃいけないって訳じゃなくて良かった。
しかし触手を出すときには、毎度腰の服が捲れてうざい。
だからといって、背中に穴があいている奇抜なファッションをするつもりはないが。
さて、次の実験が本題だ。今までの実験の間、コアが一言も喋ってくれないのが怖い。
「複製魔法!」
右手に持った鉛筆を複製する。
すると、九本の触手全てから鉛筆が落ちた。
そう、複製魔法は、手に持った物を別の手に複製する能力。
つまり、別に俺自身の手じゃなくても、触手にコピーすることは可能なのだ!
足に複製する事が出来ないのに触手で出来るのは不思議だが。
これが複製魔法と触手の相性が良いと考えた理由だ。
これで単純に複製の効率が十倍になった。
消費MPも十倍だけど、速さが上がっただけでも嬉しい。
いちいち複製するのが面倒だったんだよ。
もしかしたら触手が手と見なされない可能性もあったわけで、それが解決しただけでも重畳。
いくらコアに軽蔑されようと、触手を得た意味は大きかった。決死の選択をした十分前の俺ナイス!
『触手での複製魔法が使用されました。能力の相乗効果を確認。
触手からの進化に成功。
新しく能力、複製触手を取得しました。触手は複製触手に統合されました。』
ふぁっ!?
突然の脳内アナウンスにビックリ。
え?なんだって?複製触手?
なに新しい能力にしちゃってんのさ!
しかもなんとなく分かる使い方がやばいんだけど……!
俺は右手で左手を触りながら、複製触手を発動する。
すると、一本の触手の先端に、俺の左手が複製された。
これが複製触手の能力、触手に自分の体の一部を複製できる。
………ていうかこの能力見たことあるぞ!!
僕のヒーローア◯デミアにあっただろ!似たような名前で!
パクるにしても限度があるだろが!こんな能力いらねえよ!
と思っていた時期が俺にもありました。
複製触手、マジ使える。
試しに頭を手で触りながら発動すると、イメージ通りに、触手の根元の中に脳が複製された。
さらに触手に俺の目を複製することで、触手が各々の判断で動くようになった。
しかもこれらの脳は完全に俺の支配下にあるので、触手同士がぶつかったり、一つの触手が暴走したりする事はない。
これひとつで並列思考能力を手に入れちゃったよ。
しかし、触手に複製した体は、触手を介しているからか、俺の思い通りには動かない。
触手の先に手を複製すれば、打撃も物を持つのも自由自在になるんじゃないかと思っていたが、そううまくは行かないようだ。
例えるなら、触手の先に死体の腕をつけてる感じだ。操れはするんだけど、手足のように自由には動かない。
つまり、触手の先に腕を複製するよりも、武器を持たせたほうが有意義だということだ。
脳にしても、俺自身の脳よりも出来は悪い。
触手を動かすことや瞬間的な判断はできても、創作的な思考や複雑な計算は出来ないみたいだ。つまり、純粋な並列思考はできない。
まあ俺と同じ脳ができても困るしな。離反とか起こされそうだ。
なんか、複製触手の実験をし始めてから、さらにコアの目線の温度が下がった気がする。目とかないのに。
あとでこの能力がいかに素晴らしいかを熱弁しよう。
そんで説得しよう。俺は触手の先にいかがわしい物を複製するつもりはないぞ、と。
まあ触手プレイするにも、相手がいないんだけどな。
あれ目から汗が……。
目を開けると、白い空間が広がっていた。
際限なく広い。先が見えない。
どこに光源があるのかもわからないが、まるで空気が透明な光を乱反射しているようで、影というものが映されない。
そしてその空間に、俺はアグラをかいて座っていた。
んー、確か俺は、コアを説得して(未だにちゃんと信じていなかっだが)、今日一日が終わったから寝室で眠ったはずだ。
ダンジョンにこんな空間を作ったつもりはないし、つまりこれは夢って事か。
『そういうこと。ここは君の夢さ。』
む、なんか後ろから少年の声が聞こえる。
首を仰け反るようにして後ろを見ると、銀髪で白装束のショタがいた。
「お前だれだよ。」
『誰だと思う?』
オウム返しのように、少年が問い返してくる。
なにが面白いのか、少し笑っているようだ。
「流れ的に、神様とか?」
『流れって……まあ正解。僕は神様の一人さ。』
本当に神様だったか。
白い空間に神様。このシチュエーションは…
「俺死んじまったのか?」
『いや死んでないよ!!夢って言ったでしょ!』
「いや、白い空間に神様って、転生か勇者召喚だろ。」
『いや君は普通に寝ただけだから。ただの夢だから。僕は君の見ていた夢に入り込んだだけだから心配しなくていいよ?』
と言われても、信じがたい話だ。
『信じられないかい?』
「お前俺の心読んでるな?……まあいい、信じられる要素はないが、取りあえず信じてみよう。」
『意外だな。君の性格的に、疑ってかかってくるかと思っていたけど。』
「嘘だったら、ただの夢と笑っちまえばいいのさ。疑ってかかっても話が進まないし。……取りあえず俺の前にきて話をしてくれないか?そろそろ首が痛いんだが。」
『君が向き直ればいいんじゃないか?』
「ふむ。それもそうだ。」
取りあえず組んでいた足をほどいて、自称神様の方を向く。
『自称ってひどいな。やっぱり信じてないでしょ。』
「いや、そんなことはどうでもいい。取りあえず、わざわざ俺の夢に入り込んだ理由を聞かせてくれ。」
『理由、ねえ。』
少年は顎に手を触れて首を傾げた。
『強いていうなら、暇つぶしかな。』
「なるほど、お前、異世界転移を起こした張本人だな?」
『え?なんでわかるのさ?』
「その適当さ。お前みたいなふざけた神様が何人もいちゃぁたまらん。」
もともとこの異世界転移を、誰かが引き起こしていたことは想像していた。
そしてその誰かが、非常にゲーム好きで、適当なのはわかることだ。
『ゲーム好きってのはいいとして、適当ってのはなんでなのさ。』
「細かい設定が。ちょこちょこ理解不能な現象があったからな。」
『な、なるほど。』
少年神様は苦笑いする。
適当さに自覚はあったわけだ。
「暇つぶしっていうなら、いくつか質問しても良いか?」
『いくつでもどうぞ。』
「なら、お前は地球の神様なのか?それとも異世界の神様なのか?」
『強いて言うなら、どちらでもないよ。』
「だろうな。」
『ええー?それもわかってたの?』
「いや自分の世界をここまで壊そうとは思わんだろ。」
少年神様はつまらなそうな顔をする。残念だったなあまり暇つぶしにならなくて。
「んじゃ最後の質問。お前の『ゲーム』にとって、ダンジョンってなんなんだ?」
『え?もう最後?「転移した半分の日本人はどうなったんだ!?」とかじゃないの?』
「興味ない。」
『あー、そう言えば君、転移した肉親とか居なかったね。まあ転移した日本人達は、あっちの世界で「召喚された6000万人の勇者!~魔王軍を数の力で蹂躙する~」ってのをやってるよ。』
「あ、ちょっと興味出てきた。」
『まだあっちも序盤だけど。さて、君の質問に答えようか。っていうか、その質問だと君が、ダンジョンがゲームに重要だと理解しているみたいなんだけど。』
まあダンジョンが「ゲーム」と関わりが深いのはなんとなく分かっていた。
俺はダンジョンの実績のシステムで、二つも能力を手に入れた。
しかし、総理の会見で能力の存在が全国に知れ渡った今でも、後天的に能力を手に入れたという話は聞かない。
どう考えても、ダンジョンマスターが優遇されているのだ。
『なるほどね。まあ君の予想通り、このゲームにとって、ダンジョンってのは重要なポジションになるよ。詳しくは説明しないけど。』
「詳しい説明を聞けるとは思っていない。そんなことしたらお前の旨みがなくなるだろ。俺が聞きたいのは、その『ゲーム』に関わらない方法だ。」
ぶっちゃけ、俺は神様開催のゲームとかに興味はない。
人類が滅亡しても、俺がダンジョンに引きこもることが出来れば、それで良いのだ。
『君結構ものぐさだね。でも、残念。』
少年は気味の悪い笑顔を俺に近づける。
『君はゲームで逃げることも、活躍することもできない 』
「活躍できない?」
『ふふふ……ダンジョンマスターってのは、僕のゲームの中では「アイテム」でしかない。君はどんなに努力しても、主人公にもモブキャラにもなれない。君が努力で選べる道は、「はじめの森で倒したゴブリンの耳」か、「物語終盤で、ドラゴンを倒して手に入れた龍の卵」になるかしかないのさ。』
「………」
俺は少年神様を睨みながら言った。
「思い通りにさせるかよ。俺はお前の描く道筋通りに進まない。俺は俺のやりたいようにやる。」
『ふふふふ!面白いね。やっぱり君は!』
少年神様は愉快そうに、高らかにわらった。
『いい暇つぶしが出来たよ!わざわざ夢に入り込んだ意味があったってもんだ!』
「そんなら何か報酬とかくれないもんかね。」
『……いいよ。なら、もしも君が僕のゲームをぶち壊せたら、何でも一つ、君の願いを叶えてあげよう!』
「……………男の『何でもする』ってのは嬉しくないな。」
『神様だって!』
少年神様は尚も笑いながら、うっすらと消えていく。
同時に俺の意識も消え始める。
『でも、無理やり入り込んだせいで、君の夢に負担をかけたから、君は目覚めたら夢の内容を忘れてしまうだろう。でも、いつか思い出せるだろうから、約束は有効だよ。また出会えるときをまってる!』
完全に俺の意識はブラックアウトした。
「む?知っている天井だ。」
いや、分かってるよ、天井ネタが飽きられているのは。
とりあえず朝になったみたいなので、二度寝したい感情を振り払って起き上がる。
「……なんか重要な夢を見ていた気がするが……思い出せないな……。」
まあ良くあることだ。
触手のおかげでロボット作りもかなりはかどっている。
さあダンジョン作成を続けようか。
これで本編の第二章は終わりです。
少しばかり閑話っぽい重要な話を入れてから、第三章に移ります。
閑話は来週の日曜(3/6)に更新。
第三章の一話はその来週の日曜(3/13)に更新して、普段の更新ペースに戻します。