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外五話 演説

もともとは第二章までは毎日更新するつもりでしたが、ランキングが落ち始めたことと、結構きつくなってきたため、三日おきに更新することにしました。


感想はちゃんと呼んでいるのですが、ネタバレを含んだり、時間がなかったりで、最低限の返信とさせていただきます。ご了承下さい。



憲法改正案が報じられた後、日本は再び騒動にみまわれた。

憲法第96条を改正すると言うことは、やりようによってはいつでも憲法を改正できるようになる、という事である。

ようやく機能してきたテレビ番組のワイドショーでは、逐一この話題が取り上げられ、あらゆる批判を受けた。

新聞記事でも同じく、朝昼夕刊全てで一面をかざり、賛否両論が並べられた。


発表から5日、国民投票の二日前に、全国民に向けた総理の記者会見が開かれる。

両議院可決後一週間で国民投票をするというのは、国民投票自体に前例が無くとも、あまりにも早かった。

内閣総理大臣は、まったく落ち着きを取り戻せない状況の中で、すべてのチャンネルにのせて演説をすることとなる。





フラッシュがたかれる中、記者会見の場に、福富内閣総理大臣が現れた。

世間から批判を投げかけられているとは思えないほど、その様子は堂々たる物で、テレビ画面を覗く者は彼を英雄かのように幻視した。

入場のみで、この様子を見ている国民全員を注視させたのである。

そして空前絶後の用件で、前代未聞の規模にて開かれた記者会見と言う名の演説は、ある意味衝撃的な一言で始まることとなる。


マイクを向けられた福富総理は、人を惹きつける微笑みを浮かべながら口を開いた。


「みなさん。『能力(アビリティ)』というものをご存じですか?」





冷静な者は我が耳を疑い、慌てた者は意味を理解できずにいた。

それ故に、「関係ない話」をした総理大臣に意義を申し立てる者はいなかった。

福富総理はそれを理解して尚、言葉を続ける。


「みなさんはもう、あの異世界転移事件、通称1124事件の後、ステータスという現象が発生した事をご存知のはずです。この際、どうやら極希な確率で、能力(アビリティ)という超能力じみたあらゆる力を手にした者がいるようなのです。」


なお沈黙は続く。総理大臣の秘書官ですら呆気にとられていたのは異常と言えるだろう。

本来、大臣になろう者は、会見や議会の原稿を自分の秘書官に用意させるのが普通である。

しかし福富総理は議員となってから今まで、全ての原稿を自分で作り上げていた。アドリブなど日常茶飯事である。

今回の会見も例外ではない。

だからこそ、周りの秘書官でさえ、総理大臣が次に何を言うか、分かっている者はいなかった。


能力(アビリティ)を持つ者は、ステータスに能力アビリティ欄があり、そこに能力(アビリティ)の名前が載っています。私のステータスを皆さんに見せることは叶いませんので証明は出来ないのですが、私はその能力(アビリティ)持ちです。



能力(アビリティ)の名前は『扇動』



詳しい説明は致しませんが、能力自体は字面の通りです。」


聞いていた者が唖然としたのは言うまでもない。

たった一分間に、総理が発した情報量が多すぎた。

しかし比較的聡く、すぐに冷静を取り戻した者は、総理の言葉に疑問を抱いた。


「『なぜ今その話をしたのか』と、疑問に思うことでしょう。」


総理はその浮かんだ疑問点を見事に指摘した。


「確かに、能力(アビリティ)に関することが本当なら、黙っていた方が有利です。このままみなさんを扇動すれば、国民投票を勝ち残れるのは当然でしょう。確かに私はこの能力(アビリティ)を使い、両議院可決を勝ち取ったのは事実です。」


総理は僅かに声質を変える。

演技ではない、ほんのわずかに、聴衆に気づかせず心に響くように。


「しかし私は、国民の皆さんを騙して権力を勝ち取ろうなんて思えませんでした。皆さんに、嘘をつき、騙し、煽って、自分の思い通りにするなんて事は、私自身が許せませんでした。これは私の誠意です。」


福富総理は歌うように演説をすると言われる。

日本では珍しいが、海外の有名な大統領などは必ずこの手法を採る。

歌は文より心を揺らがし、訴えかける。

これが恒であるならば、ただ淡々と言葉を並べた会見より、歌うような演説の方が効果的であることは間違いない。

福富がこの若さで内閣総理大臣という地位にまで上り詰めた理由の一つは、そのコミュニケーション能力にあった。


彼が自らの行動を「誠意」と評したのは、半分合っていると言える。

逆に言えば、半分は間違っているのだ。

福富総理が能力(アビリティ)という反則(チート)をつかって国民を扇動し、憲法改正を行ったことが後に浮き彫りになれば、彼の成果云々を超えて批判されることは間違いない。

そうなれば、内閣不信任案が提出され、任期を終えるより先に内閣総理大臣を辞めなければならなくなる可能性がある。

彼は自分の力を過信していない、しかし無理に謙遜する事もなかった。

彼は現状を客観的に捉える。

そして客観的視点から見て、彼以外に今の日本を支えられる人間が居るとは思えなかった。

日本と言う国を守るため、自分は内閣総理大臣として導かなければならない。

そのためには、国民に能力(アビリティ)を隠すことは悪手だと考えたのだ。

両議院可決は急を要するため能力(アビリティ)を隠したが、この度の国民投票でもう一度投票するのだから、これほど衝撃(インパクト)をもたせれば問題ないと判断した。


しかし彼のこの思いは間違いなく日本国への誠意であった。

だから半分正しいと言えるのである。


「改正案を簡単に要約しますと、改正後から日本列島が障壁によって世界から隔離されている間、憲法改正における手順は通常の法律制定と同等とすること。また何らかの形で世界への移動、流通が可能となったとき、もしくは全国民の過半数の署名が集まったとき、改正された憲法を全てもとに戻すこと。その際違憲と見なされた法律は全て審議にかけ、元に戻すこと。つまり、日本が隔離されている間、臨時の法律を定めようということです。」


話が本題に戻ったことを確認し、総理には再びシャッターがたかれる。


「みなさんは、憲法を改正することで違法に税をとられるかもしれない、あるいは、戦争に巻き込まれるかもしれないと思うかもしれません。しかし、特に戦争の方はありえません。そもそも現在、他国に破壊行動を行うなど不可能なのですから。」


番組を画面から覗いていた内の幾人かはハッとした。

現在、日本は世界から物理的に隔離されている。電波はどうにか通じており、情報交換をする事はどうにか可能であった。

実は既に、アメリカ軍による核兵器による破壊が施行されたが、障壁には傷一つ付かないという結果に終わっていた。


「他国とのホットラインで、多くの国の首相及び大統領から支持の声を既に貰っています。この憲法改正で、対外的な不利益を皆さんが被ることは無いといって良いでしょう。そして、そもそも国民の皆さんを不条理な増税や制度によって苦しめることはありません。魔法といった未知の武力がある以上、クーデターでも起これば、自衛隊や警察が抑えられる保証はありません。そうなれば、日本は数個の派閥に分裂し、内戦状態になるのは必然です。魔法やレベルアップによって筋力が上がった今、紛争はより激しく、多くの国民の命を犠牲にすることになります。そんな未来がはっきりと見えているのに、私がそのような愚行をとるように思えますか?」


福富総理は鋭く前をみつめ、感情に訴える。


「既に異世界のギルドマスターと会見を開き、今後の方針を話し合った次第です。しかし異世界人と共生するには、現在の憲法や法律の多くの条項が足枷となる。今までの正規の手順を取っていれば、確実に日本の空中分解に間に合わないでしょう。この憲法改正は、我々の道に必須なのです。

明確な根拠はない。それは知っています。しかしならば私は、あくまでも皆さんの感情に訴えかけたい。

私を信じていただきたい。私は確実に、国民のみなさんを破滅の道へ導きなどしない。私は一国民として、この国を守りたいだけなのです。

賛成してくださった両議院の皆さんも、再び一国民として吟味していただきたい。そして、我らの国へ誠意をもって、投票して頂きたい。」








「はー、こんなときまで内閣叩かなきゃいけない記者は辛いですねー。福富さんけっこう頑張ってると思うんですけど……」


糸目 明日香は東京に戻り、警視庁の指揮下の元行動しつつ、記者としての仕事を続けていた。

いつものノートパソコンに記事を打ち込みながら、彼女はため息をついた。


ピリリリリ


明日香の携帯電話が鞄の中で鳴った。

明日香は相手の名前をみて苦い顔をした。


「タダイマルスニシテオリマス。メッセージヲノコスカタハ……」

『ふざけないで、アスカ。』


電話を通して不機嫌さが伝わってくる。


『で、隆司様の安否はわかったの?』

「なんで兄さんに様付けー……」

『わかったの?』


わかったわよね?と言外に圧力をかけてくる相手に、明日香は冷や汗を流した。


「それがですねー…実家にもこっちの家にも居ないのでー、多分異世界に行ったんじゃないかなー、と。」

『それは、見つからなかったってことでいいのね……?』

「瑠衣ー、怒らないでくださいよー。」


明日香はその後小一時間と、彼女の幼なじみで彼女の兄のファン(・・・)である金澤 瑠衣に涙目で謝り続けた。







福富内閣は異世界人を国民とし、投票させた。

国民投票はあくまでも有効票の過半数の賛成を得て可決とするので、転移した半分の日本人は数に入らなかった。

残った日本人約6000万人と、元異世界人3000万人で投票は行われる。

ギルドマスターの働きかけもあり、可決しなければ自分たちの優遇が期待できないため、元異世界人の3000万票は確定。

そのため、元々の日本人の四分の一である1500万票が入れば、可決となるのである。


結果、憲法改正案は可決された。






福富内閣総理大臣は、総理官邸の庭で一服していた。

ようやくスタートラインではあるが、一つ目の大きな山を乗り越え、一息ついたのである。


「全く、皮肉なルビ(・・)をつけるものだ。」


そうぼやきながら、自らの強力すぎる能力に溺れないために、なにかしらの策が必要かと考える。


国民投票の結果は、無効票1000万票、賛成6300万票、反対1700万票という結果に終わった。元々の日本人のうち3500万人が賛成したことになる。

彼の能力(アビリティ)は、ただ煽りやすいだけという代物ではなかった。洗脳などと言うチャチな物でもなかったのである。

そんな物よりもある意味強力な能力。




彼の保有能力(アビリティ)は、 『扇動(カリスマ)


煽られているのを知りながら、皆、彼の背中を喜んで追いかける。



日本人

賛成3500万

反対1700万

無効票800万


異世界人

賛成2800万

反対0

無効票200万


という結果でした。

ああ、なんとか俺も一山越えた感。



次回は2月20日更新。

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