第十四話 ルドルフ、たつ
はいタイトルで変な妄想した奴、挙手。
ルドルフがここに来てから丁度20日が経った。
今日でルドルフを生かした分の採算は取れたので、こいつを手放しても良い段階になった。
外も動きがあるようなので、ちょっと飼育ルームのルドルフを呼び出す。
最初は農作業を嫌々やっていたが、抜いても抜いても生えてくる収穫物にハマったのか、最近はずっと飼育ルームに閉じこもっている。
「なんだ?用って」
「いや、外の町に冒険者が来ているみたいでな。」
ギルドマスターと言う奴がこっち転移してきていたようで、かなり早い段階で冒険者を集めていた。
「で?その冒険者がなんなのさ」
「あいつらは転移した異世界人を調査しに来ているんだ。転移してきた者の把握だろう。」
「ん?」
「そこにちょっと行ってこい。」
ルドルフを自由に動かすために、身分証明は出来た方がいい。
「別に良いが、大丈夫なのか?」
「まあ、死んだはずのルドルフが行ったらまずいだろうな。ということで、変装と偽名を使ってもらう。ついでに冒険者のカードも持って行くな。」
「それじゃあ身分証明出来ねえじゃねえか。」
「いや、転移してきて都合よく身分証明出来る奴が、そう居るとは思わない。たまたま机にギルドカードを置いた状態で転移してきましたって奴も居るだろうし、そもそも村人は身分証なんか持っているのか?」
「まあ、それもそうだな。ということは何だ、ルドルフとは他人として、新しく身分を作って来いってことか。」
察しがよくて助かるな。
「そういうこと。今なら偽造し放題だ。日本政府と違って、冒険者の名簿みたいな物まで転移しているとは思えないから、冒険者として登録するのもありだが、念のため旅商人として登録してくれ。」
「概要はわかったが、変装とやらはどうするんだ?それに村人の服装なんて持ってねえぞ。」
確かにルドルフは服を一着しか持ってない。こんな冒険者か山男みたいな服装で「村人です」などと嘘をつけるはずもない。
あ、もちろん服は洗濯しているぞ。家の中に着た切り雀のおっさんが居るなんて耐えられないしな。
おっさんが着ている服をまとめて袋に入れて複製。あとはこれを使い回せばいい。
「とりあえず服装に関しては、俺の服を着てくれ。『無一文で転移して、親切な日本人に助けられて服を貸してもらった』ってシナリオで。サイズが多少違ってもそれならゴリ押せるだろ。異世界人ってのはネコミミ見せれば信じるだろうし。」
「んじゃ顔はどうするんだ?その冒険者が調査しているところに、ネルがいる可能性は十二分にあるが。」
そう。ネルは確実にその近くの町にいるだろう。鉢合わせは避けたいが、せめて顔は変える必要があるか。
「髭剃ればいんじゃね?」
『髭剃れば良いと思いますよ?』
「俺のアイデンティティ!」
アイデンティティなんて言葉が異世界にあるのか。
それとも翻訳機能さんのおかげかね。
そうして、ルドルフはコアが印刷した地図を片手に、町へと旅立った(日帰り)
髭を剃ったルドルフはまさに別人だ。さらに服装をTシャツチノパンにしたら完全に誰だか分からない。
髭がアイデンティティというのも、あながち間違っているとは言えないかもな。
まあそれでも、娘のネルと鉢合わせしたら気づかれる可能性がある。
そのときはまあ、「ダンジョンの落とし穴に抜け道があって、命からがら抜け出したところを親切な日本人に助けられた。」とでも言わせて、放棄すればいい。ネルと幸せに暮らせ。
隷属の腕輪は、所有者以外には不可視化するらしいので、このダンジョンのことがばれることはない。二十日は滞在させたから、元は取れたし、身バレした奴を使うつもりもない。
まあネルにさえ鉢合わせしなければ問題ない話だ。家族以外にあの変装(ひげ剃り)でバレるやつも居ないだろうからな。
嘘発見器的なチート魔法は存在しないみたいだ。能力にもそんな風な能力は無かったから、魔法で身分偽装がバレることもないのは安心したな。
さて、畑をオプションで追加できることが分かってから、約二週間な訳だが、色々変わったところを紹介しよう。
まず飼育ルームについてだが、レッドボアを放牧できるようになった。
餌は地面から無限に生えてくるので、わざわざ餌をやって世話をする手間がなくなった。繁殖もすすみ、今では90頭にまで数を増やしている。一日に約25000DPという収入だ。
どうやら魔物は一般的な動物より、成長が早いらしい。お蔭でかつての子レッドボアも、今ではもう少しで成体というところまで成長している。
召喚魔物ではないのだが、俺の言うことを聞くようになった。しかし俺を見る目が殺気立っているため、俺が親を殺したことは覚えているのかもしれない。
上層は、俺のレベルアップで溢れた魔力とレッドボア飼育の拡大で一日辺りの収入DPが40000にまで増えたおかげで、遂に一階層が出来上がった。
およそ1600個の部屋と、それをつなぐ廊下で出来た、まさに迷宮とも言える迷路だ。
この迷宮は、入り口の階段を中心に、四つ葉のクローバーのように四つの区画に分かれている。
四つの区画を行き来する廊下はなく、付け根となる、階段のある部屋が唯一の、四つの葉を繋ぐ空間である。
まあこういう構造にしたのは理由があるんだが、今は全く機能していないので、おいおい説明することにしよう。
一階層は罠も敵も少なく、分かりやすい構造になっているので、よほどの素人が来ない限りは簡単にやられることはない、超初心者向けの構造だ。
しかも四つの区画それぞれに二階層へ繋がる階段があるという親切設計だ。
まあ今はどの階段も通じないようになっているが。
一本道と大岩罠は、最初の階段とは別口になっている。隠し扉を使っているので、バレることはない。
つまり迷路を攻略してもコアルームも何もないのだ。これほど攻略者に不親切な設計はないかもしれない。
コアは今、二階層を作り始めている。
二階層は一階層よりも大きくする予定だ。ついでに、二階層と言っているが、階段と廊下が入り混じった立体迷路にする予定だ。これだけでマッピングが高難易度になるからな。
まあそのぶん必要なDPもかさむ訳で、さらに収入を増やさなければならない。
コアルームの周りの飼育ルームとは別に、あたらしく農場のような部屋を作っても良いかもしれないな。
妹には一切連絡を取っていない。気がかりなのは妹と一緒にいた男のことだ。ただの彼氏とかならまだいいが、記者か、そのほかの厄介な奴だった場合、俺の存在を伝えるのは悪手だと考えている。
今も明日香と男が一緒に行動している場合、密かに連絡を取るのは難しい。メールを送っても覗かれる可能性が無いこともないからな。
俺は隠し事をしてまで明日香と会いたい訳ではないから、会うときはダンジョンマスターであることを話すと思う。
だが、あいつは東京で記者をやっている上に、一つの場所に引きこもるのが嫌いな性格だ。俺に協力することは無い気がする。
不確定要素が溢れてて、しかもこちらが準備に手一杯な状態で、不用意に明日香に正体を晒すのは怖い。
ならば面倒ごとを避けて、異世界に転移して行方不明になったということにするのが一番楽だ。
結果として、わざわざ探しに来てくれた妹に不親切に対応してしまったわけだが、明日香も俺と同じく割と淡泊な性格だ。明日香が俺を心配して探しに来たというのは無い気がする。
なんとなくあいつに言われて来ただけな気がするんだよなぁ。
あとは、俺の標準装備にシャベルが追加された。スコップじゃ小さすぎるから、最下級の武器の宝箱を引きまくったら出てきたのだ。
調べてみると、シャベルやスコップは強力な武器となるらしい。塹壕戦が重要だった戦争では特に白兵戦で使われたとか何とか。
と、言うわけで斧と同じく俺の武器に追加だ。
シャベルと斧が武器ってどういうことだろう。全くファンタジーっぽくない。どこの開拓民ですかって感じだ。
ついでにスコップを、ナイフ代わりにベルトに差している。
夕方になって、ルドルフ(偽名:ガルフ)が、暗い顔をして帰ってきた。
身バレしたならここに帰ってくるはずはないから、暗い顔をしている理由が分からない。
「どうしたんだ?顔色悪いが。」
「いや、実は……」
その後ルドルフが語った話によると、どうやら身分偽装は上手く行ったらしい。
冒険者ギルドがギルドカードを、宝玉を使って確認していると聞いたときは驚いた。どうやらギルドマスターの魔術によって管理された物であるため、冒険者の名簿があるみたいだ。旅商人としといてよかった。
まあそれはおいといて、なんとルドルフはその列で偶然ネルと鉢合わせしたらしい。
しかも会話したんだと。
しかしネルにバレなかった。髭を剃ったルドルフだと気づかなかったらしい。
しかもネルはダンジョンの時とは別の、若い男と一緒に楽しくやっていたとか。
「……………」
『……………』
「……………」
まあ、ルドルフが暗い顔をしていた理由はわかった。
「娘に髭で判別されてたのか……」
「くそ!言うんじゃねえ!それに元気でやってるってのは嬉しいんだが、嬉しいんだがよ!」
うん。まあ自分が死んだことになってるのに、男といちゃついてる(?)のは堪えるだろうよ。
俺の見方としては、悲しみを吹っ切るために気丈に振る舞っているだけだと思うが。
男はきっと、どん底にいたネルを助けたんだろ。
まあどんなドラマがあったのかは知らんが、このまま黙っていた方が、ルドルフを利用しやすくなる気がするんで、黙っておく。
今夜は酒に合うつまみでも作ってやろう。
たしか料理ブログに、レッドボアを使ったつまみのレシピがあったはずだ。
今回のあらすじ
二週間がたったよ。
ついに一階層が完成だ!
放牧もしているし、DPもウハウハだぜ。
あとルドルフ不憫。
感想で、スコップの武器として万能性を説かれました。
寡聞にして存じ上げなかったのですが、どうやらスコップは最強の武器らしいです。
主人公に斧とシャベルを武器として持たせた残念さがいいあんばいだったので、急遽標準装備に追加しました。
スコップ愛に溢れる方には不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。
感想に、私になかったアイディアが溢れています。がんがんアイディアをのせてください。話に支障がない限りはぶっ込みたいと思います。
この作品では、小さいのがスコップ、大きいのがシャベルです。四国だとどうなんでしょうか。
マ◯クラのくだりは曖昧になったので消しました。すみません。
四半期ランキングにのりました!みなさまのおかげです!
まだ一月も経っていませんが……