第十話 初ネコミミ
ヒロイン登場か?
2016年12月8日
五日ほど経ったが、あまり特筆すべきことは起きていない。
迷宮の一階層はまだ40%程度しか出来ていない。このペースだと、半年では餌としての上層しか出来ないだろう。はやく何かしらの対策を考えなければならない。
レッドボアを新しく狩ってきたので、さらに10匹飼育数を増やした。これから先は自然の繁殖に任せるとしよう。
コアルームの下にある、飼育ルームのスペースにはまだ余裕があるので、これから先数が増えてもそれほど心配はない。
まあ溢れるようなら、ダンジョンに放り込めば良いのだ。
ダンジョンの途中に、コアルームとは別の飼育ルームを作るのも良いかもしれない。
しかし、レッドボアの肉を食べるのも飽きてきたものだ。確かにうまいのだが、その分固いので、極上の品質とはいえないのだ。
まあ度重なるレベルアップによって、そんな肉の固さなど気にならなくなるくらい筋力が増加しているのだが。
ちなみにレッドボアの肉を食べるときは、複製魔法によって作り出した死体を頂いている。
さすがに飼育している召喚魔物を殺して食うなんて鬼畜な事はしない。そもそも召喚魔物を殺してもDPは手には入らないので、意味がないともいえる。
レベルアップといえば、エレメントスライムによる経験値増加装置の効果が一度薄まった。
レベルが上がれば、次のレベルに上がるのに必要な経験値は増加するので、もっともなことと言える。
その時、スライム達をレベルアップすればいいと考えた。
スライムは、普通に魔物を殺して経験値を得るほかに、他のスライムと融合してレベルアップする事が出来るようだ。
ということで、経験値増加装置の檻の中のスライムに、複製した死体を放り込んでレベルアップさせた。
そのときはまた連続して俺のレベルが上がったが、最近はまた落ち着いてきている。
自宅から一歩も出ないのに、強くなってどうするんだと思うかもしれないが、召喚魔物の強さはダンジョンマスターに依存するので、結果的にダンジョンの力の底上げになる。
そういえば最近、奥様方の料理ブログに、『レッドボアのおいしい調理法』とかがあるのを見つけた。
とうとうここまで日本は狂ったのか、とあの時は自分のことを棚上げして呆れたものだ。
あの凶暴な魔物をおいしく調理するとか、奥様方はやはり強い。いろいろと。
で、俺が今何しているのかというと、コアに印刷してもらった『魔法の手引き』という物を読んでいる。
コアの知識にあった魔法の使い方を、コアが纏めてくれた物だ。
結構な文量があるので、画面で読み続けていたら目が痛くなり、コピー機で印刷してもらったのだ。
インターネットの、魔法にあこがれる同士達は、未だに魔法の手がかりを掴めていない。
そして魔導書(?)を読んでいる俺も、魔法は使えない。
何でかって言うと、簡単な話だ。
人間は生身で魔法を使えないのだ。杖などの、媒介となる補助具が必要となる。
魔法を使っても出来ないのは当たり前だ。今頃日本人の若者の何人かは、厨二臭い呪文を唱えて手を振りかざしたりしているのだろう。
笑える。
まあ俺は今、杖を持っているわけではないので、魔導書(?)を読んでも魔法を使えるわけではない。
だが知識は無駄になるとは思っていないので、いつか杖を手にしたときのために、暇があれば読み込んでいるのだ。
複製魔法は杖無しに使えたのだが、そこはどういうことなのだろう。
魔法と名前が付いていても、魔法と能力は違うと言うことなのだろうか。
ちなみに俺は未来、この魔導書(?)が、100年前のコアの魔法知識を凝縮した、ロストテクノロジー満載の禁書レベルの代物だと言うことを知ることになる。
ビーーーーッ!
魔導書(?)を読みふけっていると、コアルームに警告音が鳴り響いた。
侵入者を感知したときになるように設定した物である。
「侵入者はなんだ?」
『人間のようです。獣人ですね。』
俺は詳細をコアに聞く。
俺がダンジョン内を把握できると言っても、それを実行するだけの頭脳は持ち合わせていない。
故に俺が「鑑定」(ダンジョン内限定)を行えるのは、俺がみれる範囲だけだ。
それ以外は全てコアに任せている。
と、それよりも重要なことを言ったな!?
侵入者が人間?そこはまだいい。いつかくると思っていたからな。
しかし獣人だと!?
つまりあれか?
「ケモミミか!?」
『そこですか……』
コアが呆れたように呟くが、これは重要なことだぞ!
俺はこの世界にケモミミやエルフが転移してきたのを知りながら、一度だって見たことはない。
憧れのケモミミ!リアルケモミミ!
俺は今、スライム遭遇時よりも興奮している。
俺はコアに地図を表示してもらう。
もちろんダンジョンの地図だ。
そして画面の右上にある、人型のアイコンをカーソルで移動し、ダンジョンの入り口の道に置く。
すると画面が俯瞰図から地上視点に移るように移動し、画面が切り替わって、その場所の映像が映し出された。
道に沿って半透明の矢印が表示されており、それをクリックすることで、映像の位置も移動する。
うん。コアがどのシステムを参考にしたか一目瞭然だ。
Go◯gleのス◯リートビューだろ。というかまさしくそれだろ。
全く凝った事をするものだ。
というか、コアに頼めば映してくれるので、ほとんどいらない機能だ。
映像には二人の人間が映っていた。
一人は立派な髭を蓄えた、中年のオッサンだ。
がたいが良い。しかし少し太っているかもしれない。
冒険者なのだろうが、本人の容貌のせいで山男にしか見えない。
もう一人は、少し身長が高めの女性だった。
年は俺と同じくらいだろうか?
整った顔をしている。というか率直に言えばかなりかわいい。
こっちも冒険者なのか?
ふつうの服よりは露出が多い。白く長い足と、引き締まった腰がよく分かる。
そしてもっとも目を引くのは、二人の頭にあるネコミミだ。
二人は猫の獣人のようだ。親子かな?
女性の方からは、ホットパンツから長いしっぽが見える。
すごいなあこがれの光景だぜ。
二人とも武器を持っているので、やはり冒険者か。
ダンジョンだと知らずに迷い込んだのだろうか。だとしたら殺すのも気が引けるな。
会話をしているようなので、音声を聞いてみる。
映像だけでなく音声まで拾えるとは、現代テクノロジーの監視カメラも土下座ものだな。
ネコミミ娘がネコミミおっさんに聞く。
『……ねえお父さん……やっぱり引き返さない……?』
『なに言うんだ。偶然見つけた生まれたてダンジョンだ。そんなに恐れることもない。』
ふむ。やはり親子のようだな。 しかし聞き捨てならないことを言うじゃないか。
俺のこのダンジョンを余りなめるんじゃないぞ?
『……でも、もしかしたら、すごく大きいダンジョンかもしれない………キャッ』
「ダンジョン保護」を受けたスケルトンが襲いかかった。
ネコミミ娘は怯えてネコミミおっさんの後ろに隠れる。
ネコミミおっさんは気にしたそぶりもなく、スケルトンをあっさり斧で倒した。
『こんな弱い、ダンジョンの幻に怯えるんじゃない。そんなんじゃブロンズランクには上がれないぞ?』
『ふぇぇ…、だって怖いんだもん。』
ふむ。そこそこに強いようだな。鑑定(ダンジョン内限定)で調べると、おっさんのレベルは20だ。20といえば俺の体感的にも、雑魚には圧倒できる位の実力はある。
ちなみに鑑定(ダンジョン内限定)は画面越しでも使えるようだ。
理屈とかは知らない。
ダンジョンの幻とは、「ダンジョン保護」を受けた魔物のことを言っているのだろう。
まあ普通の魔物は死んだ後霧散しないからな。異常に弱いし、幻と言われるのも仕方ないだろう。
ブロンズランクは冒険者のランクなんだろうな。
しかし鑑定する限りは、ネコミミ娘のレベルは12で、ここまでビビるほど弱いとも思えない。なんでレベル1程度のスケルトンに怯えるんだ?
『いいか?俺たちが転移してから十数日しかたっていない。それだけの期間では、ダンジョンも大して成長してないはずだ。収穫は少ないだろうが、攻略する価値はある。』
『でも、お化け怖い……』
ああ。お化けが怖かったのか。
たしかにこの迷宮はアンデッドのダンジョンだけあって、非常に怪しい雰囲気となっている。
怖がりなら怯えるのも当然だ。
てか高身長の美女がおびえるのはなんともかわいい光景だな。見てて飽きない。
さて、どうしたものか。
迷い込んだなら助けてやろうとも思ったが、どうも攻略する気満々のようだ。ネコミミ娘はそれほど乗り気じゃないようだが。
まあそれならばこちらも手加減する必要はない。
しかし殺すのもあまり有益じゃないんだよな。
レベルが低いから、殺すよりも一日滞在してもらった方が有益だ。
『監禁しましょうか。』
「まあ、ダンジョンマスターとしてなら、それが正しいんだけどな。ただ、ここは日本だからなぁ、監禁や誘拐は犯罪だしたなあ。」
『マスター、バレなきゃ犯罪じゃないんですよ?』
コア、お前それどこで覚えた?
ネットからの知識だけじゃあ偏るぞ。いろいろ。
「ああ、でもそうか、情報収集もできるチャンスだな。」
コアの知識はあっちの世界でも、100年前の物だ。
その100年間の情報を、彼女らから得られるかもしれない。
『とりあえず娘の方には、マスターの性欲処理担当となってもらいましょう。』
「お前は俺をなんだと思っているんだ!!」
まあ、コアの過激発言は置いておいて、取り敢えず2人を捕まえることにしよう。
捕らえるために、大岩の罠にも使った隠蔽度MAXの落とし穴を使う。
そして落ちたところに、ダンジョンのオプションの、檻を設置する。
スケルトンに命じておけば、大岩が転がることはない。この大岩の罠は、殺戮、捕獲の両方をこなせる汎用性が売りだ。
さて、ネコミミ達は落とし穴を踏んだ。
突然消える床に驚く二人。
『なっ!?』
『キャァァァァアァァッ!!』
ネコミミ娘の悲鳴が迷宮の壁に反響して鳴り響く。
二人とも捕らえるつもりだったのだが、獣人の身体能力か、はたまた第六感か、落ちたのは一人だけで、片方は俊敏に飛び退いて、落ちずにすんでしまった。
落とし穴は確実ではない。経験を積めたな。
『ネル!』
『おとうさぁぁん!!』
安否を確かめるように落とし穴を覗くが、落とし穴はすぐに塞がってしまった。
実は大岩の坂道の上に、コアルームに続く通路がある。いつもは隠し扉で塞いではいるが。
ま、実は上の廊下を進んでも行き止まりで、こっちの落とし穴にはまらないとコアルームにはたどり着けないのだ。
俺はモバイルコアを持って、通路を経て檻に向かった。
檻の中で怯えているようだ。まあ当たり前か。
檻にいるのは、
緊張のためピンとはったネコミミがかわいい──
───おっさんだった。
残念!ヒロインは登場しない!!
今回のあらすじ
ネコミミのおっさんを監禁しました。
いや、そっちの気はない。安心してくれ。
日間で22位!週間で90位!
皆さんの応援のおかげです。ありがとうございます。