第八話 オーク襲来※
第二章、はじまるぜ。
四匹のオークは獲物を探し、さまよっていた。
突然周りの景色や環境が変わってから、5日経つ。
それまでは、近くに人間の通る道や、人間の住む村があったため、襲えば簡単に食事を得られた。
たが、この世界になってからは、人のすむ場所も分からず、まともな餌をとれぬままであった。
(ニンゲンを食べたい……)
四匹の思いは一つである。
今なら、今までにないほどのチームプレイもこなせそうなほど、彼らは疲弊し、集中していた。
やがて四匹は、鬱蒼とした森から、開けた場所にでた。
ニンゲンの村ではない。しかし、その広場の真ん中にポツンと、一つの建造物が建っていた。
(なんだあれは……ニンゲンの巣か?……しかし見たことがない形をしている……)
だが、それが恐らくニンゲンの作ったものであるのは間違いない。
そしてその中に、ニンゲンが要る可能性も高い。
(私は襲おうと思うが、どうする?襲うか?)
(ほかに餌のありそうな所もない。)
(襲うべきだと思うぞ)
(他にニンゲンがいないなら、大勢でやられることもない。)
四匹の意見は一致した。
彼らは棍棒を担いで、そのニンゲンの巣らしき物に入っていく。
(……思いのほか広いな。)
(見た目より、広い)
(関係ない)
(いたら殺す)
四匹は慎重に、そのレンガの通路を進んでいく。
彼らからみて、人間は非常に弱い存在だった。
一回殴っただけで、弾けるように死ぬ。
中には強い人間も居たが、非常に少数だし、彼らオークにも特別強い存在は居たから関係ない。
だから、そんなニンゲン、それもたった少数のニンゲンに負けるとしたら、自分達が罠に嵌められる事だけであった。
ゆえに彼らは慎重に進む。
罠のスイッチを押さないように。
空腹による圧倒的な集中力は、いかなる罠も見逃さないはずだった。
カチリ
そんな音と共に、彼らの踏んでいた床が、突如として消える。
「フゴ!?(な!?)」
驚く間に、彼らは穴に落ちる。分かったことは、自分達が罠にはまったということだけ。
(ばかな、我々は気をつけていたのに!)
オーク達はある廊下の突き当たりへと落とされた。
落とし穴であったはずだが、穴の底に鉄やりなどはなく、本当にただの廊下だった。
強いて言うなら、先ほどの上の廊下より幾分か狭く、そして四角ではなく、全体的に丸かった。
円柱状の坂道のようなトンネルに、後ろの壁は半球を裏返したようである。
(我々の気づくことの出来ない罠がある。ならば、ここから動くべきではない。)
オークのリーダーは、他の三匹に不動の指示を飛ばす。
それで状況が打開するわけではないが、打開策を講じるまでの時間稼ぎはできると、オークは考えていた。
だかそんな必死の抵抗をあざ笑うかのように、強力な地響きと共に、巨大な球体のレンガで出来た岩が、目の前のトンネルを転がってきた。
(ばかな!罠など踏んで無かったはず!なぜ罠が作動する!)
オーク達に逃げ場はない。
敵を確実に圧殺するためだけに作られた、岩とそれにピッタリのサイズのトンネルだ。
オーク達四匹は、なすすべもなく圧殺された。
「大量DP&夕飯キターー!」
『いえ、あれほどめちゃくちゃに潰されたら食べられないのでは有りませんか?』
「あぁ!しまった!」
くそ!どうしても「転がる岩」の罠を作りたくて、失念していた!
まあ、オークは外で狩ればいいか。ミンチになった肉は、ゾンビのエサにしよう。
『岩を戻します。』
そう言ってコアは、レンガの岩を元々あった場所に移動させる。
『まったく、落とし穴を天井に設置するなんて、常識外れにもほどがあります。』
「あんまり誉めるな照れるだろ。」
さあ、今回オークを仕留めた一連の仕組みを解説しよう。
まず、最初にオーク達が気づかなかった落とし穴だが、これは非常に練度の高い隠蔽が成されている。
殺傷能力度外視の、隠蔽にポイント全振りの落とし穴。単体では何も殺すことが出来ないこの落とし穴を、底が別の廊下になるように設置する。
故に、オーク達はこの落とし穴に気づくことなく、まんまと下の廊下に落とされたわけだ。
そして廊下の坂道の途中に、天井に広い上向きの落とし穴を設置する。
これは隠蔽も殺傷能力もゼロに等しく、その分広くした。
そしてその中に、トンネルにサイズギリギリの岩を入れておく。
落とし穴は、外から触れると床が消えるが、中から触れても作動しない。
そしてタイミングを見計らって、スケルトンに落とし穴の部分をタッチしてもらうと、落とし穴の床が消え、岩が落ちて坂道を転がるというわけだ。
スケルトンは「ダンジョン保護」を受けてるので、岩に潰されても復活する。
ちなみにこのスケルトンは新しく召喚されたスケルトンだ。
召喚場所を、天井落とし穴の真下にしてるので、そこに何度でも復活するのだ。
『スケルトンさん。落とし穴を開いてください。』
コアの命令に、スケルトンはカタッと返事(?)をして、落とし穴を作動させる。
大きく口を開けた天井の穴に、コアは大岩を上に動かして入れた。
なぜこの大岩がコアの意志で、物理現象を無視して動くのか。
それは、この大岩が可動式の部屋だからだ。
ダンジョンの部屋は形を問わない。そして、消費DPは広さに比例する。
つまり、部屋を囲う壁は、ほとんどDPを消費しないのだ。
まあレンガの壁が、元々あった土を錬成して出来ているのだから、当然かもしれない。
予想が付いているかもしれないが、あの大岩は、可動式で球状の、極端に狭く壁が厚いダンジョン部屋な訳だ。
一応全てのダンジョン部屋は、空間的に繋がってなければならないので、極細の廊下を作っていたりする。
可動式の部屋は、移動時にも微妙にDPを消費する。
しかし今回の装置では、動かすのは戻すときだけでいい。
それ以外は重力に従って動いているだけなのだから。
ダンジョンの壁は、破壊されても自動で修復される。
このため、大岩もトンネルも、半永久的に使用可能なのだ。
「まあダンジョンがまともに迎撃できるようになるまでの、臨時の装置なんだがな。」
ダンジョンができたら、この装置の最初の落とし穴を消してしまえばいい。
この装置にかかった費用は、最初の落とし穴に150DP、トンネル廊下に100DP、天井落とし穴に10DP、スケルトンに50DP、大岩に10DP、大岩の回収に5DP。
しめて325DP。(回収時に80DP返却ゆえ、最終的に245DP。)
たいしてオークたちはレベルが8、15、10、11で、殺したことで510DPが手には入った。
よって今回だけでも黒字で185DP。十分である。
ちなみに昨日も、ゴブリンを2匹殺して89DPを手に入れていたりする。
すこし魔物が強くなってきたか?
「まあ、そんなに効率的でない方法であるのは分かっている。だが、可動式の実験とか、どこまで罠を組み合わせられるのかといった実験も含めているからな。」
『本音はなんですか?』
「大岩はロマンだ。」
っと、口が滑った。コアめ、だんだんと俺の扱いにこなれてきてやがる。むかつく。
さて、今日は12月3日。異世界転移から10日目となる。
この約一週間で、変わったことを幾つか説明しよう。
まず、最上層となる一階層だが、進捗状況はおよそ20パーセントと行ったところだ。
俺が適当に作った迷路図を元に、コアが進めている。
部屋と廊下でできた、一面の迷路。道が全て直角で、部屋もほとんど等間隔に並んでいる。
コアルームの下に大きな部屋を拡張してつくり、レッドボア(成体)を試験的に10頭ほど飼育している。
餌の栽培はまだ出来ていないので、その辺の虫や木の実、穀物を俺の複製魔法で増やしている状況だ。
一日に一頭10DP程のエサが居るが、一頭で一日800~1200DP程得られるので、十分な利益だといえる。
このレッドボアは召喚した魔物なので、俺の言うことをよく聞くため、飼育が非常にやりやすい。
ただ、全て同じ遺伝子をもった、クローンともいえる個体なので、繁殖させると免疫力の問題があるかもしれない。子レッドボアの成長に期待だ。
子レッドボアは未だに怒っているのか、よく暴れる。
今のところ魔物は、このレッドボア11頭と、ゴブリン2匹、ゾンビ5匹、スケルトン5匹だ。このうちスケルトンとゾンビの2匹ずつに「ダンジョン保護」をかけている。
コンスタントに一日あたり2000DPちょい増える計算になる。加えてダンジョンに迷い込んだ魔物も殲滅しているので、一日に得られるのは2500DPか。
しかし一階層を作り上げるにはまだ足りない。よりDPを得られるように家畜を増やすか、部屋を作るのに必要なDPを節約する方法を発見するかしなければ、半年以内に満足の行くダンジョンを作り上げることは出来ないだろう。
まあ行き当たりばったり、のんびりやっていきますか。