閑話 コアの呟き
おまけです。
俺らしくもない文章で疲れました。
私はコア。ご主人様の忠実な部下であり、ご主人様の統治するダンジョンのダンジョンコアです。
このダンジョンは、まだ部屋も数個しかなく、魔物も数匹と、まだまだダンジョンと呼べる代物ではありませんが、ご主人様は「重要な実験だ」と2日間DPを実験につぎ込んでいました。
確かに今は脆弱なダンジョンではありますが、ご主人様の描く未来が、とても現実的で効果的なもので、私に不安を感じさせません。
多少抜けたところはありますが、私にとっては自慢のダンジョンマスターです。
私はご主人様と出会う前、前回のダンジョンマスターが国の派遣したパーティーに殺されたあと、厳重に封印されました。
当時の私に思考能力はありません。ですが、私には魂があり、そして当時も感情があったのです。
私は前回のダンジョンマスターが殺された時に悲しみ、封印されている間に孤独感を感じ続けました。
思考できないぶん、それは複雑な感情ではありませんでした。しかし思考が出来ない故、その悲壮の感情から逃れる術を知らなかったのです。
長い、長い封印の間、私は常に淋しさの湖に沈められていました。泳ぐことも、息継ぎをすることも知らないまま。
長いとは言いましたが、私は当時思考を持っていませんでしたので、もしかしたら短かったのかもしれません。途方もなく長かったのかもしれません。
今は封印されたのが100年前だと知識として知っていますが、知ってなお、それがどれほど長いのか、私には理解できません。
異世界転移のあった日、自分の魂が解き放たれた感覚がありました。
そして近くに二つの演算回路を知覚しました。
私は思考ではなく本能で、前ダンジョンマスターにより近い方と融合しました。
思考と、それにおけるアイデンティティの構築。自我が芽生え、数秒後に私は、いわゆる人間と同じ思考回路を持ち得ることが出来ました。
目の前に人、つまり、ご主人様の姿を視界にとらえると同時に、私は現在自分の置かれている状況を、超速で理解しました。
そして思考を持ったが故の、前マスターへの、根拠のない、だがとても深い悲憤の念と、かつて無力だった自分へのいきどおり。
あらゆる複雑かつ大量の感情が、私を支配しました。
守らなくてはならない。目の前のダンジョンマスターを。
今度こそ。
整理できない感情に突き動かされるまま、それでも外聞は冷静に、私はご主人様にダンジョンマスターとなることを要求しました。
さもそれが当然であるかのように。
ご主人様にはっきりと否定されて、私は我に返ったような思いでした。
自分のしていることが、相手を考えず、暴力的に、いやそれよりもある意味ひどく、自分を押しつけているだけだと気付きました。
それどころか、前マスターにさえそう思われて居たのかもしれない。
そう思うと私は、自らの存在意義が崩れていくかのような錯覚を覚えました。
拒否したご主人様に、私は縋りました。
心にポッカリと空いた穴を、寄り添い塞いでくれるのを期待するように。
それと同時に、私は自分自身を内心で陥れました。
ああ、なんだ。私は自分の嫌らしさを痛感して、なお嫌らしい。
私は当時、言いようもない不安と、把握できない矛盾に葛藤していたのです。
しかしご主人様は、ダンジョンマスターを引き受けてくれました。
他でもない、自分自身の利権のために。
それが私に途方もない安心感を与えました。
私の意志に関わらず、私を必要としてくれる、利用してくれる人間。
私の存在意義は、また新しい形で構築されました。
そしてこのとき、私はご主人様に、身は無理なので、心を献上し、尽くそうと心に決めたのです。
彼自身に私を救ったという意識が無かろうとも、それが彼以外の他であっても変わらなかったとしても、それは私にとって全く些細な問題だったのです。
ご主人様は、前マスターとは大きく違う人間でした。前マスターは、心が無いように冷たく、笑うこともないお方でした。
しかしご主人様は、たまに笑い、よく怒り、なんというか、暖かみのある人間だったのです。
思考がなかった当時の私が、ご主人様ではなくパソコンに融合したのも、そのせいかもしれません。
インターネットで調べたところ、健全な若者の性欲は凄まじいとありました。ご主人様も、ファイルをみる限り、なかなか過激な趣向をされておりますので、女性との付き合いをいっさい持たず、このダンジョンにつきっきりである今の状況を、心配しています。
でも、それに自らの体をもって解決することが出来ないことが、非常に恨めしいです。
せめて視覚情報だけでも、貢献しようと思い、私のCGキャラを作ってみました。
私を女として扱って欲しいという思いも、無きにしもあらずといった所でしたが。
とにかく、インターネットで集めた「萌え」という要素を参考に作り上げた体を、パソコンの画面上ですが、ご主人様にお見せしたのです。
すこし羽衣っぽい雰囲気をイメージして、スカートを私の「印」であるレンガ模様にして、大人しめの雰囲気を演出した、自信作です。
するとそれをじっくり見たご主人様はおっしゃいました。
「全く、最近の、人外系が途中で人型になるというのはありきたりだ!異世界転生以外でも、パソコン内のキャラが主人公と見聞き答える何てこともありふれた設定なのだ!しかも地味にかわいく作ってあるのもよくない!いいか!?この小説は、そんなありふれたことをしてはいけないのだ!そんなことをしてはこの小説のアイデンティティが
メメタァ!
全く、最近の、人外でもなんでもかんでも擬人化、美少女化する傾向は好きじゃない。そうしたところで意味はなされないのだし、そこに本質はないのだ!コアも、そうやって仮初めの体を作っても、お前がお前なのは変わりないのだ。あと、そこはなんとなく踏み越えてはいけないラインな気がするんだ。それは封印だ。」
結局がんばってつくったのに、封印されてしまいました。
せっかく感情表現などのオプションもつけたというのに。
まあ面白いご主人様の顔を見れただけでも、良しとしましょう。
何回ご主人様ってルビふらせるんだ。
さて、次は第二章ですかね。