外二話 天才少女
やたら長くなった。
「能力?知らないな。なんだそれは。」
高木警部は顔をしかめながら聞く。
普段なら厨二乙と罵られる発言だが、この騒動の中では逆に注目を集めた。
「えーっと……まずですねー。『ステータス』は知ってますか?」
「あ、ああ。話題になってるな。俺も見ることができる。」
「え、なんすかそれ」
「おまえ知らないのかよ。」
「ステータス」はそこそこ話題になっており、警視庁内にも知っている人間はいた。だが、約半分は聞いたこともなかった。
騒動から今まで、ネットをみる暇など無かったため、しょうがないともいえる。
「では、みなさん『ステータス』と念じてください。」
「は?………おお?」
「なんだこれは!?」
「む?」
その場にいる全員が、疑いつつも目の前にステータスディスプレイを浮かべる。
「初めての人に教えますがー、これは他人には見えなくて、自分だけがわかるものみたいです。」
「チビ、いいかげん本題に入れ。」
「はいはい。」
明日香はため息をつくと、せっかちな人ですねー、と小さくつぶやいた。
「そのステータスの中に、能力って欄、ありませんか?」
「いや、ないが?」
数人は自分のディスプレイを眺め、うそをついたのかと明日香を睨む。
「あー、やっぱり全員に有る訳じゃないんですかね?朝丸新聞社でもそうでしたし……。私だけが特別なんでしょうか…」
「あ……ありました…。俺の……」
そう発言したのは羽根刑事だった。
説明の手間が省けてよかったと思う反面、コイツかよ、という思いもあり、明日香は微妙な表情をした。
「チビ、何だその顔は」
「いえー…何でもないです。…ところで、なんて書いてありますか?」
そう訪ねられて羽根刑事は、再び自分のステータスを見る。
「『獲得経験値増加・必要経験値減少』と書かれてますね。」
「なんだそりゃ、ホントにゲームかラノベかよ!」
「あーそんなのもあるんですか。良かったですね、主人公向きの能力だと思いますよ?」
呆れた顔をした高木警部に、再び明日香は向き直る。
「こういう風にー、騒動の後、一部の人間に、特殊能力が備わったみたいなんです。」
「えっ?これって特殊能力なのか?」
「チート主人公が最初に持ってる奴ですよ良かったですね。」
明日香の棒読みに、羽根刑事は顔をしかめるが、高木警部は無視して続きを促した。
「で?お前の持ってる能力が、さっきの手品のタネってわけか。」
「話が早くて助かりますー。私の持っている能力は、『マップ』って言うんです。」
「『マップ』、ねぇ。マジでゲームかよ……。名前から察するに、索敵系の能力か?」
高木警部の問いかけに、にっこりと笑って明日香は答えた。
「だいたい合ってます。私の『マップ』は、自分の周りの地形などを俯瞰でき、またマップ内にいる人間の位置と個人情報がわかるみたいです。」
「お前ストーカーにでもなるつもりか?」
高木警部は冷静につっこむが、他の者は話についていけてない。
「で、その個人情報とはどの程度の範囲だ?レベルでも分かるのか?」
「いえー、レベルはわからないみたいです。分かるのは、名前、性別、そしてマイナンバーです。」
「なんだと!?」
自分の周りの人間の、マイナンバーの把握。制度の根幹を揺るがすほどに、危険な能力である。
「それはマジか!?」
「マジって……高木さん……キャラ崩壊……。まあ、疑ってる人が居るならー、私がこっそりあなたのマイナンバーを教えます。それで信じてくれますかね?」
「これで全部ですか?」
明日香の発言を、その場にいる中の十数人が疑ったが、余すことなく全員がマイナンバーを言い当てられ、信じざるを得なくなった。
「しかし、どえらい能力だなそれは。」
「なるべく秘密にして欲しいんですけどね。新聞社のみんなにも、まだ言ってないんですよー?」
秘密にしろ、と言われたがそれは約束できないと、高木警部は内心でつぶやいた。
「まあでも有る程度の拘束は仕方ないかもですね。まあ、すぐにマイナンバーなんて機能しなくなると思いますが。」
「まあ、日本人の半分が消え、部外者が大量に入国したからな。……とにかく、さっきの産業大臣拉致は真実だと証明されたわけだ。おい!早急にチームを組んで、救出に向かえ!」
「は、はい!!」
高木警部に命令された部下は、呆けていた表情を引き締め、ドタドタと慌てて出て行った。
「さて、取引の再開だな。お前が俺たちの捜査に貢献できることはわかった。信じがたい話だが、今は四の五の言ってられん。」
「ありがとうございます。」
「まあ正式な調査には出来ないが、予め情報があったほうが、俺達もやりやすいからな。おまえには先遣隊としてでてもらう。」
高木警部は真剣な表情をして、威圧感のある目を明日香に向けた。
「で、要求は?」
「それはですねー。」
高木警部は内心で覚悟を決めていた。
彼女の能力は実に強力である。この状況下で、どれほどの益をもたらすかは計り知れない。
だからこそ、それを理解している彼女が、ライトな要求をするとは考えられないのだ。
「私の捜索場所を、私が決めても良いですか?」
・
・
・
・
「そんなことでいいのか?」
肩すかしを食らった気分であった。
もはや要求とは言えないそれは、高木警部を混乱させた。
(なんだ!?いったい何が裏にある!?一見軽い要求に見えるが、奴に何かメリットがあるのか?わからん……わからんぞ!)
「いや別に裏とかないですよー。」
高木警部の内心を見抜いたように、明日香は言った。
「いや、しかし……それでは俺達に有利すぎないか?新聞社に情報を売るつもりか?」
「んー…強いて言えばですね、記者としてではなく、私個人の要求と言うことですかね?」
「?」
「で、要求を飲んでくれますか?」
「あ、ああ。」
高木警部の答えに満足したのか、明日香はまたうなずいて、本部の中へと入っていく。
「どのように捜索場所を分けていて、今どこが捜査済みなのか分かりませんので、教えてくれますか?ついでに地図も見せてください。」
「本当にそこでいいのか?」
高木警部は明日香に確認する。
彼女が指定した場所は二つ合ったのだが、片方は東京の街、もう片方は、四国の地域だったのだ。
「ええ。もちろん、この地域の捜査が終わったら、あなた方の指示に従いますよ?」
その場にいる数人が頭をひねる中、高木警部は合点が言ったようにつぶやいた。
「なるほどな。これが個人的な要求か。……想像するに、身内か?」
「さすがに勘がいいですねー。じゃあ早く行きたいので、私はこれで。」
身を翻し、出て行こうとした明日香を、高木警部は呼び止めた。
「まて、さすがにチビ一人で捜査はさせられん。1人つける。」
「はー。まあ分かりましたよ。足手まといはやめてくださいね?」
「ああ、うちの優秀な奴を付けてやろう。」
「はいはい。……あー、後ですね、さっきの産業大臣拉致事件、『うまく使ってくださいね?』と、できれば総理にお伝えください。」
明日香の発言に、職員は何度目かの疑問符をうかべた。
「お前に言われずとも、あの人は使うだろうさ。」
「それでー、何でバカが付いてくるんですかね?」
「バカとは何だバカとは」
明日香は羽根刑事の運転する車に乗せられていた。
そう、ついてきた1人とは、羽根刑事のことであった。
(うー、これは十中八九高木さんの嫌がらせですね。しかも、このまじめ腐った性格からして、「優秀な奴」なんでしょうねー。嘘をついていないのが、地味にいやらしいです。)
明日香の想像通り、高木警部はほとんど嫌がらせのために羽根刑事をつけたのだが、「正義バカ」と常識はずれの明日香を一緒に行動させることで、何かしらの変化を羽根に期待した面もあった。
「糸目、さっき警部に言った、使うとはどういう意味だ?」
「あー、やっぱりバカですね。」
「だー!さっきからバカバカバカと、いい加減説明してくれ!」
「はいはい。わからないバカに説明してあげますよー。」
明日香を睨む羽根刑事を尻目に、明日香は開いていたノートパソコンで何かを検索しだした。
「バカ刑事ー、今、日本がどんな状況かわかっていますかー?」
「ああ、だから、この大パニックを抑えようと、我々が奮闘しているのだ。」
「んー、パニックはありますが、二の次です。今一番重要なのはそこじゃないんですよ。」
「ん?」
明日香は画面から視点を外さずに、話を続ける。
「まず、日本人の半分消滅は、単純に生産労働人口の半減も意味します。日本の生産力が半分になると言うこと。また『海の壁』のせいで、貿易がストップしているので、日本の経済は完全にストップです。不況とか、そういうレベルの話じゃなくなります。」
「ふむ。」
「そして貿易がストップしたということは、外国からの食料と資源の輸入ができなくなると言うことです。自給率が半分切ってる日本では、食糧難になるのは必須ですー。人口も半分になってるのが唯一の救いですね。また、エネルギー問題もすぐに浮上するでしょう。今は何とかー、備蓄の石油で補ってる感じですから。」
羽根刑事は、現実を突きつけられ、神妙な顔をする。
「治安も問題ですねー。日本人が半分消えたということは、極端に言えば、半分の家が空き家になったってことです。騒動に便乗して、空き巣やら強盗は激増すると思いますよー。」
魔物や異世界人なんていう物騒なのもいますしねー、と、明日香は付け加える。
「わかります?今、日本は滅亡するか否かの瀬戸際なんですよ。………っと、高木警部も総理も、仕事が早いですねー。」
そう言いながら、明日香は羽根にパソコンの画面を見せる。
「………内閣改造?構成員二人残して、全員変更!?」
「これだけ早いってことは、高木警部も予め内閣の行方を最優先に調査していたみたいですねー。」
「ど、どういうことなんだ!?」
未だにわかっていない羽根刑事にジト目をむけながら、明日香は答える。
「さっき言ったようにー、このままじゃ日本は滅亡します。それを打開するには、既存の価値観、制度をぶち壊すくらいの大きな改革が必要です。異世界の転移をうまく使ってー、十年単位の改革を一年で終わらすくらいの、です。」
明日香は面白そうに笑う。
「今の、福富内閣総理大臣は、歴代でも生粋の改革派です。本人の若さと、日本のクソみたいな慣例に縛られて、未だに片鱗しか見せていませんが。」
ニュースの詳細がクリックされて、開かれた。
「総理は今回の騒動と、産業大臣の拉致事件をうまく使ってー、内閣メンバーを自分の好きなように変えたんです。 『この騒動は反政府派の行動である。証拠に、産業大臣が拉致された。このまま優秀な現大臣らをこのポストにつけておくと、被害がかさむおそれがある』とか何とかいってー。」
「ま、もともと内閣メンバーも半分消えてましたし、ごり押しもごり押しですが、何とかなったみたいですね。」
そう言うと明日香は顔を上げて、呆然とする羽根刑事に言った。
「最初の担当地域はここですね。今から捜査を開始します。10分位は私に話しかけないでください。」
明日香は目をつむり、約10キロ四方のマップを広げる。
######17 273773737361698 5824843838###################### #######井上################イェラ############ ####1524373757 5################# ########### #########白田エイジ##### ######### ###############カイヴォン#######7757576767##############################7######7273737################蒲田####### #####72773377875###########若尾拓人###### ###########72725763737373##########################775755727#########かばやし########### ##################################################################ケルビン########田中広#########谷口############セリウス#############(275346464646・2766767676676)########花村############タリー########################芝################# #################### #############マルチ##########谷##############讃岐################################ ######藍屋#########綾部悠#####################ぁぁぁぃぁ########## ####################(5734246437・2757676776)##########エドワード#######72727227#######737373373737######################### #####8481837819#########島田友也########################################################### ###############27373464646494927391383##################################################################山本浩二###127273373737376667676775##########西園寺#####72727271##########斎藤######################アルテ################# ######################67373434664################小林######################################################################273343461616###########572319538243319688282###########川上#結城###535649783659##(453・5326)###白谷 香織#794838196435##(12536・5738) 綾瀬 春樹 男 134286457382 (724・65358) 花沢 由香里 女 764588831297 (084683・38686) 田中 庄司 男 666435649182 (543・7941) ・・・・・
明日香は一切にわき目をふらず、濁流のように流れ込む大量の情報を己の脳のみで整理し、ノートパソコンに打ち込む。
その異常な集中に、羽根は息を呑んで見守ることしかできなかった。
宣言通り、10分後に作業を終えた明日香は、今まで止めていた息を吐き出すようにして、リクライニングされた座席に倒れ込んだ。
彼女の肌には幾らかの汗が浮かんでいる。
(さすがに、都会で10キロはきついですねー。)
内心でため息を吐いて、目をつむる。
その様子をみて羽根刑事は、パソコンの画面を覗き込んだ。
「な!?これは?」
ディスプレイには、大量の日本人の名前、性別、マイナンバー、現在位置が、正確に並べられている。
「個人情報の固まりですから、あんまりみちゃだめですよー。」
「あ、ああ。しかし、この短時間でこれだけ調べたのか?たしかにこれなら捜査も短時間で終わりそうだ。」
「何言ってんですか、この担当地域の捜査はもう終わりですよー。」
明日香の発言に、羽根刑事は固まる。
「さあ、さっさと四国に行きましょうー。」
例え他の人間がマップ能力を持っていても、こんな真似はできない。
ひとえに彼女の天才的な頭脳があってこそである。
糸目兄弟の母親、糸目 セリカの天才性は、兄ではなく妹に全て受け継がれていた。
(はー。やっぱり兄さんはまだこっちに帰ってきてませんでしたかー。メールも返信しませんし、やっぱり日本には居ないんでしょうかねー。)
その頃の糸目(兄)
「コア、めんどくさいから最近のメール全部消しといて。」
『わかりました。』
ようやく糸目の実家の場所がわかりました。四国です。(アバウト)
方言とか一々気にしてられないんで、適当で。