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第6章


「でね、あたしとサユリって、ある意味キャラ的にかぶってるでしょ?最初は向こうから話しかけてきて、あたしも気が合うかな~なんて思ったんだけど、あの子って脳みそカラッポの馬鹿なのよ。興味あることって言ったら、ファッション雑誌の誰それと自分を似せることと、男にいかにモテるかっていうことのふたつだけ。でもまあ、せっかく仲良くなったんだし……ってこっちも思ってたんだけど、あの子、やることが陰険なのよ。ある時からやたら知らない奴からメールが届くようになって……あと、家にも不幸の手紙が来たりね。あんまりアッタマきたから、これやってんの全部あんたでしょ!?って言ってやったわけ。そしたら今度は、「ひどい!あたしたち、親友じゃない!!」みたいに言うから、担任に相談してみることにしたの」


「筧先生に?」


(よりによって、なんであんなアテにならないのに)という思いをこめて、わたしはユリカのことを見返した。


 ユリカは図書委員で、ここ最近は司書室でお弁当を食べていたらしく――わたしは彼女とどこかカビくさい匂いのする部屋で、そんな会話を交わしていた。


 カケイ先生というのは、わたしたちを無事卒業させたら、あとは筒がなく年金生活を送れるといった感じの、来年六十になるもうろくジジイなのだ。彼の言動の一挙手一投足に、「とにかくそれまでなんの問題も起きませんように」との願いが、常に見え隠れしている。


「あ~もう、マリの言いたいことは聞くまでもなくわかってるわよ!でも一応、証拠の不幸の手紙もあることだし、筆跡は変えてあるけど、これは間違いなく彼女の字だと思いますって、言ってみることにしたわけ。そしたら……」


「そしたら?」


 ここでユリカは、聞いてるわたしでさえうんざりするほどの、長く深い溜息を着いた。


「そっか。その時たぶん、マリ帰っちゃっていなかったんだね。筧の奴、帰りのHRで、その不幸の手紙のことを議題として挙げて――「みなさんはこの問題についてどう思いますか」的なことを言ったのよ」


「そりゃ最悪」と、わたしはママが作ってくれたお弁当を食べながら、笑わずにはいられなかった。


「そうよ、最悪よ。あいつはようするに、杓子定規に問題提起して、みんなから意見を集めて、なんとなく二時間くらい潰して……で、最後にまとめとしてこう言ったわけ。『不幸の手紙をだすようなことをすると、その不幸が巡り巡って結局は本人の元へ帰ってくるものです。それから、無闇やたらと友達のことを疑うのもよくない』みたいなことをね!」


 ああ、腹立つ、腹立つ~!!と、ユリカは何度も地団駄を踏むように足を踏み鳴らしていた。


「ユリカの気持ちはわかるよ。一応話として聞くと、筧先生の言ってることって、一見まともそうに聞こえるけど……筧先生はどっか、教師としての情熱がないのよね。わたしもよく先生に呼ばれるけど、教員室で言われることっていえば、いつも同じことだもん。『べつにいじめられてる事実があるわけでもないんだから、学校へ来てきちんと授業を受けなさい』みたいな話。でもわたし毎回、『はい、わかりました』って答えて、次の日は学校来なかったり、勝手に早引けしたりするじゃない?そしたら先生はまた一週間とか十日した頃に、同じ言葉を繰り返すわけ。たぶん家にも電話してると思うんだけど、あの先生の物言いじゃあ、ママも今ひとつ用を得ないっていうかな~……」


「マリ、お母さんのことママって呼ぶんだ」


 ユリカがくすりと笑うのを見て、わたしはなんとなくカッとなった。


「うん。小さい頃からずっとそうだから」


「ふうん。なんかいいね。あたしが思うに、自分のお母さんのことママって呼べる人は、大抵母親との関係がうまくいってて、仲いいもん。そのやたら凝った美味しそうなお弁当も、お母さんが作ってくれたんでしょ?」


「まあね……」


 ユリカはあたしのお弁当箱の中から、タコさんウィンナーを奪うと、それを口の中へ放りこんでいた。


「その点、うちって結構複雑なんだ。ちっちゃい時にママが死んじゃってさ、おとーさんはあたしが中学二年の時に再婚したんだけど……その一年後に赤ちゃんが生まれたりして、あの家にいると時々、「ああもう、何もかもイヤ!!」って、叫びだしたくなっちゃう」


「そっか。ユリカも色々あるんだ」


「ユリカ<も>って何よ。マリ、学校で不登校児だって他に、なんか深刻な悩みでもあるの?」


「う、うん……」


 わたしが言い淀んでいると、ユリカは自分で作ったというお弁当の蓋を閉め、「あ~あ」と、大きな伸びをした。


「なんかしら、色々あるわよねえ。ただ生きてるってだけなのにさ。なんにしてもマリ、これからは突然勝手に教室からいなくなったりしないでね。その時にはあたしもエスケープするし、学校来ない日はメールで知らせて。わかった?」


「うん、わかった」


 ――なんかよくわからないけれど、わたしはこんなふうにして、それまでずっと口を聞いたこともなく、話してもきっと気が合わないだろうと思い込んでいた、福士ユリカと友達になった。


 そして、五時間目と六時間目のロングロームルームの時も、人数の足りないグループになんなく自然と仲間に入れてもらうことが出来た。向こうはいつも四人組で行動しているグループで、自由行動の時間には向こうは四人、あたしはユリカとふたりっきりで、それぞれ別の場所を回るということで、話は決定していた。


 もちろん、修学旅行の計画書なるものには、六人で同じ場所を見てまわるということで、そうした事柄が実に詳細に書きこまれている。


 なんにしても、わたしがこの時感じていたのは……姉御肌のユリカの頼もしさと、なんでもハッキリものを言う清々しさ、あとは時々忌々しげにこちらを見やっている、仲野サユリの不気味な視線だっただろうか。




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