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野中くんシリーズ

野中くんは死ねない。

作者:猫眼鏡
野中くんの過去話です。
 両親は交通事故で亡くした。
 暴走して突っ込んで来たトラックに為す術もなく、両親が乗っていた車はぺしゃんこにされた。
 車は酷い有様で、両親とも即死だったそうだ。

 その車には幼い俺も乗っていた。
 だが不幸なことに、後部座席に座っていた俺は無事だった。
 傷一つなく。何かに守られたように。
 原型が留まっていない程ひしゃげた車内で、何故か俺の体を避けるように車内は歪んでいたそうだ。

 ――それが不幸の始まり。
 俺の中に何かがいると気付いた瞬間だった。



 事故後、俺は父親の姉夫婦に引き取られた。
 ――だがそこに俺の居場所はなかった。
 寂しくて泣く俺に優しい言葉はかけられず、与えられたのは暴力ばかりで。
 痛い痛いと泣けば泣くだけ、それは酷くなる一方だった。

 ある日のこと。
 殴られ続けて「ああ、死ぬ」って思った時があった。
 痛くて、辛くて。
 でも不思議なことに死への恐怖はなかった。
 むしろ、これでやっと死ねるって喜んだ。
 死んだら大好きな父さんと母さんに会える。
 もう独りじゃないって、泣きながら笑った。

 次の瞬間。

 目を開けたら部屋が赤く染まってた。
 部屋の隅には怯えた伯母さんが。
 俺の目の前には伯父さんが血を流して倒れていた。

「な、に……?」

 視線を動かして驚いた。
 カーテンはビリビリ、食器は粉々に割れ、部屋は荒れに荒れていた。
 一体何が起こったのか。
 一瞬の出来事に唖然としていると、目が合った伯母さんが喉の奥で悲鳴を上げて、そして鬼の形相で――。

「この……っ、悪魔の子がぁ!!!」

 死ね、死んでしまえと、近所の人が異変に気付いて警察を呼ぶまでそれはずっと続いていた。



「君が野中孝人か」

 警察に保護された。
 そして怪我が酷いからと病院に連れて行かれ、入院だと医者に言われた。
 病室で一人、これからどうなるんだろうと俯いていたら、いつの間に入ってきたのか男性が声をかけて来た。
 背の高い、暗い影を背負ったおじさん。

「そうだけど、誰……?」
「幼いな」
「えっと……?」
「俺は神代。警察だ」
「けい、さつ…」

 そこで俺は神代さんから色々と聞いた。
 伯父さんが辛うじて生きてるということ。
 伯母さんが錯乱しているということ。
 そして虐待をしていた二人に俺を任せることは出来ないと引き取り先を探したが、引き取ってくれる先が身内にいないこと。

「ある養護施設が君の面倒を見てくれると言った。――だがその前に話がある」

 まだ何かあるのかと小首を傾げると、神代さんが俺の頭を優しく撫でた。

「君は君の中にいる“何か”について知りたくはないか」

 思いも寄らない言葉に目を見開く。

「この世には“怪異”というものが存在する。目には見えない力を用いて人々を狂わすそれは、不可解な事件を起こすばかりだ」

 警視庁に勤めている神代さんはこれから、そういう事件を柔軟に対応できるよう、特殊事件捜査編纂部というものを設立する予定なんだとか。
 そこに俺を入れたいらしい。

「君の伯母さんが不思議なことを言っていた。旦那を傷付けたのは君だと。だがあの時、傷だらけの君に大人をどうにか出来る力は残っていなかった。そもそも部屋全体が一瞬のうちに荒らされたことから、どう考えても人間の仕業ではない」

 黙る俺に神代さんがニヤリと笑う。

「君のことを調べさせてもらったよ。両親の事故の時もそうだと思ったが、どうやら君の中の何かは君が傷付くのはいいが死ぬのは許せないらしい」
「なんで」
「さあな。君が死ぬと何か不都合なことでもあるんじゃないのか」

 よく分からんが、と神代さんは言った。

「それは君を宿主としてしか見ていないようだ。命を守ってくれる――、一見聞こえはいいが、君が用済みになったらそれは容赦なく牙を剥くだろう」
「はぁ……」
「どうする? 養護施設か俺か。俺について来れば、それを飼い馴らせることが出来るかもしれない」

 神代さんの鈍く光る眼差しを見つめ返す。
 答えは最初から決まっていた。

「神代さん、ぼくを一人にしないで……」

 怪異とか、俺の中に何かがいるとかどうでもいい。
 俺はただ誰かに愛されたかった。一人にしないで欲しかった。



「――で、今に至ります」

 鼻を啜る音が聞こえる。
 顔を上げると、予想通り秋島さんが大量の涙をティッシュで拭いていた。
 ついでに鼻もかんでいる。

「っごめんなぁ、そんなこと知らずに……っ、ヒック……可愛くないガキだと思っててぇ」
「可愛くないガキ……」

 まあ、間違ってはいないな。
 ここで大人に囲まれてるうちに、子供らしさはどこかに吹き飛んで行った。
 三峰さん曰く、「見た目は子供、精神は中途半端」らしい。
 大人にも子供にもなりきれない半端者。
 無邪気さがない、と言うことだろうか。

 ポケットからハンカチを取り出し、秋島さんの手に押し付ける。
 実はそれ神代さんのだけど、そのことを知った秋島さんを想像すると最高に面白いので気付くまで黙っとこう。

「泣かないで。俺、今幸せだから大丈夫です」
「野中特務捜査官……っ、自分感激しました……!」

 なんて良い子だ。辛い目に遭ってもそれを恨まないで、人に優しく出来るなんて。
 と、そう言ってまた泣き始めた秋島さんを見て思う。
 この人チョロいな。



 秋島さんは知らない。
 俺が“何か”に命だけは守られているせいで、何があっても死ねない人間だという事を。
 火の中に飛び込んでも、高い所から落ちても、列車に轢かれそうになっても、核爆弾が落ちても、俺だけは助かる。
 俺だけが生き残るという地獄。
 俺は――死にたいのに、死ねない。

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