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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生者のお仕事

作者: 夢影

 異世界に貴族の子どもとして生まれ変わる。

 これに憧れている人間は日本中に数百万人は居るんじゃなかろうか。

 かく言う俺もその一人で、毎日PCでその手のネット小説を見ては「転生いいよなあ」とつぶやいていた人間である。


 そんな俺はある日トラックにはねられて死亡し、めでたく異世界の貴族の家に転生した。

 それだけ聞くと、夢が叶ってよかったとみんな思うかもしれない。

 事実、俺も最初のうちは幸せすぎてハイになるほどだった。

 親父もおふくろも金髪がよく似合う西洋風の美系で、家は夢の国の城を彷彿とさせる立派な城。

 さらに俺のそばには常にメイドや執事が侍って居て、俺が何をするにも手伝ってくれる。

 狭苦しい借家に家族五人で暮らしていた俺にとっては、まさに夢のようなリッチな生活だった。

 しかし、そんな幸せも言葉が理解できるようになってすぐに崩壊した。

 具体的には、親父のあるセリフを聞いたことがきっかけである。


 「さすが麻呂の子でおじゃる。利発な顔をしておるぞよ」


 もう一度言うが、親父は金髪碧眼のダンディな美形の男だ。

 決して眉毛が黒い点だったり、顔全体におしろいを塗り込んだりはしていない。

 まして、お歯黒なんてしていないとも。

 

 そんな男の一人称が『麻呂』なのだ。

 というよりも、貴族の男子の一人称はすべて『麻呂』らしい。

 俺が五歳になった時に雇われた礼儀作法の教師が、いつも声高に「貴族の男子は麻呂と名乗るのが通例でおじゃる!」と叫んでいた。


 麻呂なんて恥ずかしくて言えるか!

 俺は十五の時に家を飛び出した。

 十五の夜に、盗んだバイクならぬ盗んだ馬で走りだしたのである。

 幸い三男坊だったし、この頃にはすでにおかしなやつとして認識されていたから、追手はほとんど来なかった。


 こうしてたどり着いた冒険者ギルド。

 俺には転生特典ともいえる馬鹿げた身体能力があったから、ここでならうまくやっていけるだろうと思っていた。

 何せ、指先一つで煉瓦を粉々にできるのである。

 冒険者としてはこの上ない資質だろう。

 やがて冒険者として最高位のSランクとなり、大陸全土に名前をとどろかせるのは時間の問題だと当時の俺は思っていた。


 が、俺は一つ致命的なことを忘れていた。

 俺のメンタルは日本人準拠で、しかも生まれてこのかた貴族暮らしをしていたから、ろくに成長していないのだ。

 結果、初依頼にして初リバースということをやらかした俺は、その後一カ月に渡って依頼を続けてもメンタルの弱さを克服できず、ギルドをやめた。


 こうしてギルドをやめた俺は、巡り巡って今の職業に就いた。

 俺の身体能力をフルに生かせて、なおかつ割のいい仕事である。

 ちょっとあれな仕事だが、おそらく今の俺には一番あっているだろう。




 ◇ ◇ ◇




「ルヴィア、ほんとにこの先に居るのか?」


「ええ、間違いありませんわ。この先をまっすぐ、あの岩を超えたあたりですわよ」


 標高二千メートルを軽く超える、険しい岩山。

 眼下に雲を見下ろしながら、俺と上司のルヴィアさんは岩だらけの急峻な尾根を登っていた。

 この辺鄙極まりない場所に居を構えている、ある人物に用があるのだ。


 その人物の名はドルグ。

 かつてSランク冒険者として大陸銃に広く名を知られた龍殺しの英雄だ。

 一時は彼の栄誉を讃えて銅像まで立てられていたほどの人物である。

 しかし、あることをきっかけに現在では世間との交わりをたち、深山幽谷の山々を放浪している。


「見えましたわ!」


 遠く山の頂上付近に、掘立小屋が見えた。

 人が一人寝起きできる程度の、粗末な小屋である。

 あちこち木を継いでどうにか形を保っているその小屋の趣は、中に居る人物の素朴な暮らしぶりを思わせる。


 尾根を駆け上り、小屋の扉に一気に手をかけた。

 相手は仙人のような人物だ、もしかしたら人が来るのを嫌ってどこかへ行ってしまうかもしれない。

 だから、相手に気づかれないだけの素早い動きが肝要である。


「なんじゃ!?」


 扉を押しあけると、老人が粥を啜っていた。

 彼は俺たちの姿に眼を丸くするが、すぐに平静を取り戻すと居丈高に怒鳴り始める。


「わしはもう隠居の身じゃ。何の用があってきたのかは知らんが、帰れ!」


「いえ、帰るわけにはいきませんわ。私はあなたに用がありますので」


「二度も言わせるな。さっさと帰れ!」


「帰るわけにはいきませんわ!」


 にわかに押し問答を始めるルヴィアさんとドルク。

 俺は今の内にドルクに見せるための書類を準備する。

 こうして、俺がカバンから目当ての書類を引っ張りだした頃。

 ルヴィアさんとドルクの問答がひと段落ついた。


「わかったわかった。じゃあ用だけ言うてみい」


「わかりましたわ。では……」


 ルヴィアさんと俺は揃って咳払いをすると、息を吸った。

 そして目いっぱい肺を膨らませて叫ぶ――!


「借金返せやコラァ!!!!!!」


 今の俺の仕事。

 それは通常の人間では太刀打ちできないSランク冒険者や英雄、果ては勇者などから借金を取り立てる借金取立人である。


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