私はある貴族の御曹司として生まれた。父の仕事はわからない。ただよく屋敷にサングラスをかけた黒スーツの男や金持ちそうな中年の男達が出入りしていたことだけは覚えている。
何不自由ない生活。欲しいものは何でも手に入った。
手に入りすぎた。
私はある日父の部屋の前で中の会話を盗み聞きした。
「いいかげん譲ってもらえませんか?」
先程屋敷にきた中年男の声だ。
「いいかげんにするのは貴様達の方だ!人の命を何だと思っている!」
父の怒声が聞こえる。私は怖かったがその場で聞き続けることにした。
その後の惨劇を目にしようなどとは知るよしもなく。
「これだけ説得しても譲ってもらえませんか。」
「当たり前だ!それから息子を物の様に呼ぶなと言っているだろう!」
「・・・仕方ないですな。力ずくで頂くとしましょう。」
ガァン!
「ぐっ、うぁ・・・」
一発の銃声と父の呻き声。私は幼なかったがこれが緊急事態だということはすぐにわかった。
「父さん!」
部屋に飛び込んだ私だったが一瞬で二人の男に取り押さえられ、薬を嗅がされて意識を失った。意識を失う直前、中年の男が父の頭に銃口を向ける姿だけが私の目に焼き付いた。
「・・・丈夫?ねぇ大丈夫?」
「う・・・ここは?」
目が覚めるとそこは部屋の中だった。隣には・・・女の子?
「あなたも拉致されてきたのね。」
「拉致・・・どういうこと?」
女の子の話では、私は特異能力が確認されたためにここへ連れてこられたのだという。拉致した連中はイリュージョン社という無名の工業会社らしい。
彼女の名前はメーヴェ。生まれたときからこの施設で特殊な訓練を受けているらしい。
私は父は死んだのだと理解した。当時の私は泣き虫で、いつも辛い時などは泣いてばかりいた。
「泣かないで」
彼女は私の頭を撫でてくれた。
「あなた名前は?」
「・・・アウス。」
突然部屋のドアが開き、黒スーツの男に襟を捕まれた男の子が放り込まれた。
「いでで!何!何!何!?ここはどこよ?」
それはスティングだった。
彼も私と同時期に拉致されたのだ。
部屋の中には混乱する少年が二人、楽しげな少女が一人いるだけだった。
スティングは明るい奴で、私たちはすぐに打ち解けた。
「なんかよ〜、学校で50m走の世界記録塗り替えたらいきなりこんなトコ連れてこられたんだよな〜アハハハ!で、お前らは何でここに連れてこられたんだ?」
「あたしは生まれたときからここにいたの。スティングは速さ系の能力が確認されたからねきっと。あたしは物質の重さをちょっとだけ変えたり圧力を加えたりできるの!アウスは?どんな能力なの?」
「僕?わかんないなぁ。」
「何か心当たりないのかよ?」
「う〜ん、あっ!以前父さんの火のついた葉巻に触れたら一瞬で灰にしちゃったことがある。」
「きっと火を操る能力ね、すごいじゃない!」
「で、でも誰にも見られなかったよ?」
「特異能力は発動したときに特殊な電波が発生するの。この会社はそれを感知して工作員を派遣するのよ。」
「え、じゃあ他にも僕達みたいに訓練受けてる人がいるの?」
私の質問にメーヴェは首を横に振った。
「あたし達は特別なの、貴重能力だから。他の人たちは・・・わかんない。」
「僕達帰れないのかなぁ・・・」
私は再び泣きだしそうになった。三人共黙ったままだった。
それから私とスティングはメーヴェと一緒に訓練に参加することとなった。
訓練は地獄だった。考えられない距離を走らされ、考えられない重さのマシーントレーニングをさせられ、兵隊達に殴られ、蹴られ、唾を吐かれた。当時三人はまだ10歳だった。この施設は砂漠の地下に作られているらしく、逃げ出すことなど不可能だった。
スティングは能力のおかげで多少は訓練についていけたようだが、火を操る能力は近くに火が無いと全く無意味で、私だけが訓練中吐いてばかりいた。
「もう嫌だ!助けて、誰か・・・」
私は精神的にも肉体的にも限界だった。普通の大人がやっても倒れてしまう訓練を10歳の子供が朝から晩までやらされているのだ、強制的に。私の心は完全に折れていた。
そんな時部屋に戻ったメーヴェがふと口を開いた。
「あたし正直嬉しかったんだ。生まれてからずっと一人だったから。アウスやスティングという友達ができて嬉しかったんだよ。訓練だって楽しくなった。」
私はメーヴェの言葉に腹が立った。
「君はいいよ!生まれたときからここにいて訓練なんて慣れっこだもんな!」
私はそれを言った後に後悔した。メーヴェは生まれたときからこの地獄のような訓練を一人で耐えぬいてきたのかと。
「うん。最低だねあたし、これじゃ他人の不幸を喜んでいるだけだよね。ごめんね、ごめんね!」
そう言ってメーヴェは部屋を飛び出していった。
それを見たスティングは言った。
「なぁアウス、確かに訓練は辛い。でもあいつは嫌味を言ったんじゃなくて、純粋に嬉しかったんだと思うぜ?」
「・・・ああ。言い過ぎた。」
私はメーヴェを追った。彼女は施設から少し歩いた距離にある仮設庭園にいた。だが様子がおかしい。
「ゲホッゲホッ!うぅ・・・っあぁっ・・・」
胸をおさえてうずくまっている。私が駆け寄ろうとしたとき、医療班の人達が通りかかったので私は草影に隠れた。
「メーヴェ!大丈夫!?」
「うぅ・・・く、苦しいよぉ、息ができない、よ。」
「早く治療室へ!もうすぐ薬ができあがるからな!それまでの辛抱だメーヴェ!」
メーヴェは医療班の男に抱き抱えられて連れていかれた。
後に残った二人の医療班の話を私は聞いてしまった。
「あの子がメーヴェかい。」
「ええそうよ。かわいそうに。」
「なぜあんな身体に?」
「あなた知らないの?あの子は遺伝子操作で強制的に能力を覚醒させられた子なのよ。能力は貴重だけどあんな未知の病気にかかっちゃったの。」
「そうなのか。あんな体でよく訓練なんてできるな。」
「それがあの子にとっての《生きる意味》らしいわ。」
私はその場に崩れ落ちた。
不自由なく過ごしてきた自分が情けなくて、弱くて、しかも自分より何倍も、何十倍も苦労している少女に励ましてもらってばかりいた自分が許せなくて、涙が出た。私は泣き続けた。もう二度と泣かないように、もう二度と弱い姿を見せないように、もう二度と彼女に助けられないように、とにかく泣き尽くした。そして誓った。
「僕・・・いや、私があなたを守ります。」
それは私の永遠の誓いだった。
その時四つんばいになっていた私は、私の腕が地面に沈んでいることに気付いた。
(これは、まさか)
それから数年が経った頃、訓練で私とスティングが格闘場へ入るといつもと様子が違った。一方的にメーヴェにリンチをかける兵士達。顔には切り傷が多数あり、服も脱がされかけていた。メーヴェがたかだか兵士の十人や二十人に負けるはずはなかった。兵士達の手には銃や鎖やナイフ、鉄棒などの凶器、そして薬瓶が握られていた。
「貴様等何をしている!!」
「ゲス共がぁ!!」
スティングは音速で移動し、全員の目玉をくりぬき、潰した。
私は地面に腕を沈め、巨大な腕を地面、壁、天井から無数に出し、悲鳴をあげる兵隊全員の四肢を引きちぎった。
私がメーヴェに駆け寄ると彼女は泣いていた。しかし笑顔で私に語り掛けた。
「ありがとう、アウス。フフ、何〜その仮面?似合ってるわよ。」
「メーヴェ、私があなたを守りますから安心してくださいね。」
私は感情を隠すために仮面を付けることにしたのだ。外すのはメーヴェとスティングといる時だけ。
私はただ火を操るだけの能力ではなく《JOKER》クラスの自然融合・完全支配能力になり、
スティングは高速移動から《ACE》クラスの音速移動能力になり、
メーヴェはもはや物質の重さをちょっとだけ変えたり圧力を加えたりするだけ能力ではなくなり、最強最悪の《JOKER》重力・圧力完全支配能力になっていた。私達が17歳の時の出来事だった。
それからさらに数年が経ち、《ジオ・エンプレス(Z・E)隊》が編成されることになった。
能力の高さ、貴重さ、戦闘能力から、隊長はメーヴェ、戦闘部隊隊長は私、幹部にはスティングが就いた。幹部顔合わせの時、スティングが私とメーヴェに言った。
「オレ達、ずっと一緒だよな?」
私達は笑顔で頷いた。
「スティング、メーヴェは隊長だ。敬語を使えよ。」
「失礼しました。」
「結構。」
三人は笑った。
それから、《Z・E隊》としてCROWNという仮想都市へ派遣された私達は異世界へ通じるワープゲートを開く最良地点の調査と、貴重能力者の確保という任務を行っていた。
そんなある日
最良地点調査の成果はなく、ヘリで基地へ戻ろうとしていた私に無線通信が入った。
『アウス様、都市部《DEADLY TABLE》内の大型ビルで能力発動パルスを確認しました。』
「わかった。すぐに向かう。」
「アウス様!もうすぐミーティングの時間では?」
「心配ない、10分で戻る。都市部へ飛んでくれ。」
「了解しました。」
私は連絡のあったビルの一階フロアにいた。
「ここで待っていれば直に現われるだろう。・・・ん?」
気が付くと私の周りをデモン型魔鬼が多数取り囲んでいた。
「20体か。話にならんな。《エア・ブレード》!」
私は空気の刄ですべての魔鬼の首をはねた。
その時だった。
『あんた強いんだなぁ!!』
声のする方を見るとそこには大戈を持つ少女とナイフを持つ青年が立っていた。何故能力者同士で戦わないんだ?このCROWNはそういうルールの筈だと聞いたが。
「何故、戦わない?」
私はそう言うと二人へ襲い掛かった。
私の運命を左右する者達へ。
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