僕の役割
がさごそ・・・と宿屋でもまだ静かな時間帯に動く気配・・・
今日も日課が始まるな・・・。メグミは着替えて部屋を出ていく・・・。あのときから、概ね毎日、メグミは剣を振っているのだ・・・。時々、「あっ!」って言って慌てて起きる時もあるけど・・・ね。
メグミは、僕から見ても本当に変わったな・・・。やっぱり、あの時がきっかけなんだろうか・・・。正直、僕はあの時のきっかけだけで・・・こんなにも変わるとは思えない・・・
女の子の考える事はわからないね。ハルもわからない事が多かった・・・な。
しばらくすると朝の鍛錬を終えてメグミが戻ってきた。宿屋のおばちゃんに頼んで、朝食前に風呂場を使うことを許可してもらっているからさっぱりとしている・・・。
僕はもう一休みだな・・・。隣で身支度を整えるメグミを見る・・・。やっぱり女の子だよね・・・。
そのあとは、朝食だ。
タクミが合流し、一緒に朝ごはんを食べる。僕は、特製の肉をもらっている・・・ここの宿屋も慣れたものでちゃんと肉を朝晩準備してくれている。たまにタクミが、魔物の肉を差し入れて準備してくれるように頼んでいるからね・・・。肉の残りは宿屋で自由に使ってもよいと言っているので、おばちゃんは喜んで準備してくれるのだ。魔物の肉は買うとけっこうな金額になるので、おばちゃんは喜んでいた。
タクミとメグミは、今日の予定やら昨日の換金額やらの話をしている。どうやら、今日もクエストを受けにいくらしい。
朝食後、僕達は、ギルドへ向かう。遅くなると良いクエストが受けられないかもしれないからね。ギルドに着くと2人はクエストを吟味する。2人は6級になったのでかなりの種類から選べるため少し時間が必要だ・・・。でも僕はギルド内には入れないので、いつもどおりギルド前のスペースに伏せて待つ。
この時間が一番暇だな・・・
ふと見ると見慣れない冒険者のグループがギルドへ近づいてくる。
「おい!ここにグレイウルフがいるぞ・・・」
「おおう。ってことはテイマーがいるのか・・・珍しいな・・・」
ああ、うるさい・・・おっきい声で話すなよ・・・。
ようやくそのグループはギルド内へ消えた。すると
「ちょっと!何するんですか?」
メグミの声に僕は反応する。何が・・・僕はギルド内に意識を集中する。どうやら、さっきのグループの連中がメグミの手を握って何かを言っているようだ・・・
『タクミ!メグミが・・・』
僕がそう言うと間もなく・・・ギルド内から男達のグループが出てきた。その後ろにはタクミがいて・・・さらにその後ろにメグミがいる。無事か・・・
「あー。で? なんかようかおまえら・・・」
タクミが男達に聞く。
「あん?おまえに用はねえよ・・・。その後ろの姉ちゃんにようがあんだよ。お前は引っ込んでろよ!」
男が吠える・・・
「だから、俺のパーティーメンバーになんの用だと聞いている」
タクミが冷たく言い放つ・・・ もっと言ってやれ・・・
「なんだ・・・連れってことか・・・まあいい。俺達はな・・・少し調子にのっている後輩を先輩として色々手取り足取り教えてやろうって親切な話だ・・・悪い話じゃないだろう。ゲヒヒヒっ!」
ああ、もう笑い方が気に食わない・・・
「いやけっこうだ・・・お前たちからは何も教わるようなことはないからな・・・」
タクミはため息交じりに返答する
「なんだと・・・先輩が気を利かせてやっているのにその言い方は・・・」
男の一人がタクミの肩を押す・・・。
「やめろ・・・」
タクミは、肩に触れた男の手首をつかむとそのままつるし上げる・・・男より10㎝は大きいタクミがつるし上げるとその男の足は地を離れた・・・
「いでででで・・・」
男のうめき声にほかの男達が、タクミを襲おうと動く
僕はすっと立ち上がり、その間に入ると
「がるるる!」
と唸ってやった・・・。男達は動くのをやめ・・・
「ちっ!手を放しやがれ・・・」
リーダー格の男が、タクミに言う
タクミが男の手を放すと・・・その男は手首をさすりながら仲間たちのところまで下がる・・・
「おまえら・・・帰るぞ・・・」
リーダー格の男がそういうとその男達はギルドから消えた・・・
「な、なんか・・・びっくりしたよ・・・」
メグミが、タクミの後ろから現れる。
「いきなり、手をつかまれて・・・ついてこいだの・・・」
「あいつら・・・何がしたかったのやら・・・」
タクミがそう言うと
「わ、私を狙ったんだよね・・・なんのために・・・?」
メグミが首を傾げた。いや・・・たぶんね・・・若い女の子の冒険者を狙うとすれば、そんなに理由はないんだけど・・・。
「まあいいさ。ただ、メグミはしばらく1人行動は禁止だな・・・」
「い、一応心配してくれるんだ・・・」
「そ、そりゃなあ。何かあったら困るだろ・・・」
なぜかメグミのご機嫌が良い。
結局、今日は魔物狩りのクエストを受ける事になった。昼ころまで歩き目的地につくと早速魔物を探す・・・。今日はメグミが索敵するとのことでタクミは任せている。使わないとレベルも上がらないし、使い方を身につけないとうまく使えないから・・・
メグミは、遠くに二足歩行する魔物を感知・・・僕も同時に索敵してみると目的の魔物であるオーガのほかに幾つかの人族を感知した。こいつら・・・
『タクミ!さっきの連中がここにいる・・・またメグミを襲うつもりかもしれない』
僕はタクミに伝達する。メグミには不安を与えたくないけど、タクミには知らせておこう。なんだかんだ頼りになるしな・・・
タクミは、僕を見て頷く。了解してくれたようだ・・・なら僕の役割は決まったな・・・
メグミを先頭にしてオーガの元へ歩く、メグミは隠密スキルを使う・・・。これも実践だ。でも、僕の意識はオーガよりも周囲をうかがいながら距離を詰めてくる男達に向いている。
メグミの索敵はまだレベルが低いためすべては感知できない。特に隠密スキルを持っている相手を感知するのは難しいのだ。
オーガが視界に入り、僕達は目配せをする。メグミが自分がやると主張したので任せる事にする。その間に僕は・・・
『タクミ・・・僕は少し周りを掃除する事にするよ』
そう言って僕は消える・・・
オーガ
HP 310
ⅯP 46
力 125
体力 130
器用 79
素早さ 65
魔法 46
抵抗 40
スキル 剛力レベル1 金剛レベル2
武器 こん棒 攻撃力 +35
オーガは、この辺りではかなり強い魔物だ・・・硬い皮膚と高い体力に守られ下手な剣や魔法ではダメージを負わせられない・・・普通ならね。
メグミは、剣を抜くと一気に距離を詰める。身長が倍くらいあるためメグミの剣は足元にしか届かない。オーガは、こん棒を頭上から振りぬく!
「どかーん」
こん棒は大地をえぐる・・・しかし、そこのメグミはいない・・・視界から消えたメグミをオーガが探すが、見つけたときにはメグミの両手から水の刃と氷の剣がオーガへ向かって放たれたている。
咄嗟にオーガは両手で顔を守るが、水の刃はオーガの膝下を切りさき、氷の剣はオーガの腹部に突き刺さる。
「ぐええっ!」
オーガの悲痛な叫び・・・。膝をついたオーガにメグミは再び剣を構える。オーガがメグミを睨みつけ膝をついた姿勢からこん棒をむけようとしたとき、メグミの左手から光の波がオーガを襲う。一瞬で視覚を奪われるオーガ・・・やみくもに振るったこん棒は何も触れることがなく・・・オーガの目が見開いたときには、首は宙をまっていた・・・。
「よしっと!」
メグミがオーガを倒した。そのとき、メグミの背に2本のナイフが飛来する・・・。しかし、メグミの背中にそのナイフが突き刺さる事はなかった。その手前で何かに阻まれてナイフは地面に落ちる・・・
「な、なんで・・・」
後ろからナイフを投げたであろう。そう、ギルドで会ったリーダー格の男は、なぜナイフが途中で落ちたのかを理解できない・・・
「結界だよ・・・」
男のすぐ前にはタクミがおり、剣を男に向けている。
「で?今度はなんのつもりだ・・・?」
タクミが男を問い詰める・・・
「お、おい。おまえら女を殺れ・・・!」
リーダー格の男は、仲間に大きな声で指示を飛ばす・・・でも・・・
僕は、すでにほかの男達を狩り終えている。メグミを襲う?僕が許すわけがないだろう・・・。僕は男の後ろからわざと音を立てて姿を見せる。リーダー格の男が振り向いたので、狩った男の一部を口から投げる・・・。それを見た男はがくがくと震えながら
「な、なんなんだよお前ら・・・」
「お前がそれを言うか?」
タクミが飽きれて聞き返す
「で?今度の目的はなんだ?」
タクミが追及する。
「・・・」
男は答えない。
「ならもういいか・・・他のお仲間みたいにするだけだな・・・」
タクミがさらに脅すと・・・
「い、命だけは・・・ちょ、ちょっと調子に乗っている若い冒険者がいるって聞いたから・・・少し痛い目にあわせようって話になっただけだ・・・」
「へえ・・・ちょっと痛い目ね・・・それでナイフを背中に投げたりするんだ・・・。どうせ、女を手にいれてやっちまおうなんて考えだったんだろ・・・」
「・・・」
リーダー格の男は答えない。答えないは肯定だな・・・
『タクミ・・・もういいよ・・・こいつは僕が始末する。メグミにはこの状況を説明してやってよ』
タクミはうなずくと背を向けてメグミのところへ歩きだす。メグミは、何が起こっているのかわからずぽかーんとしているからね。
リーダー格の男が、懐からナイフを取り出す・・・無駄な事を・・・
男は、今度はタクミの背中を狙う・・・させないよ・・・
僕は、男がナイフを持った手を振り上げるよりも早く男の首を狩り終える・・・
メグミを傷つける奴は僕が許さない!僕の役割だからね・・・