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更科梨沙(セリア・レーヴェン)視点 2-⑧

 ― 明朝


 私達は特に大きな問題もなく、ルービルテ辺境候領領都に到着した。


 害獣の暴走の一端か、領都に近付くに連れて何度か害獣の襲撃を受けたが、それらは全てイェンクーが一掃した。

 害獣の群れを一撃で木っ端のように蹴散らしていく姿は、なるほど聖人の血を引くだけはあると納得させられるだけの圧倒的な力強さと覇気を纏っていた。


 そんな感じでイェンクーが無双しまくった結果、私は無駄に神力を消費することもなく、領都まで辿り着いた。

 しかし、領都を囲む外壁を通過した途端、私の目に予想外の光景が飛び込んで来た。


「なぜ…まだこんなに住民が…?」


 そう、領都は平時と同じくらい、いや、むしろそれ以上に多くの住民が残っていたのだ。

 誰も彼も不安そうな面持ちで忙しなく動き回っている。


「なぜって、こんな状況でこれだけの人数を安全に他の町まで移動させられる余裕があると思うか?」


 イェンクーの言葉にハッとする。

 確かにその通りだ。この領都周辺にも害獣の群れが押し寄せており、軍がその掃討とナハク・ベイロンの迎撃準備に手一杯の現状で、これだけの人数を護衛する人員など、どうやっても捻り出せないだろう。


 イェンクーの言葉に捕捉するように、ズィーリンさんが口を開く。


「この町の住民にはナハク・ベイロンのことは知らせておりません。一時的に害獣の大移動が起こっているとだけ伝えてあります。避難が事実上不可能な現状では、ナハク・ベイロンの情報は余計な混乱を生むだけですからね。一応迎撃作戦が開始される直前に避難誘導は行いますが、迎撃作戦が失敗した時点で安全な避難など出来るはずもありません。つまるところ、迎撃作戦の失敗は事実上のこの町の壊滅を意味します」

「っ…!!」


 何だ、それは。

 正直、軽く見ていた。

 ナハク・ベイロンが討伐出来なかったとしても、住民の避難自体は可能なのだから、人的被害は最小限に収まると思っていたのだ。

 だが、そんな予想はあっさり裏切られた。

 ナハク・ベイロンだけならば避難も可能だっただろう。

 しかし、同時に起こった害獣の暴走によって、それも困難になってしまった。

 今この町が陥落すれば、この町の住民は満足に身を守る手段もないまま、害獣が跋扈ばっこする危険地帯に放り出される。


 馬車の窓から、外の様子を眺める。

 町の集まった兵士達の物々しい雰囲気に、漠然とした不安を感じているのだろう。誰も彼も暗い表情でどこか張り詰めたような雰囲気を纏っていた。


 一体、彼らの内何人が生き残れるだろう。


 そう思うと、突然全身に凄まじい重圧を感じた。

 それと同時に、あの光景(・・・・)がフラッシュバックする。

 カロントの町で直面した、今尚眼に焼き付いて離れないあの光景が。


 知らず俯いていると、斜め向かいに座るイェンクーが声を発した。


「んだよ。今更ビビってんのか?何でもなさそうな顔して平然と俺らを圧倒したてめぇはどこ行ったよ?」

「なっ…」


 どこか苛立ちを感じさせるその声に反射的に顔を上げると、イェンクーの苛立ちと僅かな失望を宿した瞳と目が合った。

 瞬間、カッと頭の中が熱くなる。

 その熱に押されるように、言葉が口を衝いて出る。


「別にビビってない!ただ…」

「ただ、何だよ」


 そう、ただ……ただ少しくらい、無理をしてもいいかなと思っただけだ。


 私の目的は変わらない。

 どうあろうと私は自分の命を最優先する。

 だから、今回もナハク・ベイロンがどうしても倒せそうになければ、私はさっさと逃げるつもりだ。

 刺し違えてでも――なんて自己犠牲の精神は私には備わっていない。私は聖人君子ではないのだから。


 ただ、それでも…


 それでも、こんな光景を見てしまったら、少しくらい無理をしてしまいたくなるじゃないか。


(はぁ…我ながらホントに小さいというか、チョロイというか)


 それでも、これは私の偽らざる気持ちだ。

 なら、私はそれに従う。

 心を殺して後悔するよりは、心のままに生きて後悔する方がマシだと思うから。


 予期せぬ状況に波立った心の動揺を抑え、覚悟を決める。

 そのままイェンクーの方を向くと、イェンクーは満足そうに歯を剥き出して笑った。


「ハッ!イイ顔になったじゃねぇーの。やっぱそうじゃなくちゃな」

「……」


 何となく自分の青臭さを見透かされたような気がして、気恥ずかしくなって視線を外へと逸らす。

 すると、領主館らしき大きな建物が近付いて来た。

 私がその建物に気付くと同時に、ズィーリンさんが私の予想を肯定した。


「あれがルービルテ辺境候の屋敷です。対策本部はあの屋敷の中に設置されています」


 その言葉通り、一行はそのまま門を潜り、屋敷の方に進んで行った。

 屋敷の玄関が見える位置に来ると、扉の前に、4人の使用人と3人のドレス姿の女性を従えた偉丈夫が立っているのが分かった。

 そのまま扉の近くまで進んで馬車から降りると、その男性がイェンクーとツァオレンに向かって礼を取った。


「両殿下、この度は我が領地の危機に御自ら駆け付けて頂き、誠にありがとうございます」

「気にするなルービルテ辺境候。此度の件は貴公の領だけで収まる問題ではない。帝国の危機に皇族が剣を持って立ち上がるのは至極当然のことだ」

「ハッ!このルービルテ、両殿下の御厚意に更なる忠誠でお応えしたいと存じます!」


 それから自己紹介が行われる。

 ルービルテ辺境候の後ろに並ぶ3人の貴婦人は、全員ルービルテ辺境候の妻らしい。

 帝国では王国と違って一夫多妻制が採用されているので、これ自体は何もおかしいことはない。

 帝国では建国者である暴君リョホーセンが複数の妻を娶っていたこと、元々の神術師の数が少ないことから、神術師の家系は一夫多妻が普通だ。

 対して王国が一夫一婦制なのは、元々の神術師の起源が祈祷師という神職であったから。それに“神術師の血を広げすぎるとその血が薄まる”という伝承があるからだ。

 真偽は不明だが、実際、帝国の神術師の実力は全体的に王国の神術師よりも劣っている。

 まあ堂々と複数の妻を持てないせいで、うっかり平民女性に手を出してしまう貴族が増え、結果的に“はぐれ”が増えるという弊害もあるので、どちらがいいとも言えないが。


 それにしても、本来であればこの一行の代表は皇太子であるイェンクーであるべきなのだろうが、ツァオレンが普通に対応する辺りにイェンクーの脳筋っぷりが透けて見える。

 きっと、いや間違いなく、こういう貴族的なやりとりは苦手なんだろう。

 イェンクーの背中に生温かい視線を向けていると、ルービルテ辺境候の視線がこちらに向くのを感じた。


「殿下、そちらは……」


 おっと、私の出番が来てしまったようだ。

 すぅっと深呼吸をして、久しぶりに令嬢モードを発動させる。


 心と身体を切り離し、心を深く深く自分の内に沈める感覚。


 令嬢モードは、私が今世で生を受けてから身に付けた、いや、身に付けざるを得なかったモードだ。


 貴族として、内心の一切を表に出さないように。

 そして出来損ないの劣等生として、浴びせられる侮蔑や嘲笑に心が傷付かないように。


 “セリア・レーヴェン”が生きていく上でどうしても必要だった、貴族令嬢としての武器であり、“更科梨沙”を守るための防具でもあるモードだ。


「お初にお目に掛かります、ルービルテ辺境候様。私はファルゼン王国のセリア・レーヴェンです。殿下の求めに応じ、助太刀に参りました」


 人見知りモード以上に無機質な、人形染みた無表情と共に、幼少期から徹底的に叩き込まれた淑女の礼をすると、ルービルテ辺境候から驚きの気配が漏れた。

 まあ突然皇子兄弟が現れたと思ったら、隣国の貴族を連れているのだ。驚くのも当然だろう。


 本来なら偽名を名乗るべきなのかもしれないが、今回はあえて今世での本名を名乗った。

 これは帝国、もっと具体的に言うなら皇帝家に対する牽制だ。

 ここで王国貴族の一員としての立場をアピールし、目撃者を用意しておけば、将来的にまた皇帝家が私に何か仕掛けようとした際の抑止力になるかもしれない。

 正体を隠した一神術師ならともかく、皇子に協力した王国貴族となれば、皇帝家も下手なことは出来ないだろうということだ。

 まあそもそも私の王国貴族としての立場が生きているか不明な以上、どの程度効果があるかは分からないが、図らずもしばらくは帝国に滞在することになりそうなのだ。保険は多いに越したことはない。


 それに、私が帝国に付いたという噂が流れれば、ハロルドとナキアが結ばれる上での障害が消えるかもしれない。

 国王陛下の思惑がどうあれ、国を捨てた令嬢を王太子妃にするなど、他の貴族家が絶対に許さない。となれば、流石に国王陛下も私を王太子妃候補から外さざるを得ない。そうすればナキアが自動的に王太子妃候補第一位だ。そこまでいけば後は2人で何とかするだろう。


「ようこそおいでくださいました。はるばる王国から救援に応じてくださるとは恐縮です。セリア殿…とお呼びすればよろしいですかな?」

「はい、構いません」

「畏まりました。そう呼ばさせて頂きます。では対策本部まで御案内致します。付いて来て頂けますか」


 そう言って案内された先は、普段は他の貴族を招いたパーティーを催すのに使われているであろう、大きなホールだった。

 今は何列も並べられたテーブルの間を、使用人や兵士が忙しく動き回っていた。

 その間を抜けながら、ルービルテ辺境候が口を開く。


「現在この町では、ナハク・ベイロンの襲撃に備えた迎撃準備と、住民を避難させるための害獣の群れの掃討を行っています」

「避難出来るのですか?」


 私の問いに、ルービルテ辺境候は難しい表情をした。


「厳しい…と言わざるを得ません。本来であればもっと早くに避難を開始するべきだったのですが、国境の町から避難勧告を受けた村の住民達がこの町に押し寄せてきまして…その対応に追われている間に、暴走した害獣の群れがこの町までやって来てしまったのです。しかも全ての村が避難出来た訳ではなく、ナハク・ベイロンの進路から外れている1つの町と3つの村が現在孤立した状態です」

「……」


 なるほど、先程町に人が多いと思ったが、近隣の村の住民が避難して来たせいだったらしい。それに、取り残されている村があるならば救援が必要だろう。


 そんなことを考えている間に一番大きなテーブルに着いた。

 そこには、このルービルテ辺境候領の詳細な地図があった。


「先ず、現在の目標の位置について説明させて頂きます。目標であるナハク・ベイロンですが、つい先程入った情報によりますと、現在はこの位置にいるようです」


 ルービルテ辺境候が地図の一点を指差す。


「ふむ、やはり完全にこの町が進路に入っているな」

「はい、ここら一帯は切り立った崖になっており、いかに巨大な蛇竜といえど、この渓谷を通るしかありません。そうなればこの町まで一直線です。今までの移動速度からすると、3日後にはこの町に襲来するかと」


 この領都の南には巨大な渓谷があり、その両側は数百メートルの高さの断崖絶壁となっている。その様は山と谷というよりもはや、どこかから切り出した土地を、少し間隔をあけて2つ置いたのではないかというくらい、不自然な切り立ち方をしていた。

 どこから登ろうと数百メートルの崖を登ることになるので、普通の生物はここを抜けようとすれば、渓谷を通るだろう。

 普段は侵攻経路が限られるという意味で防衛に適した地形なのだろうが、今回に限ってはこの道がナハク・ベイロンを誘導することになってしまっている。


「迎撃拠点はやはりこの谷を抜けたところになるのか?」

「はい、この辺りに砦を建設中です。害獣の暴走の中での作業なので多少難航していますが、明後日には完成する予定です」

「ふむ、しかし迎撃すると言っても具体的にどうやる?奴に有効な手があるのか?」


 そのツァオレンの問いに、ルービルテ辺境候は妙に透き通った笑みを浮かべた。


「問題ありません殿下。陛下より“パスパタ”を預かっております。迎撃の際にそれを用い、ナハク・ベイロンの口内から頭部に向けて、秘術“パラメシュヴァラ”を発動する手筈となっています」

「何ぃ!?」


 その言葉を聞いて、それまで黙っていたイェンクーが声を上げた。


「“パラメシュヴァラ”とは?」


 イェンクーの反応を訝しみながらツァオレンに尋ねると、ツァオレンもどこか硬い表情で口を開いた。


「…秘術“パラメシュヴァラ”は一部の高位貴族に公開されている大神術で、投げ槍型の触媒“パスパタ”に超高熱の炎を纏わせて高速射出する神術です。威力で言えば最上級神術すら超える威力が出ます。ただ…」

「…ただ?」


 それ以上話すのを躊躇うような表情で口籠ったツァオレンは、ふっと息を吐くと、意を決したように続きを口にした。


「発動に大量の神力を必要とする上、発動の際に発生する衝撃が術者を直撃します。…術者はほぼ間違いなく即死するでしょう」


 その言葉に、私は思わず無表情を崩して目を見開いた。

 そして、先程のルービルテ辺境候の表情とイェンクーの大声の意味が分かった。


 ルービルテ辺境候は、死ぬ覚悟を決めているのだ。

 民のため、国のためにその命を使うことを決めているのだ。


 自分では到底出来ない覚悟を笑って語るルービルテ辺境候の姿に、ただ絶句する。

 だが、続くツァオレンの問いを聞いて、私は自分がまだルービルテ辺境候の決意を甘く見ていたことを悟った。


「ルービルテ辺境候、貴殿の神力で“パラメシュヴァラ”を発動出来るのか?」

「まさか、私程度の神力量では到底足りますまい。我が妻達も協力してくれるそうです」

「なっ……」


 弾かれたように、ルービルテ辺境候の後ろに並んで立つ3人の女性を見詰める。

 その女性達は、皆ルービルテ辺境候と同じように透き通った笑みを浮かべていた。


 その笑みに、私は何も言えなくなってしまった。

 なぜ、そんな風に笑っていられるのか。

 確実な方法ではない。

 上手くいったとしても、それでナハク・ベイロンを倒せるとは限らない。

 なのに、なぜ……。


 頭の中で疑問が渦巻く。

 やかてそれは、単純な問いとなって口から零れた。


「なぜ…」

「はい?」

「なぜ…そんな風に笑っていられるのですか?」


 そう問うと、ルービルテ辺境候と3人の妻は互いに顔を見合わせて笑った。

 そして4人とも私に穏やかな目を向けると、ルービルテ辺境候が代表して口を開いた。


「なぜ、と言われましても…貴族が民の矛となり、盾となるのは当然のことでしょう?」

「そ、んな…」


 そんなことが聞きたいのではない。

 私が聞きたいのは、そんな一般論ではなく……。


 そんな私の言葉にならない言葉を察したのか、ルービルテ辺境候はふっと笑って続けた。


「私はこの領が好きです。月並みなことを言うようですが、私にとってはこの領の民は等しく家族です。それを守るためなら命を懸けることも惜しみません。それに…」


 そう言って、ルービルテ辺境候は実に男臭い笑みを浮かべた。


「私は帝国貴族であり、1人の武人です。息子も爵位を継ぐのに申し分なく、後顧の憂いはない。安穏とした余生で静かに腐っていくくらいなら、華々しく散るのも一興でしょう」


 そう語るルービルテ辺境候を、3人の女性は困ったような、それでいて慈しむような表情で見詰めていた。

 それは、たった1人の男を支え、最後まで寄り添い続ける覚悟を秘めた女の顔だった。


 その表情を見て、覚悟を目の当たりにして。

 自然と胸の奥から湧き上がって来る感情があった。


(死なせたくない)


 この人達を。

 この強く優しい夫婦を守りたい。


 だからこそ、私ははっきりと言った。


「その必要はありません。私はそのために来ました」


 ルービルテ辺境候が、その妻達が、そしてツァオレンとイェンクーが、驚きに目を見開いたのを感じる。

 私はその視線の中、決意と共に宣言した。


「ナハク・ベイロンは、私が倒します」



* * * * * * *



 その後、私は害獣の群れの中で孤立しているという町と村の場所を聞き、方針を決めた。

 先ずはその町と村の救援に向かう。しかる後に渓谷に向かい、ナハク・ベイロンが渓谷に入る前に攻撃を行い、その場で撃退出来ればそれでよし。撃退出来なければ渓谷内で決着を付ける。


 あまり時間に余裕はない。

 私はそれだけ決めると、すぐに出撃準備を整えた。

 ルービルテ辺境候から神力の回復薬を受け取り、昨日用意した新たな装備である聖銀鋼製の籠手を身に付ける。


 ルービルテ辺境候の屋敷の庭で完全に準備を整えると、私は出迎えに来たツァオレン達とルービルテ辺境候達を振り返った。

 ツァオレンが私の近くまで来ると、深々と頭を下げて言った。


「あのようなことをしておいてどの口がと思われるかもしれませんが…恥を忍んでお願いします。帝国を…救ってください」


 その言葉には、本気の誠意が籠っていた。

 手段は強引だったが、彼の帝国を思う気持ちは本物なのだろう。

 自分でも酷い手段を取っているという自覚があってなお、帝国のためなら実行することに躊躇いはない。

 それもまた彼の決意であり、皇族としての覚悟なのだ。


「まぁ、その…死ぬんじゃねぇぞ」


 イェンクーがツァオレンの横に並ぶと、頭を掻きながら、そっぽを向いてそう言った。


 その姿に思わず苦笑してしまう。

 素直じゃないその態度に、懐かしい人を思い出してしまったのだ。


 最後に、ルービルテ辺境候とその妻達が静かに頭を下げた。

 言葉はなくとも、そこに込められた思いだけははっきりと伝わって来た。


 それらを受け、私はフードを被ると、一言だけ告げた。


「行ってきます」


 そして、私は一気にその場から飛び立った。


 そのまま最初の村に向かって飛びながら、私は思い出す。


 カロントの町のことを。そして、予期せぬ悲劇に動揺し、みっともなく逃げることしか出来なかった自分を。


 これから向かう先では、きっとまたあの光景を、あの声を聞くことになるんだろう。

 でも、衝動のままに飛び出したあの時とは違う。今の私には決意がある。

 もう逃げない、立ち向かう。そう、


「今度こそ…!!」


 決意を言葉にし、私は戦場に向かって空を駆けた。






~ ツァオレン・リョホーセン視点 ~



「行っちまったな」

「ああ」


 セリア嬢を見送った後、イェンはそう言うと、ぐっと身体を伸ばした。


「さぁてと、じゃあ俺らも行くかぁ」

「そうだな」


 特に話し合うでもなく、イェンが同じことを考えていたことに笑みが零れる。


「殿下?どうなさいましたか?」


 当然何のことやら分からないルービルテ辺境候が怪訝そうに声を掛けて来るが、イェンはそれに凶暴な笑みで返した。


「どうしたって…俺らも出撃しようって言ってんだよ。害獣の群れを蹴散らして避難用の道を確保しようとしてんだろ?」


 何でもないことのようにそう言うと、当然ルービルテ辺境候が慌てて言った。


「お、お待ちください!両殿下に万が一のことがございましたら、このルービルテ、陛下に顔向け出来ませぬ!」

「あぁ?気にすんなよ。ここで死ぬんだったら所詮皇帝の器じゃなかったってだけの話だ。それに…」


 そこでイェンは一瞬空を見上げると、歯を剥き出して笑った。


「あの女が…セリア(・・・)が身体張ってんだ。俺らが安全地帯に引っ込んでられるかよ」


 その言葉に、私も微かに笑みを浮かべる。


 彼女にやったことを申し訳なく思ったりはしない。

 帝国のためならば、私はどんな非道なことでもしよう。

 だが、恥じる気持ちがない訳ではない。


 本来無関係な彼女に命を懸けさせておいて、自分は安全地帯にいる程恥知らずではない。


「安心せよ、ルービルテ辺境候。貴殿に迷惑はかけない。そもそもこの町に来たこと自体、皇帝陛下の指示を無視した我々の独断専行だ。ここで我らが朽ちたとしても、貴殿が何の責も負うことはないと保障しよう」


 それだけ告げると、私は弟と共に戦場へと向かった。

予告通り、1時間後にもう1話更新します…と思ったのですが、またしても長くなってしまったので2つに分けます。

よって、2時間後に更にもう1話更新します。

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― 新着の感想 ―
呂布(?)の子孫とは思えない潔さ。 真正面からお願いしていればここまでややこしい話にはならなかったのでは?と思うけど、断られる可能性が高いのか、普通は。
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