ぶっ放せ、メリガちゃん!
遊森謡子様の『武器っちょ企画』にどうしても参加したく、勢いで書き上げました。
自分で思った以上に普通に仕上がりました……どうして。
勢いだけで走り抜けます。
お楽しみいただけたなら嬉しい気持ちです。
バジー国α-1地区優者ギルド。
朝靄漂う少し肌寒い早朝4時半。
そんなことは無関係とばかりに、俺の連れはすらりと長い手脚を惜しげなく晒して、顎をわずかに上げ、見下すようにそのドアを漆黒の瞳で見据えていた。
右手に得物を構えて。
「あのさ、こんな時間に本当にや」
パンッ!
「やるわよ」
「せめて、やる前に言って」
何事も事後報告の多い彼女は、錠前をぶち抜いたドアを右脚で蹴り開けながら当然の顔をしていた。
長いが故に高い位置で一つにまとめられた銀髪が、動きに合わせてさらりと揺れる。
右手には未だ、やっぱり当然のように得物を握っている。
俺は何も言わなかった。
事後なのだ、何も言えなかったが正しい。
その手にあるジップ・ガンが単発式であることも今さらだ。
今使ったら意味ないのに、全ては今さらで、彼女にとったら取るに足らないことなのだ。
「奴は今日、ここにいるのよね」
「うん、最上階でセッ……にゃんにゃんしてるはずだよ」
「は!?あいつが!?捩り鉢巻きみたいな面してるくせに!?セックスだと!?」
「ちょ、せっかく濁したのに」
「清いわたしに対する挑戦と受け取った!にゃろめ─────っ、許せん!」
「“にゃろめーっ”てリアルで初めて聞いたよ」
憎々しげという言葉がお似合いな顔をしたまま、すらりと長い脚はずかずかとギルドに侵入を果たす。
俺の言葉はやっぱりあんまり聞いていない。
それにしても、捩り鉢巻き……すごい例えだな。
俺としては依頼書の似顔絵を見たとき、瓢箪みたいだなと思ったんだけど。
そうか、捩り鉢巻きか。
妙に感心しつつ付いて行った自分も、大概毒されているに違いなかった。
この時点で、捩り鉢巻きが何をもって裁きの対象になったとか、そういうことは彼女の頭の中にはない。
彼女の信条は基本的には堂々だ。
その信条はTPOに合わせてあっさりと覆ること多々あれど、何はともあれ、静かに事を始めて終わらせるということは、彼女が最も苦手とすることだった。
ともかく、堂々とドアから入り、堂々と魔術式ベータを使い、堂々とペントハウスに上り詰め、堂々とドアを蹴り開ける。
バタ──ンッと威勢のいい音を響かせ開けた先では、彼女曰くの“捩り鉢巻きみたいな面”をしたオヤジが、若い娘をあんあん言わせている真っ最中だった。
……何か、俺がいろいろ泣きたい気分になるのはどうしてだろう。
「な、んだ!?お前ら──」
「うっさい!天誅!」
若い娘を上に乗せたまま動けなかった捩り鉢巻きは、自業自得に違いない。
腹上死は諦めてくれ。
バキッ!とまたも威勢のいい音がして、彼女の右手のジップ・ガンの持ち手部分が、オヤジの額にクリーンヒットした。
そうか。
「単発式とか、関係ないよね」
いつものことだというのに、どうして俺は忘れてしまうんだろう。
それもまた、いつものことなんだろうか。
彼女にとって得物は何でも構わないのだ。
結果的に相手を打ちのめしぶちのめすこと (憂さ晴らしとも言う) が出来るなら……主に、物理的に。
「捩り鉢巻きのくせに!わたしだってまだ処女なのに─────っ!ひどい!侮辱だ!」
「ちょっと、何なの?」
全く理解不能とばかりにさっさと気絶したオヤジから退いた若い娘 (この娘は玄人だ、全く動じてなかった……やっぱりよくあることなんだろうか) にそっとシーツを掛けながら、高らかに処女宣言をして崩れ落ちた彼女を遠い目で眺めていた。
彼女の名前はメリガ・チャム。
SSランクの優者である。
勇者がいたこともあったらしいが、今世界に勇者は必要なく、冒険者や賞金稼ぎなどは十把一絡げで優者と呼ばれる。
「……あんまりそういうことは言わない方がいいよ、メリガちゃん」
「メリガちゃんて呼ぶな!」
彼女の悩みは“いい男が現れない”こと。
そして、俺──ゾイ・ダルタニーの悩みは“男として眼中にない”ことである。
何でかな……幼馴染だし、誰よりメリガちゃんを (事実として) 理解してるし、今どき言わないし流行らないかもしれないけど三高 (高身長、高学歴、高収入) だし、割りと長身なメリガちゃんよりさらに高いし、顔だって美青年系でそこそこ通ってるし、メリガちゃんより年下だから長く面倒だって見れるし、優者ギルドでは同じSSランクだし、まあ……メリガちゃんには負けるけど、しつこく言えば同じSSランクなわけだし。
「超むかつく─────っ!!!!!」
早朝5時少し前。
たった30分弱で数々の術式を打ち破り蹴散らし (いろいろあったにはあった) ここまで上り詰め、見事黒幕をお縄にしたメリガちゃん (俺って必要だったのかな……) の年齢 (メリガちゃんは三十路) にしては若過ぎるライトな台詞が、ペントハウスに響き渡っていた。
──ガスガスガスガスッ!
「ねえ……頭蓋骨割れちゃうよ」
「天罰だ!」
「……そっか。ねえ、俺にしたら?」
「うわ──んっ、こんな捩り鉢巻きだって人生謳歌してるのに──っ!」
「うん……また次の機会にチャレンジするね」
ひたすらジップ・ガンでオヤジを打ち付けるメリガちゃんをやっぱり遠い目で眺めていたなら、玄人娘が「何か……がんばれ」と肩を叩いてくれた。
素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました!
【ジップ・ガン】
大半のジップ・ガンの構造は金属製の短い筒に弾丸を込め、ファイアリング・ピンの役割をする釘などの細い物で弾丸の雷管を叩き、発砲する。他の銃器に見られる大半の部品を省いた単純な作りであるため比較的簡単に製造が可能。よって単発式がほとんど。銃器に見えないよう作られることもあり、犯罪や暗殺などに使用される。