33話 堕勇と接触したんですが…
おかしかったら教えてください!
一方その頃車の中で待機している勇者たちは…
「ウゥ…うまい……うますぎるぅ!」
「うまい…あ、ケント!カレー少し分けて!」
「いやだ!久しぶりの前世の食事なんだから意地でもやらん!」
「ウゥ…ケチ!」
「ケチで結構!」
狭い車の中でボルトから金貨100枚で買った保存食を食べる勇者二人。うっすら涙を浮かべながら、一口一口大切に味わっている光景は日本だったら可哀想な子だと思われるだろう。メルは二人の食べている丼を興味深そうに眺める。
「それは勇者の故郷…『日本』の食べ物ですか?」
「そうだよ!いくらメルちゃんでもこれはあげないよ!こっちの世界では絶対に食べれないからね」
ジト目で親子丼を守るように抱えるカエデに、少し引くメル。ケントはカレーに夢中で話しにすら入ってこない。
「だ、大丈夫です。どの勇者も若いので知識が浅く、前世の料理を再現など難しいもんです。」
「そそ!神様もケチだよね〜コックさんとか転移してこないかな〜」
子供のように口を尖がらせて、カエデが愚痴る。この世界に転移してくる勇者は総じて中学生から高校生までと若く大した知識も経験もないまま転移してくるので前世の技術がなかなか入ってこない。食事もその一つで、転移者の一つの悩みでもある。たとえレシピを知っていたところで、再現が難しい
「彼は本当に勇者ではないのでしょうか」
「多分だけど、勇者じゃないよ。あそこまで幅広いスキルを持っているし職業にもついてる。アルニアさんとかと同じ現地の強者。英雄かな…」
「英雄か〜…英雄も結構人数いるよね。いつもどうやって見つけてるの?」
「英雄は勇者と同じように特殊な職種に就きやすいので、15歳の職業決定で教会から国に伝わ流とされますが、ほとんどは未来予知や神託の勇者のいる捜索班…通称S班によって15歳前には帝国で確保します。特殊スキルを所持していた場合、扱いきれず被害が起きる可能性もありますし」
「そうなんだー。んで、Z班はいつくるの??」
「あと5時間ほどで到着するようです。」
「ウシシシ…車見たら驚くだろうね。でも、軽自動車かー」
「軽自動車とはこの箱のことですか?これは素晴らしいものですね…座り心地のいい椅子です。狭いのが難点ですが…」
メルはシートや窓などを触り感触を確かめ興味深そうに眺めている。カエデは暇そうにシートを後ろに倒し寝転がる。
「まあ、四人乗りだからね。しかも、走るなんてお城にあるお宝より貴重だと思うよ?この世界じゃ、あの人以外召喚できないしね」
「メルちゃん。問題はそこじゃないよ。この車は空を飛んだ。いや、正確には宙を走ったかな?」
「それのどこがおかしいのですか?…」
「メルちゃん。僕たちの居た世界に魔力はないよね?魔力がなければ魔法もない…なのに、この車は宙を走った。その原理が理解できない。」
「そうね…何か他にも能力がある?」
「英雄ならそれもありますが…基本的にスキルは職業に引っ張られます。剣士がいくら料理練習したところで料理人より決して上手く作ることができないように」
「なら…何者なの?」
「とりあえず、敵対しないことだね。必ず後悔することになる」
それから会話もなくなり静かに黙り込む三人。そんな狭い車内にロゼの持ってきた絵本を読み聞かせるマリアの声が響く。いつしか三人もロゼと一緒に話しに聞き入った。
△
俺たちは盾を構えながら走るサリバンの後に続きながら、路地を走り抜ける。どれくらい走っただろう…やっと目の前に城の見えてきた。冒険者の気配が多いので、察するに親玉がいるのだろう。
「どうする!数が数だぞ!」
「構わねぇ!このまま突っ切る!この勢いなら相手の方が吹き飛ぶさ!」
「それもいいが、相手が身構えてるのに突進してもダメだ!アンドレス!魔法で気をそれせられるか?」
「やります!ファイヤーアロー!」
マリアが魔法を叫びながら刀を抜き振り下ろすと、多くの火でできた矢が宙に現れ降り注ぐ。迫り来るサリバンに向けていた盾を矢に向け直しているうちにサリバンが到達し、多くの冒険者を文字通り吹き飛ばした。何だろ…自動車学校で見た事故の映像を思い出す…あれはスタントマンだったけど…大丈夫だよな?…
「こっからは戦闘だ!いくぞ!」
「はい!」
「わかってらぁ!鉄壁のサリバンが相手じゃ!!」
サリバンの突進にぶつからなかった運のいい冒険者と戦うことを想定し、身構えていたが想像とは違い冒険者はこちらを見てくるだけで誰一人門から入ってくるものはいなかった。
「どうしたんだ?…」
「警戒を解くな!サリバン!」
その声と共に後ろから巨大な咆哮が轟く。とあるゲームのモンスターだが咆哮だけで狩人が吹き飛ぶというシーンがあったが、まさに今現状起きている。咆哮が風を巻き込み、声量で竦んだ体を吹き飛ばす。
俺は回転しながら距離を取り、バランスを取り目隠しを乱暴に取る
『スキル『咆哮』を入手しました』
「な、なんだってんだ…こいつは…」
「ひ、ヒィ…」
サリバンとアンドレスの驚きの声が聞こえる。俺は目隠しを取り視界に入れる。そこにはゴツゴツとした鱗、鋭く伸びた牙。その上にある鋭い眼は眼力だけで人を震え上がらせるほどの威圧を放っていた。俺は知っている。見たことはないが、日本で見たのと同じだ。
「Tレックス?だと!?」
俺がそう呟くと同時に、ティラノサウルスの足元にいた女性に気がついた。そこにはあの受付嬢がこちらを見ていた。
受付嬢はティラノサウルスの足を指先でそっと撫でると、ゆっくりこちらに歩いてくる。
「憎くて憎くてたまらない、ボルトさんじゃないですか」
「傾国のミツコ…だな」
「私のことを知っているようですね〜あ〜疲れた〜」
受付嬢は顎の辺りに手をかけると、皮を引きちぎり真っ黒な髪をした童顔の少女の顔になった。
「それがお前の本当の顔か」
「そう。まあ、あなたたちはここで死ぬしいいでしょう。あなたのせいで色々な計画がおじゃんだけど、この街には用はないって指示だし。新しいペットの遊び場にしようと思ってね。かっこいいでしょ?称号は『暴君の爬虫類』…名前は水壁君だっけ?」
「水壁!?こいつも勇者なのか?」
「え?知らないんだ〜ははは!面白い!んじゃ、よろしくね。水壁君。私は逃げたあの龍を捉えなきゃいけないから」
「待て!お前はここで捉える!」
サリバンが盾を構えながら、一気に駆け出す。しかし、攻撃が届く前にティラノサウルスが半身を翻し頑丈そうな尻尾がサリバン迫る。サリバンは急いで止まり、迫る尻尾に盾を構えるが、尻尾は無駄だというように盾ごとサリバンを吹き飛ばす。吹き飛んだその姿から、かなりの強さを理解できる。
「馬鹿!大丈夫か!サリバン!」
「他人の心配をしていられるのかしら?」
俺がサリバンの方を一瞬向いた瞬間には、ティラノサウルスの尻尾が迫ってきていた。急いで地面を蹴り上げ宙でかわすが、その頃にはティラノサウルスの逞しい足が俺の体を蹴り上げ吹き飛び城壁に体をぶつける。肺の空気が押し出され、息が苦しくなる。なんて強さだ…
「それじゃあ、私は行くね〜ばいば〜い」
そういうと、突然ミツコの目の前に黒い穴が開きそのまま中に入っていった。そしてすぐその黒い穴も消える。
残されたのは凶暴なティガレックスの勇者と俺たち…戦闘待ったなしだな…クソが。