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29話 対堕勇になるかもしれないんですが…

「忘れてた…」


「何があったんですか!説明してください!」


黒髪の少女が大きな声で叫びながら俺を睨む。それと同時に扉が強く叩かれる音が響き、俺を悪魔呼ばわりする冒険者の怒号が響く。


「カエデ…彼は人間だったのですよね?‥」


「うん!種族が人間だもん!」


「そうですか…ボルトさん。なぜこんな事になっているのですか?‥」


「俺が帰ろうとした時、後ろから来たあの剣を持った勇者が『悪魔』と呼んで襲い掛かってきた。同じく冒険者もな…どうも様子がおかしいし、無闇矢鱈に殺すわけにいかないから何とか殺さずこうしてこの部屋に戻ってきた。」


「そうですか…ということは、コウは外にいるのですね!ケント!」


「わかってます!今、写す!」


お姫様がそう叫ぶと、侵入者の少年が壁に手を触れる。すると、壁に映像が流れる。誰かの目線のようだ…


『特殊スキル『観覧者』の使用を確認しました。特殊スキルのため入手できませんでした』


ほぉ…これがこいつの特殊スキルか。勇者は皆特殊スキルを持っているようだな…なら、さっきの剣の勇者も特殊スキルがあるのか…面倒だな…

俺が黙っていると、サリバンが侵入者の勇者に聞く。


「これは?」


「これは僕の能力です。今はそれだけで…。この視点はコウ…剣を持っていた勇者の視点です」


「そうか…こりゃ、スゲェ…」


剣を持っていた勇者…コウは、剣を持って扉の前にいる冒険者たちを切り飛ばしているようだ。カエデと呼ばれた『神眼』の勇者は涙目で口を押さえている。魔物が殺されるのは慣れても、人が切られるのはきついか…


「それで、どうする?お前たちは、あいつらと会って説得できるか?落ち着かせられるか?」


「やってみなければわかりませんね」


「無理だよ…メルちゃん」


「どうしてなの?」


「映像ごしに見たけど、今いる冒険者は皆支配されてる…魔法だね…ここまで支配するとなると、かけたのは『墜勇』の可能性が高い」


「くっ…とことん邪魔をしてきますね…『堕勇』」


「やばいよ!メルちゃん!…このままだとコウが扉の前に来る!剣を持ってるし!スキルを使われたらすぐ突破される!」


ケントの映している映像には扉の前にいた冒険者たちを斬り殺し近いてきている。時間でいうと数分くらいだ。

俺は深くため息をつくと、軽自動車を実体化させる。水玉の可愛い車体だ…

二人の勇者は懐かしいと声をあげ、お姫様は突然現れた鉄塊に驚く声を上げる。サリバンとアンドレスは扉を押さえるのに必死だ。俺は車の鍵を開け、勇者一行を後部座席に座らせておく。

俺は部屋にあった本棚などを扉の前に移動させ、バリケードを作り二人を解放すると、車に乗り込むことを指示する。所詮軽自動車だ。6人も乗れないが、そこは無理やり詰め込む。

全員乗ったのを確認すると、フロントウィンドウからボンネットに『突進』と『硬化』を付与する。そして、タイヤには『空場』を付与する。


「全員乗ったな。狭いと思うが我慢しろよ」


俺は鍵をさし、エンジンをつけると、一気に壁に向かって速度を上げる。メーターでは40kもでてないがスキルのおかげか80kくらいに感じる。


「や、やめ!」

「あ、あ、あああああああああああ!!」

「…………」

「いっちまえぇぇぇええええ!!!」

「ははははは!!!」


車内は多くの声が響く。上から勇者二人にお姫様。下二つはサリバンとアンドレスだ。なぜかサリバンとアンドレは怖がることもなく楽しんでいるように思える…なんでだ?…

加速した軽自動車はそのまま壁にぶつかると、多少に衝撃はあったがやすやすと壁を突き抜けた。スキル『硬化』のおかげで傷一つ付いていない。外に出ると、街道には人っ子一人歩いていなかった。不気味だ…

街道を進むことに、ちらとバックミラーで後ろを確認すると、俺たちが突き破った穴から冒険者が出てきて追いかけてきていた。さすがに走りと、車となれば車の方が早い。すぐに見えなくなる。


「どうやら巻いたようだな…俺は行くところがある。寄り道するぞ!」


俺はハンドルを一気に回し、荒い運転で進んで行く。冒険者たちは俺を狙っていた…ということは、マリアとロゼに危害が加わる可能性がある…内心の焦りが行動に出ていたようだな…

数分で宿屋ミルクティーに着く。俺はすぐに車から降りると、『風龍乃移動術』を使いながら宿屋に入る。宿屋はいつも通りの通常運転だった…掃除をしていたマスターが転がり込んできた俺を驚いた目で見てくる。


「どうかしたのか?」


「ま、マリアとロゼは…はぁはぁ…」


「あの二人なら部屋にいると思うぞ…どうかしたのか?」


「冒険者が誰かに操られていて、俺に襲い掛かってきた…はぁはぁ…」


「なんだと!?…わかった…二人を連れていますぐ逃げた方がいいだろ!」


「マスターはどうする!?くるか!?」


「何かされるかわからねーが、俺はここに残る。」


「そうか…じゃあな!」


俺はすぐに階段を駆け上り、二人のいる部屋に着くと、扉を蹴破る。近くに居たらまずいことになっていたが、気配察知で近くに居ないことは確認済みだ。

蹴破ったことで、二人は抱き合って驚いていたが、俺だとわかるとすぐに駆け寄ってきた


「どうかしたんですか?‥その…」


ロゼも何か言おうとしていたが、あいにく心を読むほどの心の余裕はない。俺はマリアをお姫様抱っこすると、そのままロゼをマリアの上に乗せ一気に窓の方にかけ出す。ガラスの影響がないよう、足でガラスを割ると、一気に手すりから跳ぶ。マリアとロゼは必死に俺に捕まる。近くじめんに覚悟を決めながら、靴と靴下に『硬化』をかけた。ドゴっと鈍い音と共に地面が凹む。二人+俺の体重と、宿の高さで相当な力が体にのし掛かるが根性で耐え抜く。


「うぐっ…」


声が漏れたが、仕方がない。二人は状況が掴めないのか固まっている。車に駆け寄ると、マリアを後ろの席にロゼを運転席の俺の前に座らせ、車を進める。

すると、前方から先ほどの冒険者が剣を持って現れた。くそ…早いな…

バックミラーにも冒険者たちが映るので、どうも挟みうちのようだ。手詰まりだが…


「みんな何かに掴まってろよ…」


俺はアクセルを踏むながら車に魔力を流していく。すると、速度に合わせて車体がどんどん上に上がっていく。見えない道を進むようにしっかりとタイヤが空気をつかみ進んで行く。ハリーな男子生徒の映画みたいだな…

そのまま前方の冒険者たちの頭上を軽自動車が通り抜けていく。


「う、浮いてる…?」

「揺れがない…浮いているというより、空気の上を走っているみたいですわ…」


俺はそのまま上に走り続け、城壁を越えると、森の方向に走っていく。空中を進んで行くと早いな…

車を止められるほどの広いスペースを探すと、主を殺した場所がちょうど良かったのでそこに着陸する。すると、すぐにドアを開けみんなが出てくる


「狭かった…」


「当たり前だ。軽自動車なんだから」


「久しぶりに乗りましたよ。なんでも召喚できるんですか?」


「答える必要はないよな?」


「釣れないっすね〜。あ、自己紹介してなかったですね。僕はケント スズガです。17歳です。転移して1年になります。能力は『観覧者』です。詳しく話すと、頭に触れたことがある人間の視点・三人称視点が観れる能力です」


「ケント!なんで能力を言っちゃうの!?」


「だって、カエデ…この人に隠していても意味ないと思わない?それに僕たちじゃ敵わないしね。」


「カエデ、ケントが正しいわ」


「わかった…私はカエデ アマノ。ケントと同じく転移してきて一年の17歳。能力は『神眼』って言ってステータスが見える。」


「やっと、挨拶か…まあ、いいが。俺はボルト シシド…だった。能力は召喚系だ」


「ウゥ…詳しく聞きたいっすけどどうせ答えないっすよね」


「あの街はどうなると思う?…『堕勇』とか言っていたが」


「おそらく、能力で冒険者を支配したまま私たちを探しにくるでしょう…」


「そうか…能力の解除とかはできないのか?」


「使役支配系等のスキルですと、かけた本人が解くか、死ぬかですね…あれだけの人数を支配していたとなるとかなり計画的だったのでしょう。時間が経てば支配領域も広がり街全体が支配されてもおかしくありません…」


「『堕勇』の目星とかあるのか?」


「あくまで予想ですが、5年前の勇者『傾国のミツコ』ではないかと…詳しくは帝国でなければ…」


そういうと、メルはポケットから金色のライオンの像を取り出し、握る。すると、徐々に赤く発光するとライオンの口が開き年老いた老人の声が響く。てか、5年前の勇者って…勇者どんだけ呼んでんだよ…誘拐てか神隠しレベルじゃないだろ…


『どうかしたかメルよ。緊急連絡をしてくるなど珍しい』


「申し訳ございませんお父様。ターベスの街まで来たのですが、冒険者が支配されておりまして連絡を入れました」


『何?‥『堕勇』であろうな…それで、どうするつもりだ?』


「能力に該当すると思われる『堕勇』の能力を教えて抱きたいのですが」


『そっちで対処するというのだな。わかった…エリカ殿…使役支配能力の勇者で該当しそうな勇者の情報を伝えてやってくれ   


代わりました、エリカです。使役支配能力ですね…『傾国のミツコ』が2年前に行方不明になっていますね。彼女が怪しいと思います。能力名は『微笑の奴隷』、能力は笑顔を見たものは全て支配するみたいですね…男性のみですが…』


老人から代わったエリカという女性の声は綺麗で澄んだ声の聞いていて気持ちのいい声だ。

しかし、能力がわかったが…笑顔を見れば支配か…男のみ…面倒だ。


「わかりました…ありがとうございます。」


『いえ、生きて帰ってきてね。メルちゃん。』


「もちろんです…エリカお姉様」


メルがそういうとライオンは口を閉じ発光しなくなった。メルはライオンを大事そうにポケットにしまうと俺を見てくる。


「ボルト様、お願いがあります。街を取り戻すため力を…せめてZ班と呼んでいる『対堕勇』の勇者軍が来るまで…」


「はぁ…まあ、マリアとロゼがこっちにいるし…この街もお世話になったし…しょうがねぇな…」


メルは笑顔を俺に向けると、そのままくるっと一回転しサリバンとアンドレスを見つめる。アンドレスとサリバンは気まずそうにしている


「しゃー…ねえな…ボルトが行くってんなら…」

「そうですね…ボルトくんがやるなら…」


「ありがとうございます!」



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