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28話 勇者じゃないと言ったら、悪魔と呼ばれたんですが…

「失礼します」


ボルトが去った後、一呼吸置いてからサリバンとアンドレスが部屋に入る。中には折れた剣を持った真っ赤な顔の少年と固まっている少年少女。メルは冷めてしまった紅茶を飲んでいた。部屋の空気は重く、淀んでいる気がした。『怒り』『恐怖』『興味』などいろんな感情が混ざっている気がする。

サリバンはボルトと何かあったとすぐに察し、自分たちにも何かあるのでは?と警戒する。アンドレスも同じようで、目を細めている。二人はゆっくりとソファーに腰掛ける


「お待たせしました、オーガの群れの討伐の褒賞のですがとりあえず白金貨を100枚ではどうですか?」


「俺は何も問題はない」


「私も大丈夫です」


「そうですか…ボルトさんは受け取りを拒否されましたので、平等に50枚ずつお渡しいたします」


「その…なんでボルトさんは受け取らなかったんですか?」


「わかりません。では、褒賞はこれで。こっからは帝国の人間としてお話をします。お二人を帝国の騎士、魔法師に推薦したのですが受けてくださいませんか?」


メルはカップ越しに二人の目を見つめる。普段なら気づかないが、今のサリバンとアンドレスは十分警戒していたのでその目を見抜いた。欲しいのは自分たちではない、ボルトがくれた装備が狙いだと


「申し訳ありませんが、お断りいたします。この街を守るのが役目なので」


「私も同じです。」


「そうですか。では、帝王からの命令ではどうでしょう?」


「そ、それは…で、「お言葉ですが、メル様は冒険者というものをご理解していないご様子ですな。冒険者は自由なのです。ですので、帝王様からの命なら俺はこの地から出ましょう。冒険者は自由ですので、どこの国にも行けるので」


「くそやろ!たかが冒険者のくせに勇者に楯突いてんじゃねーよ!お前らなんか、俺にかかれば一瞬で殺せんだぞ!!!!」


「やめよう!コウ!どうしたんだよ!しっかりしろよ!」

「そうだよ!いつもらしくないよ!」


「ウルセェウルセェ!みんな脇役なのに…くそが…」


コウが手に持っていた折れた剣の持ち手を床に叩きつけると、そのまま部屋を出て行った。誰もそのあとを追うものはいなく、二人の勇者もコウの背中を見送るだけだった。


「はぁ…なんでこうなるのかしら…もういいですわ…先の話は忘れてください。ですが、いつでもお待ちしているのでそこはわかってください。魔王の進行を止める戦力が欲しいので…以上です」


「わかりました。考えておきます。では、失礼します」


サリバンが軽く頭を下げるとそのまま部屋を出て行った。完全に二人が出て行くと、メルは大きくため息をつきながら背もたれに寄りかかる。その顔は酷くやつれていた。


「ケント、頼みがあります。コウの見張りをお願いします」


「わかってます。すでにスキルは使用してます」


「そうですか、助かります。それで、カエデ何を固まっているのですか?」


「あの人のステータスは異常だけど正常…でも強い意味がわからない」


「どういうことです?見たことを話しなさい」


「ステータスはどれも一般的な兵士と同じでスキルも見たことないスキルがあったけどそこまでレベルは高くない…なのに、コウの剣をへし折れる…剣の耐久値の方がはるかに上なはずのに…」


「ますます彼が欲しくなりました…手に入らなくても…敵対だけはしたくありませんね…早く成長させなければ」




△ボルト視点△


俺はサリバンとアンドレスに声をかけると、そのままギルドを出て行こうとする。途中でテューガが俺を見て何か言おうとしてきていたが、話しかけてこないので無視する。ギルドにいた冒険者の連中は俺を見てくるが無視してギルドを後にしようとすると、突然背後から足音が近づいてくる。ふと、振り返ると、先ほどの大剣の少年だった。少年は顔を真っ赤にしながら俺を見てくる。

剣を折っちゃったこと怒ってんのかな…弁償?…あれいくらなんだろ…


「どうかしましたか?勇者様」


「お前は、魔王だ。勇者と敵対するのは魔族だ。俺は正義なんだよ!俺の言うことを聞けない奴は、悪!この悪魔め!ぶっ殺してやる!」


「は?…何言ってんだ?お前…」


さすがの俺もここまで脳内お花畑なやつを相手に笑顔で対応できるほど懐は広くない。俺は本気でキレた顔で少年を睨む。すると、突然奥から叫び声が聞こえる。視線を動かすと、そこにはテューガがいた。


「き、聞いたか!皆!やつは英雄なんかない!勇者さまが言っただろ!やつは悪魔…しかも魔王だ!皆!殺せ!我々の未来の為魔王を討つのだ!」


テューガの叫び声は静かなギルド内にこだまする。しばらくの沈黙の後、周りにいた冒険者が静かに武器を構える。皆武器を持つ手に力が入る。


「待て!俺は悪魔じゃない!信じてくれ!」


「皆!おかしいと思わないか!主を殺したと思ったら、すぐに森の様子が変だと報告し、ゴブリンと会話をし、オーガを討伐する!こんな立て続けに起こるだろうか!それにオーガを倒した際、この街の守護龍でもあるシャルルガ様は怪我をなさっていた!なのに、やつは無傷だった!おかしいだろ!」


俺の発言の後にテューガが叫ぶ。俺の声より大きいせいで、皆の耳にはテューガの声しか残らない。周りの冒険者たちはヒソヒソと話している…


「そうか…そうか…やはり悪魔か…許さないぞ…悪はこの俺が滅ぼす!」


そういうと目の前の勇者が殴りかかってきた。正直当たったとしてもそれほど攻撃は効かないと思うが、動きが見えるので躱す。勇者は必死に殴ってくるが全て躱す。でも、普通の人間よりは強いな…拳を出すたびに空気を裂く音が聞こえる。俺が勇者の攻撃を交わしていたせいで、周りが見えておらずバックステップで下がった所で後ろから強い衝撃が襲ってきた。見ると後ろには一人の冒険者が俺の背に袈裟懸けを仕掛けていた。そこまで痛くはないはずなのに、切られたことを意識したせいか、背中が燃えるようにいた。着ていた服は破れてしまいインナーが現れた。


「見ろ!やつの肌は真っ黒だ!魔族だ!」


誰かがそう叫ぶ。一気に周りが呼応しギルドが震える。しっかし、肌にぴったり密着するインナーのせいか…はぁ…

後ろに気をそらした瞬間、俺の顔面にものすごい衝撃を受け吹き飛んだ。


「はぁはぁ…当たったぞ…はぁはぁ…」


勇者の拳が顔面に当たった。右の視界が赤く染まる。顔面は何も付与をしていないので攻撃は通る。こりゃ、どこか切れたな…回復魔法使いたいが使い方がわからんし…マリアのところに行きたいが…このままいけばまずいだろう…

俺は必死に痛みに耐えながらとりあえず皆気絶させようかと思う…

迫ってくる勇者から気絶させようと一気に攻めるが、周りの冒険者が遠慮なく攻撃してくる。付与していない箇所に当たればさすがの俺も死ぬので、躱すとうまく勇者を気絶させられない。その間に勇者は冒険者から借りた剣を持ち俺に切りかかってくる。あー…皆殺せるなら楽なんだが…


「な、何をしてんだ!お前ら!」

「そうです!何を…ボルトさん!?」


奥から勇者との会話が終わったサリバンとアンドレスが出てきて今の状況を見て叫ぶ。すると、同時にテューガも叫ぶ


「魔族の仲間ダァ!!!!こいつらもコロセェええええ!!!1」


唾を飛ばし目を血走っているテューガはもう狂気だ…いや、待てよ?…どこかおかしい…テューガってこんなやつなのか?…

テューガの叫びに俺に迫っていた冒険者の一部は二人に斬りかかる。サリバンはライオットシールドで、アンドレスは迫る冒険者の足元に火魔法で火をつけ進めなくする。


「何をするんですか!」

「しっかりしろよ!何があったんだ!?」


「魔族魔族…」

「仲間仲間…」

「殺す殺す殺せ殺せ…」


「アンドレス!サリバン!こいつらはどこかおかしい!なるべく殺さず無力化して逃げ「逃がすかぁ!!!!」


勇者が大ぶりな拳を振りかざすが、冒険者の一部が二人に行ったので動く余裕ができたので冷静に往なし勇者の腕を掴み胸に入り込み、そのまま放り投げる。昔学生時代に習った柔道もどきだ。勇者は突然の浮遊感で、うまく受身ができず背面を床にぶつける。その衝撃で肺にあった空気を吐き出し、呼吸が浅く小刻みになる。死にはしないだろう…

勇者が倒されたというのに、誰も勇者に構わず俺に迫ってくる。

俺は冒険者たちを突き飛ばしたり、吹き飛ばしたりして道を作りなんとか二人の元に向かう。二人が徐々に冒険者に押されていたからだ。俺の与えた武具でも、殺すのは簡単でも無力化は難しいのだろう。


「俺が指示を出したら、冒険者をつき跳ばせ!そしてすぐに、室長室に戻れ!扉はあけておけ、俺が入り次第扉を閉めろ!わかったな!」


「「わかった!」」


俺はギリギリまで冒険者を引き寄せながら、徐々に下がっていく。ギリギリまで寄せたところで一気に息を吸い込み大きな声で叫ぶ


「押せっ!!!!」


俺の指示に二人はすぐに従い冒険者を押し飛ばすと、一気に後ろに駆け出す。押されてバランスを崩し倒れた冒険者たちはなおも俺たちを襲いかかろうと、倒れている冒険者を後ろの冒険者が踏みつけながら迫ってくる。しかし、冒険者の視線は一番近くの俺に向く。それと同時に実体化させる。そして地面をそっと投げると同時に俺は『風龍乃移動術』と『突進』を発動させ、投げたものが地面に着く前にすでに二人が開けてくれた扉に滑り込む。それと同時に扉がきしむほどの衝撃と爆発音と扉の隙間から眩しい光が差し込む。ドアを押さえていたサリバンとアンドレスは音に驚いていたけでそこまで影響はなかった良いだ。


「ボルト!今のはなんだ!どうしたんだ!」


「ああ…スタングレネードっていう…まあ無力化する道具だけど…何も付与してないから聞くかわからないがな…」


俺は大きく息を吐くと、その場に倒れこんだ。無駄に肩が凝った…ふと、視線を感じ奥を見るとそこには見事に目を見開いた2人の勇者とお姫様だった。


「忘れてた…」

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