27話 勇者とお話です…
「はぁ…コウ。あなたの後先考えない行動のせいで私の考えが狂いました」
「す、すまねぇ…。なんか…やっちまったみたいだな…」
俺の発言で冷静になった様子の大剣の少年は、ため息をついた少女に頭を下げる。少女はまっすぐに俺を見てくる。綺麗に澄んだ青い瞳が俺を移す。サリバンとアンドレスは未だ警戒している。
それを見ていたテューガと受付嬢は顎が外れんばかりに固まっている。金髪少女はそっと俺に頭を下げてくる。
「申し訳ありませんでした。私の名前はメル=オーシャンズ。オーシャンズ帝国の三女です。」
「こりゃ、驚いたお姫様か。ご丁寧にどうも。俺はさっき挨拶したからいいよな?」
「ええ…言い訳と捉えてもらっても構いませんので、話を聞いてくださいませんか?勇者様」
「あいにく俺は勇者じゃない。大事な話なんだろ?」
俺はそっとお姫様に顔を向けながら、目線をドアに向けると俺の考えが伝わったのか微かに微笑むと俺から視線を外す。
「申し訳ない、テューガギルド長。帝国の代表者としてお話をしますので、一度外して頂いてよろしいですか?」
「あ、あ…はい!す、すぐに!」
テューガ一瞬で背筋を伸ばしおもちゃの兵隊のように関節を曲げずに歩いていく。その後ろに受付嬢も続く。俺はそっと両隣の二人に話かける
「申し訳ないんですが、盗み聞きしないか見張ってもらってもいいですか?」
「ああ、任せろ」
「大丈夫なんですか?…特にあの子…もしボルトさんになんかあったら…」
「大丈夫です。俺ですよ?」
俺がおどけた口調で自分を指さすと、緊張して硬くなった二人が吹き出した。そして短く笑うと、そのまま席を立って部屋から出て行く。二人も聞きたかったんだろうな…さっきのお姫様が勇者って言っちゃったし…はぁ…
二人が完全に出て行くと、俺はソファーに座る。
「それで、その言い訳を話してくれ」
「はい。ここに来る経緯ですわね…この地にいた草から連絡が来まして曰く、『黒髪の男が森の主を討伐。』『黒髪の男が森の魔物たちをギルドに報告し、討伐隊を出した』『黒髪の男が森のオーガの群れを討伐』と連絡があったのです。その連絡は父上…いや、王に伝わり、王の命で私があなたに会いに来ました。」
「続けろ」
「はい。王の命は、
1、『黒髪の男は人間か魔族かを確認すること』魔族だった場合は、即時連絡と待機。人間だった場合、『英雄』か『勇者』の確認。
2、『黒髪の男の戦闘能力、能力などを確認すること』魔族であった場合、どの種族なのか。人間だった場合、能力などを調べ、有能そうなら連れて帝国に戻ってくること」
「それで、まずは魔族か確認するためにそこの侵入者を寄越したわけか」
「はい。その時の行動は把握しておりませんでした。」
「まあ、いいけどよ。ただ、調べるなら『盗聴能力』のあるやつを連れてくるとはいけすかねぇな」
「私の指示は『家に侵入し、どのような能力を使っているか。能力を使って盗聴器をつけることです』盗聴しようとしたことは申し訳ありません。」
「部屋にあったもんは、弁償してもらうからな。」
「はい。分かっております。そして、私たちは彼の報告から、あなたを『勇者』と認定したので一度会ってから帝国に連れて行くか判断しようとしました」
「はぁ…まあ、キッチンにあった調理道具や銃について報告してると思うしな。わかるか」
「それで、あなたは勇者ですよね」
金髪の少女がまっすぐ俺を見ながらそう問いてくる。俺はまっすぐ少女を見つめ、口を開こうとする前に椅子に座っていた少女が遮る。
「メルちゃん…この人は勇者じゃない…称号がない」
「なんですって!?」
「しかも、職業に就いてる…ん?『使徒勇者』?…なにこれ」
「すまない。説明してくれるか?」
俺がそう呟くと、目を見開いたままお姫様が説明してくる
「異世界人は『勇者』という称号がつきます。しかし、職種に就くことができないはずなのです…」
「そうか。だから言ったろ?俺は勇者じゃない。多分だがお前らは転移してきんじゃないのか?」
「は、はい…クラスごと転移してきました」
黒髪の少女が俺の問いに答える。弱々しいな…
「俺は元の世界…日本ですでに死んでいる。つまり生まれ変わった、転生なんだよ。そこに理由があると思う」
「死んでる…」
「逆に聞きます。あなたはその職種はなんですか?」
「俺は神様とやらに頼まれて『申し訳ない。この話は内密にお願い致します。』
俺が喋ろうとすると、突然頭にルシファーの声が響き止められた。周りの勇者が俺の続きの発言を待っているようだ
「すまない…話せない…。正直よくわかっていないしな」
「お前、そこまで行って黙るのかよ!」
大剣の少年が再び襲いかかってきたが、すぐに交わし『拳術』を付与した手袋で大剣の中腹を殴りつけへし折る。少し痛かったが、その程度で俺はすました顏で少年を見る。
「剣を壊したのは申し訳ない。これで大人しくしていろ」
「くっ…」
「はぁ…申し訳ありませんでした。それで…ボルトさま…我々と一緒に帝国まで来ていただけますか?…」
「俺は勇者じゃない。それと、嫌だ」
「それはなぜ!?」
「守りたい人間がいるし、そっちの勇者っつーんはいろんな能力持ってんだろ?そんな化け物連中と一緒に入れるか」
「その守りたい人は帝国が命の保証を確実に致します!各勇者にも絶対に手はださせません!その力をどうか!帝国に!」
「なぜ、帝国はそんなに力を求めてる?」
「それは…『魔王』と『墜勇』に対抗する力です…」
「魔王…。まあ、想像はつくな。その『墜勇』ってのはなんだ?」
「『墜勇』は神からもらった能力で、暴れている勇者です…」
「勇者を呼んでおきながら、制御できないか…笑っちまうな。この帝国以外にどんな国がある?」
「グランド王国、ソレアス国、キャスレス皇国、ベルマーダ獣王国。それと国ではありませんが規模ですとエルフの住む森も国と考えてます。それと、コーク魔王国があります…それ以外はまだ情報がありません」
「お前は堕勇じゃないんだろ!なら、帝国に来いよ!」
「なんだ、さっきからお前は上から物を言いやがって。」
「お前がいれば、俺たちはさらに強くなれる!さっきのやつらのもっていた防具はお前が出したんだろ?普通のあいつらが持ってあれだけの能力なら俺が持ったらさらに強くなれる!俺たちときてもっとその能力を生かせよ!」
「コウ!やめなさい!」
「コウ、言い過ぎだよ!」
俺は深くため息をつくと、靴下に付与した『風龍乃歩行術』を発動させ、一瞬で候と呼ばれた勇者の後ろに回ると刀を抜いて首に向ける
「本気になればお前なんて殺せる。お前が上じゃない。俺が上だ。お前は選ばれた勇者か何かと思ってるんだろうが、お前より強い人間なんて五万といる。そこを理解してから俺のところに来い。今のでわかったな?お姫様よ。帝国にはいかない。以上だ」
アンドレスもサリバンも自分が弱いということを自覚していた。なぜかなってしまったAランクという重荷をなんとか全うしようとオーガ戦に名乗り上げた。二人には覚悟があった。だから俺の力を使いたいと思った。
こいつには何も伝わってこない。
「はぁ…今更前言撤回しても無駄そうですね」
「ああ。オーガの褒美はいらないから。あの二人にあげてくれ」
俺はそういうと各勇者の顔を眺めてから、部屋から出る。部屋の外には扉で仁王立ちしているアンドレスとサリバン。
「二人とも、中に入ってくれ。それと、その装備…絶対に手放すな…特にそのライオットシールドと日本刀は特にな…」
「安心しろ。俺たちはお前との約束を守る為『証』をつけた』
「証?」
「そう…『証』をつけた武具を手放すと武具はなくなってしまう。金貨100枚でつけられるがな」
「王国金貨100枚!?その装備全てにかけたら、いくらするんだよ!?」
「これで約束を守れるならそれくらい安い物だ。それにこいつらで稼ぐからよ!」
二人は俺に装備を見せつけてくると、笑顔を見せる。俺も自然と笑顔になる
「慢心はダメですからね?…ふふふ。それじゃあ、失礼しますね」