26話 勇者と正式にあったんですが…
俺はなぜか飛び出してしまった…正直恐怖心からだったが…失礼だよな…明日謝っておこう…
考えつつ速度は落とさない。すぐにミルクティーに着くとそのまま部屋に向かう
「待たせたな!買ってきたぞ」
俺はすぐに寝ているマリアに駆け寄り、青い液体の入った試験管を手渡す。マリアの顔は一瞬キョトンとしたが、すぐに試験管を受け取ってくれた
「これは…本物です。高かったのでは?」
「そうでもないさ。早く飲んで治しな」
「はい…では…お言葉に甘えて…」
マリアはそっと試験管の栓を外し、液体を口に含む。見た目では変わったところはわからないが、マリアは目を見開いて驚いている。
「これは…すごい!こんな効果が高いなんて…『ヒール』」
マリアが魔法を使うと全身が光のベールに包まれ、さっきまで殴られたような傷があった顔も完全に治っている。魔法ってすごいな…
『スキル『回復魔法』を入手しました』
お!これで俺も回復魔法が使えるな…まあ、できればマリアに直してもらいたいが…まあ、いい
俺はベッドに腰掛けマリアに聞いてみる
「いつもあんなことをされていたのか?」
「今日はそこまででもなかったんです…回復魔法を使えるのは限られていますし恨む気持ちもわかりますから」
「恨む?回復魔法は聖職者なら使えるイメージなんだが」
「神に選ばれたもののみ使用できるそうです。なぜ私なんかが選ばれたのかわかりませんが…」
「なあ、マリア。その回復魔法を使って人を治すのは金を稼ぐためか?それとも善意か?」
「善意…ですかね。もらえるお金も少ないですし…私なんかが選ばれたのですから、しっかりと人の役に立ちたいですから。でも、もうやめようかと思います…魔力が少ないですし」
「わかった。金なら俺が稼ぐし、回復魔法で人を治したいなら俺と一緒に怪我人のところに回ろう。教会まで行けない奴らもいると思うしな。」
「はい!」
何かすっきりとした表情で笑顔を向けてくるマリア。その笑顔で俺の怒った顔もロゼの泣きそうな顔も笑顔に変わった。やはりマリアは笑顔が一番だな…教会に侵入者が部屋を荒らしたと二人に説明した。驚いた顔だったが、素直に話を聞いてくれたのでありがたい…その日の晩はマスターの作った料理を部屋まで運び3人で仲良く食べた。
寝る場所に困ったが、宿のベッドをイラスト化させ、そこにもう一つベッドを召喚しつなげベッドを大きくした。俺、ロゼ、マリアと並んで川の字だ。正直全然ねれなかった…
△
翌朝一睡もできなかった…なんでだろ…女性とベッドで寝るなんて今までなんどもあったのになんで緊張してたんだよ…思い返すと自分が恥ずかしく思えてくる。
「おはようございます!」
「ああ。朝食は付いてるから下で食事を取ってくれ。俺はそのままギルドに行ってくる。ロゼはまだ寝かせておこう…」
可愛らしい寝顔のロゼ。見ているだけで心が癒されるな…俺はそっとロゼの頭を撫でる。
正直ここに二人を残すのは怖いが、ここは冒険者なども多いので教会に戻るより安全だろう。俺は新しい装備に着替えてから、部屋を出て下に降りる。
「おお!鑑定を持つ青年。」
声をかけてきたのは真っ白な神官服をきた老人…エンシャントドラゴンのミラルだった。ミラルは大きなリュックを背負っていて、マスターと話をしていたようだ。
「おはようございます。ここを離れるのですか?‥」
「ああ。それと、若竜がすまないな。しっかりと説教をしておいたからのぉ…さて、行くとするかの」
「いえ…またどこかでお会いできるこ「安心せい。必ず、お主とはめぐり合う。力を求めるのならの」
ミラルは俺の言葉を遮ってそんなことを言ってくる。俺はまっすぐミラルを見つめると、ミラルはニカっと笑顔を見せてくる。無邪気でなんとなくこっちも笑顔になってくる。
「そうですね…俺もそう思います」
ミラルはそのまま宿から出て行く。俺はその背中を見送る。
「お前、ミラル様の知り合いなのか?」
「はい…っても、少し会話したくらいですけど」
「そうか。あの人は神官っぽいけどめちゃくちゃ強くてな…俺がまだ冒険者の時に命を救われたんだよ。っと、変な話をしちまったな。飯か?」
マスターは軽く鼻を指で触ると、はぐらかすように話題を変えてくる。元冒険者か…まあ、見た目から相当高ランクだったんだろう。鑑定を使わなくても伝わってくるし。
「いえ、飯はいいです。申し訳ないんですが、あの二人のことを頼みますね」
「お前の奥さんと子供か。わかった。この命に代えても守ってやるよ」
「奥さんでも子供でもないんですけど、お願いします。」
マスターに軽く頭を下げてから、ミラルと同じように宿から出る。宿から出た瞬間目の前の光景に驚いた。汚れていた街は綺麗に掃除され、通り過ぎる人全員が綺麗な服を着ている。挨拶も、「おはようさん」などの軽い感じだったのに、今日はなぜか「おはようございます。」など丁寧になっている…気持ち悪いな…
そうか…勇者が来るんだったな…確か俺は勇者は俺に会いたがってんだろ?…でも、テューガには一切聞いてないぞ?…あいつ何を考えてるんだ?…
俺はそう思いつつギルドに向かう。服装は一応、武器を持っていないと色々と面倒なことに巻き込まれそうなので、日本刀を腰に差し、服装はそのままだが、インナーは『防火』『防刃』『防水』と三拍子そろった分厚いシャツを着ている。血で濡れて剣が滑ってしまうことがないように、滑り止めのついた黒い手袋を装着している。靴は異世界のものだが、靴下は日本のものだ。ちなみにスキルを付与してある。
「こりゃ、もういるな」
ギルドの前には豪華な馬車が停まってあり、子供達が触ったり中を見たりと遊んでいる。そんな子供たちに混じって数人冒険者がいたが…まあ、作り的に頑丈なものだし馬車を引く馬も大きく、化け物しか見えない。
俺は馬車を横目に見ながらそのままギルドに入っていく。ギルドの中にはいつもより多くの冒険者が掲示板に集まっていた。掲示板はいつも多くの依頼書が貼ってあるのだが、今見ると3枚しか残っていなかった。これも勇者の影響か…
ふと、冒険者の集団に知り合いがいたので話しかける。
「サリバンさん。アンドレスさん。何してるんですか?」
「やっと来たか!いくぞ!」
「早く行きましょう…」
二人は俺を見ると両脇を抱えそのままギルドの奥に連れていく。突然のことで一瞬理解できなかったが、俺の驚いている表情で察したのかアンドレスが説明してくる・
「オーガ討伐の件で勇者様一行が王に変わって褒美をくださるそうなんです。迎えに行ったんですが、教会にいらっしゃらなかったので、ギルドで待っていました。」
「そうか。俺はそんな話一切説明受けていないだが…これは責任問題だな。」
「ええ。私からも言っておきます」
「今日のアンドレスは頼もしいな」
二人に担がれた俺はそのままギルド長室に入る。中には黒髪の少年たちが3人に同い年くらいの金髪の少女が一人。見たことがあるガキがいるので、おそらくこいつらが勇者一行だろう。侵入者のガキが俺を見ると、笑顔で手を振ってくる。その隣には俺のことを睨んでくる背丈ほどある剣を担いだ青年が睨んでくる。もう一人の黒髪の少女は机の上にあったお菓子を頬張っている。金髪は優雅に紅茶を飲んでいた。
「お、おお!遅いじゃないですか!ボルト君」
「どっかの誰かさんが教えてくれればよかったんですがね。まあ、いいでしょう。それで、褒美をくれるんですよね?」
「ま、まずはお話してからだそうです…さ、さあお座りください。」
テューガが俺の顔を見て引きつった笑顔を作る。軽く睨みながらテューガの進める勇者の向かいのソファーに腰掛ける。俺が真ん中に、右にアンドレス。左にはサリバンだ。皆、サリバンとアンドレスの装備を見て固まっている。まあ、どうせばれることだ。俺が黙っていると、紅茶を飲んでいた金髪少女がカップを置く。
「挨拶はしてくださらないのかしら?」
「ヒャ、ひゃい…わ、私の名前は…アンドレスです…ま、魔法使いです」
さっきまでの態度はどうした、アンドレス!と突っ込みたくなるほど、小さな声で挨拶するアンドレス。
「私の名前はサリバン・オールバックと申します。」
キラと輝く歯を見せながら微笑むサリバン。あー…こいつロリコンだったな…でも、さすがに勇者は落とせないだろ…さっきまで俺を睨んでいた大剣の青年がサリバンを睨んでいる。まあ、本人は少女二人に夢中で気づいていないがな
「俺はボルトだ。一名ほどは先日あったがな」
俺がそう言うと、お菓子を食べていた少女が食べ終わったのか、俺をジッと見つめてきた。
『特殊スキル『神眼』の使用を確認しました。特殊スキルのため入手できませんでした』
ほぉ…特殊スキルとは…それにしても、名前的に鑑定と同じ意味だろうな。しかし、失礼だな…おそらくバレないとでも踏んでいるんじゃないか?しかし、思いっきり目を動かしているせいで読んでいるのがバレバレだ。
「勝手にステータスを読むの失礼じゃないかな?」
俺がそう言うと、大剣の少年と侵入者、ステータスを読んでいた少女も目を見開いて固まる。金髪の少女はカップを取りゆっくり中身を飲む。
「カエデ、目で追ってはいけないと言っているでしょう…はぁ…」
「ご、ごめん…」
「それで自己紹介をしたんだから、そっちの番では?」
俺がそう言うと、突然大剣の少年が立ち上がり、目にも止まらぬ速度で大剣を振ってくる。俺がかわそうと動く前に、左がわから動く気配がしたので、俺は動かないことにした。俺の頭上にはライオットシールドが現れ少年の剣を止めていた。右には日本刀を構えいつでも抜けるようになっているアンドレス。
二人とも、たった数日で何があったのぉ!?
「勇者様!?」
「突然何をなさるのですか?…勇者様」
サリバンが低い声でそういうと、ステータスを見ていた少女が驚いた顔をする。俺はシールド越しに剣を振った少年の顔を見ると、顔を真っ赤にさせていた。
「お前のスキルを詳しく話せ!そうしたら、仲間に入れてやる!」
少年がそう叫ぶと、金髪の少女は頭を抱えてため息をつく。明らかに考えていたことは違ったようだな…。どう見ても他の勇者たちは驚いているので、剣の少年の行動なのだろう…
「コウ。剣を納めなさい。はぁ…あなたは何てことをしたのよ」
「しかし、こいつはケントがスキルについて聞きに行っても素直に答えなかったんだろ!?」
「勝手に家に上がり込み、部屋をめちゃくちゃにした人間に素直に話す人間はいるのでしょうか?」
俺は一番話が分かりそうな金髪の少女に話しかける。