24話 教会なんですが…
俺はとりあえず教会から出て宿屋のミルクティーに向かう。走って向かう。全速力で。部屋にいた勇者の仲間は皆いなくなっていた。
勇者とか言っていた男がロゼの元に向かう可能性もあると思うからだ。しかし、あいつは個人で動いたのか?…お姫様には内緒でと言っていたし…他の勇者は俺に会いたがっている…か…あったら会ったで面倒だと思うんだが…とりあえず明日本人に聞いてみよう…
さて、ここでネタバラシといこう。なぜ俺は拳銃が当たっても怪我をしなかったのか…いや、そもそも服に穴すら開かなかったことだ。家に置いてあった拳銃は一切付与をしていない。最初に発注したままだ。それでもlv10の拳銃はかなり強いのだが、俺の服も同等のレベルの上にスキル『硬化』が付与してあるので、撃った弾丸は貫通できずひしゃげ地面に落ちた。まあ、痛いのだが『しっぺ』くらいの痛さなので耐えられる。
「はぁはぁ…ロゼ!」
宿屋の扉を蹴り開け、転がりこむ。中を見回すと、カウンターでちびちびと何かを飲んでいるロゼの姿があった。宿屋にいた客は武器を構えて俺を睨むが、無視してロゼを後ろから抱きしめる
「よかった…よかった。」
「どうしたってんだ?お前がそこまで焦るってことは相当なことなんだろうな…」
マスターがカウンターごしに俺に問いかけてくる。表情に余裕はなく、まっすぐ俺を見てくる。俺はロゼを抱きしめながらマスターを見つめ返す
「ああ。家に誰かが入ったようでな。そうだ、今日はここに停めてほしい」
「わかった。お前が使ってた部屋が空いてるからそこを使え」
俺はポケットから金貨を数枚取り出すとそのままカウンターに置く。一瞬マスターの表情が険しくなったが、驚いているだけだろう。俺はロゼの手を引いてそのまま宿から出る。ロゼはまだ、コップにあったジュースを飲みたそうにしていたが後でもう一度買ってあげることを条件に諦めてもらった。
「なあ、ロゼ。マリアはどこで冒険者の治療をしてるんだ?」
『あっちの教会…』
あっちとは冒険者ギルドがある方向だ。ロゼは言いにくそうな表情で指をさす。何かあるのか?…
教会…ああ、あの最初に子供たちが多く遊んでいて学校と間違えた教会か…俺はロゼを抱っこするとそのまま走り始める。先ほど服に『突進』を付与したのでかなりの速さで走ることができる。ロゼをおんぶしたまま『突進』を使うと、揺れがひどいので、なるべく揺れないようにできる抱っこにした。もし今一般人に当たれば吹きとばしてしまうと思うので場所の通るので、比較的人が少ない道の中央を走る。ロゼの楽しそうに満面の笑顔だ。怖くはないのか?…時速60は出てると思うぞ?…まあ良いっか
「はぁはぁ…ついたな。ロゼ、ここでいいんだよな?」
ロゼが大きく首を縦にふるので、確かなのだろう。気配察知でもやはりマリアの気配が中からする。
俺は空いていた大きな入り口から入る。すでにロゼはおろしてをつないでいる。
中はとても広く、ステンドグラスには十字架と牙の生えた男の頭を掴む血まみれの老人だ。あれがこの教会の宗派の神様なのかな?見たことないけど。中は木製の長い椅子が並び俺の考えてる教会ってやつそのものだ。そこにニコニコと老人と話しているシスターがいたので話しかける。シスターは年を取っているが、目には若々しさがあるな…
「お話し中申し訳ありません。ここにマリアという女性がいると思うのですが、どこにいますかね?」
「では、また明日もお待ちしております。どなたでしょうか?…」
「失礼しました。ボルトと申します。」
シスターは俺にバレないよう視線を泳がすふりをして、上から下まで舐めるように見てくる。見終わると、今度は明らかに作った笑顔を俺に向けてくる。気持ちの悪いババァだ…
「これはこれは…英雄様ではありませんか?ご用事はなんですか?」
「彼女を一度返していただけませんか?」
「申し訳ありません。マリアという女性は今日は来ていないのです」
態度が打って変わって、作った悲しそうな表情で俺に頭を下げてくる。いない?…ならなぜ最初に用事を聞いた?…俺はどうもこのババァの態度が気になる。すると、ロゼが俺の袖を引っ張る。俺はふと視線を下げロゼの目を見ると精一杯何かを口を動かしている。
『マリアさんはあっち!』
言葉はなくても心を読んだので、伝えたいことがわかる。もう一度シスターに顔を向けると、シスターはロゼを見て一瞬ものすごい形相になったが、言葉を発せないとわかると気色の悪い笑顔をロゼに向ける。
「失礼する。」
俺はババァを押しのけ、気配察知でマリアの元に向かう。周囲にいた教徒たちは俺を凝視してくるがそのまま無視だ。
傍にあった扉に向かっていくと、多くのシスターが俺を止めようとしてくるが余計怪しくなってくる。俺は一人ひとり怪我をしないようにどかし、扉に手をかけ開く。
そこにはボロボロな姿のマリアが地面に土下座をしていた。そのマリアの周りには三人のシスターが蹴りを入れている場面だった。一瞬目の前の状況が理解できず、固まったがすぐに意識を戻す。そしてゆっくりと中に入る。蹴っていたシスターたちは誤魔化すように俺に笑顔を向けてくる。マリアは未だ地面に額を擦り付けている。そっと膝をついてマリアにつかづく
「何をしているんだ…マリア…」
「こ、この声は…」
マリはすぐに頭を上げ俺を見てくる。殴られたのか顔が青くなっていたり、赤くなっていたりだ。酷い状況だと医療について何もわからない俺ですらわかる。
「私の魔力が少ないため…多くの冒険者の方を治療できなくてですね…その…」
「それで、何でそんなマリアが治療を必要とするほどの状態なんだ?」
俺がマリアにそう問うと、マリアより先に蹴っていた三人のシスターのひとりが口を出してくる。
「これはこれは!英雄さまぁ〜!そのですね…この女の魔力が足りないせいで多くの冒険者の方が治療できず皆さん帰られてしまったんですぅ…困ったものですよねぇ〜」
甘ったるい声で俺に笑顔で接してくるシスター。残りの二人も俺の体を触ったりしてくる。
「私は…家に帰るまでには自分を治療できますから…その…大丈夫で
マリアが俺の顔を見て笑顔で言ってくるが、言い切る前にその顔は再び地面に押し付けられる。マリアの顔には喋っていたシスターの足がある。マリアはそれでも笑顔を見せてくる。おそらく泣きそうなロゼを心配させないようにだと、思うが逆効果だ。
「あら?いつ顔を上げていいと言ったのかしら?英雄様を見るなんて恥さらずねぇ〜ね?英雄様〜」
シスターは俺の目を見つめながら甘ったるい声を出す。俺は体を触ってくる二人のシスターの手を払いのけ、マリアの顔を踏んづけているシスターを見つける。
「その足をどけてくれるか?…」
「え?…」
「退けてくれ」
シスターは目をキョトンとさせながらも足をそっと退ける。そのままロゼの足と肩を抱き、お姫様だっこで持ち上げる。突然のことでバランスを取ろうとマリアは俺の首に手を回してくる。俺は何も言わず三人のシスターを睨むと部屋から出て行く。ロゼは舌ベラを思いっきり出して、すぐに俺のズボンを掴んで一緒に歩く。
出口近くに、一番最初に声をかけたシスターが苦虫を潰したような表情で俺を睨んでくるが、俺も睨み返しながら教会から出て行く。そしてあのシスターに聞こえるほどの声で呟く
「次に手を出したら…お前たちが次のオークになるぞ…」