16話 オーガの群れの討伐隊なんですが…
いろいろ入手したので、もうすぐ戦ってもらいますよ
俺の目の前に両手を広げ立ちはだかる肌の黒いゴブリン…
「ギィー!!」
「お前は、あの時の。どうしたんだ?」
ゴブリンの目を見ると、何かを伝えたい目をしていた。俺は何度も就職面接に行きまくったからわかる。俺も、自分という存在を必死に伝えたかったからな…その時と同じだ
俺はまっすぐゴブリンの目を見つめる
『ニンゲン、ヤメテクレ!ツウジロ!タノム!』
かすれた少年のような声が頭に響く。どうやら、『心読』が発動したようだ。
目の前のゴブリンは体が震え、よっぽど怖いのが伝わって来る。恐怖の中、それでも俺の前に立ちはだかる…何か理由があるのだろう
「言ってみろ。聞いてやる。」
俺はそう言うと、持っていた金槌を下ろした。ゴブリンは一瞬大きく瞳を開くと、すぐに喋り出す?…鳴き出す。必死に手を動かし、鳴き叫ぶ。
『ツウジテルノカ?イヤ、カマッテイルジカンハナイ。ヤルシカナインダ!イマ、コノモリニハ…ヌシガイナイ!ヒダリノモリノマジュウガ、セメコンデイル!タスケテクレ!』
ゴブリンが必死に話している内容は分からないが、思っていることはわかった。どうやら、ゴブリン達にもそれなりの事情があったようだな…
「その魔獣ってのはなんだ?」
俺がゴブリンに問いかけると、ゴブリンは大きく頷いてまた鳴く。その時、一人の剣士が剣を振りかざし、目の前の黒いゴブリンに斬りかかる。あまりに突然なことで、俺も動くことができず…また黒いゴブリンも反応できていなかった。
「ゴブリンがぁーー!死ねぇ!!」
ゴブリンは死を覚悟したのか目を閉じる。男の剣はそのまま振り下ろされていく。まずい!ここでこいつを殺されたら…!
俺は腰袋から銃を取り出し、目の前の男に発砲する。発射した弾丸は空気の刃を纏い、男の振り下ろした剣にあたり剣をへし折る。
バンっ…グサ…
折れた剣が空中で何回か回転し、地面に刺さる。男は折れた剣を構えたまま固まる。突然鳴った乾いた破裂音…さっきまで騒がしかった戦場が嘘のように静まり返る。皆俺を見る。
銃口から若干出る煙を息を吹きかけ、皮袋にしまう。
「な、な、なんだよ…今の…」
「すまない。脅かした。おい、そこのゴブリン。他の奴らに俺らは危害を加えないから、おとなしくしてろと伝えろ」
「ぎゃ…グアア!」
黒いゴブリンは、大きく頷くとその場で大きく鳴く。相変わらず何を言っているか分からないがすぐにゴブリンが黒いゴブリンに集まってくる。イノシシやシカもクマも同じく集まると、黒いゴブリンが捲したてる。数分後、すべての魔物が膝をついてうずくまる。黒いゴブリンはひざ立ちの状態だ。どうやら話はまとまったようだ。
冒険者たちはどういう状況か理解できていないのか固まったままだ
「ギャァ!グルギャ!!ギャア?」
『アツメタ!キガイヲクワエナイ!ドウスルツモリダ?』
「それで、お前たちは誰に責められている?」
『コトバガ、ツウジテイルノカ!ソウダ!ヒダリガワノマジュウ…オーガガ、セメテクル!モウ、タクサンノナカマガクワレタ!』
「そうか。ちょっと待っていろ」
俺はそういうと、振り返り後ろで固まっている冒険者たちを見る
「おい!みんな!左側の魔獣?のオーガってやつが攻め込んでいるらしい。だから、こいつらは近くにやってきたそうだ!」
「どういうことだ?…あいつ」
「魔獣としゃべれるのか?…」
「今、オーガって言わなかったか?…」
次々に冒険者がこそこそと会話をしていく。そんな中、一つの叫び声が聞こえる。
「ここから左側…かなり魔素が濃く、魔物も凶暴な森だ!オーガはその森で多く住む魔物だ!」
声の主のところを見ると、そこには真剣な目で俺を見るサリバンだった。サリバンと目があうと、サリバンは俺に向かって大きく頷く。俺もうなずき返す。すると、もう一つの声が聞こえる
「オーガは一体で金貨3枚のランクB指定です!それで、このゴブリンさんたちは…逃げているということでいいんですか?今の状況から抵抗はしないんですね?」
女性の声…ふと声の主を見ると、そこには杖を両手で握ったアンドレスさんが見ていた。怖いのか身体中を震わせているが、彼女の性格から見てさっきの大声はかなり勇気が要っただろう
「そうですか!このゴブリンたちは決して人に危害を加えないことを誓わせます。そして、俺はオーガを討伐したいと考えます!一度街に帰り、オーガ討伐の計画を立てます。」
「だ、だが…」
「こいつらが攻めてこないなんてわかんねーだろ!」
「お前何様だ!オーガ?勝てるわけねーだろ!」
こそこそと話していた冒険者たちが一気に騒ぎ始めた。大きい声で俺を罵倒してくる。あああああ!ウッセーな!
バンっ!
皮袋から銃を取り出し上に向かって発砲した。その激しい破裂音に再び冒険者たちが黙りこむ。
「一度街に帰ります。異論は認めません。反論があるのなら…」
銃を水平に構え、近くにあった大木に発砲する。打ち出された弾丸は風の刃を守って木を切り裂く。太かった大木はゆっくりと倒れていく。
「いえ、反論は認めません。戻ります。」
冒険者たちはそれ以上しゃべることはなくなった。俺はそっと振り返ると、黒いゴブリンを見る。
「グジャ?」
「仲間に指示を出して、隠れさせろ。お前は俺とついてこい」
「ギャァ!?」
「異論は認めない。お前もだ」
「ギャア…」
俺がそうやってゴブリンに睨め付けると、ゴブリンはおとなしく他の魔物に指示を出していく。黒いゴブリンが話すと他の魔物が頷く姿はどこか愛嬌があった。
しばらくして話終わった黒いゴブリンが俺の近くにやってくる。
「よし、戻ります!サリバンさん、先頭についていってください」
冒険者たちは黙って俺の言う通り、サリバンさんに続いて街に帰っていく。
面倒なことになっちまったな…
△
「帰ってきたぞー!!」
「やった!みんな無事だ!」
「これで平和に暮らせる!やった!」
街はお祝いムード全開で冒険者ギルドまで多くの見物人が拍手を送りってくる。なんか嫌な感じだが、仕方ない…
冒険者ギルドに入るとテューガを含む冒険者ギルドのギルド員が集まっていた。その中にシャルルガとグラスの姿もあった。
「テューガさん、ここで報告があります」
「おめでとう!皆のおかげで街は平和になった。」
「その報告ですが、主が死んだことで左側の森にいたオーガがこっちまで来ているそうです」
「な、なんだと!?待て、どういうことだ!?」
テューガがそういうと、俺の胸ぐらを掴んでくる。俺は何も抵抗しない。すると、角で見ていたシャルルガゆっくりと近づいてくる。いや、俺の隣の黒いゴブリンにだ。
「おい、貴様…こいつは何だ…」
「こいつが教えてくれたんです。な?」
「ギャァ!…」
シャルルガはまっすぐゴブリンを見つめる。黒いゴブリンは身構えながらもシャルルガを見つめる。しばらく見つめあう二人…周りはそれどころではない。
「あれって…シャルルガ様じゃないか…」
「シャルルガ様だ!なぜ、このようなところに!?」
「おお、何て美しいんだ…」
シャルルガの話で持ちきりだ。シャルルガって珍しいんだな…まあ、何か助かった気分だ。シャルルガはそっと口を開くと「グルゥ」と喉を鳴らした。
『スキル『念話』を入手しました』
どうやら念話で話しているようだ。いいスキルを手に入れたぜ…これでこいつと会話しやすくなったな…それにしてもシャルルガ何を話しているんだ?…しばらく見つめった両者は先にシャルルガが目をそらし俺を見ると鼻で笑ってきた。その後、シャルルガはゆっくりとカウンターに乗り上がり冒険者たちを見下ろす
「おい、貴様ら。事情は全部そこのゴブリンから聞いた。お前たちはクエスト失敗ではない。事情が変わったのだ。これ以上、誰かを恨むようなことはするな。特に、そこのガキをだ。わかったな?」
「おい、シャルルガ!どういうことだ?ゴブリンは倒せたのか?」
「黙れグラス。ゴブリンは倒せていない。主がいなくなったことでオーガがゴブリンたちの領土に侵入し、ゴブリンやらを食い漁ってるそうだ。どっちみち、ここにもオーガの群れがやてくるだろう」
「オーガの群れだと!?」
「ああ。このゴブリンの話だと、最初はオークが襲ってきたが、そのオークを追ってオーガが来ているようだ。」
冒険者たちがどんどん顔を青ざめていく。状況が状況らしいな…ゴブリン…主を殺したのは俺ってことになっている…つまり俺に責任があるのか…
「仕方があるまい。私が出よう。オーガなんぞ一人で十分だ」
「俺も行きます。いや、行かせてください!」
シャルルガが俺を見てくる。俺はまっすぐシャルルガの目を見る。
「ふん。勝手にしろ…」
「俺も行くぜ。」
「私も行きます…」
後ろを振り返ると、そこには銀色の巨大な盾を構えたサリバン。杖を構えて俺をまっすぐ見つめるアンドレス。シャルルガは二人を見ると、軽く口角を上げ笑う。
「勝手にしろ。」
「Aランクなんだ。意地を見せてやるぜ!」
「私もAランクの端くれ…ここで散っても。この街に恩返しできるなら」
二人が真剣に俺を見てくる。俺は少し嬉しくなり、にやける気持ちをバレないよう必死に隠す。すると、テューガがまっすぐ冒険者たちを見つめる。
「わかった。今から指名依頼とする!Aランク『鉄壁』のサリバン。同じくAランク『蒼炎の魔女』のアンドレス!AAランクのボルト!」
「「「はい!」」」
名前を呼ばれた三人は冒険者たちの集団から一歩出て、テューガを見る。
「シャルルガ様と共に、森にいるオーガを含むこの街にとって害のあると思われる魔物の討伐を依頼する!また、指名依頼のより、拒否権はない。認められたランクの通り、自分たちの実力を発揮しターベスの防衛を頼む!代わりに、全力で街は君たちを支援する」
「「「はい!」」」