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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第一章:少年はすべてを思い出し回復術士になる

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プロローグ:回復術士は、やり直す!

 回復術士は癒すしか能がないと決めつけていた。
 一人では何もできない存在だと認めてしまった。
 誰かに依存しなければ戦えない。そんな存在だから利用された。
 利用され続けて、こんなところまで来た。
 過ちに気付いたところで、もう遅い。俺の人生は終わっていたのだ。
 だからやり直す。
 息をひそめろ、俺が正気に戻ったことを知られてはいけない。愚鈍なふりをする。最後の最後に勝利するために。

 ◇


 最果ての地。
 漆黒の世界。
 荒涼たる大地。
 そこで俺たちは、魔王と対峙していた。
 人類の敵にして、最強最悪の存在。
 それは、少女の形をしていた。銀色の髪に血の色をした瞳。
 細見の体を黒い煽情的なドレスで包み、堕天使の黒い翼をはためかせていた。

「人間ども! 貴様らは死の大地まで、最後に残った我らの安息の地まで奪おうとするのか!?」

 彼女は息を荒くし、白い肌には無数の傷跡が刻まれ、血が滲んでいた。
 対するは、人類の希望。世界各国の勇者が集った最高のパーティ。
【剣】の勇者ブレイド。金髪碧眼の引き締まった体を持つ美青年。携えるのは宝石をあしらった両手剣、神剣ラグナロク。
【砲】の勇者ブレット。茶髪黒目の大男。携えるは、魔力を弾丸にして吐き出す。白銀の大筒、神砲タスラム。
【術】の勇者フレア。桃色の長い髪と瞳を持つ美少女。彼女は勇者であると同時に王女でもある。携えるは世界樹で出来た神杖ヴァナルガンド。
 そして、この俺。【癒】の勇者ケアル。
 俺は素手だ。勇者の中で唯一【神装武具】を持っていない。

「ブレット、引き続き砲撃を。魔王を休ませないでください。私が大技を撃つ隙を作って」
「あいよ。任せときな」

【砲】の勇者ブレットが、神砲タスラムから絶え間なく魔力弾を撃つ。
 勇者の砲撃の威力は最上級魔術である第五階位魔術に匹敵し、さらに連射が可能だ。しかも一発一発が違った軌道を描く。
 魔王は舌打ちし、翼をはためかせて回避するが逃げ道を塞ぐようにして、回り込んで来た弾丸が直撃する。
 その間に、【術】の勇者フレアが詠唱を行い、魔力を高めていく。

「お待たせしました。第七階位魔法【ミョルニル】」

【術】の勇者たるフレアは、必殺の魔法を放つ。
 半径数メートルの魔法陣が五層展開された。
 第七階位魔法【ミョルニル】。
 人間の限界と言われる第五階位を二つを超えた【術】の勇者のみに許された神代の魔法。
 空から、まっすぐに雷が落ちる。あまりの高電圧にプラズマ化し、絶え間なく降り注ぐ雷はまるで光の柱のようだ。
 魔王は回避を諦め、全力で結界を上空に展開し光の柱を受け止める。

「とどめ、お願いしますね。ブレイド」
「任せておけ、神剣ラグナロクに光が満ちた。この僕が止めをさす!」

【術】の勇者フレアの声を受けた、【剣】の勇者ブレイドが走る。
 神剣ラグナロクは勇者の聖気を吸い取り白く輝く。
【ミョルニル】の雷を防ぐのに手一杯な魔王はなすすべもなく切り裂かれるだろう。勇者たちはそう確信する。
 だが……。
 魔王が表情を険しくし、口を開く。

「舐めるな!!」

 勇者たちの考えは甘すぎた。
 魔王の堕天使の翼から羽が舞い散る。
 その一体一体が、堕天使型の魔物となる。
 堕天使たちは【剣】の勇者ブレイドに襲い掛かった。
【砲】の勇者ブレットがブレイドを援護するために砲撃を繰り返すが、さすがは魔王の分身、勇者の弾丸をも回避し、たとえ直撃しても一撃では落ちない。
【剣】の勇者は必死に剣で堕天使たちを振り払うが、一体切るごとに神剣ラグナロクの輝きは薄れ、五体目の体に突き刺さったまま抜けなくなった。
 その次の瞬間には四方から切り付けられ、血を流し慌てて後退する。
 それだけではない。魔王に降り注いでいた【ミョルニル】に黒い光が混じり始めた。

「人間ども、これが魔王の力だ!!」

【ミョルニル】の雷が完全に黒く染まる。そして、雷が下から上にのぼり、再び落ちる。
 雷の向かう先は【術】と【砲】の勇者。
 魔王が魔術を防ぐのではなく、魔術を奪ったのだ。
 神代魔法を奪う。人知を超えたさらに先にある領域の絶技。

「きゃああああああ」
「ぐああああああ」

 魔力抵抗の高い【術】の勇者フレアは重症。【砲】の勇者は焼けつき絶命した。
 あと一歩で魔王に打ち勝つ。その状況で勇者パーティは壊滅的な状況に追い込まれた。
 無傷なのは、【癒】の勇者たる俺だけ。

「おい! 愚図、さっさと癒せ。エリクサーはもう尽きたんだ。おまえはそれしかできないんだから、はやくしろ!!」

【剣】の勇者は俺に向かって叫ぶ。
 だが、俺はそれを無視する。
【剣】の勇者は憤怒に顔を染めて、再び叫んだ。

「無視すんなよ。そのために生かしてやったんだ」

 同じ勇者だというのに、【剣】の勇者は圧倒的に俺を下に見ていた。
 それも仕方がない。
 そもそも勇者は強すぎる。滅多に負傷しないので治癒はいらない。
 そして、エリクサーという”部位欠損以外”、ありとあらゆる傷を治す最高のアイテムがある。
 エリクサーは貴重なものとはいえ、勇者パーティのためならと、世界中が集めて献上する。
【癒】の勇者は、【回復ヒール】しか使えない。
 エリクサーがあれば、【癒】の勇者はいらない。エリクサーの節約と、エリクサー切れのときのための予備。それが俺だ。

「おい、聞いてんのかクズ、薬で頭がパーになったのか!?」

 薬という言葉を聞いて、つい自嘲の笑みを浮かべてしまう。
 そう、俺は重度の薬物中毒者だった。
回復ヒール】には致命的な欠陥があった。
回復ヒール】とは、相手を正常な状態に戻す魔術。
 つまり、相手のことをすべて知らないと使えない。なにが正常かは相手によって違うし、その肉体に染み付いた経験をも再現が必要だ。

 そのために、この魔術は術者に【回復ヒール】する対象の経験すべてを一瞬で叩き込み、その人物を理解させる。
 想像を絶する苦痛、自分の中に他人が入り込む恐怖。
 まともな神経では耐えられない。
 事実、俺は一度逃げ出したんだ。この力を使いたくなくて。

 だが、結局捕まり、薬漬けにされて恐怖も痛みも失い、極度の薬物中毒にされ、薬のために喜んで【回復ヒール】を使うように調教された。自我は壊れ、ただの家畜にされてしまった。
 原則として、回復術士は自らを癒せない。薬に蝕まれ、壊れ、自分が誰かすら忘れ、壊れたことに気付けない愚図となり果て、俺は利用され続けてきた。

「だれが、おまえなんか癒すか。死んでろクズが」
「おまえ、まさか、意識が」

【剣】の勇者が驚きの声をあげる。
 無理もない。こいつとは三年以上の付き合いになるが、こいつと初めて会ったときにはすでに俺は壊れていた。その間、機械のように命令を聞くだけの人形だったのだ。
 二月まえに、俺はようやく【薬物耐性】スキルを後天的に得て正気を取り戻し、さらに【回復ヒール】の熟練度があがり自分を癒せるようになっていることに気付いた。

 薬に蝕まれた体を癒したあとは、正気に戻ったことを気付かれないようにしながら、牙をひそかに磨き続けていた。
 今日、この日のために。
 俺は走る。目的は魔王だけだ。
 俺が魔王を倒して、あれを得る。

「バカか、死にたいのか、おまえに戦う力は!」

【剣】の勇者ブレイドの叱責を聞き流し、魔王を一直線に目指す。
 無数の堕天使たちが俺に向かってくる。
 だが……、恐れはない。

「遅い」

 俺は堕天使たちの攻撃を紙一重で躱しながら、突っ走る。
 それを可能にしたのは純然たる体術。
 人間に許されたもっとも効率的な動き。
 俺は、今まで無数の人間を【回復ヒール】してきた。
 無数の人間のすべてを経験し、その技術を自分のものにしている。その中には武術の達人も存在した。
回復ヒール】の副作用は、ただの副作用ではなく俺に力をもたらした。
 俺の動きは、【剣】の勇者すらしのぐだろう。
 これこそが……。

「【模倣ヒール】」

 正気に戻ったときは驚いたものだ。
 なにせ、俺の中に無数の知識が、技能があった。
 何人もの達人、何人もの賢者、その力が俺の中にある。
 あまりにも速すぎる俺を見て、堕天使たちが黒い光を纏った。【強化術式エンチャント】。
 堕天使たちの速度が跳ね上がる。その状態での全方向からの同時攻撃。
 俺は舌打ちした。
 最適な行動をとったとしても、今の俺なら回避不可能。どう動こうかが物理的に避けられない。詰んでいる状態。
 なら、素の力を上げるしかない。

「【改変ヒール】」

 俺は、【改変ヒール】を使う。
 本来、【回復ヒール】とは対象を正常な姿に戻すという変化を与える魔術だ。
 変化させることができなら、もとの姿ではなく望んだ姿にすることもできる。

 俺は、この瞬間【改変ヒール】により、戦闘に適した体に己を書き換えた。
 それにより、身体能力が急激に上昇し前の俺では回避不可能だった攻撃を避けてさらに魔王に肉薄する。

「さすが、魔王の眷属だ。しつこいな」

 これだけ躱しても堕天使たちは諦めてくれないようだ。
 堕天使たちが一か所に集まり、合体した。
 巨大化はしないが、密度がありえないほどに高まっている。圧倒的な存在感。

 堕天使が上昇し、急降下しながら拳をふりあげる。
 だが、恐れはない。殴りかかってきた腕をつかむ。そして……。

「【改悪ヒール】」

 魔術を起動する。
 もとに戻すことも、望んだ姿にすることもできるなら壊すことも容易い。

 生物の体はひどくもろい。繋がらないはずの血管をつなぐだけ、脊髄と脳を切り離すだけ、そんな些細なことで壊れる。
 だから、壊れるように【改悪ヒール】する。
回復ヒール】の恐ろしいところはありとあらゆる耐性を無視することにある。

 生物が本能的に【回復ヒール】を受け入れる。
 つまりは、防御無効の一撃必殺だ。
 堕天使が崩れ落ちていく。
 魔王が、俺を見て恐怖に目を見開き、声をあげる。

「貴様はなんだ」
「【癒】の勇者ケアル。ただの回復術士だ」

回復ヒール】はただの癒しではない。
 そう気付いた瞬間、景色が一気に開けた。
 癒した相手の技能を我が物にする【模倣ヒール】。
 肉体を望んだ形に改良する【改変ヒール】。
 壊れた形に癒す防御不能の即死魔術【改悪ヒール】。

 もし、この力が四年まえにあればもっと違った人生となっただろう。
 その妄想を実現することこそが俺の目的だ。
 魔王が無数の漆黒の弾丸を吐き出す。
 だが、無駄だ。

 俺の中にある賢者の知識が、その術式を読み取り威力、速度、軌道をすべて読み取り、その結果を最高の武闘家の技術と強化した身体能力を合わせた動きで躱す。

 魔術の雨をかき分け、魔王に手が届いた。触れさえすれば、俺の勝ちだ。
 触れた。
 あとは、ただ一つの魔術を使えばいい。

「そうか、これで私も終わりか。悔しいな。守れなかった」

 魔王が泣き笑いのような表情になる。なぜか、その顔を見て、ひどい罪悪感を覚えた。
 だが、立ち止まらない。俺には俺の目的がある。

「【改悪ヒール】」

 魔王ですら、俺の【回復ヒール】の前には無力。
 壊れて、崩れ落ちる。

「心配しないでいいさ、また始まるから」

 俺はそうつぶやいて、魔王の心臓を抜き出す。
 紅色の宝石。
 これこそが、俺の目的だ。

「よくやりました。【癒】の勇者ケアル。父、いえ、王も喜びますわ。ごほんっ、その宝石は危ないですわ。ひどい呪いがかかっております。【術】の勇者たる私が預かりますわ」

 エリクサーを使って、黒い雷のダメージからよみがえった。【術】の勇者フレアが俺に笑いかける。
 吐き気がする。
 あいつは、今まで俺に笑いかけたことなんてない。
 いつも汚い野良犬に向けるような視線を俺に向けていた。

 勇者としての力に目覚めた俺を村から連れ出し、【回復ヒール】の恐怖から逃げた俺を捕え、【癒】の力を利用するために、薬漬けにして自我を奪った張本人。

「賢者の石」

 そう、俺が口にした瞬間、【術】の勇者フレアの顔が引きつる。

「魔王を殺したかった理由はこれだろう? 魔王を殺して、こいつを得るために魔族を亡ぼすと決めた。ありとあらゆる魔術を爆発的に高める、最高の魔術道具。これさえあれば、禁呪すら使える」 

 俺はフレアを【回復ヒール】したことがある。
 ゆえに、彼女のすべてを知っている。

 もともと、魔物には二種類存在する。
 魔族や魔王たちによって支配されたものと、自然災害のように現れ本能のままに暴れる魔物。
 魔族や魔王とはお互いに不可侵を守ることでうまくやってきた。

 だが、王国は十年前に突如、統率された凶悪な魔物が国を襲う。国を守るためには、魔王と魔族を根絶やしにしないといけないと騒ぎ始めた。
 実際には、そんなことはありえない。

 魔王を殺して魔王の心臓を得る。そのために、金と兵力を集める必要があり、その大義名分のためのでっち上げ。
 十年間の戦争は、必要ない戦争だった。

「あら、物知りですのね。魔王の心臓にそんな名前がついていたなんて」
「ああ、俺は物知りなんだ。あんたたちがこの賢者の石を使って、禁呪を行って世界征服なんて馬鹿げた妄想をしていることも知っている」

 フレアの顔が、ほんの一瞬憎悪に染まったものに変わる。
 だが、次の瞬間には王女にふさわしい、柔らかな笑顔になる。

「はて、なんのことを言っているかわからないですわね」
「そうか、ならこれは俺が使わせてもらおう」

 そのために、今まで正気に戻ったあとも壊れたふりをしてきた。
 最後の最後に、フレアを出し抜くために。

「あなた、いったい何を?」
「この賢者の石は、術者の力をとんでもなく高める。荒唐無稽な魔術だってできる。俺は、この力で【回復ヒール】を使う。どうしても治したいものがあるんだ」

 そう、壊れてしまったもの。
 常識では絶対取り戻せないもの。
 俺が、魂の奥から渇望したもの。

「あなた、まさか!?」
「俺は、この腐った世界を【回復ヒール】して、四年前、あんたに出会う前からやり直すよ」

 普通なら、いくら【回復ヒール】を拡大解釈しても届かない領域。
 だが、賢者の石さえあればできる。

「むっ、無駄よ。絶対にできないわ。できたとしても、あなたの記憶は全部消えるわよ。また、同じ過ちを繰り返すだけ」
「そうかもな」

 俺の言葉を聞いたフレアが安堵した顔になる。

「だったら……そんな無駄なことやめなさい。その石さえ渡せば、幸せな生活があなたを待っているわ。王家がそれを保証します」

 俺がフレアに笑いかけると彼女が手を伸ばした。
 賢者の石を渡せと目が言っている。
 馬鹿が、俺が頷くはずがない。

「たしかに全部忘れて繰り返すかもしれない。普通ならな。だけど、そうはならない。たとえ、すべて消え去っても。この痛みは絶対に忘れない」

 俺が、俺じゃなくなった絶望、苦しみ、我を取り戻してからの嘆き。
 それらはすべて魂の深くに刻み込んだ。

 たとえ、時間が巻き戻され記憶を失っても消えない。
 その確信がある。新しい俺は絶対に、【回復ヒール】の可能性に気付き、やり直せる。

「あなた、まさか、ほんとうに」
「じゃあな、王女様。やり直しておまえにあったら、今度はおまえのすべてを俺が奪ってやる」
「この、キ〇ガイ!」

 俺の本気を悟ったフレアが杖をまっすぐに俺に向ける。
 だが、遅い。
 もう、限界まで魔力を高めた。あとは力を使うだけ。
 賢者の石からまばゆい赤い光がほとばしる。

「【回復ヒール】」

 俺は、この腐った世界を【回復ヒール】した。
 俺が望む、正常な状態に戻っていく。
 四年間のすべてがなかったことになっていき、あの日に戻る。
 次こそはうまくやろう。きっとできるはずだ。
 たとえ、記憶が全部消えたとしても、この魂の痛みがすべてを思い出させてくれるだろう。

  
 
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