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夢解 2
作:烏



動けなかった夢職


 久々の仕事だった。やる気はあったし、自信もあった。けれども、予想だにしなかった展開に、芥川の気持ちは揺れ動いていた。


「よく切れるよ。ホラッ」
 まどかが自分の指にナイフをあてると、彼女の指から真っ赤な血が滴り落ちた。
「そのナイフ、どっから手に入れた?!」
「だからぁ神様がくれたんだってぇ!」
 神様・・違う。あの模様に、見覚えがある。
 夢の中で使用可能な武器を作れるのは、ヤツしかいない・・。
「敦、こっちに来てよ・・また、まどかの元に戻ってきて。お願いだから」
 彼女の瞳が潤みだす。
「い、嫌だよ・・誰が行くかよ・・」
 敦の目は、完全にまどかに怯えていた。
「敦・・」
「そうだよ。こいつはな、お前のことストーカーって言ってビビッてんだよ。もう一度好きになってもらえると、本当に思ってんのか?」
 言いすぎです・・群青の目が、芥川に訴える。
「敦の目に映るお前は、もうストーカーでしかないんだよ!」
「主!」
「何だよ群青?本当のことだろ?!」
「敦は好きって言ってくれた!!!!」
 流れ落ちる涙。震える体。
「なぁ・・何で敦にこだわるんだよ。自分のこと、こんなに恐がっている奴のことなんて忘れて、もっとお前自身を好きになってくれる奴を探せよ。僕は、あんたが哀れでなんないよ」
 まどかは首を振った。
「友達もいないまどかに、初めて声を掛けてくれたのは敦だったの。その時、運命の人だって思った。まどかにとって、そんな人は二度と現れない・・だから取り戻したいの」
 流れた血が、暗闇の世界に飲み込まれる。
 そうかこの闇は、まどかがいた暗闇なんだ。自分がいた闇を、敦にも分かってもらいたかったんだ。
「まどかさん、きっといますよ。大丈夫。人は、星の数ほどいるんですから」
 群青の笑顔に、まどかのナイフを握る力が緩む。
「そんなもん捨てな。僕なんかね、何年彼女がいないと思ってんの!!一度もいないわけ!悲しすぎるぜ?」
 ・・主・・・
「だから大丈夫だって!」
 主・・悲しすぎますし、理由になってません。
「・・まどかは・・」
 本当に捨てていいのか?あんなに手に入れたかったものが、目の前にある。なのに、それをみすみす逃していいのか・・?
 そうだ・・敦が好きなんだ。
「駄目。やっぱり駄目!来てくれないなら死ぬわ!!」
 ナイフの先が、まどかの喉に向く。
「バカ野郎!!!」
「ねぇ夢職さん、夢で死んだらどうなるの?」
 引きつったまどかの目が、芥川を見る。
 あのナイフは、夢で使用可能なもの・・現実にいるまどかは・・。
「お前、本当に死ぬぞ」
「どっちみち、敦が戻ってきてくれないなら・・・まどか生きてる意味ないし」
「主!何してるんですか!早く、ナイフを取り上げて!」
 生きてる意味がない・・僕も、そう思ってた。誰からも必要とされなくて、むしろ生まれてきたことを後悔されていた。
 意味がない人生を、歩むほどバカじゃない。だから、死ぬことも考えた。
 けれども、この世界に入って初めて言われた言葉・・
『キミがいてくれて本当によかった・・』
 そう言われた瞬間、救われたんだ。
 生きている意味がないなんてこと、絶対にないんだ。
「来ないで!」
 芥川が動こうとした時、まどかはナイフを自分に突きつけた。
「夢職さん・・もう少し、早く会いたかったなぁ・・」
 駄目だ・・そんなことしちゃ!
「主!」
 動け体!動け自分!!
 救わなければいけない・・僕は夢職だ。



 薄暗い空の隙間から、冷たい雨が降ってきた。それはまるで、まどかの涙だ。
「主・・」
 振り返ると、沈んだ表情の群青が立っていた。
「まどかは?」
 助けることが出来なかったまどか・・
「駄目でした・・」
 重たい言葉が、芥川をひざまずかせた。
「・・クソォ・・・」
 動けなかった。一瞬、救えなかったらどうなるのか考えてしまった。自分にまどかが救えるのか、迷いがあったんだ。それが動きを遅らせた。
 ナイフが刺さったまどかが、今も脳裏に焼きついている。
「くそ・・くそ!くそぉ!!!僕は、僕は・・」
 頭を抱え込んだ。
「主・・」
 そんな芥川を、群青の優しい手が包んだ。
「僕は、自惚れていたんだ、この力に。救えないものなんて、何もないって思ってた・・自惚れていたんだ」
 自分に、できないわけないと・・
「主、やり直しましょう。この経験を忘れずに、また歩きましょう・・二度と、まどかさんのような方を出さないと誓いましょう」
「あぁ・・」
 流れる涙・・群青の温かさ・・そうだ、僕は生きている。生きている限り、進まなければいけない・・。
 まどかのことを胸に刻んで。
「群青・・今なら、淑の気持ちが分かるよ・・」
「・・えぇ」

 淑、お前は、こんな重たい後悔を、もう何年も背負って生きていたんだな。
 それでも前を向いて、ずっと歩いていたんだな。
 僕も、歩み続けるよ・・・。 
    












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