今日の俺はすこぶるご機嫌であった。
今日は12月31日、世間でいうところの大晦日。
俺がご機嫌なワケは年末に届いた左ハンドルの新車スポーツカーに乗って、街を疾走しているからだ。
そして、俺の右の助手席には可愛らしい彼女が乗っている。彼女といっても、さっき街でナンパしたところで、このメス豚の素性はほとんど知らない。まぁ、所詮、俺にとって女なんてものは、一夜限りの性欲を満足させるだけの道具にしかすぎない。今現在、助手席に乗ってる女にしたって、クソ寒い晦日の夜にミニスカートを穿いて自分の好みにあった男を物色してたに違いない。その証拠に俺様のルックスに釣られてホイホイついてきた尻軽女であって真剣に付き合う気持ちなんてさらさら無いわけなんだが……とにかく、早く、このメスと合体でもして輝かしい新年でも迎いたいものだ。
「ねぇ、あんたぁ、名前なんていうの?」
「真治だよ」
「へぇ、なんかぁ、かっこいい名前だよね」
「どこにでもある、ありきたりな名前だよ」
俺が素っ気無く言うと、「クール」だと言ってはしゃいでやがる。――ったく……メス豚め!
「真治君って歳いくつなの?」
「19だよ。ところで、そっちは名前なんていうの、それと歳は?」
「え、あたしは麻紀っての、歳は16」
あんがい、この女若いなぁ、こいつとハメタラ淫行になるんじゃねぇのかな? でも、いいやぁ。たとえこいつが14だといっても俺は間違いなくハメルだろうしな!
「でも、真治君ってなんでぇ? こんな凄い車に乗ってんの? ――金持ちぃ!」
「これかぁ、親父にキャッシュで買ってもらったんだよ! 俺の親父は整形外科医で患者からぼったくってんだよ」
「へぇ、すごーい。じゃぁ、将来あと継いだりとかするんだぁ」
「まぁなぁー、いちおう一人息子だし――今親父は高い金払って、私大に入れてくれてるしな」
「じゃぁ、将来医者になるんだぁ」
あぁ、うざい女だなぁ。俺が将来医者になろうが、お前には関係ないんだよ! 一発はめたら山にでも捨ててやること確定だな! 俺には性癖っていうのだろうか、必ずといっていいほどナンパして一夜を共にした女とは後腐れを無くすために人気のない峠道なんかに連れていき置き去りにしてくる。あの、バックミラーに写る女の唖然とした顔が俺のマインドを抜群にくすぐってくれるからだ。
「真治君、今からぁ、どこ遊びにいくぅ?」
「ホテルいかない?」
「……っていきなしじゃん」
「俺あれなんだよね、下心隠して――邪魔臭いじゃん。で返事は?」
「……行ってももいいよ。でもホテル行ったら――彼女にしてくれる」
どうして、女って奴は……邪魔くさいなぁ。
「俺でいいのだったら、彼女にしてやるよ。麻紀そこそこカワイイしぃ」
「そこそこって失礼ねぇ」
「じゃ、ホテルに向かうよ」
しめしめ、あんがい簡単だったな。
「あ、でも、ちょっと待ってぇ。ホテルに行く前に、ちょっと寄ってほしとこあるんだけど……」
あぁ、邪魔くせぇ。
「どこ寄ってほしいんよ」
「うん、この近くに縁結びの神社あるのよ。でね、初詣かねて一緒に行こうよ。さっき日付もかわったことだし――あけましておめでとう! 今年もよろしくね! 真治くん」
「あけおめぇ」
初詣ってぇ、ほんと、この女うざいわぁ。もう、すっかり俺の彼女気分かぁ? 何が縁結びの神社だとぉ! エッチしたらすぐにでも縁きってやるよ。それと、今年もよろしくだとぉ! やることやったら、お前は山にすてられるんだよ。でも、あれだな――無下に断って、「あたし、帰る。車からおろしてぇ」なんてことになったら、また一からやり直しだし、邪魔臭いけど初詣にでもいくか。
「初詣か、いいなぁ、行こう、行こう」
俺は麻紀の行きたい縁結びの神社とやらに向かう為、交差点でハンドルをきって今来た道をUターンした。
車のスピードがいささか出ていた為、「キキィ」とタイヤが少し悲鳴をあげた。
「真治君、かっこいい」隣でバカ女が騒いでいる。
ほどなくして目的の神社に到着した。境内に隣接している臨時駐車場に車を止める。俺のスポーツカーがあまりにかっこいいのか車から降りると、駐車場にいる参拝客の視線が俺と車に注がれていた。場内にいる参拝客は、さすがに縁結びの神社だけあって、若いカップルで満ち溢れている。貧乏カップル達の視線もあるので、俺は麻紀の助手席側のドアにまわり、ドアを開けてやり、麻紀の手をとって車からおろしてやった。俺にエスコートされた麻紀はまんざらでもない顔をして「ありがとう」と微笑んだ。
しかし、この女やたらに――手が冷たい。
麻紀と手をつなぎながら、人ごみの中、鳥居をくぐる。境内の本殿にむかう道の両脇には露天が立ち並び、美味しそうな匂いがたちこめていた。ゆっくりと人ごみの中、本殿目指して進む。狛犬を通りすぎると、前方に賽銭箱が見えた。俺は人ごみが大嫌いなので、さっさと参拝でもして、早くホテルにでも行きたい心境でいっぱいである。
俺は賽銭箱の前に立つと、財布を取り出し、財布の中にはいってる諭吉の束から一枚とりだすと、賽銭箱に諭吉を投げ入れた。隣で麻紀のことをイヤラシイ目で見ていたおっさんからため息がもれていた。
俺はおっさんに軽くメンチをきると。おっさんは目をそらした。
麻紀は信心深い女なのだろうか? ぶつぶつと口を動かして、しばしの間、願いごとをしているようだった。俺も諭吉分ぐらい願いごとをしても罰があたらないだろう。どうかぁ、神様――麻紀が名器で気持ちいいセックスが出来ますようにと……願いごとをした。
参拝を終えた俺達は来た道を引き返す。
「麻紀、さっき何ぃ、お願いしてたの?」
まぁ、俺にとってこの女がどんな願いごとをしようと知った事ではないが、いちおう恋人同士を装う為の演出といったところであろうか。そのほうがこの女も喜ぶってもんだ。
「……恥ずかしいよぉ……内緒よ」
「意地悪しないで教えてくれよ! ま・き・ちゃん」
「……うーん。真治君とずっと一緒にいれますようにってね」
何だよぉ、こいつ重たい女だなぁ。
「そっかぁ、麻紀ってカワイイなぁ」
自分で言って反吐がでそうだぜ!
「ねぇねぇ、真治君。せっかく来たのだから、おみくじでもしようよ! 運試し――しよう、しよう」
何が運試しだとぉ、俺は生まれてからずっと幸運に恵まれている。そころな庶民と一緒にするなって!
「おう、いいよ。おみくじなんかするの何年ぶりかな? 俺はひきが強いから、しても、どうせ大吉だろうけど……」
俺達は境内にある御籤所にいき、二人分の金を巫女さんに払うと、角柱で筒状の御籤箱を軽く振った。中からは棒状の木の棒が飛び出してきた。木の棒の真ん中部分には数字で7番が書かれている。麻紀も続けて箱を振る。麻紀の番号は3番であった。巫女さんに出てきた番号をつげると紙の籤が渡された。
「うわぁ、やったぁ。麻紀大吉よ! 真治君は?」
俺の籤には大凶と書かれていた。俺はすぐにその場で籤を破りすてた。くそぉ、もう一回ひいてやる。
巫女さんに金を渡すと、もう一度御籤箱を振る。またしても7番。くそぉ、もう一回、もう一回。何度ひいても、出てくる数字は7番であった。
「おい、この箱壊れているぞ!」俺は巫女に文句を言った。
巫女さんは、困った顔をして――ただ、紙の籤を俺に渡すだけだった。
俺はおみくじをこれ以上ひくことを諦めて、籤に書かれている運勢説明に目を通した。
籤には、健康、金運、恋愛、生活に関することが書かれていた。
健康は大病に注意、金運は無駄な出費が増える、おとしものは見つからず、流石大凶だけあって、いいことなんか一つも書かれていない。ただ一つ、良いか悪いかは別にして、待ち人は現れると、肯定的なものが書かれていた。
「真治君、何怒ってるのよ。こんなの良いことだけ信じたらいいのよ!」
横から俺の籤の結果を覗き見したこの女。俺をなぐさめてるつもりなのか? ったく……胸くそ悪い奴だ!
「別にぃ、怒ってなんかいないよ――ただ、ちょっとショックだったかな」
「悪い籤は木に結びましょうよ。それで厄払いになるわよ」
俺は、麻紀の目の前で籤を破り捨ててやった。
「そんなの時間の無駄だよ! さぁ車に戻って楽しいことしようよ!」
「……うん」
俺達は駐車場に戻った。車のエンジンをかける。スポーツカー特有の低い音が場内に鳴り響く。若いカップルが車を指差してうらやましそうな視線を投げかけていた。すっかり参拝で体が冷えてしまったのでエアコンの温度を最大限にあげた。ほどなくして、温風が車内に充満する。
さてと、どこのホテルでもいこうかなぁ? ちょっと遠いけど、ナ二が終わったあと、麻紀を捨てやすいように県境のホテルでもいくかな。あそこは設備もけっこう充実してるし、楽しめること請け合いだからな。
俺は県境のホテルに向かって車を走らせる。時間短縮の為に一般道はやめて、バイパスを使う事にした。
車はETCの料金所ゲートを抜けて、高速道に入った。ラッキーなことに高速道は他の車は全く走っていない。まさに私用高速道路状態だった。時刻は午前2時なので他の車が走っていないのも当たり前か。このぶんでいけば。ホテルまではこの車の性能を考えると2,30分でついてしまうだろう。無論、かなりのスピードを超過することになるのだが……
俺は道路状況を見て安心したのか、ホテルにつくまでの間、麻紀の体を触りまわすことにした。まずは車を二車線ある低速レーンのほうによせた。車の速度をおさえつつ、右手で麻紀のミニスカートからでている太ももに手をやった。
「あぁーん、真治くんダメだってぇ」麻紀は色っぽい声をあげた。
さらに、俺の右手は太ももの上部をまさぐる。パンティーの上から麻紀の敏感な部分を愛撫する。
「感じちゃうよぉ」
指先が麻紀の敏感な部分を縦筋を入れるように上下にこする。少し車内に女性のフェロモンの匂いが漂い出す。
「アーンゥ、ダメェ、真治クゥーン。麻紀濡れてきたよ。アーン、アァーン」
さらに俺の右手は麻紀の性器を直に触れたいという衝動にかられて、パンティーの間に手をいれたがる。
恐らく、もう麻紀の――薄い生地の下は、ビショビショに濡れているのだろう。早くその事を確かめたい!
そして、いよいよ麻紀の薄い生地の下に手を入れかけた、正にその時……
後方から眩しいヘッドライトの光と共に、激しいクラクションの音が耳を劈く。バックミラーで後方を確認すると、大型トラックが俺の愛車にべた付けでせまっていた。さらに、退けといわんばかりにヘッドライトで激しくパッシングしてくる。定期的にけたたましいクラクションをならしつつ、後方バンパーにぶつけるぐらいの勢いでデカイ車体をひっつけてくる。
くそぉ、せっかくいいところだったのに、邪魔しやがってぇ! それに、このトラックの運ちゃん、抜きたいのだったら高速レーンに行けよ! 単なる嫌がらせじゃないか!
「ブゥブブゥゥー」さらに激しくクラクションをならしてくるトラック。悪意を感じる。
仕方がないなぁ、どいてやるよ。俺は右にウィンカーをだすと、仕方なく高速レーンに車をスライドさせた。トラックはクラクションの残響を残しつつ、隣のレーンで俺の車を抜かしていった。
やれやれ、災難だったなぁと思った時、またしても、後方から眩しいヘッドライトの光が車内を包む。
そして、耳を劈くクラクションの音。クソォー、さっきのトラックの仲間かぁ? 俺はバックミラーでもう一台のトラックを確認した。
「真治くん、前、前見てぇ」麻紀が隣で叫んだ。
前方にすぐさま目をやると、さきほど抜かしていったトラックのテールランプがせまっていた。
どうやら、俺の車はトラックに前後はさまれたようだった。しかも、まぎれもない悪意をもったドライバーが運転しているトラックにはさまれたのだ! クソォー、厄介だなぁ、こいつら……
後方のトラックは相変わらずハイビームで俺の車をあおってくる。
その時、前方の車から、俺の車にむかって物がなげつけられた。
「バカァーーン」もの凄い音がして、その物体は車の前部バンパーにぶつかっていた。お、俺の新車に傷がいった瞬間であった。それ以前に車の速度は100キロ以上でていて、バンパーに当たったものがフロントガラスだったらと思うとゾッとした。
またしても、前方の車から物が投げられた。今度は黄色い物体であった。べチャットした音がして、その黄色い物体はフロントガラスにへばりついた。よく見ると、その黄色い物体はバナナの皮である。
うぅぅ、これは、ゲームじゃないぞ、マリオカートじゃないんだぞ!ったく……ふざけやがって!
しかし、今のが固形物だったら、フロントガラスは粉々に割れていただろう。ううぅ、このままだったら事故ってしまう。こうなったら、隣のレーンにもう一度戻ってみよう。俺は再び低速レーンに車を移動した。
それを見て前後のトラックも車を低速レーンに移動してきた。そして、またもや前のトラックは物をほって来た。「バカァーーン、ガシャーンガシャーン」今、投げられたものはビールの空き缶なのだろうかぁ? 今度はタイヤが物を踏みつけたみたいだった。俺は物凄い恐怖を感じていた。
ダメだ、このままでは、本当にヤラレテしまう。
どうしよう、どうしよう、どうしたらいいのだよ? よしこうなったら、思い切って右レーンに出てから、一気に加速して抜ききってしまおう。よし、それしかない。俺はアクセルを踏む力を強めた。タコメーターと俺の心臓が跳ね上がる。すぐさま、加速をつけた俺の車は右レーンに飛び出す。後は直線を一気に加速して、悪意のあるトラックを抜ききるだけだ。その時だった。俺の右手に物凄い冷たい感触が走った。そして、いままで体験したことのない悪寒がする。エアコンは切れてはいない。冷たい手の感触をとっさに俺は見た。
そこには、麻紀の手が俺の手首を掴んでいた。しかしその手は半分腐っていて、骨がむき出しにでている。
うわぁぁぁ、なんだぁこの手は……俺は麻紀の顔を見た。麻紀の顔は半分、白骨化していて青白い光が包みこんでいる。
「フフゥフ、フフフゥ」半分、白骨化している口元が緩んで笑っている。
「真治君、私の事覚えてないでしょう。フフフゥ」
「お前いったい何者だ? お前みたいな化け物しらないよ!」
「酷い、酷いよぉ、真治君――わたしのこと。カワイイって、愛してるっていってくれたじゃない」
「し、知らないよぉ」
「だったら、教えてあげるわよ! 私は3ヵ月ほど前、あなたに首をしめられて、殺されて――山に捨てられた……」
そういえば、そんな事があった気もするが……どうにも思い出せない。頭が割れるように痛い。
「悪かった、悪かったよ。だから助けてくれよ! 頭が痛いんだよ」
「ダメよ、真治君、あなたはこのまま……」
俺の足は自分意思とは別にアクセルを踏み込む。ハンドルを持つ手はピクリとも動かなかった。ドンドン車は速度をあげる。スピードメーターを見ると180キロで針は止まったままであった。前方には急カーブありの標識が目に入った。そして、ガードレールが目前にせまってくる。
「フフフ、フフフ死ねばいいのよ、死ねばね! 真治くん」
俺の体は物凄い衝撃をうけた。そして意識が飛んでいった。
どれくらい意識を失っていたのだろうか? 目を覚ました俺はなぜか薄暗い部屋に立っている。
目の前のベッドには両親が泣き崩れていた。ベッドの上には、ところどころクロこげになっている肉塊が置かれている。上半身から頭部にかけてはぐちゃぐちゃに潰れていて男女の区別もつかないひどい有り様。
その肉塊に向かって両親は語りかけていた。
「真治よ、何でこんなことになったの? あなたぁ、初詣に行ったのね。しかも大吉じゃないのよ! なのに何故、何故事故なんかぁ起こしていなくなっちゃうのよ!」
ち、違うよ母さん。俺が引いた御神籤は大凶だったんだよ!
母さんが見ている御神籤は麻紀のものだって……と、言ったところで、俺の声は届くでもなく……
御神籤に書かれていた、待ち人きたるってのだけが思いだされる。
俺の左側には待ち人の麻紀がしっかりと手をにぎっていた。 了。 |