穴−ANA−(2/2)縦書き表示RDF


お待たせしてしまい。すいませんでしたm(__)m
穴−ANA−
作:アクアマリン



−1−






平成20年 7月17日 AM7:00



 目覚まし時計の鳴る音が、遠くから聞こえる。ああ、今日は火曜日。学校があるんだった。《秋山 真白ましろ》は二、三度唸りながら、布団から芋虫のようにもぞっと起き上がり、枕元に置いてある目覚まし時計を止める。熱を帯びた、朝のねっとりとした空気が、彼の白い肌を撫でた。

「……ふぁ」

欠伸をしながら布団から起き上がり、制服に着替える。真白ましろが階段を降りると、兄の《真也まさや》がエプロン姿で朝食のしたくをしていた。

「真白、おはよう。今日は早いな」

テーブルには、軽めの朝食が用意されている。

「なんか目が覚めちゃってさ」

 椅子に座り、パンをかじりながら真白は答えた。真白の兄、真也は今年、成人式を向かえた立派な社会人の一員。今は製薬会社に勤めている。訳あって真白は、親と離れて兄と一緒に暮らしていた。真白はそのことが、不便だとか嫌だとか、思ったことはない。兄《真也まさや》のことは好きだし、何かと勉強しろとうるさい親もいない。居心地がいい。また、学校からも近いのでむしろ、家族と暮らすよりはこの生活の方が幸せだと、真白は思っていた。


 朝食を済ませると、弁当を鞄にしまう。したくが終わった真白は、ぼんやりとテレビを見ていた。経済のニュース、芸能人の不倫疑惑にスポーツの話題。いつもとそう変わりない、つまらないニュースが頭の中を通り抜けていく。と、玄関のチャイムが鳴った。

(カンタロウだ!)

真白は慌ててテレビを消し、荷物を持って玄関に向かった。

「おはようございま〜す」
「おはよう、カンタロウくん」

元気よく挨拶をした、《本田 カンタロウ》に真也が、優しく受け答えする。

「お〜い、真白! カンタロウくん来てくれたぞ」
「分かってるって」
「真白、忘れ物はないか?」
「ないよ」
「カンタロウくん真白を頼むよ」

カンタロウは任せて下さいと、にっと笑った。カンタロウとは、兄と住むようになってから仲良くなったので、かれこれ5年の付き合いになる。家族ぐるみの付き合いで、兄の次に真白のよき理解者であり、親友だった。

「真白。今日は、早く帰って来るんだぞ」
「何で?」
「今日母さん達が、来るってさ。だから、寄り道しないで早く帰ってこいよ」
「……分かった。行ってきます」

 靴を履きカンタロウと一緒に真白は、家を出た。ふと、空を見上げる。空は快晴で雲一つない。快晴だ。ふわっとかわいた風が、真白の栗色の髪を撫でた。×××市の夏は早い。学校に植えられている木々の葉が、これでもかと太陽の光を浴びて、緑色に輝いていた。

「真白。今日、何の日か知ってるか?」

何故か、カンタロウはうきうきしている。気温は30度をこえ、蒸し暑い。よく元気だなぁと、真白はだるそうに、素っ気なく、知らないと答えた。学校の正門をくぐりながら、カンタロウは得意げな顔になる。

「しょうがないな。教えてやるよ」
「いいよ」
「今日はな−−」

真白に構わず、カンタロウは話をし始める。真白はしかたないと話に、耳を傾けた。話の内容は、兄の真也から小さいころよく聞かされた昔、×××市で起こった、奇妙な事件にまつわるものだった。

「……今日は建物が消えた事件の日でさ。それに、その建物があった場所が、うちの学校なんだってさ!」
「へぇ〜〜」

真白はカンタロウの話に、わざとらしく相槌をうった。

「あ、真白。信じてねぇな」

カンタロウが、子供っぼくしかめっつらを作る。真白は首を振った。

「だって、単なる《噂》だろ」
「だけど。でも、面白くないか? 何ていうかさぁ〜、こう……」
「ロマン?」
「そう、ロマンを感じるんだ!」

 少年のように目をきらきらと輝かせて話す、カンタロウに、真白は思わず吹き出しそうになる。カンタロウの大柄の体格に不釣り合いで、可笑しかったからだ。真白の反応に、カンタロウが不満そうに顔をしかめる。

「何だよ〜。真白は感じないのか、ロ・マ・ン!」
「感じない」

真白はきっぱり答えた。カンタロウはおもしろくなさそうに、口を突き出しちぇ〜とうなだれる。その恰好もまた可笑しくて、真白はまた、吹き出しそうになるのを必死に堪えた。靴を履きかえ、二人で同じ教室に向かう。真白がドアを開けようとした、その時だった。



−−−−−−−−−−。



「え?!」
「真白?」

教室の前で立ち止まった真白を見て、カンタロウが首を傾げる。

「どうしたんだよ」
「今、揺れなかったか?」
「え? 揺れなかったけど」
「確かに、ぐらっときたんだよ」
「気のせいじゃねぇの」
「そうかな……」
「気のせいだって」

言いながらカンタロウは、ドアを開けて教室に入っていった。カンタロウはそう言うが、真白は納得できない。辺りをぐるりと見回してみる。いつもと変わらない、教室。生徒たち、先生。なんのかわりもなくい、いつのも風景に真白はホッと胸を撫で下ろした。

(気のせい……か?)

何と表現したら、いいのだろう。こう、背筋をぞっと撫でるような冷たいものが、通り抜ける感覚。恐怖感と表現すればいいのか? 真白は首を傾げる。いや。−−−−なんだか別の、嫌な予感がした。

(確かに揺れたんだ)

真白は俯き、ゆかをきっと睨みつけた。予鈴が鳴り、真白もしぶしぶ教室に入り自分の席に着く。


 いつもの退屈な一日が始まる。そう、誰もが思っていた。教室の壁に掛けられている時計が、ちくちくと秒針を動かし、時を刻む。……8時30分。




−−−−運命の時間まで、あと、4時間。


















ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP


小説家になろう