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かしこいフクロウさん

 あるところに、1人の女の子がいました。

 女の子は体が弱く、いつもベッドで横になっていました。


 女の子が外を見ていると、お庭に1匹の犬がいました。

 走り回っている犬を見て、女の子は思いました。


 ワンワンはいいなぁ。自由に走る事ができる。

 私もあんな風に走りたい!


 女の子がそう願うと、どこからともなくフクロウが飛んできました。

 フワフワな毛の、メガネをかけたフクロウです。

 とても頭の良さそうなフクロウさんです。


「ホーホー。君は犬になりたいのかね?」


 フクロウさんが話します。

 女の子はフクロウさんが人間の言葉を話すのでびっくりしてしまいました。

 でも、女の子は思いました。

 世界は広い。私の知らない事の方が多い。

 きっと言葉を話せるフクロウさんもいるのだろう。

 かしこいフクロウさんが。


 女の子は、フクロウさんに願いました。

 外の世界を知りたかったからです。


「私は、あのワンワンのように、お外を自由に走り回りたい!」


 フクロウさんはほほえみながら、つばさを広げました。


「ホーホー。ならば君を犬にしてあげよう。それ!」


 世界が、キラキラと光りはじめました。







「あれ?」


 気が付くと、女の子はワンワンになっていました。

 茶色いフワフワの毛をした、可愛らしいワンワンです。


「ホーホー」


 女の子がふりむくと、フクロウさんが屋根にとまっていました。

 女の子は、この時初めて自分が住んでいた家の屋根の色を知りました。

 赤い素敵な屋根でした。


「フクロウさん、ありがとう!」


「ホーホー。また来るよ」


 フクロウさんは去っていきました。

 ありがとう、フクロウさん。




 女の子は走り回りました。

 お庭は、素敵な物がたくさんありました。

 可愛いお花さん。

 黄色い小鳥さん。

 お隣のお庭には、ニワトリさんもいました。


 女の子は、走り回りました。

 楽しくて、嬉しくて。

 何もかもが新鮮でした。








 それから3日がたちました。

 女の子は、お腹がすいていました。

 何を食べればいいのか、どうすればエサをとれるのか。

 女の子には分からなかったからです。


 世界を知りたかった女の子ですが、お庭には柵がありました。

 柵より外の世界は、ワンワンには知る事が出来ませんでした。


 お腹のすいた女の子は、じっとニワトリさんを見ていました。

 ニワトリさんは、飼い主さんに餌を貰っています。

 とても美味しそうに食べています。


 女の子は思いました。

 ニワトリさんはいいなぁ。

 簡単にご飯が食べられて。

 私もニワトリさんになりたい。


 その時、聞いたことのある声がしました。

 フクロウさんです。


「ホーホー」


「フクロウさん!」


「ニワトリになりたいのかね?」


「なりたい!」


「ホーホー。ならば君をニワトリにしてあげよう。それ!」


 世界が、キラキラと光りはじめました。









「あれ?」 


 気が付くと、女の子はニワトリになっていました。

 白い羽に赤いトサカの、立派なニワトリです。


「ホーホー」


 女の子がふりむくと、フクロウさんが柵にとまっていました。

 女の子は、お隣のお庭にいました。


「フクロウさん、ありがとう!」


「ホーホー。また来るよ」


 フクロウさんは去っていきました。

 ありがとう、フクロウさん。










 ニワトリさんは楽しいです。

 2羽のニワトリさんとも仲良くなりました。

 オスのニワトリさんは、お庭について教えてくれました。

 メスのニワトリさんは、卵を産む方法を教えてくれました。


 女の子は、お腹いっぱいにエサを食べました。

 そして、お庭を走り回りました。

 ワンワンよりは遅いですが、それでも自由に走り回る事ができます。


 おいしいご飯。

 お友達との遊び。

 不自由のない生活に、女の子は喜びました。







 ある日、オスのニワトリさんがいなくなりました。

 メスのニワトリさんは泣いていました。

 きっと、食べられてしまったのだろうと。


 女の子はこわくなりました。

 自分も食べられてしまうのではないかと。

 でも、メスのニワトリさんは、卵を産んでいるから大丈夫だと言いました。







 それからしばらくして、メスのニワトリさんが卵を産めなくなりました。

 その次の日、メスのニワトリさんもいなくなってしまいました。


 女の子はもっともっと怖くなりました。

 私も卵を産めなくなったら、きっと食べられてしまう。

 そんなのはいやだ!

 もっと外の世界を知りたい!

 もっともっと生きていたい!


 女の子がそう思っていると、一匹の小鳥が飛んできました。

 小鳥は、ニワトリのためのエサを食べています。

 女の子は思いました。


 私も、この小鳥のように自由に飛びたい。

 外の世界を知りたい。



 その時、聞いたことのある声がしました。

 フクロウさんです。


「ホーホー」


「フクロウさん!」


「小鳥になりたいのかね?」


「なりたい!」


「ホーホー。ならば君を小鳥にしてあげよう。それ!」


 世界が、キラキラと光りはじめました。









「あれ?」 


 気が付くと、女の子は鳥になっていました。

 茶色い羽の、かわいらしい小さな鳥です。


「ホーホー」


 女の子がふりむくと、フクロウさんが木にとまっていました。

 女の子は、その木にとまる事ができました。

 小鳥さんになったからです。


「フクロウさん、ありがとう!」


「ホーホー。また来るよ」


 フクロウさんは去っていきました。

 ありがとう、フクロウさん。







 女の子は、空を飛び回ります。

 小鳥さんになったので、好きなところに行く事が出来ます。

 柵より外へ、町よりも外へ。

 女の子が望むなら、山だって越えられます。


 お腹がすいたら、木の実を食べます。

 時々懐かしくなって、ニワトリの時のエサも食べたりします。


 雲の上にだって行けます。

 時々ご飯に困りましたが、それでも女の子は楽しかったです。







 ある日、大きな鳥がおそってきました。

 女の子は小さな鳥。大きな鳥は女の子を食べようとしたのです。

 女の子は、柵に守られていません。

 空を飛ぶ自由を得ましたが、その代わりに安全を失ったのです。


 女の子は必死に逃げます。

 どこまでもどこまでも逃げます。

 やがて、大きな鳥が見失ったのに気づくと、女の子は泣き出しました。


 こんなにも怖い思いをするとは思わなかった。

 小さな鳥になんてならなければ良かった。

 どうせなら、大きな鳥になりたかった。


 その時、聞いたことのある声がしました。

 フクロウさんです。


「ホーホー」


「フクロウさん!」


「大きい鳥になりたいのかね?」


「なりたい!」


「ホーホー。ならば君を大きい鳥にしてあげよう。それ!」


 世界が、キラキラと光りはじめました。









「あれ?」 


 気が付くと、女の子は大きな鳥になっていました。

 鋭い爪に大きなクチバシの、立派な鳥です。


「ホーホー」


 女の子がふりむくと、フクロウさんが木のてっぺんにとまっていました。


「フクロウさん、どうしてフクロウさんは私を変身させられるの?」


「ホーホー。それは私が長生きだからだよ」


 フクロウさんは、とても長生きしているようです。

 女の子が生まれる、ずっとずっと前から生きています。


「フクロウさん、どうして私を助けてくれるの?」


「ホーホー。それは私が昔、君みたいに色々な物を知りたかったからだよ」


 フクロウさんはほほえみました。

 フクロウさんはかしこく、やさしいフクロウさんだと女の子は思いました。


「フクロウさん、ありがとう!」


「ホーホー。また来るよ」


 フクロウさんは去っていきました。

 ありがとう、フクロウさん。







 女の子は、生きる為に必死にエサを取りました。

 最初はうまくつかまえる事ができませんでしたが、やがて立派な鳥になっていきました。

 大きな鳥は、もっともっと遠くへ行く事が出来ます。

 隣の町、いいえ、隣の国に行くのだって夢じゃありません。

 女の子はたくましくなりました。

 そして、もっと広い世界を知りたくなりました。







 ある日、女の子は大きな音を聞きました。

 そして、左の羽がすごく痛くなりました。

 女の子はたまらず地面に落ちてしまいました。


 体を動かすことができません。

 遠くから、男の人が歩いてきます。

 男の人は、手に長い鉄の棒を持っています。

 女の子は、あれが銃というのを知っていました。

 きっとこのままでは、女の子はあの男の人に捕まって殺されてしまいます。


 男の人が歩いてくる間、女の子は思いました。

 死にたくない。

 私はもっと、長生きがしたい。

 そう、フクロウさんのように。


 女の子は思いました。

 フクロウさんのようにかしこくなりたい。

 そう、私はフクロウさんになりたかったんだ。


 その時、聞いたことのある声がしました。

 フクロウさんです。


「ホーホー」


「フクロウさん!」


「私になりたいのかね?」


「なりたい! フクロウさんのように、かしこくなりたい!」


「ホーホー。ならば君を私にしてあげよう。それ!」


 世界が、キラキラと光りはじめました。









「あれ?」 


 気が付くと、女の子はフクロウさんになっていました。

 フワフワの毛の、フクロウさんです。

 女の子が振り向いても、フクロウさんはいませんでした。

 何故なら、女の子がフクロウさんだからです。









 それから、長い長い時がたちました。

 女の子はフクロウさんなので、とてもかしこいです。

 とてもかしこいので、死ぬ事ができませんでした。

 何十年も、何百年も、何千年も。


 女の子は世界の全てを知りました。

 しかし、少しもうれしくありませんでした。

 世界は、楽しい事ばかりではなかったからです。


 女の子が羽ばたいていると、男の子を見つけました。

 男の子は川の魚を見ていました。

 女の子はかしこいので、男の子が何を考えているのかが分かりました。

 そして、女の子は前のフクロウさんが考えていたことも、分かってしまいました。


 男の子は、お魚さんになりたがっていました。

 女の子は木にとまると、こう言いました。


「ホーホー。君は魚になりたいのかね?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] きちんとした起承転結があって面白かったです。 最後の落ちもきちんとあって、良かったと思います。
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