【20話】 “最悪の結婚式!?−天使の悪戯と酷似の難−”
輝が自慢げに俺に見せてくれた物は、何処をどう見ても紛い物には見えない本物の銃。
何でこんな物騒な物が船に…。
っつーか、それ以前に、何で子供の目の届く場所にあるんだよ!!
うちの子を殺す気か!!
「わぁ〜、凄いな輝。ちょっとパパにも見せてくれないか?」
輝からさり気なく奪い取ろうと、しゃがみ込み笑顔でお願いすると、『うん、いいよ。』と、何ともあっさり銃を手渡してくれた輝。
ふぅ…。
何とか我が子の危機は脱したぞ。
しかしこの感触…そして重み…、やっぱり本物だな。
弾は、入ってないみたいだが…。
でも、何でこんな物が…。
はっ!
待てよ、確か北秦会の取引…、俺たちの式と同じくらいの時間だったよな?ってことはまさかこれ…
「圭兄…これ…」
「あぁ…」
俺の言いたいことを察したのか、圭兄は一言だけ相槌を打った後、船室の方へと視線を向け言葉を続けた。
「恐らく、今日の北秦会の取引で使うブツだろうな…」
「やっぱりそうか…」
胸ポケットから取り出した真っ白いハンカチで銃を包んだ俺を見て、輝が口を開いた。
「パパ、ブツってなに?」
えっ。
う〜〜…。
「ブツってのは、勝手に持って来ちゃいけない物のことを言うんだよ。」
曖昧に説明をした俺を見て不思議そうに首をかしげた輝は、目をぱちくりさせた。
「ふーん。でもなんでダメなの?だって、こ〜んなおっきなはこに、いーっぱいおんなじのはいってたんだよ?あんなにいっぱい、おんなじのばっかりいらないじゃん。だから、いっこくらいもらってもいいでしょ?」
はうっ。
両手をいっぱいに広げて平然と言った輝に、思わず苦笑し頬をポリッと掻いてしまった。
うー…。
“いっぱいあるからいい”とか、そう言う次元の問題じゃなくてだな…
「輝、オモチャ箱から勝手にオモチャを持って来るのとはワケが違うんだよ。…うーん…何て言ったらいいかなぁ…」
どう説明しようか詰まる俺の肩をポンと軽く叩いた圭兄が、代わってやるよとでも言いたげに笑みを向け、輝をひょいっと抱き上げた。
「輝、輝が持ってきた物は、オモチャの鉄砲とは違うんだ。本物の鉄砲なんだよ。その大きな箱に入ってた鉄砲も全部。それで、簡単に人が死んじゃうんだ。」
真っ直ぐ輝を見つめて話す圭兄に、輝が『えっ。…しんじゃうの?とうやくんちにいた、ハムちゃんみたいに…?』と不安そうな顔で聞き返した。
そんな輝にこくんと頷いた圭兄は、人差し指を輝の額に軽く当てて更に言葉を続けた。
「そうだよ。鉄砲をこうやって輝のおでこに当てて…バンッて撃ったら、輝はすぐに死んじゃうんだ。そしたら、大好きなママにもパパにも楓にも、もうずーっと会えなくなっちゃうんだよ。そんなの嫌だろ?それくらい、輝の持って来たこの“鉄砲”は怖い物なんだ、分かるな?輝。」
「…うん。」
圭兄の服をきゅっと握って震えながら言った輝の頭を、圭兄がよしよしと優しく撫でてから俺に声をかけた。
「さて、拓海、それどうする?」
「勿論、元の場所に戻してくる。これが北秦会の物なのか、相手の物なのか分からないけど、どちらにしても、足りないとなったらタダゴトじゃなくなる。そうなりゃ、ここ(客船内)でひと騒動起こるのは、まず間違いないからな。」
そんなことにでもなって、俺様のラブラブ挙式をぶち壊されたらたまったもんじゃない。
輝の頭をわしゃわしゃと撫でながら言った俺に、すかさず圭兄が言葉をさした。
「だったら俺が返して来てやるよ。お前は挙式があるだろ。」
「いや、圭兄(銀龍会 7代目)がヘタに動くと、もっと事態が悪化してヤバくなる。これは俺が戻してくるよ。だから圭兄は、輝を連れて挙式会場に行っててくれ。で、月華に『ちょっと遅れる』って伝えておいてくれないか?」
包んだ銃をポケットに突っ込み立ち上がった俺に、『しかし、お前が動いてもまずいだろ…』と輝を抱きながら言い返した圭兄の顔は、何処か不安げ…と言うより、心配げだった。
「大丈夫。俺はもう銀龍会とは関係ない人間だからさ。それに、朋樹に連絡すれば、何とかなるよ。だから、早く輝を月華のもとに連れて行ってやってくれ。月華、すごく心配してたから。……こらっ、輝!勝手に部屋を抜け出して、ママを心配させるんじゃない!ママ泣いてたぞ!」
圭兄に告げてから輝を叱って頭をコツンと叩くと、途端にしょげた輝は『ごめんなさい。』と涙声で謝った。
「分かればいいんだ。もう勝手にいなくなっちゃダメだぞ?輝。…じゃあ、圭兄、あとは頼んだ。俺はさっさとこれを返してくるよ。」
輝の頭を撫でて優しく言った後、圭兄にそれだけ言い置いた俺は、銃を元の場所に返すべくその場を立ち去った。
大きな箱って言ってたな…
とりあえず、朋樹に連絡してみるか…
あいつとは、今日は会いたくなかったんだけどなぁ……
☆
人けの無い場所で足を止め、渋々ケータイを取り出し朋樹に電話をかけてみたものの、返って来たのは留守のアナウンス。
むっ。
あの野郎、何で出やがらねえんだ。
この緊急事態に何やってんだよ、ったく。
はっ!
それとももう取引始まってるのか?
だとしたら…、かなりまずい展開になるぞ。急がないと。
しかし、ただ“大きい箱に入ってた”ってだけじゃ、探しようがないな…。
むぅ〜〜。
どうする拓海、時間が無いぞ。…って、その前に悠斗に輝が見つかったこと連絡しておかないと。
いつまでも年寄りを走り回らせるのは気の毒だからな。
ケータイを開き、悠斗の番号を押そうとした矢先、背後から聞こえた聞き慣れた声。
「拓海―っっ!!」
ん?
呼ばれて声のする方へ振り返ると、駆けて来たのは悠斗。
うぎゃっ!
まさか、俺の心の声が聞こえたのか!?
いや、そんなはず無いよな?
「あ、ゆ、悠斗。今連絡しようかと思ってたんだよ。」
「はぁ…はぁ…、そうか…、さっき、そこで圭介と輝に会った。そんなことより、厄介なことになってるそうじゃないか?」
引き攣り笑顔の俺を気に留めることなく、息を弾ませながら聞く悠斗に『あぁ、…まぁな。』と苦笑まじりに答えると、彼は俺のポケットに突っ込まれた銃をちらりと見るなり、『これか』と独り言のように呟いて取り上げた。
あっ!
「おい、何すんだよ、悠斗。」
「これは俺が何とかして返しておく。だからお前は式に出ろ。もうみんな会場で待ってる。客を待たせるな。」
まだ呼吸を乱したままチャペルのある方向を指差し命令する悠斗に、俺は軽く息を吐いてから言葉をさした。
「阿呆、財閥の御曹司がヤクザの取引に首突っ込むんじゃねえ。殺されるのが落ちだ。」
「ヤクザの取引?」
さらりと言い返した俺に鸚鵡返しをした悠斗は、自分の手にしている銃を見返した。
「あぁ、銃の密売だ。俺の知り合いの組の取引だから、これは俺が返してくる。悠斗は、月華や会場のみんなに上手く理由つけて、もう少しだけ待っててもらうように言ってくれ。」
淡々と説明をし、悠斗から銃を奪い取ったのと同じくして、またもや何処からともなく聞こえた人を呼ぶ声。
「…ん…ちゃん!…」
ほえ?
悠斗と二人して声のする方へ顔を向けると、遠くの方から駆けて来るのは、40代前半っぽい黒スーツの男。
あれは…
はぁはぁと息を切らし、俺たちの傍へ駆けて来たその人物は、俺を間近で見るなり落胆の表情を見せた。
「何だ、朋樹坊ちゃんじゃなくて、拓海坊ちゃんでしたか…。似てるもんで、間違えました。」
そう言って更に肩を落としたのは、北秦会の幹部“樋口 洋輔”。
昔から朋樹の傍にいるわりには、なかなか俺と朋樹の区別が出来ない面白い人だ。
俺って、そんなにアイツと似てるかなぁ…。
っつーか、俺、アイツみたいに無表情じゃねえぞ。
「はははっ。相変わらずですね、洋輔さん。…あっ、そうだ、いいところで会った。これ、今日の北秦会の取引で扱うブツだと思うんですよ。うちの子が黙って持って来たみたいで…。そっと返しておいてもらえません?」
苦笑混じりに返して、ちょうど良く出会った洋輔さんに銃を手渡すと、彼は『分かりました。』とそれを受け取りながら、辺りをきょろきょろ。
そういや、朋樹のこと捜してる風だったよな?この人。
俺が電話した時も出なかったし、アイツ。
「あの、朋樹…どうかしたんですか?」
気になってぼそりと尋ねると、その質問を待っていたかのように洋輔さんは口を開いた。
「いなくなったんですよ。『ちょっと出てくる』って出て行ったきり…。もう取引の時間だってのに…。見かけてませんかね?うちの坊ちゃん。」
困り果てた様子で言う洋輔さんに、『俺もさっき電話したけど、繋がりませんでしたよ。』と答えると、ますます困った顔をされてしまった。
「あぁ〜〜、どうしよう。手分けして捜してるんですが、何処にもいないんですよ。これで、時間に間に合わなかったら、かなりヤバイことに…。」
蒼白な顔で頭を抱え唸る洋輔さんを前に、悠斗がぼそりと言葉を挟んだ。
「あの、ヤバいことって…まさか…死人が出る…とか?」
「え?そりゃあ勿論!!そんなのは、基本ですよ。…って、あの、どちら様ですか?」
悠斗の問いに答えた後で不思議そうな顔で聞き返す洋輔さんに、『彼は、沢村の後継者ですよ。でもって、一応俺の義理の兄貴…。』と説明すると、彼はポンと両手を叩いた。
「あぁっ!!拓海坊ちゃんは、沢村のお嬢さんとご結婚されたんでしたね。そうですか、拓海坊ちゃんの義理の兄さんでいらっしゃいましたか。失礼いたしました。…と、それはそれとして、うちの坊ちゃん何処へ消えたんだか…。何処までも自由奔放で俺様主義的な人ですから…」
はぁーっと深い溜め息とともに、肩を落とした洋輔さん。
はははっ。
確かに、自由且つ俺様男だからな、アイツ。
「大丈夫ですよ、取引には戻って来ますよ、アイツなら。」
笑顔で洋輔さんの肩をポンポンと叩いたその時、彼のケータイが鳴り出した。
それを慌てて掴んだ彼は、電話に出るなり『朋樹坊ちゃん!?』と声を大にした。…が、それもほんの一時で、すぐさま声はトーンタダウン。
「…そうか、まだ戻って来ないか。ったく、何処へ行きなさったんだか。…分かった、引き続き早急に捜せ。もう10分も無いんだ。」
何やら部下らしき相手に命令し電話を切った洋輔さんは、溜め息をついてから俺を見遣り、『あっ!』と声をあげた。
びくっ。
い、今、何か背筋に悪寒が…。それに、ちょっと嫌な予感が…。
じりっと半歩後ずさった俺を、突然がしっと捕まえた洋輔さんは、ニヤリと笑みを浮かべる。
ぞくっ。
「よ、洋輔さん…、な、何か…変なこと考えてません??」
「よくお分かりですね、拓海坊ちゃん。朋樹坊ちゃんが戻って来られない以上、相手方と揉め事を起こさないためにはただひとつ!朋樹坊ちゃんとよく似てらっしゃる拓海坊ちゃんに取引に出てもらうのが一番!!あぁ〜、私って何ていいこと思いついたんでしょう。さ、そういうワケですから、悪く思わないで下さいね、拓海坊ちゃん。なぁに、後日きちんと銀龍会へは菓子折りでも持って伺いますから♪」
俺の言葉に悪魔な笑顔で答えて、ズルズル引っ張り始めた洋輔さん。
うぎゃっ!!
嘘だろ!!冗談じゃねえぞ!!何で俺が!!
「放せ〜〜!!んなもん、似てるからって、朋樹じゃないのなんかすぐにバレるって!!っつーか、俺は今から自分の結婚式に出なきゃなんねえんだよ!!」
そうだ、今夜は俺と月華のラブラブウエディングパーティーなんだぁぁ〜〜!!
邪魔すんじゃねえ!!
「大丈夫ですよ。朋樹坊ちゃんと拓海坊ちゃんは、そっくりですから♪そうそうバレませんって。それに、結婚式もキチンと出れるようにしますから。はい、じゃあ行きますよ〜。」
ジタバタ暴れる俺を強く掴み、背中越しにさらりと返した洋輔さんは、足を止めることなくぐいぐい引っ張る。
ひぃ〜〜。
助けてぇ〜〜。
「悠斗ぉぉ〜〜、何とかしてくれぇぇ〜〜!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!こっちも結婚式がもう始まるんだよ!客も大勢待たせてるんだ。取引なんか出てる場合じゃないんだよ!」
慌てて洋輔さんの前方に回りこんだ悠斗は、彼の行く手を阻み強く言い放った。が、そんな悠斗を、洋輔さんは片手で簡単に押しのけてしまった。
うひぃ〜〜、そうだった!この人空手も柔道もやってるんだった。
「そうですか、それは申し訳無い。でも大丈夫、すぐにお返ししますから。ちょっと借りるだけです。それじゃ。」
さらりとそれだけ言い切った洋輔さんは、足早に取引場所へと向かって歩き出す。
ぎゃあぁぁ――っっ!!
俺は“物”じゃねぇぇ――っっ!!
「頼むから放してくれぇぇ〜〜!俺は結婚式に出るんだぁぁ〜〜!!取引なんか出たくねぇぇ〜〜!!」
朋樹のボケ〜〜!!
何処で何やっとんじゃー!!
お前のせいで無関係な俺が拉致られるじゃねえかよぉ〜〜!!
次会ったらぶん殴ってボコボコにしてやる〜〜!!
「た、拓海―っ!!」
「悠斗ぉぉぉ〜〜、助けてぇぇぇ〜〜!!」
「安心しろ!!お前が戻って来るまで、俺がきっちり代役(新郎)を果たしてやる!!…ってのは冗談で、その朋樹とか言う奴を、すぐ見つけてきてやるから!!待ってろ!!」
はうっ!!
ゆ、悠斗…
「てめぇ〜〜、それ冗談じゃなくて本音だろ〜〜!!朋樹を捜す気なんかねえんだろーっっ!!分かってんだぞ!!俺の月華に手ぇ出しやがったら、ぶっ殺してやるからな――っっ!!」
こうして、朋樹の代役として、ほぼ…、いや、かなり無理矢理(強引に)拉致られた俺。
くそぉ、朋樹めぇ〜〜!!
てめえのせいで、俺の月華が悠斗に変なことされたらどうしてくれんだよ!!
末代まで祟ってやるからな――っっ!
覚えてやがれ――っっ!!
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