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最強の天使
作:九条 要



【17話】 “挙式前日。それぞれの思い… (前)”


 挙式前日―…。午前。

 いよいよ明日は待ちに待った愛妻月華とのラブラブ挙式♪
 もう、ご飯食べてても何してても、テンションアーップ…のはずなのに…
 胸の奥で引っかかるのは、この間からの高坂さんの言葉…。

 ダイニングで朝食の野菜ジュースをぼんやり飲んでいると、会長がぶすっと脹れて俺に話しかけた。
「まったく、酷いよ、拓海くん。衣装選びは、章吾と一緒に必ず行こうって楽しみにしてたのに…。」 
 うっ…。
 またそのことですか…。
 実は、密かに行っていた結婚式の段取りが全て調い、ようやく昨日会長に白状したのだが、それ以来ずっとこんな感じなのだ。
 まぁ簡単に言えば、舅の婿いびり…だな。
 …はぁ…、勘弁してくれ。
「あ〜…、はははっ、ほんとにすみません。」
 思いきり苦笑いで答えた俺を、食事をしながらちらりと見遣った悠斗が、可笑しそうに笑っていた。
 う〜〜、笑うなボケ。
「まぁ、拓海くんも月華も輝も、好きな服を着たいだろうからいいんだがね。それにしても、いよいよ明日かぁ、楽しみだな母さん。」
 更に嫌味で突っ込まれるかと思いきや、予想外にもあっさり笑顔で返した会長は、奥様に話をふった。
 むっ?
 何だか今日は様子が変だぞ?
 いつもなら、娘バカ孫バカに拍車がかかってるのに…。
 何かあったのか??
「そうですね。ほんとに楽しみですわ。きっと拓海くんはタキシードが似合って凛々しくて、月華はドレス姿がとても綺麗でしょうね。あぁ〜、何だか自分の結婚式を思い出しますわ。…あ、そうそう、月華に後で渡したいものがあるの。お母さんの部屋へ来てちょうだい。」
 両手を合わせて嬉しそうに言った奥様は、最後に目を細めて月華へ優しく告げた。 
 渡したいもの…?
「あ、うん。なぁに?渡したい物って…」
 同じく不思議に思ったのか、食事の手を止めて聞き返した月華に、奥様は『内緒♪』と含み笑い。
「え〜〜、言ってくれてもいいじゃん。お母さんのケチ〜。」
「ふふふっ、後のお楽しみ。さぁ、お食事の続きを頂きましょう。」
 さっさと話を切り上げた奥様に、月華はぶーっと不服そうに脹れていた。
 はははっ、月華ってば。
 でも何だろう、奥様が月華に渡したい物って…。


            ◆
 
 朝食後―…
 書庫で読みもしない本を広げながら、ぼーっと高坂さんの言葉を思い出していた。

『ところで早瀬さんは、このままずっと沢村にいるおつもりですか?』
『いえ、本当は早瀬さんて、ちゃんとご実家の跡を継いで、お嬢様をお嫁に貰いたかったんじゃないかなぁ…と思ったもので…』

 あの人の言葉に俺は、何一つ答え返せなかった。
 でも理由は分かってる。
 俺自身、心の奥でずっと思い続けてきた言葉だったからだ…。
 だから、言い返せなかった…。

 千尋は俺に言った…
『お前はお前でいればいい。焦らなくても、必ず今の生活に慣れるはずだ』って―…。

 だけど、そうじゃない。
 俺が俺でいる限り、何処まで行ったって、今の生活に…財閥の人間に成りきることなんか出来やしない。
 それが分かっていたからこそ、朋樹の言葉にも高坂さんの言葉にも、あんなにイライラしたんだ…。
 自分自身の中にあるそれらを否定したくて―…。


『ただの未来予想図ですから…』


 未来…予想図…
 あの時、高坂さんは遠まわしに俺に聞いていたのだろうか…
『あなたの未来予想図はどうですか?』…って―…。

   
 俺の……
 未来予想図……か…。
 


 深い溜め息とともに、開いた本の上に突っ伏したのと同じくして、背後から突然声が降ってきた。
「何だ、ここにいたんだ、拓海くん。」
 え…
 驚き顔を上げて振り返ってみると、立っていたのは月華。
「…月華…。あれ?楓と輝は?」
 子供達を連れていないことに違和感を感じ尋ねると、彼女はにこりと笑みを浮かべた。
「楓は、部屋でお昼寝中。輝も、お兄ちゃんと遊んでる。だから、ちょっとママから開放されてきたの。ここ座っていい?」
 向かいの椅子の背もたれを掴んで問う月華に『あ、うん。』と返事をすると、彼女は早速腰を下ろし、真っ直ぐ俺を見つめて口を開いた。
「拓海くんにね、ちょっとお話があるの。」 
「話?」
 何やら改まった物言いに背筋を伸ばして聞き返すと、月華はこくんと頷いてから話を始めた。
「私ね、ずっと思ってたんだけど、今ってうちのお父さんも拓海くんのお父さんも仲がいいじゃない?だから、別に拓海くんが“沢村”姓を名乗ってなくてもいいんじゃないかな?」
「へ?」
 彼女の口から出た突拍子な言葉にただ目を見開き驚いていると、にこりと微笑まれ話を続けられた。
「ほら、あの頃は、まだうちのお父さんって“ヤクザさん”に対して批判的だったし、拓海くんが“沢村”姓名乗らざるを得なかったけど、今はもうそうじゃないでしょ?だから、明日の挙式を機に、拓海くんも“早瀬”姓に戻って、私をお嫁にもらってもらうのはどうかなぁ〜って思って。」
 え…
 早瀬姓に戻って…、月華を嫁に…
「月…華…」 
「私ね、ほんとは拓海くんに婿養子になってもらうんじゃなくて、私がお嫁に行って“早瀬 月華”になりたかったの。それで、拓海くんの実家で暮らしたかったんだ…。」
 両手を組んで瞳を輝かせながら話す月華に、俺は言葉が何も出て来なかった。
 何故なら…
 彼女の口から出たそれらの言葉は…
 高坂さんにズバリ言い当てられた…俺の願望であり…
 俺の思い描いていた…未来予想図…だったから…

「ねぇ拓海くん…、ダメ…?」
 え…
 …。
 じっと見つめて恐る恐る尋ねてくる月華の声へ、俺はふぅっとひとつ息を吐いてから口を開いた。
「…ダメ…だよ、だって、急に名前が変わったら、輝が幼稚園で困るじゃないか…。それに、家が銀龍会だなんて知れたら…」
 分かってる、月華の言葉すべてが俺を気遣ってのものだということくらい。
 だからこそ、俺一人の願望で子供達を振り回すワケにはいかないんだ。
 そりゃあ俺だって、出来るなら“早瀬 拓海”として月華を嫁に貰えるならそうしたい。
 実家に戻って離れでも建てて、月華や子供達と住めるならそうしたい。
 だけど、そうしたら…
 昔、俺がガキの頃そうだったように…
 家が“ヤクザ”ってだけで、輝はきっと苛められる…
 そんな辛い思いを、輝にはさせたくない。

 子供のことを考え、自分の思いを優先出来ず渋っていると、月華が俺の手を軽くポンポンと叩いた。
「大丈夫だよ、拓海くん。だって離婚して名前が変わるワケじゃないんだし。それに、私がちゃんと幼稚園で輝が苛められないようにするから。任せといてよ。ね?」
 俺の手をぎゅっと握って言い切った月華は、澄んだ瞳で優しく微笑んだ。
 月華…
「…だけど…」
「拓海くん、付き合ってる頃に約束してくれたじゃない。私のこと、お嫁にもらってくれる…って。私、ちゃんと拓海くんのお嫁さんになりたいよ。“早瀬 月華”になりたい。大丈夫、もう誰も私たちのこと反対しないよ?輝も、『ぼくも“はやせ ひかる”になる。ぎんのじじのおうちでママとパパとかえでといっしょにすむ。』って言ってくれたもん。だから、明日の結婚式で、私をお嫁にもらって、拓海くん。で、拓海くんの実家で子供達と一緒に住もう。ね?」
 どうしても素直に頷けずにいる俺の手をきゅっと強く握り、再び優しい説得をした月華。
 月華…
 彼女の手をきゅっと握り返した瞬間、瞳からポタリと零れ落ちた涙。
 あ…。
「……ごめん…、泣くつもりなんか無かったのに…」
 慌てて涙を拭い言い返した俺に、月華が静かに首を振ったところでもう一つの声が割り込んだ。
    
「心機一転には、絶好の日じゃないか。お前が思い描いていた理想の結婚生活…、始めてみたらどうだ?本当は、夢だったんだろう?“早瀬 拓海”として月華を嫁にもらって、幸せな結婚生活を送るの…。男なら、普通誰でもそうだからな。」

 え…
 驚き振り返ると、そこにいたのは楓と輝を連れた悠斗。
「悠斗…」
「お兄ちゃん…」
 俺と同じく驚いた顔の月華へ、悠斗は笑みだけ向けて話を続けた。
「俺も、ずっと気にはしてたんだ。俺のせいでお前を月華の“婿養子”にしてしまったワケだしさ。だから昨日、月華から相談を受けたあと、俺の責任で父さんに話をして、許しを貰っておいた。お前の望むようにしていいそうだ。良かったな。あとは、お前から銀龍会6代目に話に行って来い。…あ、でも、俺と一緒に次期沢村の二大トップには、ちゃんとなってもらうからな。」
 俺のもとへ歩み寄った悠斗は、片手で楓を抱いたまま、もう片方の手で俺の頭を優しく撫でた。
 悠斗… 
「…分かってるよ。」
 そうか…
 だから朝食の時、会長の様子がいつもと違ったのか。
 なんだ、そう…だったんだ…
 にしても『望むように…』か…
 会長らしい科白だな…


「パパ〜、ぼく“はやせ ひかる”になる。だから、じじのおうちいこ、パパ。」


 悠斗の手を放し、俺にくっついて嬉しそうに言った輝。
 輝…
 意味が分かって言っているとは到底思えないそれが、とても嬉しくて、思わず輝を抱きしめた。
「パパ、いたいよ。」
「ごめん。でも、今、パパすごく嬉しくて。」
 ほんとだよ、輝。
 今、すげえ嬉しいんだ。
 だって、俺の思いを、月華と悠斗がずっと前から分かってくれていた。
 会長が許してくれた。
 その事実が、嬉しいんだ。
 そして、輝…お前の言葉が、今、パパの背中を押してくれたよ。
「ほんと?うれしい?じゃあ、じじのおうちいこーよ、パパ。」
「うん。」
 輝の頭を撫でて頷くと、悠斗が俺の頭をポンと叩いて口を開いた。

「そうと決まれば、早速行って来い。もし、銀龍会で住めないようなら、ここにお前たち用に別宅を建ててやるからさ。」
「悠斗…、ありがとう。月華もありがとう。じゃあ、行って来る。」
 礼を言ってから椅子を立ったのと同時に、輝が俺の足にくっついた。
「ぼくもいく!」
 輝…
「輝、一緒に行きたいけど、パパはこれから、ぎんのじじと圭ちゃんに大事な話をしてくるんだ。だから、輝はママと一緒にお家で待っててくれないかな?」
 輝の目線までしゃがんで優しく告げるも、『いやだ。ぼくもいく。』とくっついて離れない輝。
 すると、そんな輝をぺりっと引き剥がして悠斗が口を開いた。
「輝、パパがじじの家に行ってる間、一真と凪ちゃんも呼んで四人で○○レンジャーごっこして遊ぼう。な?」
 悠斗に頭を撫でられて遊びに誘われた輝は、途端に『うん、やる!』とご機嫌に即答していた。
 はははっ、パパより○○レンジャーの方がいいってか。
 まぁ、ぐずられるよりいいけどさ。
「すまないな、悠斗。じゃあ行って来るよ。輝、いい子で遊んで待ってるんだぞ。」
 悠斗に礼を言ってから、輝の髪を軽く撫でて言い置いた俺は、早速屋敷を後にした―…。
    



更新が大幅に遅れてすみません。
今後、なるべく更新が遅くならないように頑張りますが、多少遅くなることもあるかと思います。
ご了承下さると有り難いです。











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