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最強の天使
作:九条 要



【13話】 “挙式3日前の甘い香り…”


 どうにか会長や親父たちに邪魔されることなく、無事衣装合わせも打ち合わせも終え、いよいよ3日後には結婚式当日♪
 へへへっ♪

 
 午後3時―…。
 会長補佐室でひとりにこにこしながら仕事をしていると、軽くドアが叩かれた。
 んん?悠斗か?
 出先から帰って来たのかな?
 じゃあ、コーヒー休憩でもするか。
「はい、開いてるぞ。」
 返事をしてからコーヒーを入れに向かったところで、開かれたドアの先に見えたのは、最近何かとよくここへ来る秘書課の“葉山はやま 瑞希みずき”。
 歳は、確か俺より3つほど下だった気がする。
「何だ、また君か。」
 悠斗かと思ったのに違ったか。
「失礼します。あ、補佐代理、コーヒーでしたら私がお入れいたします。ソファに座ってお待ち下さい。」
 そう言ってパタパタと部屋へ入って来た彼女は、コーヒーの準備をしかけた俺を制し、テキパキと準備を始めた。
「え、あ、あぁ、ありがとう。」
 すっかり追いやられてソファへ移動した俺は、素直にちょこんと座ってコーヒーを待つことに。
 むぅ〜〜。
 今日は、いったい何しに来たんだろう?葉山…。
 昨日は、花を生けに来たんだっけか?その前は、新しい紅茶の詰め合わせを持って来たし。
その前は…、何だったっけ?
 何やら嬉しそうにコーヒーを準備する彼女の後姿を見ながらあれこれ考えていると、トレーの上にコーヒーとクッキーを乗せてやって来た彼女。
 むむ?この部屋にクッキーなんてあったか??
 いや、昨日悠斗が全部食っちまって無くなったはず…。
 じゃあ、何故??

「はい、お待たせ致しました。あの、これ、お口に合うかどうか分かりませんけど、良かったらお茶うけにどうぞ。作って来たんです。」
 そう言いながら、コーヒーと種類豊富の美味そうなクッキーをテーブルに置いた彼女は、トレーを持って恥ずかしそうに頬を染めていた。
 作った?
「えっ!これ、全部君の手作りなのかい??」
 クッキーを指差し驚きの声をあげてしまった俺に、葉山は照れ笑いを浮かべて『はい。』と答えた。
「へぇ、そうなんだぁ。凄いね。まるで店で売ってるクッキーみたいだよ。美味しそう。」
 ほんと、高坂さんが作るクッキーには全然劣るけど、それでもその辺の店で売ってるクッキーには負けてないぞ。
「そんな…。売ってるみたいだなんて…。あ、どうぞ食べて下さい。補佐代理のお口に合うといいんですけど…」
 じっと俺を見つめて言う彼女に、『あ、じゃあいただくよ、ありがとう。』と返して一つ摘んで口に入れると、最高に美味。
 おおおっっ!甘くて、超美味い♪
「葉山、これ凄く美味いよ。」
 次のクッキーを口へ運んでにこにこしながら言うと、彼女はとても嬉しそうに頬を赤く染めて口を開いた。
「ほんとですか!?美味しく出来てます??…良かったぁ。ちょっと心配だったんです。甘すぎたかな…って。でも、お口に合っていただけたみたいで嬉しいです。」
「ほんとに、とても美味しい。甘さも丁度いいし。私は、このくらいの甘さの方が好きだよ。それにしても君、お菓子作りすごく上手なんだね。」
 サクサクとクッキーをかじりつつ褒め言葉を並べると、葉山は更に嬉しそうにはにかんだ。
「そんなこと無いです。ただ、お菓子作りとかお料理とか好きなもので…。」
「へぇ、そうなんだ?お菓子作りやお料理上手な女の子っていいよね。うちはいつも専属シェフが料理もデザートも作るから、妻は不器用でね。」
 だって、だいぶ前に月華が作ってくれたクッキーは、真っ黒に焦げてたし。
 はははっ。
 コーヒーを一口飲んで苦笑まじりに言うと、彼女はパッと笑みを向けた。
「そうなんですか??じゃあ、私、明日から補佐代理の為に、毎日お菓子作って来ます。あ、お弁当も作って来ましょうか??会長補佐の分と代理の分と二つ。いつも外食では、栄養が偏ってしまいますし。」
 えっ。
 俺の為に毎日…。しかも弁当…。
「い、いいよ、そんなの。悪いし。」
 慌てて両手をぶんぶん振って遠慮したが、彼女は『平気です。一人分のお弁当を作るのも三人分のお弁当作るのも一緒ですから♪それに、クッキーは夜のうちに作っておくので。』と、引き下がる様子無し。
 う〜〜。そうじゃないんだよ。
「そうじゃなくて…」
 どう言おうかと考えつつ言葉を出したところで、葉山が先に口を開いた。
「代理は、ティラミスとかお好きですか?」
 えっ。ティ…
「あ、う、うん。好き…だけど。」
 うぅっ、俺ってば何で素直に答えてんだよ。
「ほんとですか??じゃあ、早速明日から作って来ます。」
 ひとり浮かれる葉山に、『いや、明日から4〜5日ほどは用があって休むんだ。』と即答すると、彼女は『じゃあ、お休みが終わって出社なさってから作って来ますね。』と笑顔。
 あうぅ、だから…。
「葉山、そういうのは私にするんじゃな…」
「代理は、お弁当のおかずで何がお好きですか?」
 うっ、今度は弁当か。
「は、葉山、ちょっと私の話を…」
「スコッチエッグはお好きですか?それとも、普通にハンバーグの方がいいですか?あっ!唐揚げは、どんな味がお好きですか?卵焼きは、何も巻いてない方がいいですか??お好きなおかずがあったら、何でも仰って下さい♪」
 すっかり料理とお菓子のことで頭がいっぱいの彼女は、俺の話などちっとも耳に入って無いらしい。
 うぅ〜〜。
 頼むから俺の話を聞いてくれぇぇ〜〜。
 楽しそうにいくつも質問を投げかける彼女に、がっくりとうな垂れ困り果てていると…、ちらりと顔を覗き込まれてしまった。
 ひっ。
「代理、どうかされました?」
「あ、い、いや、何でも。君って、料理のレパートリー多いんだね。」
 思いっきり引き攣った顔で答えた俺を見て、葉山は恥ずかしそうに頬を染めた。
「そんな、レパートリー多いだなんて。照れちゃいます。あ、代理の為に美味しいお弁当作って来ますね。」
 うっ。
 いや、だからそうじゃなくて…
「ふぅ…。葉山、ちょっとそこに座れ。…君の好意は有り難いが、そういうのは私にではなく、彼氏にしなさい。その方が、君の彼が喜ぶと思うよ。」
 向かいのソファに彼女を座らせ言い聞かせるように言うと、彼女はにっこりと微笑み口を開いた。
「大丈夫です。彼氏いないのでご安心下さい。私、代理以外の男の人に興味無いので♪」
 えっ。
 さらりと言ってのけた彼女に、思わず言葉を失った。
 俺以外の男に興味無い……?
 はうっ。
 勘弁してくれよ。
 月華とのラブラブ挙式がいよいよ3日後に迫って、テンションアーップだったのに…。
「葉山、妻子持ちの男をからかうんじゃない。さぁ、早く仕事に戻りなさい。」
 煙草を銜えわざと冷たくあしらって出て行かせようとしたのに、彼女は出て行くどころか俺の隣りへやって来てソファを陣取った。
 うぎゃっ!
 何で出て行かないんだよ。
「代理、ネクタイ曲がってます。」
 そう言って俺の襟元へ手を伸ばした彼女は、そっとネクタイを直しにこにこと笑う。
「あ、あぁ、ありがとう…って、そうじゃない!さっさと仕事に戻りなさい!」
 ダメだ、調子狂う。…と言うか、知らない間にこいつのペースに呑み込まれてる…。
 いかんいかん。
 しっかりしろ、拓海。
 彼女の手を放してきつく言い放つと、素直に『はい。』と返事した葉山はすっくと立ち上がり俺に背を向けた…その時―…
 突然その身体がグラッと傾いたかと思うと、そのままスーッと倒れ掛かった。
 うわっ!
「葉山!」
 慌てて立ち上がり抱きとめると、『すみません』と小さく謝った彼女。
「大丈夫か。」
「はい、昔から貧血気味なもので…」
「そうか、じゃあ医務室へ運んでやるから、少し寝てろ。」
「すみません、代理。」
 申し訳無さそうに謝る彼女を抱き上げ部屋を出た俺は、真っ直ぐ医務室へと向かった。


 医務室―…。
 ドアを開けたものの、常駐の看護師は留守。
 ちっ、こんな時に。
「葉山、ここでしばらく寝てろ。仕事は、気分が良くなってから戻ればいい。看護師が戻って来たら、事情を説明しろ。いいな?それじゃあ、私はまだ仕事の途中だから戻る。」
 葉山をベッドに寝かせて踵を返した次の瞬間、ぐっと腕を掴まれ…ぐいっと引っ張られた。
「わっ!」
 グラッと傾いた自分の身体を咄嗟に踏ん張って支えたが、結局堪えきれずベッドに倒れこんでしまった。  
「いててっ、何するんだ…急に腕を引っ張るな…」
 むくっと起き上がり怒ったと同時に見えたのは、じっと俺を見つめる二つの瞳。
 ドキッ。
「代理…、傍にいて下さい。」
 真っ直ぐ俺を見て訴える潤んだ瞳。
 うっ、やめろ。
 そんなうるうるの目で俺を見るな。
「何を言ってる。子供じゃないんだから、そんな駄々をこねるな。うちの子供でも一人で寝てるぞ。」
 何とか彼女から離れて起き上がった俺は、それだけ言い置き再び背を向けた。
 早くここから逃げねば。
 どんどんこいつのペースに呑まれていく気がする。
「代理…。少しだけ…、少しだけ傍にいて下さい。お願いします。お願いします…。…私…、秘書課に配属になってからずっと代理のこと見てて…、ずっと好きで…。だから…」
 そう言って背後から俺にぎゅーっと抱きついた彼女。
 え…。
 ずっと好き…?
 むむぅ〜〜、まずいぞ。何かやばい展開になってきた。
 早急に回避しないと。
「…悪い、私は妻以外の女に興味は無いんだ。私にとって大切なのは、妻と子供たちだけだ。…仕事に戻る。お前は、ゆっくり休んでから戻れ。それじゃ。」
 ぎゅっと強く抱きつく彼女を剥がし、きつく吐き捨てた俺は、そのまま医務室を後にした―…。
 はぁ〜…。
 やっと逃げられた…。…にしても、しょっちゅう補佐室へ来てた理由が、俺目的だったとは…。
 全然気付かなかった俺ってもしかして、月華以上に鈍感…か?
 はははっ……はぁ…。
 でも、あれだけ言えばあいつも諦めてくれるだろう。
 やれやれ。

    
 完全に脱力状態で補佐室へ戻ると、いつの間にか帰って来ていた悠斗が、ソファで美味そうにクッキーを頬張っていた。
「おっ、拓海〜。どこ行ってたんだ?これ、お前が買って来たのか?超美味いじゃん♪全部食っていいか?」
 ……。
 お前なぁ……。
 お前がにへにへ食ってるそのクッキーのおかげで、俺がどれだけ大変だったと思ってんだよ。
 って、こいつに言っても仕方ないか。
「…あぁ、いいとも、いいとも。食え。どんどん食え。一つ残らず食ってしまえ。…俺はコーヒーだけでいい。」
 ボフッとソファに腰を落とし不機嫌に言い返した俺を、不思議そうに見返した悠斗は『何だ?何かあったのか?そんな鬼みたいな顔して。』と突っ込んだ。
 むっ。
 誰が鬼じゃ!
「何でも無い。」
 ぶっきら棒に答え返し煙草を取り出すと、『やっぱり何かあったんだろ。』とニヤニヤ聞き返した悠斗は、俺からシガレットケースを奪い取った。
「ほんとに何も無でもないって言ってるだろ。」
 こいつにだけは言えない。
 医務室で葉山に抱きつかれたなんて…。告られたなんて…。
 口が裂けても言えねえ。
「葉山か?」
 ドキッ。
 思いがけない悠斗の科白に目を見開くと、彼はにまっと笑んで続けた。
「当たりか。このクッキーもあいつが持って来たんだろ?皿の下にメッセージが挟んであったぞ。ほれ。“補佐代理へ。いつも見てました。大好きです。”だとさ。いやぁ〜、モテる男は困っちゃうねぇ〜、拓海くん♪それで?もしかして、手ぇ付けちゃったとか?」
 にひひっと意地悪な笑いをして、ヒラヒラと紙を見せる悠斗。
 彼からそれを奪い取った俺は、くしゃっと握りつぶした。
「うるせぇ!そんなワケねえだろうが!!ふざけたこと言ってんじゃねえよ!!ボケ!」
 怒鳴りながら握りつぶしたメッセージをゴミ箱に捨てデスクへ戻ると、悠斗が『軽い冗談じゃないか。何そんなマジに怒ってんだよ。』と、ソファで紅茶を飲みつつ笑った。
 むかっ。
 どこが軽い冗談だ!
 3日後に挙式する男に言う冗談じゃねえだろうが!

「言っておくが、俺は自分の仕事を済ませたらさっさと帰るからな!自分のデスクに溜まった書類の山は自分で片付けろよ。」
 早速仕事を始めつつ冷たく言い放った途端、紅茶とクッキーを持ったまま『え〜〜っっ』と嫌そうにぼやいた悠斗。
 むっ。
「何が『え〜〜っっ』だ!俺は3日後に挙式を控えてるんだぞ。早く帰って寝ないと肌が荒れるだろうが!」
 一生に一度の結婚式なんだぞ。
 寝不足で吹き出物なんて出来てみろ!写真撮れないだろうが!
 キッと目じりを吊り上げて怒り返した俺を見て、悠斗が苦笑を浮かべた。
「はははっ…、『肌が荒れる』って、“女”じゃないんだから…。」
「うるさい!男でもお肌は大切なんだ!それでなくても、30超えた男の肌は労わってやらないと、すぐ荒れるんだ!って、てめえも30超えてるから分かるだろうが!まったく。」
 ぶちぶち文句を垂れながら仕事をこなしている俺に、悠斗は呆れたように笑っていた―…。
 
 まったく、いつもながら疲れる奴め。
 それにしても、何か胸の奥がスッキリしねぇ。
 何だ、この変な感じ。
 イライラ…じゃなく、モヤモヤ…みたいな。
 こんなのを昔も味わった気がするぞ。
 どこでだったっけ…。
 思い出せねぇ…。 












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