【11話】 “ささやかな幸せを君に…”
一週間後―…。日曜日。
今日は、月華と子供達と一緒に久しぶりに遊びに行く日。…と言うのは、親父や会長達への表向きで、実は一度目の衣装合わせ。
ひひひっ。
「〜♪」
「ねぇ月華、ほんとにオーダーメイドじゃなくていいのか?せっかくだから、世界にひとつだけのドレス作ってもらえばいいのに。」
鼻歌を歌いながらご機嫌に化粧をしている月華に声をかけると、彼女は振り返り笑顔で口を開いた。
「いいの。一回しか着ないのに、作ったらもったいないじゃない。その代わりね、いっちばん可愛いドレス選んで着るんだぁ♪えへへっ♪拓海くんも、一緒に選んでね♪」
「うん。そりゃあ、勿論。あ、そうそう、これは俺からの提案なんだけど、楓には月華と同じドレスを着せようと思うんだ。どうかな?」
「きゃーっ♪それいい!そうしよ〜〜♪じゃあ、超可愛いドレス選ばなくちゃ!あっ!ねぇねぇ、それなら、輝には拓海くんとお揃いのタキシード着せようよ♪絶対かっこいいと思うの。うふふっ。」
俺の提案にきゃーきゃーとはしゃぎながら賛同した月華は、更にその先に俺が言おうとした言葉を奪って告げてしまった。
はははっ、輝の服のことも俺が言おうと思ってたのに。
ま、いっか。
「うん。そうだね。じゃあ、そうしよう。ほら、楓おいで。遊ぶのはお仕舞い。ママとお揃いのドレスを選びに行こう♪」
すっかり着替え終えて、カーペットの上で輝と一緒にオモチャで遊ぶ楓を抱き上げ教えると、そこにはにまにまの笑顔。
「ぱ〜、あ〜、へへ〜。」
「そっかぁ、楓も、ママとお揃いのドレスを着れるから嬉しいんだね♪あ、でも、楓がこれ以上可愛くなっちゃったら、誰かに取られそうでパパ困っちゃうなぁ。ふふふっ。」
楓のほっぺにちゅうをしてにへにへと娘バカに浸っていると、くいっくいっと輝が俺のズボンを引っ張った。
ん?
「どうした?輝。」
楓を抱いたまましゃがんで問うと、輝は目をぱちくりさせて口を開いた。
「ぼく、パパとおそろいのふくきるの?」
「あぁ、そうだよ。いっちばんカッコいい服にしような。」
にかっと笑いVサインをして言うと、輝もにっと笑い返し小さな手でピッとVサインを作った。
「おぅ!いちばんいちばん、い〜〜っちばんかっこいいのがいい!ねぇパパ、ぼくえらんでいい??ぼくえらびたい!」
すっかり選ぶ気満々の輝に『じゃあ、任せた。でも、○○レンジャーみたいなのは、パパは嫌だからな。』と頭を撫でつつ先に釘を刺すと、輝は『え――っ、○○レンジャーみたいなのがいい!』と、ぷっと頬を脹らませた。
…。
はははっ。やっぱり、その手のコスチュームを選ぶつもりだったのか…。
良かった、先に言っといて。
「そんなの、輝はいいけど、パパは恥ずかしいよ。だから、もっと違うのでカッコいいのにしてくれ。な?」
苦笑まじりにお願いすると、俺をじっと見た輝はしばし考え込んでから渋々『じゃあ、べつのにする。』と応じてくれた。
はははっ。かなり不服そうだな、顔が…。
でも、これでコスプレショーにならずに済んだ。
ふぅ…。
いや、待てよ。まだ安心出来ないぞ。○○レンジャーじゃなくて、別バージョンの戦隊ものちっくな服を選ばれたらどうしよう…。
有り得るだけに、ちょっと不安かも。
心の奥でちょっぴり…いや、かなり不安になりながら苦笑していると、そんな俺を見て月華が可笑しそうにくすくす笑っていた。
うぅっ、そんな笑わなくてもいいじゃん。
俺だけコスプレになるかも知れない危機だってのに…。
しくしく。
家族で和やかな空気を漂わせていたところに、不意にドアがノックされた。
むむっ。
もしや、会長か。
「はい。」
ちょっぴり緊張しながら返事を返してドアを開けると、立っていたのは悠斗。
何だ、悠斗か…って、んん??
目の前に立っている悠斗をじっと見遣ると、何やらすっかりお出かけスタイル。
むむっ。
「悠斗様、何ですかその“ちょっぴりスポーティーな爽やか男前お出かけスタイル”は…」
「え?これ?にゃはははっ。これから公園に遊びに行くんだろ?俺も暇だから一緒に行こうと思ってさ。で、お前にテニスの特訓を…♪」
そう言ってちゃきっと後から取り出して見せたのは、テニスラケット。
うぎゃっ。また出た!恐怖のラケット!
う〜〜。
「いや、テニスはお断りします…。30超えてテニスはちょっと…」
「えっ!?テニス??私もするぅ〜!」
断った俺の背後から、化粧中の月華が叫んだ。
うぅっ、月華まで…。
「おようふくのあと、こうえんいくの?パパ。わぁ〜い!やったぁ〜!ゆうもいこー!ぼくが、ゆうのふくえらんであげる!そのあとあそぼ〜!」
ご機嫌に駆けて来た輝が、にこにこと笑顔を向けて悠斗に言った。
うぎゃっ、輝。
服のことは言っちゃダメだって言っておいたのに…。
「服のあと?あぁ、服買ってもらうのか?輝。いいなぁ。じゃあ、“ゆう”に似合う服選んでくれよ。」
しゃがんでそう答え返した悠斗は、くしゃっと輝の頭を撫でてから部屋のドアをパタンと閉めた。
そして…、俺をじろりと見遣った。
うっ。そ、その目は…
「へぇ〜〜、“公園へ遊びに”じゃなくて、“衣装合わせ”に行く予定だったのか、拓海くん。しかも、俺に内緒で…。まったく、いけない子だなぁ…、君は…。」
うぐっ。
完全に見抜いた悠斗が、まるでカエルを睨みつける蛇のように、じとっと俺を見据えて言った。
ひぃぃ〜〜。怖い。
「し、仕方無いだろ。会長やうちの親父がしゃしゃり出てきたら厄介だから、みんなに嘘つくしか無かったんだよ。」
視線を逸らしぶちぶちと言い訳をする俺に、悠斗は『なるほど。じゃあ、俺は行ってもいいんだな。』とさらりと返した。
うっ。そ、それは…。
「……」
「ねぇパパ、ゆうもいっしょにいこうよぉ。ねぇねぇ。それで、それで、おようふくのあと、こうえんいって、○○レンジャーごっこしようよぉ、パパ!」
どう返すか頭を悩ませる俺の足元で、輝がくいっくいっとズボンを引っ張り訴える。
う〜〜。
テニスも、○○レンジャーごっこもヤダ。
俺は楓とのんびり日向ぼっこがしたい…。
「パ〜〜パ〜〜〜っっ」
何度も俺のズボンを引っ張る輝にとうとう負けてしまった俺は、はぁっと息を吐いた。
「分かったよ。分かった!じゃあ、悠も一緒に連れて行って、服合わせのあとに公園に行く。…その代わり悠斗、会長には内緒だからな。でないと、もれなくうちの親父にバレる…。」
ぶすっと脹れて言うと、悠斗は可笑しかったのかくすくすと笑い『分かった。』と了承した。
「わーい!ゆうもいっしょだぁ。ゆうは、どんなふくがいい?ぼくがえらんであげる。」
悠斗にべちょっとくっついて尋ねる輝に、悠斗は『そうだなぁ、ママのドレスに似合うカッコいいのがいいなぁ。』とにへにへしながら答えていた。
むっ。
「何でお前が、月華のドレスに似合うタキシード着る必要があるんだよ。」
むすっとして突っ込みを入れると、悠斗がにんまりと笑み…胸を張って口を開いた。
「そんなの決まってるだろ。月華と一緒に写真を撮る為だ♪でもって、一生俺の宝物にするのだ♪ひゃっひゃっひゃ。」
……。
そんな胸張って言わんでも…。
でも、一生の宝物…か…。
「そうか。じゃあ、どうせなら何ポーズか撮ってもらってアルバムにしてもらったらどうだ?」
楓の背中をトントン叩いてあやしながら言うと、悠斗は俺の口から出た言葉が意外だったのか目をしばたかせた。
だが、すぐにふっと小さく笑いを零し口を開いた。
「いや、一枚でいい。一枚で十分だ。」
「でも悠斗…」
「さぁて、準備出来たら遊びに行こうぜ。ほら、来い輝。ゆうが抱っこしてやろう。月華〜、準備出来たかぁ〜?」
俺の言葉に何も返さず話をすり替えた悠斗は、輝を抱き上げてから月華に笑顔で声をかけた。
悠斗…。
俺は、お前の為に…いったい何が出来るのかな…。
「うん、出来たよ〜。楓のオムツも持ったし、お茶の入ったマグマグも持ったし、それに…タオルでしょ…それから…うん、OK。忘れ物なし!じゃあ、出発〜!」
悠斗にご機嫌に返した月華は、楓グッズの入った大きな鞄を肩に担いで俺の元へ駆けて来た。
「よし、じゃあ、行こうか。」
「いこー!」
悠斗と輝の元気な声とともに、俺たちはいざ部屋を後にした。
玄関前―…。
重い扉を開けて外に出ると、目の前には黒塗りのリムジン…と翔太兄の姿。
「おはようございます。」
笑顔で挨拶をした翔太兄、『おはよう翔太兄。どうしてここに?今日は日曜なのに…』とぼそっと言うと、悠斗がにっと笑った。
「俺が無理言って頼んだんだ。遊びに行くのにリムジンの方がいいと思ってさ。あぁ、心配するな、今日出てもらう代わりに、川凪には明日代休を取ってもらうことにしたから。」
にこにこ話す悠斗に、『そっか。それならいいけど…』と返すと、翔太兄が口を開いた。
「俺も、明日休みの方がいいんだ。明日はうちの子の検診だし。」
「そうなんだ。じゃあ、今日はお願いするよ、翔太兄。」
「はい。それでは、皆様お車にどうぞ。」
俺の言葉にいつもと同じ優しい笑みで告げた翔太兄は、ガチャっと後部座席のドアを開けた。
と、その時―…、玄関からもう一つの声が割り込んだ。
「何処行くんだ?」
そう言ってやって来たのは会長。
びくっ。
「あ…」
「あぁ、父さん、天気もいいし、これから公園にでも遊びに行こうと思ってさ。」
俺を遮り会長にラケットを見せてそう説明した悠斗は、いつもと変わらぬ笑顔。
そんな悠斗を見て、会長は素直に信じたようで『そうか。気をつけて行くんだぞ。最近子供の誘拐事件が多発してるみたいだから。』と心配そうに言った。
「分かってるよ。じゃあ、行って来る。川凪、車を出せ。」
会長に笑顔で答え、翔太兄に指示した悠斗。
彼の指示を受け、翔太兄は早速リムジンを出発させた。
ふぅ…。
悠斗のスタイルとラケットのおかげで、何とかバレずに屋敷を出れたぞ。
「さんきゅ、悠斗。」
動き出した車の中で悠斗に礼を言うと、彼は膝の上に輝を乗せたままひらひらと手を振った。
「なぁに、あんなのお手の物さ。確かに父さんたちが出てくると、『孫の衣装はこれがいい!だの、あれがいい!だの』って、かなり五月蝿さそうだからな。」
苦笑まじりに返した悠斗に、『だろ。』と同じく苦笑し突っ込むと、月華が可笑しそうに笑っていた。
しばらく車で走り、到着したのはセレブ御用達のレンタル衣装店―…。
店の外に翔太兄とリムジンを残して店に入るなり、月華が俺の手を掴んで歓喜の声をあげた。
「きゃーっっ!可愛いドレスがいっぱいあるぅ〜♪ねぇねぇ拓海くん!拓海くん!どれがいいかな??全部着てみてもいい??」
キラキラの瞳で聞く月華に『勿論。いいよ。』と答えると、彼女は早速嬉しそうにドレスを選びに行ってしまった。
はははっ。
相当楽しみだったんだ。衣装合わせ。
出産してママになっても、やっぱり月華も女の子だな。ドレス見てにこにこしてる姿が超可愛い♪
「さて、俺はどれにしようかな♪月華のドレスと合いそうなのがいいから〜♪」
月華に少し遅れて、にまにまと笑いながら軽い足取りで自分の衣装を探しに向かった悠斗。
そんな彼の後姿に、思わず笑ってしまった。
くっくっく。
こっちにも超楽しそうな奴がいるぞ。
おっと、笑ってる場合じゃない、楓のドレスは月華のが決まってからでいいとして、俺と輝のを考えねば。
「さぁ輝、パパと服を選びに行こうか。」
楓を抱いたまま、片方の手で輝の手を掴み声をかけると、途端に俺を引っ張り駆け出した輝。
うぎゃっ!
「こらっ、輝!走っちゃダメだろ!!」
「パパ!パパ!“仮○ライダー、○○”みたいなのあるかなぁ??」
えっっ。
うぅ〜〜。
やっぱり来たか、別バージョン…。
「そんなの無いと思うぞ、輝。って言うか、パパは普通のがいいよ。お願いだから、普通のにしよう。」
勘弁してくれ。
結婚式で“仮○ライダー、○○”みたいな格好なんか絶対したくねえ。
するくらいなら、俺は船から身投げするぞ。
「え――っっ!!○○レンジャーか仮○ライダーか、どっちかがいい!」
ぶーっと脹れて怒る輝に、『パパはどっちも嫌だ。』と即答すると、更に拗ねられてしまった。
うぅ〜〜、拗ねられても嫌なものは嫌なんだ。
「分かった、じゃあ、こうしよう、輝。今度○○レンジャーのパジャマ買ってやろう。それでいいだろ?だから、結婚式で着る服は、もっと違うカッコいいやつにさせてくれないかな?」
何とか諦めてもらうべく物で釣ると、輝はうーんと考え込んでから『いいよ。』と頷いた。
はぁ…。助かった。
「そうか。ありがとう、輝。じゃあ、パパと一緒にカッコいい服を探しに行こう。」
輝の頭をよしよしと撫でながらホッと安堵した俺は、月華と悠斗にだいぶ遅れて衣装を探しに向かった―…。
◆
楓をカーペットの上にちょこんと座らせ、輝とともにしばらくあれこれ服を試着し選んでいると、本日30回目の俺を呼ぶ月華の声。
「拓海くん!拓海くん!これどうかな♪?今までの中で、これが一番可愛いと思うんだけど。」
はははっ。
そんなに頻回に呼ばれると、俺の服が選べないよ。
…にしても、ほんとにここにあるドレス全部着るつもりだな、月華。まぁ、いいけどさ。嬉しそうだし。
それに、俺としても、月華の一番お気に入りのドレス着て結婚式出てもらいたいしね。
ふふっ。
けど、『これ一番可愛い』発言は、これで10回目だな。
結局どれにするんだろう…。まだカラードレスも選ばなくちゃいけないってのに…。
「はいはい。どれ?」
自分のタキシードも試着途中で、苦笑しながら振り返って見ると、そこにはとっても可愛いデザインの純白のドレスに身を包んだ最高に素敵な俺の奥さん。
おおおおっっ!!超可愛い!!
可愛すぎるぞ、月華!!まるでお人形みたいだ。
う〜〜、このまま部屋に持って帰って飾っておきたい…♪でもって、毎日ぎゅーって抱きしめてすりすりしてぇ♪
うへへへっ。
あぁ〜、俺ってば、また嫁バカ度が上がりそう〜♪
るん♪
「パパ〜、よだれでてる。」
うがっ。
輝に言われて我に返った俺は、慌ててハンカチで拭って月華に声をかけた。
「月華それいいよ。超可愛い!!今までの中で一番綺麗だし、似合ってるよ。」
自分の試着もほったらかしでにへにへにまにましながら答えると、月華も嬉しそうに『ほんと??じゃあ、これにする〜♪』とあっさり決めてしまった。
そんな月華を見て、『おおっ!月華それにするのか??超可愛いじゃん♪じゃあ、やっぱりこっちの色とデザインにしようっと。月華、そのままで待ってて。』と言い置いた悠斗は、早速フィッテングルームへと行ってしまった。
はははっ。既に二択状態だったのか…。
しばらく後―…。
ばっちりタキシードを着こなした悠斗は、まるで本当の新郎のよう。
やっぱり、もとが男前だから何着ても似合うな、こいつ。
俺がいなければ、俺が月華と結婚しなければ、こいつは…月華といずれこんな日を迎えていたのかも知れないんだよな…。
「ゆう、かっこいい〜!」
悠斗のもとへ駆け寄り、うきゃうきゃとはしゃいだ輝。
その輝の頭を撫でて、悠斗が嬉しそうに『そうか?かっこいいか?』と聞き返した。
「あぁ、すげえかっこいいよ、悠斗。何か、お前が本当の新郎みたいだ。」
にっこりと笑顔で返してやると、俺を見返した悠斗が照れくさそうに笑った。
「そ、そうか…。ありがとう、拓海。」
「ほら、写真撮ってやるから月華と一緒に並べよ。」
デジカメを取り出し、二人で並ぶよう指示すると、輝が『ぼくも!』と手を挙げた。
「輝はダメだ。ゆうが終わったら、ママと撮ってやるから待ってなさい。」
「え―っ!!ぼくも、ゆうとママといっしょにとりたい〜〜〜」
ぶーっと膨れて輝が文句をたれたその時、遙後方で一人遊びをしていた楓が喋り出した。
「に〜や…あ〜…あ〜…に〜」
必死に輝を呼ぶ楓の声に反応した輝が、『かえで〜、なに〜?』と妹のもとへ駆けて行った。
楓、ナイスタイミングだぞ。
よしよし、今のうちに。
「ほら、悠斗、もう少し月華に寄り添って。」
「こ、こうか?」
俺の指示にちょっと緊張気味で聞き返す悠斗。
「そうそう。そんな感じ。じゃあ、撮るぞ。」
輝が楓に気を取られている隙にデジカメを構えた俺は、ちょっぴり緊張気味の悠斗と月華を写真に収めたあと、再び声をかけた。
「おし、じゃあ今度は向かい合って。で、手を繋いで。あとは…そうだなぁ…見つめ合おうか。」
「えっ、た、拓海、もういいよ、そんな…。」
珍しく顔を赤くした悠斗が焦り顔で言い返した。
「何言ってんだよ。一枚も二枚も一緒だろ。ほら、言われたとおりにする!じゃないと、俺の気が変わるぞ。」
指差し指示する俺に被るように、月華が悠斗へ声をかけた。
「お兄ちゃん、もう一枚撮ってもらおうよ。ね?」
「え、う、うん…」
月華に言われて頷いた悠斗は、赤面したまま月華と向かい合い手を繋いだ。が、俯いたまま。
「こら、恥ずかしがるな、悠斗!ちゃんと月華の目を見る!」
「あ、あぁ…」
ビシッと指差し怒った俺にぼそぼそと返事をした悠斗は、恥ずかしそうに顔を上げて月華を見つめた。
その横顔は、今までに見たことが無いくらい、幸せそう。
悠斗…。
「よし、そのままだぞ。撮るからな。」
声をかけてからシャッターを押した直後、輝がくいっくいっと俺のズボンを引っ張り呼んだ。
ん?
「何だ?輝。」
「パパ、かえでくさい。」
えっ。
臭い…?って!うぎゃっ!!
輝の声に数秒遅れて反応した俺は、デジカメを持ったまま楓に駆け寄った。
「楓っ、おうち出てくる前にしたのに、またしちゃったのか??」
話しかけながら楓を抱きかかえると、プ〜ンとにおったあの臭い。
うおっ。ちょ、超くしゃい。
やっぱりうんちしてるぅ…。
しくしく。
「えへへ〜…、あ〜あ〜」
汚れたオムツを自分で掴んでそう言った楓は、にまっと笑う。
う〜〜、楓ぇ〜〜。『あ〜あ〜』じゃないよぉ。
「月華ぁ―っっ!大至急楓グッズ!うんちした!」
「えっ!嘘っ!!うち出てくる前にいっぱいしたのに!?あ、ちょ、ちょっと待って!」
俺に言われてドレス姿のままパタパタと駆けて来た月華の手には、オムツとお尻拭きとビニール袋。
「はい、拓海くん。私代わろうか?」
手渡しながら言う彼女に『ドレスが汚れるからいいよ。』と返すと、早速オムツ交換を始めた俺。
それから僅か数分…いや数十秒後―…、すっかり綺麗なオムツに交換した途端、お尻周囲が快適環境になった楓はうきゃうきゃと笑い声をあげた。
ふぅ…。
「ほら、楓、綺麗になったぞ。もうちょっとしたら公園行くから待ってるんだよ。」
言い聞かすように言って楓をちょんとカーペットに下ろしたのと同時に、横から月華が言葉をさした。
「拓海くんてば、相変わらずオムツ交換スピーディーだよね。昔からアイロンとかも上手だったもんね。手先が器用なんだね。」
えっ。
「あはははっ、そ、そうかな…」
俺が器用なんじゃなくて、単に月華が不器用なだけだと思うけど…。
でも、確かに、子供出来てから手馴れたよなぁ…オムツ交換。
しかも、どんどんスピーディーに出来るようになってる自分が怖い。
むぅ〜、このまま行くと、履歴書の特技欄に書けるかも。
“特技、超高速オムツ交換!”って…。それもちょっと悲しいか…。
はははっ…はぁ…。
苦笑まじりに汚れたオムツをビニールへ入れていると、『に〜や…に〜ゃ』と輝を呼んでトコトコ歩き出した楓。
そんな楓の手をぎゅっと握って輝が声をかけた。
「かえで、おいで。にーちゃんといっしょにふくえらびにいこー。」
楓の手を握っててくてく歩き出した輝は、すっかりお兄ちゃんの顔。
やれやれ、妹の前だとしっかりお兄ちゃんになる奴だな、こいつは。
でも、おかげで助かってるけど。
ふふふっ。
おぼつかない足取りの楓を連れて歩く輝の後姿を見ながら、俺と月華は顔を見合わせくすっと笑った。
しばらく後―…
俺と同じ衣装を選んでご機嫌な笑顔の輝と、ママと同じドレスを着せてもらってにひゃにひゃ笑う楓と、お気に入りのカラードレスを選んでとってもにこにこの月華が、三人で仲良くお喋りをしていた。
はははっ。三人ともすっかりご機嫌だな。
その光景が可笑しくてくすくすと笑っていると、俺の横では悠斗がじっとデジカメを見つめていた。
悠斗…?
ちらりと覗き込んで見えたのは、さっき俺が撮った悠斗と月華の写真。
「ついでだし、カラードレス姿の月華とも何枚か撮ってやろうか?悠斗。」
ぼそっと言葉をさした俺に、悠斗は即座に首を振った。
「いや、これで十分だ。十分すぎるほどの幸せを貰った。」
「悠斗…」
「写真の中だけでも、あいつと一緒になれたなら…もういいよ。さんきゅ、拓海。この写真、一生宝物にする。これがあれば、俺はこれからも一人で生きていけそうだ…。」
そう言ってへへへっと笑った悠斗は、何とも痛そうな切なそうな笑顔だった。
悠斗…。
「ごめんな、悠斗。そんなささやかな幸せしかあげられなくて…」
「何でお前が謝るんだよ。何度も言ってるだろ。俺のことは気にするなって。」
謝った俺の頭をコツンと叩いた悠斗は、先程とは一変…可笑しそうに笑っていた。
ほんとに、ごめんな…悠斗。
その後―…
だいたい服とドレスを決定した俺たちは、早速店を出てリムジンに乗り込み…翔太兄の運転で公園へ向かった。…のだが…
行った先の公園で俺が、悠斗と輝にテニス&○○レンジャーごっこをさせられたのは言うまでもない―…。
ぐぞぉっ。
俺は楓とのんびり日向ぼっこがしたかったのにぃ〜〜〜。
う〜〜、もう動けねぇ…。
ばたっ。 |