薄ぼんやりと道が照らされている。真っ白な雪と街灯の明かりだ。
新年初デートは初詣。
何とか親を説得できたのは、私時任楓の相手が、従兄弟の時任樹だからだ。
こんな夜中に家を出るのは初めてだ。樹が相手で良かった。
幼馴染みで同い年の従兄弟の樹は親に覚えが良い。
小さい頃から色々と比べられてはいたけれど、樹は男で楓は女だ。その分あんまり風当たりは無かった。
「ごめん。待たせちゃったかな?」
樹の登場で、この場だけ明るくなった気がする。多分私の気のせいだけど。それだけ樹の存在は大きい。
私は約束があると、必ず早く家を出てしまう。なんとなく、遅れるのは嫌だし、待っているほうが不安は少ない。待ち合わせ場所がここで良かったかな?とは思ってしまうけれど。
「うん。ちょっとね。いつものことだから。気にしないで。私のクセ知ってるでしょ?」
笑いながら私は答える。
「知ってるから、俺も早く出たんだけどな。ちょっと遅かったか。」
樹はいつも私の事を考えていてくれる。それがとてもうれしい。
「いいんだって。私のクセだから」
私は笑いなら、樹の腕に手をまわす。腕を組んで歩くのがこの頃の私たちだ。
ちょっと離れた神社まで。
神社に行けば人はたくさんいるだろうけど、今は二人きりだ。
初詣はやはり近所の人たちが集まる。長い列が参拝までにできる。
寒いけど、暗いけど、樹がいればまったく平気だ。
「樹は、来年卒業したら就職するんだよね?」
私が今一番気になっていること。
高校は別だったけど、大学は同じ大学、同じ学部に入れた。
私はまだ研究したい。大学院に行けたら行く気でいる。だけど、そのための勉強が一人なのが辛い。大学の時は、樹と二人で頑張ったのだ。
「そうなるかな。俺はやっぱ就職だな。でも、楓の勉強付き合うよ?」
「えっ?だって、就職するのに」
びっくりして樹を見上げる。
「勉強して悪いことはないからさ」
樹は私を見てニコりと笑った。
「就職と院じゃあ今までみたいにずっと一緒ってわけにいかなくなるね」
「まだ一年先だよ?」
いつもいつも先のことばかり不安だという私に樹は気にした風もなく、笑う。
樹が笑ってくれると、私の心も明るくなるから不思議だ。
「そうだけどさ……」
樹はもてるのだ。それが不安になる。実際今私と付き合っていること事態時々嘘じゃないか、と思えて来る。大学でも、私がいるのを知っていて告白してくる女の子はたくさんいた。
来月のバレンタインが不安だ。
来年になって、就職した樹が、私の知らないところでOLのお姉さんたちと話すのが不安だ。
「雪だ」
ふと、樹が上を見上げて言う。
「え!本当だ」
細かい粉雪が舞い出した。
「楓の不安は分かるけどさ、先のことばかりじゃなくて、今を楽しむことも大切だよ?雪はさ、すぐに溶けちゃうけど、たくさん降れば積もって行く。楓が不安な分、俺はいくらでも言葉を積もらせるよ」
雪を手のひらに受けながら、樹は優しく言う。
手のひらの熱で溶けて水になった雪は、すぐに消えた。
でも、心に積もった言葉はそんなにすぐに消えてなくならない。
「言葉は消えないもんね」
樹にギュとしがみつき、私は言う。
「そうだよ。だから、俺は何度でも、いくらでも、楓に言葉をつむぐよ。楓の心が俺の言葉で埋め尽くせるまで」
樹は優しく抱き締めてくれた。
言葉もいつも優しい。
こんな優しい彼氏がいて良かった。
「楓だけだよ」
樹はいつもの言葉をくれた。
この言葉が私の中にたくさんたくさん積もるように。
「私も樹だけ」
恥ずかしいけど、こたえた。
私の言葉も、たくさんたくさん樹の心に積もりますように……。
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