ゲーマーだけが世界を救える~世界は昔からゲームだった~
ある日、世界全ての人類の脳に直接メッセージが響き渡った。
それは、どんな人種も国籍も問わず、全ての人の脳に母国語で認識された。
その言葉はただ一言。
『飽きたし』
同時に、星の公転が止まり、太陽の動きも緩慢になった。
当然、気候や海流などは異常と言う一言では説明がつかないほどの有様になっている。
世界中が大混乱になり、人々は神に祈り、悔い改め、車をひっくり返して商店の窓ガラスを叩き割っては火を放った。社会が暴徒であふれかえる中、それでも冷静な奴らが居た。
日本人である。
いや、もちろん漁業とかは大打撃をうけているし政治もなぜか総辞職したり混乱している。それでも都市部では電車は動いているし普通に通勤しているのだ。もちろんテレビ東京は通常営業である。なので、ネット上でもわりとスムーズに受け入れられたのだ。
「飽きた、って事はいままでなんかやってたやつがいるって事だよな。神か」
「神だな。そして飽きっぽいwww」
「見放されたわけか。信仰とかが重要な国は大変だろうなぁ」
こんな調子であったからだ。
ツイッターでは「#途中で投げ出した遊び」とか「#こうなったら途中でも投げ出す展開」とかが大いに賑わい、日本人はなんなんだと高校生が留学生に胸倉掴まれるなどのニュースが三面記事の端っこにのったりもした。
そして次の日に第二のメッセージが。
『こいつらもいつもこの辺で文明止まるんだよな。ヒトデとかイルカだと宇宙行かないし。何度目だよ、もういいよ』
何を意味するのか、解釈に迷い。人はどうするべきなのかで意見は割れ。暴動から発展して戦争が始まる中。世界中のゲーマー達は理解し、共感した。
「シム系だな」
「46億年で1周とか飽きるわwww」
「wikiとか無いのかもな…ゆとりか」
「人生がクソゲーだと証明されたな」
そしてまたたくまにスレッドが乱立しまとめが作られハッシュタグは大喜利と化し、それでも徐々に積み上げられる集合知。
「でもこのまま太陽とか止まったら世界終わるな」
「SEKAI NO OWARIということですかwww」
「電力無くなると、老後の為に積んだケームが出来ない」
「どっかにプレイヤーがいるとして、シムアースの駒からもっと続けろって伝えるにはどうしたらいいんだろ」
上位存在による宇宙創造を止めさせない為、世界規模でのパラメータに変動を出す事で「今までと違う」という局面を見せる必要がある。
アメリカ主導で宇宙への打ち上げが始まるが、そんなのは遅すぎる。
狂信者による千年王国建設が複数始まるが、今までと変わらない。
一万人かそこらでは誤差の範疇を出ない為、一般人を巻き込む必要がある。
下らないが、神か、世界デザイナーか、もしくはプレイヤーだかへのメッセージの為、超巨大な人文字を作る計画がツイッターやテレビで流され始め、戦争を止める為にと某国が打ちこんだ非核爆弾で焦土化した世界最大の大陸の荒野に巨大な文字が描かれる。
文字は、文字数あたりの意味量の多さで日本語が選択され、三億人を巻きこんで「それは真実なのですか」という意味の問いかけが描かれた。
「マジで?」の3文字である。
焦土となった国の十億人程の「人口低下」に加え、唐突な人口分布の変動。そしてメッセージ。
プレイヤーから第三のメッセージが響き渡る。
『何のフラグだこれ』
『おい、なんかお前ら面白い事やって見ろ』
何が起きているのか、誰一人理解できていないまま、星の運行は元通りになり太陽は輝きを取り戻した。
「再び飽きられてはならない」
これは世界全ての共通の課題となった。
世界中に奇怪なパフォーマーやキチガイが増え、コメディアンが方向違いの頑張りをみせるが、そうじゃない。
これは、個人を見ずにパラメータだけ見ている人からの言葉なのだ。
キャラクターからプレイヤーへの決死の接待が始まった。
「とりあえず方向性は間違ってない!」
「とりあえず、人口減らすのは受けた」
「一度注目はされただろうから、人文字での会話は次は少なめでも動くだろ。お台場あたりでいこう。日本だけでやったほうが早い」
祈りとか生贄とかはじまる国を余所に、日本人は政府そっちのけで勝手に動き出した。
何度かの巨大人文字でのやり取りを経て、東京お台場にモノリスが出現し上位存在との筆談が可能になった。数日後には『神だけどどうすればお前らの文明進むの』というスレッドが建つ。ネタと思われていたがまさかのご本人降臨であった。
「資源足りねーから奪い合うしかないんだよ、神様ならもうちょい分け与えてくんね?」
『世界創った後に途中から数値弄くるのは俺の趣味じゃない』
まさかのタメ口であった。日本政府を含む世界中が冷や汗をかいて頭を抱える中、主に日本人のゲーマー達と神を名乗る上位存在は親交を深めて行った。
「そこをなんとか! レアメタルとかこの国に少なくてやりにくい。融通してくれたら研究捗る」
『そんなの足元に埋めてあるし。お前らにはもっと無心に地面掘り返す努力が足りない』
ボーリング関連の企業が発狂し大地が掘り返され、さまざまな開発競争が過熱した。
「他の周回の時、宇宙はどこまで行けてるの?」
『アルファケンタウリまで行った事あるけど地球に人が居なくなっててゲームオーバー。お前らはもっと産んで増えて地に満ちるべき』
「ヒトデが恒星間航行しないとか怒ってたけど、ワープとかって可能なの?」
『海から上がらない連中は宇宙行くのも遅いんだ。あと光ってかなり遅いじゃん?』
光が遅いという話には格闘ゲーマー達が頷いたとか。
「ワープしたいです!教えて下さい」
『すればいいのに、何でしないの』
「寿命を何とかできませんか」
『セルの寿命はルールのうちなんで」
神から何かを教えて貰おうというのは上手くいかなかった。
「頑張るので、とりあえず電源落とさないで下さい。我々の生命を保証しろとまでは言わないので、種として存続するフィールドを残して下さい」
『電源はつけとくけど、ママに怒られるまでな?』
まさかの宣言もあったりしたが、太陽や宇宙の動きが正常化し、聞きだせる情報がそんなに無いとなれば、人々の興味は自分達の生活へと移って行った。
平たく言うと、みんな飽きた。
一年も経つ頃には、狂信者とゲーマーしか神とチャットしていないという有様であった。
だいたい、神が飽きっぽいんだから人間だって飽きっぽいのである。神がこんな事言った!という話題よりもアイドルのおっぱいのほうが誰だって興味がある。俺だってそうだし神だってそうだ。
『この子のおっぱい、マジ神!』
「お前も神だよwww」
数年もする頃にはこんな有様だった。
『そういえばネコ飼い始めた』
「まじやめろ。お前の部屋に入れるな!リセットボタンとかホント気を付けろよ?!」
『一回やられたわww』
などという恐ろしい会話もあり、リセットされたのは別の周回時の別種族文明だったのか、今の我々がセーブした所からロードされたのかは聞かない事にしようと合意が持たれた。
数十年が過ぎた頃、別の周回であったとしても他の恒星まで行った事がある事を神がコメントした事により、宇宙開発は国家を跨いで共同で進められた。月には基地が作られ、倫理とかは素っ飛ばして様々な実験が行われ、シム系のゲームは大人気になり、神とゲーマーは割と仲良く日々を送っていた。
そんなある日の事だった。
神とはまた別の声が、地球に生きる全ての生き物の頭に直接響いてきた。
『ゲームの中と会話し始めた息子さんの部屋はここですか』という声が……
なんとなく思いついて書いた。
いまは反省している。