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鬼姫 21
            鬼姫

神無月。
「うわぁっ……」
 思わず息を飲んだ。
傷が癒えた私は、自らが生まれ、自らが育った箱庭の外へと足を踏み出した。
暗い洞穴の内から出てきた、私を迎えたのは、
眼が眩むような真っ赤な世界。
眩暈が起きるような真紅の世界。
「……綺麗」
 この美しい風景を一つも逃すまいと目を見開き、大空を見上げる。
私の瞳の中に広がったのは、
私の瞳と同じ深紅の空色。
「んーっ、これは気持ちいいな」
 精一杯に伸びをして、全身で今の空気を受け止める。
茜色の雲が流れ、
秋の冷たい風が、
私の頬を撫でる。
「しかし、竹の奴。結局見舞いに来なかったな」
私の後ろでは、双子の姉妹が微笑んでいる。
秋の柔らかい風が、
緋色の紅葉を舞い上げる。
「仕方ないか、あっちも色々と大変な事になっていたらしいし」
 それに今は文句を言うよりも、この美しい世界を楽しもう。
沈まぬ夕日を見上げ、
色素の抜けた銀髪が揺れる。
銀と紅の対称(コントラスト)が、麗しい姫の笑顔を一層輝かせる。

「――もう私はどこへでも行ける」

だから――
いつか、
きっと、
二人で歩こう。
この赤い紅い緋色の世界を。
最後の炎は貴方の腕の中で、陽炎のように消えるのだから。

美しく咲いてる花も時が過ぎれば塵となる。
箱庭の外の美しさを知った少女は、
孤独を寂しさと知り、
静かなる終わりの場所へ堕ちていく。
彼と交わした約束を求めて。 

             *

黒き古書のページが進む。
 第三幕。
 紅の鬼の物語はこれにて閉幕。
 役者が舞台に残ってしまうのも、ここまで来れば予定調和。
 物語は第四幕へ。
 次の役者は、橙の王女。
 神の複製品の物語は、
つまらない栄華の終焉を、
鮮やかな色調で彩る為に続いていく。
いつか来る、終幕を目指して。


      ■■■■■■■


 鬼の姫は、
 百年毎に目覚め、
 そして百年間の眠りにつく。
 秋野神楽は名を変えて、
 自分と娘の為に血液を搾取して、生き永らえる。
 ただそれだけの事。
 意味があるとは思えない不毛な行為。
 しかし、その意味は八百年たった今、意味を為した。

『唯一の一』は金色の瞳を三日月にして、
紅い八百年の物語を書き終えた。

「――なんて退屈なのかしら」
お読み頂きありがとうございます。
あと1話同じくらい短い話を更新して、『紅の章』はお終いになりますので、今しばらくお付き合い下さい。


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