妻のサプライズ
僕の妻には好きなものがある。
サプライズだ。
でも、勘違いしてもらっては困る。
プレゼントやパーティを要求するわけではない。
それじゃあ、何かって?
僕に対してなのだ。
ああ、よくいるよね。他人にサプライズすることが好きな人。
いや、違う。
どう?
彼女は友人や両親などにはしていない。
自分のプレゼントもサプライズは嫌だというのだ。
欲しくない物をもらっても困ると。
「じゃあ、なぜ僕にって」って聞くと、「それは秘密」と答えた。
何か楽しみが待っているかのように笑顔だった。
それじゃあ、のろけかって?
ばれたか~
だから、僕は家に帰るのが、楽しみでしょうがない。
ドアを開ける時、心臓が高鳴る。
ドキドキと脈打つのがしっかり分かるほどだ。
でも、いささかエスカレートとしているような・・・
思えば最初のサプライズは腕時計だった。
誕生日でも記念日でもない日に。突然と。
ブランド品ではない腕時計だった。
でも、ハイテク品で意外と高額。
瞬間的に、愛されている、と感じた。
というのは、脈拍、血圧を計測できるのだ。
そのデータをスマホやPCに送って健康管理ができるそうだ。
今でも、妻が健康に気を使ってくれていると思うと、涙がこぼれそうになる。
日ごろのサプライズもある。料理だ。
最初は、あなたが想像する通りだと思う。
唐辛子を使った、辛い料理だった。
今では、舌が痛くなり、鼓動が早くなるほど辛さになっている。
でも病み付きになる美味さだった。それが妻の凄い所だ。
最近では辛味より酸味に凝っている。
僕がなんにでも酢をかけるほど酸っぱいもの好きだからだろう。
それだけでなく、他にもある。
甘いお好み焼き。ソースの代わりにチョコレート。
プリンそっくりな茶わん蒸し。
カラメルソースの代わりにしょう油のあんがかかっていた。
他にもいろいろあった。
それらはテレビを見て思いついたそうだ。
妻は好奇心旺盛なアイデアマン、いやアイデアウーマン。
もし、研究者になっていたら、一流になっていただろう。
だからこんなのもあった。
湯気が上がるジャガイモを摘まんで口に入れた。
次の瞬間、顔をしかめた。
奥歯に染みたのだ。
なんと湯気ではなく、ドライアイスの煙で冷たかった。
しかし、困ったサプライズもあった。
玄関のドアを開けると、妻が胸の前で両手を組み待っていた。
そして恥ずかしそうにしていた。
僕は、はっとした。
「できたの?」
僕はドキドキしながら彼女の答えを待った。
すると、彼女は両手を合わせて舌をペロリと出した。
やっぱりか~
残念な方のサプライズだった。
でも、こんなのはまだいい方だ。
ちょっと喧嘩した日、会社から帰宅すると部屋が暗かった。
いつもならキッチンの窓に灯りがともっているはずだった。
僕は顔をほころばせた。
妻がまた僕を驚かそうとしていると思った。
喧嘩の仲直りのために。
部屋に入って灯りを点け、妻を探した。
えっ、どこにもいなかった。
何かあったのか?
事故、まさか事件?と想像すると僕はドキドキした。
十数分後、ダイニングテーブルの上のメモに気付いた。
『実家に帰ります』
僕はメモを持ち茫然としていた。
数分が経った。
僕は正気を取り戻すと、彼女に電話した。
でも、出ない。
すぐに彼女を迎えに行こうと思った。
玄関のドアを押す。
おっと。
押したドアが軽かった。
外では妻がドアに手をかけていた。
彼女は舌を出した。
もう結婚して10年になる。
こんな調子で、いまだにラブラブなのだ。
しかし、残念ながら今日はサプライズは休み。
女子高時代の同窓会があるからだ。
ずいぶん前から楽しみしていた。
絶対にサプライズはない。
妻が用意してくれた夕食を食べ、テレビをつけた。
チャンネルを変えたが、面白い番組がない。
録画したハードディスクにモードを切り替えた。
妻が録画しただろう、知らない番組名があった。
面白そうだと思って選択した。
『人間も象もネズミも同じ』
何がだろうと興味を持った。
寿命に関することだという。
『心臓の鼓動の回数は動物によらず約15億回』
人間も象もネズミも心臓が打つ回数は同じというそうだ。
つまり、ネズミは寿命が短いが、その分、凄く鼓動が早い。
僕は番組を見ていくうちに鼓動が早くなった。
まさか、妻が・・・
サプライズして鼓動が早くなると寿命が・・・
妻はそれを試している・・・