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異世界召還のリスク  作者: ボナパルト
第二章 魔王領の侵攻
25/33

25 許可のリスク

 お待たせしました。

 ちょっと駆け足です。すみません。


 景色が後方へと流れていく。

 地肌に直接風を感じながらリズム良く走る感覚は、ネフルティスには新鮮だった。

 黒鹿毛の均整の取れた馬体と手綱や息遣いを通して馬を感じ一体となるのは、彼にとって楽しい時間だ。

 ましてやそれが最高級の名馬であるならなおさらのことである。

 ネフルティスとサラエントは風の平原へ向けて馬を走らせていた。

 徒歩ならば二十日は掛かると計算した距離を、三日で踏破できるほどだった。並の馬ならば九日、鍛え込まれた馬でも六日は掛かるだろう距離である。

 馬具に使われた疲労軽減と重量軽減の魔道具は、駿馬を更に快速仕様にしており、また持久力と回復力も飛躍的に伸ばしている。


「サラ。風の平原まで後どれくらいだろうか?」

「もう間もなくだ。あの丘を越えれば砦が見えるはずだが」


 馬を止めることなく、視線だけを丘へと向けた。

 あれを越えれば、戦場が待っている。




 王城を出立し、風の平原に向けて馬で走っているということは、許可と協力を得ることができたということだ。

 結論から言うならば、風の平原攻略は賛同こそ得られなかったものの、止められることもなかった。

 二人で数千の魔物を撃退するというのは荒唐無稽であり、戦う方法を聞いた後も、理解は示したが、いい顔はされなかったからである。


 それでも幾つかの支援は行われた。“勇者”と“英雄”に対する支援としては王国の規模からすればささやかなものなのかもしれないが。

 その支援協力の一つが馬の貸し出しだ。王家が所持する最高級の軍馬を二頭丸々、それも魔道具で作られた馬具ごと借り受けた。

 また、武装に関してはネフルティスが刃渡りが掌程度の大きさのナイフを十本ほど譲り受けた。サラエントが魔道剣を受け取ったのもこの時である。

 そして飛び道具の類は持たなかった。サラエントには不要であり、対多数を想定した弓矢が開発されていたわけでもないからだ。

 更に旅装として旅の必需品、それと幾ばくかの貨幣も渡されている。

 最後に紙に記載された正真正銘、王家印の証明書と印章である。王国が“勇者”の庇護に入ったこと、作戦の邪魔をしてはならないなどの命令が付記されていた。


 許可については、風の平原は王国所有の領土であり、要請された戦いとはいえ、立場を明らかにした以上、そこで戦闘行為を行うというこで許可を得る必要がある。正式には違法とはいえないが、無法ではある。そこを後で突かれても面倒だとネフルティスは判断していた。

 そしてその際に条件を受けていた。


 条件は二つ。

 一つは、二人での戦闘続行が困難と判断した際には砦に引き返し騎士団と共に戦うこと。この際その後の指揮権は先任として騎士団にあることを明確にする。

 二つは、得た戦利品の所有権は王国にあることを認めること。必要な際には戦費として賄う。


 条件をネフルティスは悩まずに同意した。

 むしろありがたいと内心感謝していた程である。悩み考える姿勢を取る方が外交としては正しいのだが、今はそういう場面ではなかった。


 一つ目は保険であり、結果が出せなければ二度目はないという通達だ。元より失敗すれば二度目はない作戦なのだが、裏の意味としては“一度目の無茶を認める”ということでもある。戦場を任されている騎士団にいい顔はされないだろうが、王命である以上逆らうことは許されない。

 

 二つ目は万が一作戦が成功した際、膨大な戦果になることを懸念している。成功したならば、過去に類を見ない戦果になるのは確実だ。たった二人で、数千の魔物が居る戦場を奪還する、という戦果など想定できるわけがない。成功した際に得るのは名声だけにしてくれという王国からの要求だった。代わりにこれからも支援は行うという約定でもある。


 戦場に居る騎士、兵士の立場を理解し顔を立てた上で、ネフルティス達の自由をも認めた判断だった。

 気を回されたという感覚がある。彼らにとって荒唐無稽な作戦をするに辺り、足を引っ張られないよう配慮されたのだろうとネフルティスは考えていた。



「――見えたぞ。あれが風の平原の入り口。リオラス砦だ」



 サラエントの声にネフルティスは思考から現実へと引き戻された。

 街道が整備されているのはどうやらこの丘までらしい。

 今居る丘とリオラス砦の間は窪地になっており、視界を遮るものは何もない。

 恐らくは砦に配備されている兵器の射程がこの辺りを目安に作られているのだろう。

 丘からは急勾配になっており、丘と砦の間に谷があるように感じられた。

 砦を迂回した敵はこの丘を登る際に後ろからの射撃を受けることになる。被害は免れないだろう。

 また、丘に兵隊を配置すれば挟撃も伏撃もたやすい。結果として砦を陥落させるまでは丘を超える魔物の軍勢は出ない、ということになる。

 リオラス砦自体は長城を成しており、今では常時三千の兵が日夜戦いを行なっているという。

 


「今は静かなようだが、戦闘は行われていないのか」

「統制された魔物が昼に攻めてくることは少ない。夜目が効くものが多いし、夜目が効かなくても鼻や別の感覚器官がある。何より人族は夜に休むものだ。生活習慣が崩れればやがてミスに繋がる。もっとも、本来ならば逆のことも言えるのだがな。昼に攻めて相手の習慣を崩してミスを誘う、とか。今は風の平原という見晴らしの良い場所を獲られ、更には防衛戦だ。無理はできないだろうと思うぞ」

「なるほど。ならば今は丁度良い時間だったということか。夕暮れ前に到着できたのは幸いだな。これもお前達のおかげだ」


 ネフルティスはサラエントの言葉に相槌を打ちながら、馬の首元を軽く叩き謝意を伝える。

 馬も応えるように鼻を鳴らし、止まっていた歩を進めた。


 “勇者”の戦いが今始まろうとしている。


 ちょっと短いです。

 野営のシーンがあったのですが、展開が遅くなりそうだったのでバッサリカットしました。

 次回はそんなにお待たせすることは無いと思います。

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