九幕、Kの魔法教室2
「…という風に、色んな魔法があるわけだが」
ひとしきり生徒達が魔法に興奮した後、俺は説明を始める。
「もちろん、簡単に出来るわけではない。みんなはどうやって魔法が使えるのか、知っているかな?」
うーん、と、子供達が考え始める。まぁいきなりこう言われて答えられるわけもないだろう。
が、その中で一人の生徒が手を挙げた。
「まどうが動いてる、ってお父さんが言ってました」
「おぉ、その通りだ」
「まどうってなんですかぁ?」
小学校ではまだ魔導学は習わないからな。少し解りやすく言わねば。
「魔導というのは、この世界に溢れる不思議な力のことだ。みんなが吸っている空気のように、私達の周りにはいつも魔導があるのだよ」
ふーんと頷く生徒達。
「魔法というのは、その不思議な力を使って色んな事を出来るようにするものなんだ」
さらにもう一度同じ反応が返ってくる。まぁとりあえず魔導と魔法の関係はのみこめただろう。
…実際もう少し複雑だが。
一応ちゃんと説明すると、魔導とは空気のように周囲に存在する、一種の物質だ。
厳密に言うと物質ではないが、影響を与えることによって何らかの現象を引き起こす
「力の源」のようなものだろうか。
魔導は様々なものに形を変えることが出来る。火、水、風、電気、土、ときには見えない力だけとなって動くこともある。
俺達は魔法を使う際、周囲にある魔導に干渉する。そして魔導に変化を及ぼし、様々な現象を起こす。これが魔法だ。
「どうやったらまどうが使えるの?」
「うむ。それには魔力という力を使うのだ」
そしてその干渉する力のことを、一般的に
「魔力」という。つまり魔力とは、どれだけ魔導に強い影響を与えられるかということを表すわけだ。それはもちろん個人差があり、ほとんど生れつきで魔力の高さは決まる。
いまいち実感が湧かないと思うが、拳法でいう
「気」のようなものだと考えてくれるといい。魔力も似たような使い方だ。
自分の身から力を捻り出して魔導にぶつけ、その力の質や強さによって魔法が変わるというのが基本だ。だから魔法を使うには割と大した修業が必要なのである。
「まりょくってなぁに?」
「そうだな…力、というのは、重いものを持つのに必要だろう?魔力というのは、魔導を使うのに必要な力なのだ。みんなにも魔力はある」
俺はそうくだいて説明するが、どうやら理解に苦しんでいるようだ。
こんなものは実感するしかないからな。よし、一つやってみるか。
「よし、では一度みんなの魔力を試してみよう」
俺は一番前にいた男の子を手招きした。
男の子は少しドキドキした様子で俺に近づいてきた。
「うむ。では手を出して」
男の子の片手を、教室全体に見えるよう伸ばす。
「よいか?まず目を閉じ、火を思い浮かべてみるのだ」
「はい」
「そして次に、火を点ける様子を思い浮かべて」
「……」
男の子は目をつぶって集中し始める。…なんか占いでもやっている気分だな。
「…出来たか?では、頭の中だけでいい。自分だけで、その火を作ってみるんだ」
「うーん……」
自然と男の子の手に
「力」が入った。
すると………
…ポッ!
「あっ!」
見ていた生徒達が思わず声を出した。
一瞬だけ、男の子の手の上に火が点り、すぐに煙になって消えたのだ。
「うむ、成功だな」
男の子を見ると、何が起きたの?という顔をしている。
「どんな感じがした?」
「あの、体から何か、あの、ちからが出た」
…うむ。どうやら魔力を感じることが出来たようだな。体感しなければわからない得も言えぬ感覚が魔力にはあるのだ。
「すげぇすげぇ!」
「こうやるのかな?」
魔力を身近に感じてさらに興奮した生徒達は、自分で魔法を使おうとしたりした。
「みんなも今言ったように火を思い浮かべてみるのだ。そして自分の力で火を作ってご覧」
男の子を席に戻すと、一斉にその子に質問が降る。
話を聞いた生徒達は、懸命に自分で火を起こそうと悪戦苦闘を始める。中にはすぐに魔法が出る者もいるが、ムラムラと変な熱気が出るだけの者もいる。
「先生うまくいかないよ」
ある生徒にいきなり呼ばれた。…先生か。まぁいいだろう。
「では、自分の中で火が燃えているのを強く想像して見るのだ」
「うん」
実は魔法には想像力も必要である。より自分の中で強く現象をイメージすることで、魔力の質や加減を操作しやすくなるのだ。
例えば、魔導に力強い魔力と熱い質を加えれば、熱系の魔法が発動する。火が点いたり、気温が上がったり、爆発を起こすことも可能だ。それには火の勢いと熱さを想像するといい。
「あっ、出来た!…あ」
その生徒の手の上で黒い光と小さな火が点いた。が、それはすぐに消えてしまった。
「すごいではないか。ちゃんと魔法が使えたぞ」
流石に魔法を維持するのは無理だろうな。
魔法とは魔導が形を変えたものだ。もちろん魔力を加え続けなければすぐに元の魔導へ帰化する。だからこそ魔法は使用が難しいのだ。
「先生、これくろまほうだよね!」
「ん?そうだな、よく知っているな」
「しろまほうとくろまほうがあるってお母さんが言ってたんだ」
ある生徒がそんな事を言った。
ふむ…では一応黒魔法と白魔法の説明もしておこうか。
「何故黒魔法と呼ぶか、知っているかな?」
「うぅん、知らない」
「では、教えてあげよう。みんなも、もう一度俺の魔法をよく見るのだぞ」
俺は生徒達に見えるように立ち上がり、手を翳して火の魔法を使った。
すると、火が点く瞬間に手の上が黒く光った。
「今のが見えたかな?」
「なんか、黒くなった」
「光った!」
うむ、と俺は頷き、一度魔法を消してもう一度同じ魔法を使う。
再び、一瞬黒い発光が起きた。
「魔法を使うと、魔導が黒く光る。だから黒魔法というのだ。では白魔法はどうなると思う?」
「わかった!白くなるんだ!」
流石は子供。発想の回転は早いな。
「その通りだ。この紙を見てご覧」
俺はそこら辺にあった紙のプリントを手に取った。
「…ん!」
魔力を込め、魔法を発動すると……
ッバリッ!
一瞬白い光を放ち、紙が真ん中から破れた。
「白く光っただろう?これが白魔法だ」
生徒達は
「うわぁー」と感嘆の声を上げる。
この魔法はあまり白魔法として認識されない使い方だがな。俺は暗黒騎士だから白魔法は得意ではない。
「先生もっかいやってー」
「うむ、よく見ておくのだぞ」
せがまれた俺は、楽しそうにする生徒達に応えてまた何度も魔法を披露した。
――まだ難しいので言わなかったが、実際は魔法にはまだ二つの種別がある。
一つは、俺達暗黒騎士の技である『暗黒』や、聖騎士の『聖光』といった類で、別のところの力を元に魔導を変質させる特殊なものだ。
暗黒の場合は、自らの体力を発することで魔導を闇に変質させる。魔法のように魔導そのものでなく、変質した闇魔導を操るというわけだ。
そして聖騎士の『聖光』だが、これは少し変わっている。
無闇に力を奮うことを奨めない聖騎士達は、周囲の魔導を力として機能させなくする…つまり魔法を無力化する術を会得しているらしいのだ。
多分魔導の性質変化を妨げる技なのだろうが……なにせ俺は暗黒騎士だから詳しいことは知らん。
まぁとりあえずこの暗黒と聖光の二つも魔法の一種であるということだ。魔導に干渉することに変わりはない。
あと一つの魔法…それは俗に青魔法と呼ばれる。が、これは魔法というより魔物の使う技だ。
もちろん青魔法と呼ばれるのは、発動の際に魔導が青く光るからだ。というか、魔導を帯びた身体自体が青く発光するのだ。
魔物というのは、当然ながら一般に動物とは区別される。動物よりも凶暴で強力な場合が多いためだ。そして事実、動物と魔物は全く違う。
魔物は魔導が無作為に生物に影響を与えた結果に生まれ、自身に魔導を備えている。言ってみれば魔導で出来た体なのである。
彼等が独自の技…火を吹いたり、水を流したり、地震を起こしたり、はたまた自ら爆発したりする時、彼等の体はぼんやり青く光るのだ。
一節には体内で性質を変化させた自身の魔導を放出しているといわれる。簡単に言えば体の中で魔法を使っているわけだ。そうして強大な力を奮ったり、人間では出来ないような事を魔物は可能にしているらしい。
で、何故それを魔法に分類するかって、驚くことに同じ事が出来る人間がいるからだ。いや、人間というより亜人と言うべきか。
青魔導士とも呼ばれる彼等は、魔物の技を身に直に受けることで、それを自分の技にしてしまうという力を持つ。かなり特殊な存在なので、兵団にも青魔導士の数は少ないだろう。
長くなったが、頭の片隅にでも入れておいてくれればいい。
「……がさらに強いのが」
――キーンコーンカーンキーンコーーン
……お、鐘が鳴ったようだ。任務はこれで終了か。
「…ここまでのようだな。みんな魔法のことが解ったかな?」
『はぁーーい!!』
一斉に子供達は手を挙げた。うむ、素晴らしい返事だな。無事任務は成し遂げたぞ。
俺は脱いであった死神の兜を再び装着し、改めて生徒達の方を向いた。
「………」
また一瞬、怖がった雰囲気が教室に広がる。……こればかりは、仕方ないな。
「…では俺は去るとしよう。さらばだ」
俺は努めて、生徒達に手を振りながら平然と教室を出ていこうとした。
「…先生またね!」
するとそんな声が背中越しに聞こえた。
「おもしろかった!」
「先生ばいばい!」
続くように俺に向けて声がする。
…………
「……うむ、ではな!」
……俺は再び振り向き、みんなに手を振りながら教室を出た。扉を締め切る寸前まで手を振り返した。
………。
「……ふぅ…」
……暗黒騎士に、あるまじき姿だな。
…しかし悪くない、かも。
教室の外で、何かちょっと嬉しくなった俺はその場で佇んでいた。
「あ、あの…」
「…む?あぁ」
と、校長がやってきていた。相変わらずおどおどしたままだ。
「どうでしたでしょうか、あの…子供達が迷惑をおかけしなかったでしょうか?」
「…そうだとしても任務だ、気にすることはない」
俺がそういうと、校長はあからさまにホッとしたようだった。
うーむ、そんなに俺が怖いか?ま、いいか。
「で、任務はこれで終了だな?」
「は…?あ、いいえっ…」
……ん?
「実は、あと十クラス程にもお願いしたいのですが…」
「………」
………マジか。しかも十クラスて。
………
その後、俺は夕方まで小学生達に魔法の講義をしてまわった。
校長は磨きをかけて頭を下げ散らしていたが、最後の方は俺を気遣って謝っていたようだった。
…校長によると、五クラスを過ぎた辺りから、俺は暗黒騎士というより死霊のようなオーラを放っていたらしい……もう思い出したくもない。
自分勝手な魔法の設定です。元ネタは余り気になさらず…
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