十九幕、任務・サクリファイスドラゴン討伐
今回俺は、ある老人の家族を殺した魔物を倒そうとしている老人を止めようとしている孫家族の依頼で老人を救出しようとしている…………って、要はその魔物とやらを倒しに行くのだ。
辺りは既に暗い夜。何か怪しげな鳴き声がギャアギャア聞こえたりする山の中を、依頼主メリの夫クリスに案内してもらっている。
「……あ、見えました。あそこです」
山を数十分程歩いて来た所で、クリスが前方を指差した。
成る程そこには、人一人がやっと住めそうなこじんまりした山小屋が一軒建っていた。
「あんな場所で何年も暮らしているというのか?」
「いえ、ほんの時々おじいさんは麓の僕たちの家に戻ってくるんです。けどいつも傷だらけで……」
ふむ……やはり例の仇の魔物と戦っているのか。一体どんな屈強な老人なのだ?
俺達は山小屋にたどり着くと、その扉をコンコンと叩いた。
「おじいさん、クリスです。いらっしゃいますか?」
………
しかし返事がない。
「……入りますよ」
クリスは断って山小屋の扉を開けた。
……だが中には誰もいない。見ると生活している跡はあるようだが。
「…どうやら、行っているようです」
「うむ……」
この暗闇の中を魔物と戦いに行くとは……常人には無謀だ。
「捜しにいかないと…もう一度山に入りましょう」
俺達は山小屋を離れ、再び山に向かおうとした。
―――が。
「…!待て、何かいるぞ」
「!」
…ガサガサと山の中で音がする。
クリスはさっとその暗闇の方に猟銃を向け、俺は腰に手をかける。
次第にその茂みを踏む音は近づき、影が見える………
「……!?」
――が、それは魔物ではなかった。
「!!義祖父さん!?」
「……はぁ……はっ…」
息荒くやってきたのは、銃を背負った老人だった。この人がおじいさんか…
「ちょっ…大丈夫ですか!?」
「うるさい…この程度じゃ俺は死なんっ……」
見ると、おじいさんは脚を負傷した上に血まみれた肩を抑えている。脱臼か骨折か、どちらにせよ重傷に変わりはない。
「クリス、すぐに山小屋に」
「ええ、さぁつかまって!」
猟銃を肩にかけ、クリスはおじいさんの片腕を担いで山小屋に歩き出した。
「全くまた無茶をして……」
「お前さんにゃ関係ねぇだろう……ぅぐ…」
山小屋のベッドに横になり、手当を受けるおじいさん。
大口を聞いているが、傷は割と深い。よく見ると体中に治りきっていない傷痕が残っている。
なかなか鍛えられた体だが、やはり老人のそれは魔物と戦えるほど頑丈ではなさそうだ。
「肩は……折れてるじゃないですか…!」
「野郎の尻尾に当たっただけだ……ヒビぐらいすぐ治るわ」
顔を痛みにしかめながらそう言うおじいさんの肩は腫れ上がっているようだった。血がついているのは、どうやら脚を触った手で抑えていただけらしい。
にしても怪我は軽くはない。何とかしなければ。
「…俺が診よう。白魔法は得意ではないが、応急手当にはなるだろう」
「……誰だあんたは」
俺がしゃがんでおじいさんの怪我を見ると、彼は俺を訝し気な目で見た。
今事情を説明するのも手間なので俺は構わず、脚の傷を診る。脚の腿には何かに突き刺されたように細い穴が開いていた。
「あ、ありがとうございます。出来れば村に帰った方が…」
「ふざけんな、今がようやくチャンスなんだ。もう一度あいつに一発喰らわせて……ってて!何しやがる!」
「そんな体では先に一発喰らうのはあなただ。先に体を治しなさい」
むぅと唸って引き下がるおじいさん。
俺は先に、腫れ上がっている彼の肩に手を触れて強く魔力を込めた。
「……誰だあんたは。俺に黒鬼の知り合いはいねぇぞ」
おじいさんの見つめる中、彼の肩がぼんやりと白い光に包まれた。
「ん……よし。一日安静にすれば治るでしょう。さぁ、次は脚を」
「……!?」
痛みは少し引いたろう……といっても、骨の無事な組織を引っ付けてから、出血を止めただけの応急処置だが。
「お、おめぇ……っだ!」
うぐっ、と呻くおじいさんの脚を伸ばし、今度はそこに軽く手を当てる。
この傷は、魔物の牙か何かに刺されたらしい。こちらは厄介だな……
「ん……!」
再び、俺の手元が白く光る。だがなかなか傷は塞がらず、しばらく魔力を込めて止血するのが限界だ。
「……ふぅ。クリス、包帯はあるか?」
「あ……はい!」
クリスも今の白魔法に見とれていたのか、気付いたように包帯を探し始めた。
「……誰だおめぇさんは。何の力を使いやがった?」
そしてようやく見つかったそれを脚に巻き付けられながら、おじいさんが俺に尋ねた。
「魔法です。ご存知ありませんか?」
「ま、魔法…?」
俺の言葉に、先にクリスが驚いたようだった。
むぅ、どうやらここは魔法の技術がない程の田舎村らしい。
「あんた、魔法使いなのか?」
「暗黒騎士です。ある程度の魔法なら使えます」
何か心当たりがあるようだが、やはりよくわからない様子。まぁ今はそんなことはいい。
「この人はケイヴォスさん。義祖父さんを助けに来てくれたんです」
「あ? 俺は何も頼んじゃいねぇぞ」
「僕とメリが兵団に依頼したんです、あなたを助けてくれるように」
クリスが説明すると、おじいさんはフンッ、と鼻を鳴らして顔をしかめた。
「余計なことしなくていいと言っとるだろ。これは俺の問題だ」
「違います、あなたが死んでしまったらメリも僕も……」
「その前におめぇさんらが殺されたらどうするってんだ!? 俺があいつをっ……で……!」
おじいさんは身を乗り出して叫んだ。しかし傷の痛みで言葉を切ってしまう。
俺はしゃがんでおじいさんを見上げた。
「何故そうまでして魔物を追うのです? 御息女の仇とは聞きましたが、余りにも危険だ」
「……あんたにゃ解るめぇよ、こいつぁ因縁なんだ……」
「因縁……?」
少し静かな声で、おじいさんは話し始めた。
「もう十年も前になるか……野郎が俺の子供らを喰ったのは。メリがまだ七つぐらいの時だ。あいつのせいでメリは一人になっちまった」
十年……そんなに長い間魔物と戦っているのか?
おじいさんは険しい目つきのまま、不気味な闇の森が映る窓を見た。
「いや、クリスがいたからよかったが……とにかく俺は許せねぇ。絶対にこの手で野郎の首を取ってやる……」
「………」
クリスも黙って耳を傾けている。どうやらおじいさんはかなり深い恨みをもっているらしい。
彼はふっ、とため息をつくと、また俺達に振り向いた。
「あいつは俺が倒す。おめぇさんらは手出しせんでいい」
「義祖父さん……!」
「……わかりました」
えっ? と、頷いた俺を見るクリス。
「俺の任務は貴方を死なせないことです。しばらくは様子を見ましょう」
「ケイヴォスさん……!」
「大丈夫だ。任務は果たす」
俺が手でやんわりと制すと、クリスも押し黙る。
……こういう人物には、身も知らぬ俺の言うことなどすぐには通用しないからな。
「しかし今日はこのまま安静をとっていただきましょう。この闇夜の中を魔物と戦うには不利だ」
「……フン、わかってるよ」
おじいさんは、そこは甘んじてくれたようだ。
「クリスはおじいさんを見ていてくれ。俺は外を見張っておこう」
「わかりました」
俺はクリスにおじいさんの看護を任せ、夜遅くの外に出た。
森は暗く、どこから何が出てきても不思議ではない雰囲気だ。
……まぁ暗黒騎士にはそんな暗闇はむしろ好都合なのだが。闇に紛れる気配には、俺はすぐに気がつく。これも暗黒騎士として修業を積んだ成果だ。
俺はそのまま山小屋の前に仁王立ちしながら周囲を警戒していた。
………
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