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位置が高いほど魔力の濃い世界で、空の彼方に生まれました~航空機チートによる物流革命~ 作者:八針来夏

第三章『陰謀編』

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第三十七話『斬る意味』

遅れてすみません。
「……あ、ああ?」

 がらがらがらと、馬車の音と、時々揺れる音でドライゼンは目を覚ました。
 身を起こしてみれば――すでにバルギス男爵によって制圧されているはずのスヴェルナ商会の門扉が見える。彼は背中を起こして、商会馬車が停車すると、馬車から降りてスヴェルナ商会の中から金目のものらしき金庫を持って出てきた手下に視線を向けた。

「おい、なんだこりゃ。バルギス男爵はどうしたぁ!」
「へ? こりゃドライゼン様。娘は捕まえたんですかい?」

 いや、そうじゃない。ドライゼンは首を捻った。
 ラゴンという男から魔兵を手に入れる。そしてその魔兵どもを使ってスヴェルナ商会を破壊。そしてメーコという娘を人質に、あのシオン=クーカイというクソ生意気な小僧を殺す。それがドライゼンの望みだった。
 まったく、最初バルギス男爵から話を聞いた時は想像よりも早く復讐の機会が訪れたものだと思ったものだ。
 だがその手はずが早速狂い始めていることを感じながら尋ねる。

「娘は捕まえた。男爵はどこだ?」
「へ。へぇ。それが……その」
「なんだ」
「魔兵の数に気を良くした男爵様はその大半を町に放ち、フェズン公を殺しに行きました」

 ドライゼンは、少し黙った。黙った後……叫ぶ。

「なんで! なんで、敵どころか味方さえ予想外の行動をしやがるんだよ!!」

 彼の立場に立ったなら、同情するべきところは大いにあった。
 普通、作戦変更をするのであれば一言ぐらい手下を遣わして連絡するべきところを、何も言わないなど。
 確かに魔兵を使えば、勝利を納めてフェズン公の首級を取るぐらいは出来るかもしれない。そこで一時的な復讐の快感に身を浸すことができるぐらいは可能だろう。
 だが、その後がよくない。
 フェズン公を殺されれば他のあらゆる連合の貴族たちがバルギス男爵の敵に回るに違いない。
 よしんば連合の貴族たちを撃退できたと仮定しても……それは内乱であり、そうなれば帝国は蟻を踏み潰すようにバルアミー公爵領と自分達の領土を併呑するだろう。
 自ら破滅の道をひた走るバルギス男爵。その道連れにされるなど御免だ。

「で、ですがね、ドライゼン様。とりあえずこの商会の主、カルサとダナンの二人は捕まえてます。奴ら従業員を逃がすために先導して避難誘導をして、大体を逃がした後で自分から捕まったんでさ」
「皆殺しが目的だったはずだろうが?! 避難誘導が間に合うぐらいにゆっくり襲い掛かったのか!!」
「へ? そ、そうなんですかい? ですが指示を出してくださるはずのバルギス男爵様は『襲い掛かれ』としか言わなかったんで、つい。
 殺すのは後でもできますが、逆は無理なんで上の方が来たなら指示を仰ごうと」

 ぐぐぐ、とドライゼンは歯噛みした。
 なんというお粗末な話だ。仲間同士でさえまともに連携も意思疎通も出来ず、この武装蜂起は自らの無計画、行き当たりばったりなバルギス男爵によって何をせずとも自爆しようとしている。

「……いや、別に構わねぇな」

 だがドライゼンは考え直した。
 そもそも……自分の目的はメーコ=スヴェルナという娘を人質にとり、シオン=クーカイという小僧に受けた恥辱をすすぐことにある。
 バルギス男爵が自分の事をどうでもいいと考えていたように、ドライゼンもバルギス男爵がどうなろうと知ったことではない。

「……よし、その娘を適当なとこに監禁しろ」

 そう命令を下すと、ドライゼンは私物の酒瓶を傾けながら、腰の剣の重みを確かめるのであった。


 そんな彼らを監視する目があるとも知らず。




「作戦中止! 作戦中止だ! みんな一旦止まるんだよ!!」

 その……スヴェルナ商会の中へと入っていくドライゼンと、メーコの姿を『ドローン』のカメラモニターで確認していたキスカは慌てて念話で叫ぶ。突入10秒前と待ちわびていたレグルスとその仲間達や、見張りの脳天目掛けて弓を引き絞り、射殺10秒前と言わんばかりの射手たちはまた慌てて弦を緩めて姿を隠す。
 面頬を跳ね上げ、リーダーのレグルスは思わずぼやいた。

「何があった、キスカ」
「新しい馬車が到着した。奴らの仲間みたいさね。……ああ、くそ。メーコちゃんだ。気絶している」

 その言葉に、彼ら二つの冒険者チームのメンバーは思わず口を閉じる。
 彼女を危険には晒せない。以前シオンの操る飛翔甲冑(メイル)に助けられた時、疲労困憊していた自分達に暖かい飲み物を振舞ってくれた、ぽわぽわ綿毛のような女の子に誰もが好感を持っていた。
 その彼女の安全のためなら、再び忍耐の時を過ごすことも耐える事ができる。

 ……現在、連合首都ガランシューは大勢の人間にとっては災難だったが、一部の冒険者達には突然振って沸いた掻き入れ時だった。
 それは魔兵出現と同時に、公爵家から駆け込んだ早馬によってもたらされた。
 冒険者ギルドの掲示板に刻まれた『魔兵一匹の首につき、金貨十枚』という言葉に大勢の冒険者達が目の色を変えて狩りを始めたからである。
 当初は――彼ら傷だらけの鎧(スカーメイル)猛攻(ラッシュ)の2チームもこの戦いに参加しようとしたのである。
 だがそこに駆け込んできたスヴェルナ商会の人間が『商会が謎の連中に襲われている、助けて欲しい!』と依頼をしたのだ。

 冒険者は依頼金と引き換えに仕事を請ける。
 町の治安維持なら騎士団や警邏に話を通すのが筋だが……この時は町に現れた魔兵によって対処能力がパンクしていたのである。
 だから戦える人のいる冒険者ギルドに藁にもすがる思いでやってきて――そこで、彼らに出会ったのだ。

 レグルスとキスカは思った。
 法的には、これはタダ働きである。依頼料の相談も、条件の有無も取り決めず、契約もタダの口約束のみ。
 だが……彼らは一度、シオン=クーカイに、メーコ=スヴェルナに、そしてスヴェルナ商会の新型飛行機械に命を助けられ、暖かい茶を振舞われた恩義があった。

 命の恩を返すのは、今がこの時。

 レグルスとキスカの二人の判断を、全員が支持した。
 彼らは命の恩を返すため、自ら望んでここに来ていたのだ。




 ドライゼンは、落ち着いていた。
 前回のような衆人環視の前での決闘ではない。自分を破ったシオン=クーカイという小僧に命を賭けた決闘をする。お互いの命を賭けるという、剣士として究極の体験をする事に不思議なまでに激情と冷静さが両立していた。
 それにしても、どうしてこうなったのだろう。不意に、ドライゼンは自分の過去のことを思い起こしていた。


 まだ彼が何の罪も知らない幼い頃。
 遠目に、エクエス=バルアミーという少女が公爵家の娘として立っているのを見た。

『お前は元々、あの方と結婚するはずだったのだ。あの方の騎士として、恥ずかしくないようにな』

 幼い頃に死んだ父に言われたことを思い出す。
 内緒の言葉は、自分を奮起させるためのものだったのか。
 ドライゼンは騎士になろうと思った。剣を握り、修行を初め、あの遠目に見た彼女の助けになるべく努力を重ねた。
 才能は、たぶんあったのだろう。少なくとも、故郷では一番強かった。だがそれ以上に……領主の親戚である自分に胡麻をする連中が、どこかで手を抜くように伝えていた事も……故郷での無敗の理由だったろう。
 そして意気揚々と首都ガランシューに赴き……現実を知った。剣術の修行相手にコテンパンに叩きのめされた。

『故郷では一番だったかもしれんが、ここでは一番下だな』

 自分が井の中の蛙である事を自覚し――そこで、人生が変わった。
 取り巻き達が勝手に復讐を計画し、闇討ちを実行してしまったのである。相手は命こそ失わなかったものの、ひどい怪我を負った。
 ドライゼンはあの時、『そんな卑劣な真似をなぜ』と叫んで自首すれば正道を歩めたかもしれない。
 だが、自分を一方的に叩きのめした相手がひどい怪我を負った事に、騎士にあるまじき快感を覚えてしまった。

 ドライゼンは犯人ではない。だが良心と道徳に基づいて取るべき行動を取らなかった。
 親戚に犯人がいては外聞が悪いと思ったバルギス男爵は、適当な男に金を握らせて、犯人であると自首をさせた。
 だが……その行為が結局はドライゼンの気性を決定的にねじくれさせたのである。
 例え犯人が自首し、表向きに事件が解決してもドライゼンは限りなくあやしい人物だった。
 騎士の訓練校でも彼の悪評は広まり、剣を鍛えても誰からも尊敬もされず遠巻きにされ。金で自分の罪を他人に推し着せるような人品卑しき心と思われたため、騎士としての推薦もされない。バルギス男爵は自分の面目を保つために、甥の人生を滅茶苦茶にしてしまい、それを恥じる事さえなかった。

 敬意を得られず、夢見た騎士にもなれず。次第に粗暴な振る舞いも多くなり。彼の周りには悪漢無頼がたむろするようになり、ますます幼い頃の夢は遠のいていく。

 一度でもいい。エクエスを通じてバルアミー公爵家の正規の騎士に取り立ててもらえれば、もっとマシな自分に戻れるかもしれない。そう思って何度も詰め寄った。

 だが。
 シオン=クーカイ、あの餓鬼は一体なんなのだろう。
 自分よりも年下でありながら、剣は、剣だけはと、必死に磨き続けてきた自分を破った生意気な小僧。
 それでいて塩不足を解消し、新しい飛行機械をつくりあげて連合滅亡を食い止めた、大勢の尊敬を集める少年。

 そんな凄い奴を殺せたなら、俺はシオン=クーカイよりも上に、上等の人間になれる。
 何かが変わるかもしれない。
 ドライゼンは、入念に剣の手入れを行った。

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