挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
位置が高いほど魔力の濃い世界で、空の彼方に生まれました~航空機チートによる物流革命~ 作者:八針来夏

第二章『連合編』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

50/114

第十四話『そんな素敵な仕事があったなんて!』

「……ほぉ……白金貨15枚では不服ですか?」

 バルロフ卿は僕の拒絶の言葉に対して、むしろ面白そうな笑みを浮かべた。
 僕は頷き答える。

「より軽く、より耐熱性に優れ、より頑丈な金属。その活用方面は多岐に渡ります」

 その言葉に隣で妻の背を撫でていたダナンさんが口を添えてくれる。

「……そうだな。考えてみればその通りだ。
 あの金属を使えば、騎士が身に纏う鎧はこれまでのものよりも頑丈で、軽くなる。軽いという事は体力の消耗を減らし、戦う事によりいっそうの力を注ぐことができる。魔女騎士(ヘクセリッター)もそうだ。飛翔甲冑(メイル)の材質がより軽くより頑丈になれば、防御力も、そして機動力も向上する。
『軽い』という事はそれだけで強力な強みだ。
 商売を手広く広げているバルロフ卿ならば、あの金属の製法を獲得するだけで、多大な恩恵が得られるだろう。
 白金貨15枚の損失など、たやすく穴埋めできるほどに」
「……ふむ、参りましたな」

 ダナンさんの発言に僕は概ね賛成だった。
『より軽く、より頑丈な金属』は地味だが、しかし絶対に軽視してはならない巨大な効果を生む。ありとあらゆる分野に応用可能な強力な基幹テクノロジーであり、もたらされる利益は巨大だろう。
 あまり困っていなさそうな雰囲気で、バルロフ卿は自分のヒゲを撫でる。

「今すぐに動かせる現金では、コレが手一杯というのは本当の事なのです。
 如何ほど追加すれば貴方は取引に応じてくださるのか」

 まるで僕を値踏みするように微笑む老人。
 この世界の経済感覚に疎い僕では、双方が満足する適切な値段の付け方というのは出来そうにない。……ならば、やり方は一つ。

「いえ。出していただいた白金貨は戻していただいて結構です。
 僕が希望するのは、ここで一括で支払う手段ではありません。……貴方に技術を教える。その代わりに、技術を用いて得た収益の何パーセントかをこちらに納めていただきたい」
「ほぅ……それは一度だけの支払いでいいので?」
「いいえ。この技術を使用し続ける限り、払っていただきます」

 言質は取らせん。あそこで否定しないと『収益の何パーセントを一回支払っただけで後は自由なのだな』と誤魔化されかねない。
 バルロフ卿はその言葉に考え込む様子。商人らしく頭の中でめまぐるしくそろばんを弾いているのだろうか。
 僕が指定したのは特許に近い。最初に大金を貰って技術の権利を売るより、細々とした金額でも良いから恒常的にお金が入るようにしたいのだ。どうせ天蓋領域に行くための船を作るのは長丁場になるし……現在の僕は手に職がない。
 定期的な収入がないと落ち着かないのは前世より続く日本人の性なのだ。
 僕が欲しいのは一度に手に入る大金より、定期収入である。

「……よろしいでしょう。その条件で飲みましょう」
「では、商談成立ですね」

 いやにあっさりと引き下がるものである。
 秘書さんが荷物の中から何か重要そうな巻物を取り出し、細やかな条件を書き加えていく。
 あれは……恐らく契約魔術のスクロールなのだろう。記載された約束をたがえる事を魔術的な縛りで許さない、大金の絡む契約で用いられる代物だ。大変に高価で滅多な事で使われるものではないが、今回は金額が金額だしなー
 さて。
 実務的な事を秘書さんがしている間、バルロフ卿は髭を撫でながら少し気を抜いた様子で笑って見せた。
 なにやら面白そうなものを見た、といわんばかりの視線で僕を見る。

「……なかなか稀有な御仁ですな」
「どこがですか?」
「普通は白金貨を見た人間は、目の色が変わるものです。無理もない。それこそ一枚でも庶民なら無駄使いを慎めば一生安楽に暮らせるでしょう。
 しかし、シオン殿。貴方は白金貨を見てもまるで目の色が変わらない。全く見事といいたくなるほどに醒めた目でした」
「どうも」

 まー、まだ金銭感覚がこっちの世界に慣れ親しんでいないという事はあると思う。白金貨15枚と言われても正直ピンとこないもの。
 しかし勘違いしてくれるなら、それに越したことはない。

「世の中の人間が、金に心や体を支配されることもあるのに、貴方は金にまるで執着する気配がない。むしろ金など大望を叶える手段と考えているようだ。大抵の人間の人生の目的が『楽に大金を稼ぎ、安楽に、面白おかしく暮らしたい』だというのに。
 ……貴方なら、わしの金を上手く使えそうだ。個人的に期待しておりますぞ」
「ご期待に沿えるように頑張ります」
「……わしは少し警戒されているようですな」

 ま、仕方ない、そう言うようにバルロフ卿は苦笑する。
 そうこうしているうちに、秘書さんが必要事項を纏めたスクロールを広げる。
 僕とバルロフ卿の二人で確認した後、ダナンさんとカルサさんの二人にも確認を仰いでおく。
 そうして僕とバルロフ卿に正式な契約が交わされることとなる。

「「我々は互いを誠実なる取引相手と判断し、ここに約定を取り交わす。
  あざむかず。むざぼらず。誠実に、慎み深く。双方の利となる事こそ契約の本道。
  この取り決めこそが、お互いを勝者とする有意義なものとならん事を」」

 僕と対面のバルロフ卿の掌を押し当てれば、青白い光がスクロールを走り、小さな衝撃が僕の掌に刻み込まれた。
 これで契約の儀は完了。バルロフ卿は商人らしく時を無駄にする気がないのか、秘書さんにコートを着せてもらいながら僕に目を向けた。

「ああそれと……これはわしの商売っ気抜きで、個人的な忠告になります」
「はい?」

 バルロフ卿は小さく顔を顰める。思い起こすことさえ忌まわしく思っているような様子だった。

「『バラグーダ』のラゴン。我が帝国にはそういう名前の、ギルドに加入していない商人がおります」
カマス(バラグーダ)のラゴン? ……魚の?」

 バルロフ卿はこっくりと頷いた。
 カマスは大食いで攻撃的な性格の魚として知られているが……そんな魚を二つ名に奉られる辺り、相当貪欲で阿漕な商売をしていることが伺える。

「彼は金の為なら親兄弟であろうと食い散らかす男ですが。腹立たしい事に商機を掴む才能は、紛れもなく天才的です。
 奴ならば、遅かれ早かれ、大金を生み出せる技術を持つ貴方の元に現れるでしょう」

 僕を見るバルロフ卿の眼に、強い警告の光が見える。

「警戒をして、長生きをしてくだされ。貴方はこのわしに、もっと面白いものをみせてくれそうですからな」


「ふぅー……えらい緊張したわぁ……」
「おかあはん、お疲れさん」

 膨大な金銭のやり取りを目の前で行われていたせいか、謎の気疲れに襲われていたカルサさんは、その後夫のダナンさんとメーコちゃんに両側から抱き締められて心の安定を取り戻している。
 僕は部屋の外で待っていたと思しきギュスがやってくるのを見ながら、すっかりとぬるくなった紅茶を口に含んだ。

「お疲れさん、シオン」
「金の話は、開発には避けて通れないからねぇ」

 かつての前世の頃。専門分野の技術者ならば一言で理解して貰える話を軍事には素人である人間に説明しなければ予算は下りなかった。その頃を考えれば、バルロフ卿は実に話の通じる相手で助かった。

「でもええのん? シオンくん。あの『より軽く、より頑丈な金属』の製法を売ってしまっても」
「いいよ。……多分、そのうち技術を買いとりたいという人は来ただろうし」

 僕からすれば、未だに新型の飛行機械にのみにしか使用していないごく少量の無重力金属の事を聞きつけてきたバルロフ卿の情報収集力と、その重要度に目をつけて速攻で交渉に来た迅速な行動力に舌を巻く思いだ。
 いやはや傑物とはどんな時代でも存在するものだなぁ。

「それにしても、なんか護衛らしい人も少なかったし。秘書さんも一人。商業ギルドの総帥ならもっと大勢引き連れているかと思ったけど」
「ああ? ああ、そういやお前は知らないか」

 ギュスが首を軽く傾げてから呟く。

「バルロフ卿は金で爵位を買ったんじゃねぇんだよ。剣一つで勝ち取ったんだ」
「ん?」

 僕は首を捻った。

「あの人は帝国で開催されている剣術大会で二度優勝を重ね、その褒章として貴族の位を与えられた生粋の剣術家。帝国から『剣聖』の称号を頂いた本物なんだよ」
「マジか」

 だがそれなら、あの鋭い眼光も理解できる。剣士としての高みに達しているからこそ、護衛の数もまた少数なのか。
 ギュスは僕の前の席に座って言う。

「あの御仁も若い頃からダンジョンに潜って遺跡を漁る仕事に付いていたと聞く。
 優れた防具や武器は、後輩になる冒険者を大いに助けるからな。……あの、おい。どうしたシオン」

 いやちょっと待って。僕は目を欲望でぎらぎらさせながら起き上がった。
 今、超聞き捨てならない事を聞いた気がする……!!

「ぼ……冒険者って職業があるの?!」
「お前……食いつくのがそこかよ!!」

 こうして僕は……地上に降りてからの数ヶ月――かつてはTRPGや小説で慣れ親しんだファンタジーのお約束的ご職業が、この世界にもしっかり存在している事をやっと知るのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ