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位置が高いほど魔力の濃い世界で、空の彼方に生まれました~航空機チートによる物流革命~ 作者:八針来夏

第二章『連合編』

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第十一話『悪いのは主人公』

「くそ、なんだってんだ、なんだってんだ畜生……!!」

 ならず者のドライゼンはブツブツと呪詛めいた呟きを漏らしながら剣を抜いた。片手でも両手でもあつかえる、ツーバンデッドソードを構えながら僕に視線を向ける。
 勝負になる前にエクエスや、公爵家の騎士達の話を聞いたのだが……周囲から鼻つまみ者として扱われるドライゼンは激昂するとすぐ『決闘だ!』と大声で喚き散らす事があるそうだ。
 帯剣した長身の巨漢が『決闘だ!』と喚けば大抵の人は怯えて逃げる――それがドライゼンにはある種の快感であったのだろう。
 何かすぐ困ると決闘と叫ぶ癖さえ付いた男で。それでいて強者の雰囲気を持つ相手には決して喧嘩を売らない。
 もしかすると、この決闘騒ぎに一番困っているのは目の前の男なのかもしれないな、僕はそう思った。
 僕のような成人になったばかりの子供に決闘を吹っかけ、例え勝ったとしても『成人したばかりの小柄な少年に剣を突きつけて暴力を奮う悪人』だし、もし負けでもしたら絵に描いたような笑いものだ。
 だが、同情する余地はない。すべて奴の身から出た錆だ。

 ロッドを構える。
 あの天蓋領域でモモに教えられた事。
 その真髄の一つは単純な構え。棒の先端は常に相手の眉間へと照準を合わせる事。
 そうする事で、相手からは僕の棒が『点』としてしか見えなくなる。間合いを悟らせない事は戦闘では有利だ。

「この……この野郎ッ!」

 その時ドライゼンの体から魔力の光が滲む。
 地上で戦う騎士が使う強化魔術、怪力(マイト)の魔術だ。みしりと柄を握る筋力が増す。
 だが僕はその隙を見逃さない。呼吸をするようにごく自然に俊敏(クイック)をかけると、棒を繰り出す。
 両手ではなく片手持ちに切り替え間合いを伸ばし、鋭い踏み込みと共に突き。

「おおっ?!」

 機先を制された。ドライゼンは驚きを浮かべながらも身を捩り、避ける。
 だがそのまま僕はロッドを回転させて、軌道を足払いに転じる。
 モモが得意としていた足払いの技。アキレス腱を強打し、そのまま重心を引っこ抜く崩し技。足を払うと思った瞬間、ドライゼンはそれでも後ろへと飛びのきながら避けてみせた。

「…………」

 僕は一言も発さないままだったが、少し意外な気持ちだった。
 ならずもの、粗暴な鼻抓みものではあるけど……しかし鍛錬を欠かしたわけではない。で、なければ今の連携を避け得なかっただろう。

「あの子、やるわねぇ」
「エクエス様が隣に控えさせてたんだ。護衛かも?」
「突きの一撃目の狙いは喉笛だ。決まれば戦いどころじゃなかったろう。だがあの動作の繋ぎの滑らかさ、避けられる事も想定したんだろうが……」
「良いわね。体格の足りなさを棒の長さで補っている。あの少年、かなり使うわよ」
「お前等も見ておけ? ありゃあ……勉強になるぞ」

 周囲の声が響く中、ドライゼンが攻勢に出る。

「くそがっ!」

 切っ先を正面か振り下ろす一撃。愚直だが悪くない。僕はそれをロッドで受けながら横へと滑らせて逸らす。
 周囲から感嘆の声が響いた。

「逸らしたとはいえ、受けても一刀両断にならんのか、あのロッドは!」

 そのまま至近距離から握り固めた拳に怪力(マイト)を乗せ、打撃を放つ。
 狙いは剣を振り切り無防備になった男の腹。五指良く揃えて鳩尾を穿つ!! 横隔膜への打撃は呼吸を奪う。地上で窒息する恐ろしさを味わえ!

「――んぬ?!」

 だが次の瞬間、僕の拳に伝わったのは鋼の感触と炸裂する激痛だった。
 防具? 服の下に何か着込んでいたか。 

「……ああ、そういや腹になんか入れてたかもなぁ?! どうしたどうした、拳の骨とか砕けたんじゃないかねぇ?!」

 ドライゼンの腹に巻かれていたのは服の下に着込む防具の類か。
 硬質の手ごたえ。それを全力で殴打した僕の拳が血に塗れている。同時に相手の鎧に対して仕込みを入れつつ、後退。
 ……決闘である以上、防具をつける事が責められる訳ではない。しかしそれはどちらか一方の死でもって決着が付くような、もっと苛烈な決闘にのみ許されること。こんな喧嘩の延長のような決闘で防具が許されることはまず無い。
 もちろん周囲の観客からはブーイングの嵐だ。

「恥を知れー!!」
「刃物を持たない相手に鎧を着込むのかー!!」

 だがそんな周囲になど目もくれずドライゼンは僕に向かって言う。

「へ、勝てば良いんだよ勝てばなぁ!! どうだ、改めて降参するかぁ? 砕けた拳じゃまともに戦え……ま、い?」
「悪いけど――」

 僕はもう既に治療の終了した片手をひらひらさせて軽侮の視線を向ける。

「話してるうちに、もう直っちゃった」
「す、スペルユーザーだと?! 聞いてねぇぞ!!」
「言ってないからさ。君が服の下に鎧を着込んでいた事を言ってなかったのと同じように」

 生命系魔術の一つ、自己再生(ヒーリングファクター)
 この程度の傷なら問題なく再生できる。
 完全に治療が終わると、僕は不機嫌さを隠そうともせず睨む。
 目の前の男に対しても腹が立つし、こんな当たり前の卑怯な手段を事前に察する事ができなかった僕自身にも腹が立つ。
 今回は試合形式だったけども、実戦でなら卑怯と言う言葉は存在しない。
 相手が常に決闘に相応しい高潔さを持っていると考えないことだ。一つ勉強になった……そう思いつつ、魔術を発動する。

「ほんとは技量での勝負をしたかったが……もうやめた。詰みだ」

 僕の指を弾く音と共に、相手の鎧に仕込んだ魔術が発動する。

「な、なんだこりゃ……!! け、剣が鎧にくっ付いて……な、何しやがった! 正々堂々と戦え!」
「その台詞、そっくりそのままお返しするよ」

 仕掛けたのは帯磁(マグネイト)の魔術。
 強烈な磁力がドライゼンの剣と下に着込んだ鎧に吸着しあい、身動きを取れなくする。
 困惑する相手の始末はもう簡単。ロッドで足を払い、転がしたところに――奴の眼前に、ダガーを突き立てる。
 剣を使えず転がったところに、眼前に突きつけられた刃物。僕が殺す気であったなら、眉間への一撃で決着は付いただろう。

「ひっ!」
「……そこまで! 勝者、シオン=クーカイ!!」

 審判役を務めてくれた騎士の人が僕の手を持ち上げ、高々と勝ち名乗りを叫ぶ。
 大勢の観客が歓声を上げて僕の勝利を祝福してくれる。

「面白い、面白い勝負だった!」
「すっとしたぜ、坊主!」
「……あーくそ、デカイ奴が勝ちそうに思ったのになぁ!! まーでも賭けは負けだが気持ちは晴れたぜ!」
「若いのに場慣れしてるじゃん、騎士団にこない?」
「しかし見たか? 治癒魔術の腕前に、一瞬の交錯で行った帯磁(マグネイト)の仕込み」
「うん。体術も魔術も水準以上だ……後であたいらのチームに誘わない?」

 あちこちから聞こえる声。頭を下げ賞賛に答えていたら、エクエスが小走りにやってくる。

「シオン! 腕の怪我は?」
「なんでもないさ」

 問題ないことを示すように掌を開閉させてみせる。
 強がりではない。モモとの実戦形式の訓練は、後半の頃は実戦さながらの気迫が篭っていた。僕にすれば実戦と訓練の差は血が流れるか否かでしかない。訓練の苛烈さに比べれば、この程度の打撲など怪我のうちにも入らない。それでも心配しているのか、エクエスの掌が、僕の一度激しくぶつけた拳を包み込んだ。
 治療(キュア)の光が、掌を覆う。

「もう。……気が気ではありませんでした」
「アレ? 僕が負けると思っていたのか?」

 それは実に心外だ。
 実戦で自分の棒術がどの程度通用するか確かめるために魔術を使わなかったが、僕が本気でなりふり構わず勝ちに行ったら大抵の相手はケシズミだ
。負けることだけはないと信頼されていると思ったのに。

「いいえ、いいえ! ……そういう事ではありません」

 どういう事なのだろう。エクエスは僕の掌を離すと、なんだか熱っぽく潤んだ目で見つめてきた。

「ただ……わたしの為に戦ってくれた貴方が心配でした。ありがとう、シオン」
「どういたしまして。とにかく、これで大丈夫だ、エクエ……」

 その時頬に軽く触れる感触。己が為に戦った騎士に女性が感謝を込めて口づけをしたのだと――周囲から響く囃し立てる声で気づいた。

「こ、こら……エクエス、何してるんだ……」

 うう、やばい。顔が赤い。眉がへなへなよれて、睨む視線にも注意する声にも力が入らない。
 エクエスはそんな反応を見て……なんだか面白そうなものを見たと言わんばかりの目を見せた。

「シオン。その。女性が自分の為に戦った相手に感謝の口づけを捧げるのは別に恥ずかしくもなんともない、当然の権利なのです。なのですが……その……そんなに照れられると、わたしも少し恥ずかしいです……」
「し、仕方ないじゃないか。僕の 前世(ふるさと)だと感謝の口づけはそんなに一般的な習慣じゃなかったんだ……」

 そんな風に話していると――なにやら観客席から駆けてくる人影。
 メーコちゃんとギュスターヴの二人だ。メーコちゃんは頬をぷくりと膨らませて睨んでくる。

「じ、自分の為に戦った男の子にキスするのが普通ならウチもシオンくんにキスするのが普通やよねぇ!?」
「そ、それをするなら助けられた直後にするべきではないですかっ!? 今はわたしの番なんですよ!?」
「あー……」

 僕はそんな二人の間にはさまれながら、どう声を掛けようと迷っているギュスターヴに視線で助けを求めた。
 彼は僕の視線に気づくと、少し考え込んだ後……真面目な表情で、唇を指で撫でながら口を開いた。

「なぁ、シオン」
「なんだよ!!」
「俺も……キスしたほうがいいか?」
「「「帰れ!!」」」

 僕とエクエスとメーコちゃんの三人の声が綺麗にリンクした。
 ギュスターヴは姪と公爵令嬢と僕の声に、げらげらと馬鹿笑いしがらそのまま走り去っていく。
 ちくしょう、最初から助ける気なんかなかったんだな?! 見捨てられた!!

「もう、アホな叔父さんはほっといてウチとちゅっちゅするんよ、シオンくん!」
「ちょ、ちょっと! メーコ、わたしの為に戦ってくれた直後にそんな事言わないでください!」  

 そんな風に話をしていたら、周囲の視線がなんだか生暖かいものを見つめるものになっている。

「……あの二人とも。もうそろそろ……」
「シオンは今回黙っていてください、大事な話をしているのです。女の人生の見せ場を奪われようとしては黙ってはおれません」
「むっー、あかんからね、エクエス様。そんなのあかんからね」

 メーコちゃんが僕に好意を持ってくれていたのはわかっていた。
 しかしエクエスも何でわざわざ張り合おうとするのだろうか。……事前に、僕の事好きじゃないだろ? と確認したのに。

「ちょ、ちょっと。エクエス」
「な、なんですか、シオン」

 なぜ顔が赤いんだエクエス。

「事前に話したじゃないか。僕の事好きじゃないだろ? って。僕はキスなんか別にいらないから。気にしないでいいよ、君の為に戦ったのは僕自身が勝手にやっただけなんだから」

 と――二人を仲直りさせようと意見を言ったのだが……なぜかエクエスはひどくムッとした表情で僕を睨みつけてきた。あれ?
 しかもエクエスだけでなく、なぜかメーコちゃんまで僕を睨む。なぜ?!

「シオンくんのあほーっ!」
「シオン。貴方は格好良いのに、優しいのに。……時々ひどく腹が立ちます」
「釈然としないし頑張ったし褒められこそすれ頬を抓られる筋合いはないいい痛い痛い痛い」

 そう言っていたら僕は両側から感謝のキスではなく怒りのほっぺた抓りを受ける破目になってしまう。
 そうして僕がいたいいたいとタップして降参すると、ある程度気が済んだのか――ようやく解放してくれる。

「……でも相手が、普通は助ける必要もない、とっても強い魔女(ヘクセ)でも、シオンくんは助けるねんなぁ」
「そりゃ男の子だし」

 僕が答えればメーコちゃんは、あっさりと上機嫌そうになって歩き出し。
 エクエスは、僕の傍に近寄ると、そっと耳に囁いた。なぜか、顔が赤い。

「……少し待っていてください、シオン」
「うん?」
「商会に戻って、メーコのいないところでなら……またキスしてあげますから……」

 その言葉に……僕はエクエスの顔を注視できず、真っ赤な顔を自覚しながら目を背けて。
 やっぱり上機嫌そうなエクエスの後を追って歩き始めるのだった。 
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