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位置が高いほど魔力の濃い世界で、空の彼方に生まれました~航空機チートによる物流革命~ 作者:八針来夏

第一章『地上編』

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第二話『大地に立つ』

 地上に降り、そこで戦いに巻き込まれる数時間前のこと。


 バイザーに表示された高度計が凄まじい勢いで回転する。
 高度四万(エンジェル・フォー)から落下している事が分かる。
 僕はなんだか自分がとても取り返しの付かない事をしているような気持ちを覚えていた。
 僕の第二の故郷と言うべき航空母艦ムーンボウ。そこから落下していく。まるで天空から大地へと堕とされた天使のよう……というとちょっと気取りすぎていていささかキモいが。しかし下手をするともう二度と帰れぬかも知れない故郷なのだ。
 高度三万を降下。
 僕の身を包む飛翔甲冑(メイル)は、高度な着用者の保護機能を備えている。例えば風圧。例えば温度。着用者の生命保護機能の全てをまとめて風防(キャノピー)という魔術で一くくりにしているほどだ。

「……やっぱり、ひどいチートだ」

 僕はぼそりと呟いた。
 この世界において、全ての基幹技術である魔力(マナ)は高度が高ければ高いほど濃密になる。
 かつての世界において、僕ら航空技術者がどれほど燃料の重量に頭を悩ませていたことか!! だがこの世界は、いわばその辺の空気に燃料が含まれているのだ! つまり機体さえ無事であるなら、その辺の魔力(マナ)を吸い上げれば飛び続けることができるのだ。
 ……宇宙船の開発者が聞いたらきっと呪い殺すであろう、大変に羨ましい話だ。
 高度二万五千を通過。そろそろだ。
 僕は数分の自由落下の中、まるで脳みそを押しのけて引っ越してきたかのように耳元でどっくんどっくんと激しく高鳴る心臓を自覚していた。はやる心を自覚しながら操縦桿のスイッチを押す。

「降下ポット、パージ」

 がしゅん、と短い炸裂音が響き渡る。同時に僕の飛翔甲冑(メイル)を覆い隠していた降下ポットの外装が幾つもの細かなパーツへと分解され、四方へ散っていく。
 目の前に広がるのは……一面の大空。見渡す限りの青色。そしてうっすらと青みがかった大地。 

「イイッャッホォォォォォ!!」

 喉奥から自然とあふれ出る歓喜。脆弱な心臓ゆえに、永遠にかなうことがないと思っていた大空を飛ぶこと。僕はその喜びを心の奥から表現していた。
 楽しい。我が身一つで空を飛ぶこの喜び! 童心に帰ったかの如く歓声をあげながら僕は僕の専用機を操る。両足に組み込まれた両足を動かし、機体を落下させながら回転。
 そうすれば背中の主翼先端より伸びる、二筋の飛行機雲(ヴァイパー)が螺旋を描いていく。
 成層圏からのスカイダイビングなんてそうそうできるものじゃない。そしてこれから先、健康になった今では何度でもこの空を飛ぶ喜びを得る事ができるのだ。
 僕は機体をくるりと一回転させ、背中を地面に、前面を天空へと向けた。
 遥か天空に今も存在するであろうムーンボウの姿は完全に見えない。目で見て確認できないほどの高度に存在する故郷。

「簡単じゃない。それはわかってる。……でもやるぞ。待っててね」

 もう一度モモに会う。今度は友達を連れて。



「さて。実は凄いミスをしていたのだ」

 僕はゆっくりと降下させながら一人ぼやいた。そう、ミスをしていた。
 まず最初、街なり都市なりを上空から確認して僕の飛翔甲冑(メイル)を人里離れた位置へと降下させる。そこから身なりを整え、旅人の振りをして町に向かい、そこで様々な情報や世間一般の常識を仕入れるつもりだったのである。
 ……その目論見は一行目から頓挫した。
 空を飛ぶのが楽しすぎて、そんな考えは頭から完全に吹っ飛んでいた。結果僕はせっかくの高度を無駄に費やし、地上近くを飛んでいる。
 僕のミスを叱責する人はいない。そしてミスの尻拭いは全て自分で行わなければならない。
 ああ、僕は本当の意味で一人なのだな、と……飛行の喜びを満喫した僕は、次いで寂しさに襲われていた。
 結果として僕は、近くに着陸するべき村落を発見する事もできず、間抜けにも迷子のようにうろうろ飛行を続けることとなる。
 間抜けめ、僕は自分を罵った。飛行目標も定めず、惰性で空を飛ぶ。とにかく何か目印になるようなものはないかな……そう思っていた時だった。

「あれ。けむり?」

 青空に一筋、煙が立ち上っている。
 僕は最初、飯の煮炊きをする際の炊煙かと思った。今の時間は正午。お昼頃で太陽も中天で光輝いている時間帯だ。食事の準備をするためのものであってもおかしくない。
 しかし……それにしては煙の色が黒い。はっきり言えば、どこか重い印象を与える黒煙であった。足元には大きな森が広がっていて、その森の中から煙をあげているように見える。

「はるけき遠方の彼方より狙う、鷹の目を我に与えよ、遠望視覚(イーグルセンス)

 扱うのは熱属性の一種、光の魔術。遥か彼方を見るための遠望鏡めいた視覚を使用者に与える魔術だ。まるでズームするかのように、遠くのものをより鮮明にはっきりと目で捉える。

「……こりゃあ……」

 僕は小さな声で絶句した。
 恐らく、それは飛行能力を失った飛行船が最後の生還手段として胴体着陸を試みた結果なのだろう。
 地面に生い茂る木々をその体躯でへし折りながら船体を地面で擦り、あちこちにパーツを四散させた飛行船の残骸だ。事故の際に火が出たのであろう。いたるところから煙が昇っている。
 事故……? 僕は空中で旋回し、目で船の残骸を見て情報を集めていたが……その妙な痕跡に首を捻る。

「……なんだこれ。船殻のひしゃげかたが、まるで内側からの爆圧によるものみたいだ。魔術機関の暴発でもない。爆弾でも詰まれてたのか? 爆薬の輸送船が管理の不備から暴発させた……?」 

 いや、原因の救命はどうでもいい。
 もしかすると、この如何にも事情がありそうな航空機の墜落事故現場などに関わらず、さっさと場を離れたほうが良いのかもしれない。だが前世から引き継いだ道徳心と、モモから教えられた人を助けるための技術が僕に関わる事を選択させた。
 僕は僕の専用機……『ザスモー』と名づけた飛翔甲冑(メイル)をゆっくりと地上へ降下させる。
 両足から推進炎を吹き、地面を焦がしながら着陸した。


 僕は飛翔甲冑(メイル)から降りると、一歩二歩進んで視線を飛行船に向けた。
 人間は魔力を持っている。そして僕のような魔術師にとっては、魔力を視覚として捉えることはそう難しい事でもない。前世では無縁だった、魔力という新しい感覚が告げていた。
 この残骸には生存者は残っていない。それらしき気配もない。

「…………」

 しばし、黙祷を捧げる。
 墜落してからおおよそ五時間と言ったところか。ふつう、生存者がいるのであれば『助けてくれ』と叫ぶだろう。それは異世界であっても同じことだ。たとえ声があげられない状況であっても、生存者の魔力をソナーのように感知する僕ならば察する事ができる。 
 当然魔力の探知から身を隠す魔術も存在しているが、それはこの場合考えなくてもいいだろう。
 いや、待てよ。

「サイズからして10メートル級の小型機。このサイズなら個人所有の船舶クラスかな。墜落原因は内部からの爆発、と。
 ……あれ。でも中々凝った装飾だ」

 船の外装……良く見ると丁寧な彫刻が施されている。
 個人所有の民間船かと思ったけど、外見にもお金をかけられるあたり意外とお金持ちか、どこかの貴人の持ち主だったかもしれない。

「あらやだ。なんだか急に政争の臭いがしてきたよ……?」

 船の主がどこかの貴人で、そして壊れた理由が内部に仕掛けられた爆弾……時限式のものだったとすると、この船に乗っていたどなたかを暗殺するためだったと推測できる。

「……」

 考える、考える、考える。
 しかし、だ。森という環境は決して生存不可能とは言い切れない。森には果実など味はともかく食用に適したものだってあるだろう。危険な肉食生物や毒虫の類も存在するだろうが、正しい知識と経験があれば対応できないものではない。
 無人島のように脱出不可能なわけでもない。気力や知識があれば時間は掛かろうと人のいる場所にたどり着くかもしれない。
 どれほど入念に準備を重ねようとも迂闊な対応が即、死を招く砂漠や凍土ならともかく、森はそうすぐに死ぬような環境でもない。そしてこの船に乗っていたのが貴人であるならば、そういう生存力に長けた腕利きを手元に置いてもおかしくはないだろう。生身でパラシュートの代わりができる落下制御フォーリングコントロールが使えるなら、脱出成功した可能性だってある。

Q:そんな風に陰謀から命からがら脱出した彼らの元に飛翔甲冑(メイル)がやってきたらどう思いますか?
A:死亡を確認に来た殺し屋だ! 

 僕が、そんな風に判断される恐れだってある。 

「……場所変えよう」

 僕は、五年間の間モモに様々な事を教えられた。あの冷酷美人メイドロボのことだ。水準かそれを上回る能力は与えてくれたはず。
 天上人(ハイランダー)として生まれた僕は普通人よりも魔力量や精度で上回るそうだが、自分の能力を過信するのは良くない。僕は場所を変え、そこで今晩野営する事にした。


 僕の飛翔甲冑(メイル)……『ザスモー』と名づけたソレの腰のユニットには生活必需品のセットを一まとめにしたトランクをくっつけている。
 森の中で木々の少ないちょっと開けた場所を、僕は今宵の宿とする事にした。
 天蓋領域への通信機は『ザスモー』の中に組み込んである。無くす恐れはない。トランクの中から圧縮されたテントを取り出し、探知のための陣を敷く。この時僕が仕掛けた陣とは、前世で連想する鳴子のような接触と共に音を鳴らす仕掛けではなく、僕の探知魔術の精度を増す『警報』の魔術陣だ。

 さて。
 一晩夜を明かす準備を終える。前世を含めて天幕の下、森の中でキャンプをするというのは男の子ソウルをくすぐるイベントなのだが、僕はもう一つやりたい事があった。
 そう。

「おいしい肉が食べたい」
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