挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
位置が高いほど魔力の濃い世界で、空の彼方に生まれました~航空機チートによる物流革命~ 作者:八針来夏

第四章『内政編』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

113/114

第六話『裏切られたら裏切り返す』

ちょっと視点変更。
最近仕事でのストレスが激しく、あまり更新できず申し訳ありません。
「……え、い、今なんて仰ったんすか? 教官殿」
「……すまない。すまないが、今言ったとおりだ。帝国空軍は、君を雇用しないことに決めた」

 帝国首都『雲の隙間より光さす都』と呼ばれる『ソレイアド』にある魔女養成学校の中で、クラリッサは自分を指導してくれた教官魔女の言葉に愕然と聞き返した。
 ふんわりとしたボブカット、勝気な瞳と多少ガラの悪い言動。そして眼鏡。ガラの悪い眼鏡っ娘というような若い女性、クラリッサはよろよろとよろめいた。
 そんな馬鹿な。そんな馬鹿な。
 ずれ落ちた眼鏡を直す余裕さえなく、茫然自失のまま呻き声を上げる。

 クラリッサは自分でも言うのはアレだけど、優秀な人間だったのだ。
 孤児院に居た頃に資質を認められ、蟻地獄のような貧困から這い上がるため魔女騎士(ヘクセリッター)になる事を決心。
 孤児院出身の彼女では学費をまかないきれないから、奨学金が認められるように寸暇を惜しんで学び、鍛え、励んだ。
 魔女騎士(ヘクセリッター)は生まれもって魔力の総量が多い貴族の娘がなる事が多く、色々と疎まれることも多かったが……それでもなにくそと励んだのである。
 そのおかげで、今や学年主席の成績を上げ――そして魔女騎士(ヘクセリッター)としてどこに赴任されるのかを聞こうとした矢先に――自分のこれまでの人生全ての努力を水泡に帰す一言を浴びたのだ。
 茫然自失の次は半狂乱だった。クラリッサは激怒に任せて教官の胸倉を掴んだ。

「なんでっ! なんで?! あたしより成績下位の連中は任官が決まって、トップのあたしが何でぇぇ?!」

 魔女候補と言えども軍属。本来ならこんな行動は鉄拳制裁の対象になるはずだが……さすがに教官魔女も気の毒だと感じているのか、咎めようともしない。むしろ当然の怒りだと甘んじて受け止めていた。どうにもならない現実を嘆くように教官魔女は言う。

「……お前は平民で、奴らは貴族だ」

 つまるところ……生まれの差でしかなかった。クラリッサは両足から崩れ落ちる。
 帝国の将校を占めるのは、生まれながらの貴族であり――彼らは優秀な人間よりも多少能力が衰えようが、自分たちの親類縁者を採用したのだ。

「なにさそれぇ……なんですかそれ、ふざけんなぁぁぁ~!!」

 どういう事なのだ。どういう事なのだ。クラリッサはこの数年間ずっと貴族たちに溜め込んでいた憤懣をぶちまけるように床を殴りつけて叫ぶ。
 魔女の資質がある――そう言って、孤児院から自分を引き上げたのが帝国であったなら、魔女の資質を磨きぬいた自分を、貴族ではないという理由で捨てたのはやはり帝国。
 なんだそれ。ふざけるな。どれだけ私の人生を馬鹿にすれば気が済むのか。わたしが人生の大半を捧げてきたのは、魔女騎士になるためだったのに。本人の努力でどうにもならない理由で夢を切り捨てられるなんて。

「……私が現役だった頃なら、こんな人事はまかり通らなかっただろう」

 教官魔女の言葉もクラリッサには届かない。
 10年前であったなら、帝国と連合は未だ緊張感のある睨み合いを続けていて、優秀な魔女は必要だった。
 5年前であったなら、軍事費は未だ膨大で平民で有能なクラリッサを受け入れる余裕があっただろう。
 だが、帝国と連合で正式な終戦協定が結ばれた今……軍事費に頭を悩ませる必要がなくなった貴族達が真っ先に削るのは……平民の魔女を解雇、もしくは雇わないという軍縮だった。

 つまり、時代が悪かった。運が悪かった。

 もちろん平民出身でも優秀な魔女は多い――というか、クラリッサのように、貧困から這い上がろうとして必死の努力を続けるものが多く……帝国空軍は優秀な人材を大きく流出させてしまい、後年の戦争の時代では大いに頭を悩ませることとなる。

 もし後年の帝国空軍指揮官がこの時代にタイムワープできたなら、貴族優遇の愚かな決断を殴ってでも止めただろう。



 だが、そんな出来事はありえず。
 平民であるクラリッサがどれほど異議を訴えようとも――この国自体が貴族を優遇する仕組みを作っているのだから問題にもならない。
 散々この世の不平等を嘆き、喚き散らし……教官を相手に長々と愚痴を溢して……多少頭が冷えると、なんだか急に気恥ずかしさが芽生えてきたのである。
 流石に国も勝手な都合で候補生たちを切り捨てる事に気が咎めたのか、少しばかりの金銭が支給された。
 クラリッサは荷物を纏め、長年住み慣れた魔女の宿舎から出ると……見送りに着てくれた教官魔女に対してすっかり癖になった敬礼をする。

「……お世話になりました、教官殿」
「お前は私が鍛えた中では一番度胸のある魔女だった。そのくそ度胸があれば、どこでも通用するさ。
 ……守ってやれなくてすまない。幸運を祈る」
「いえ。教官殿も、どうかお元気で」

 人生の道が中途で閉ざされた事に、諦観と絶望に包まれながらも――彼女は行動する事をやめはしなかった。




「……やっぱ冒険者しかないよねー」

 冒険者ギルドの前で、彼女はそう呟いた。
 魔女騎士は軍隊に属していただけあって、身体的、魔力的にも屈指のエリート集団である。ましてや彼女は知力体力ともに最高評価を受けた軍学校の主席だ。
 そのエリートの卵が今や社会の底辺のような冒険者家業に身をやつす。クラリッサは地獄のような溜息を吐いてから――冒険者ギルドの受付に履歴書類を差し出した。

「はい。冒険者の新規受付ですね? それでは」

 必要書類には資格欄もある。
 剣術の心得、武術の免許皆伝や薬草学、魔術に対する知識など、言ってみれば自己アピールの欄だ。
 クラリッサはそこに『○○年 魔女養成校を首席にて卒業』と書いた。
 今や紙くずに等しい資格だが、クラリッサの中にある自己顕示欲がそれを書かせた。できるならこの受付のお姉さんに『え?! 魔女騎士の方だったのですか? すごい!』と、本当に、ほんの少しでもいいから褒めて欲しかったのだ。
 すると期待通り、驚きと感心の声があがる。

「え? ……魔女騎士(ヘクセリッター)の資格ですか?!」
「そうです。……もっとも、あたしより腕の悪い貴族の子女を入れるために、解雇されたんですけどね」

 自嘲で口元を歪めるクラリッサに、受付のお姉さんは履歴書類と……手元の資料を交互に確認し――『しょ、少々お待ちください』と上ずった声を上げた。
 なんだか予想外に大きいリアクションだな? と思う彼女だったが、受付のお姉さんが『ぎ、ギルト長~!! ギルド長~!! これってバルロフ会長からの要請に当てはまるんじゃないですか、ちょっと確認してください~!!』と大声を上げだしたのだ。 
 ぎょっとするクラリッサに対して注目の視線が集まる。一体何事なんだろう、と思っていたら……一番の上役と思しき壮年男性がやってくる。

「お前さんが、冒険者になりたいっていう、元魔女かな?」
「へ? あ、はい」
「少し内密の話がある。……特別室へきてもらえるかな? ああ、安心してくれ。君が何か違反を犯したとかそういう訳じゃない。……ただ、君にとっても悪くない話ができるかもしれないんだ」



 クラリッサは、自分の履歴書をテーブルに置いたギルド長と、女性職員の二人と対面で座ることとなった。

「クラリッサさんだね。魔女騎士(ヘクセリッター)として養成校を卒業したにも関わらず、ウチにきたのは……」
「ええ。帝国と連合の和平協定の影響です」

 クラリッサは頷いた。
 軍人を志した彼女は、当然ながら変事の際には命を懸けて戦うように覚悟はできている――が、やはり戦争は無いほうが嬉しかった。
 実戦で命を落とすより、汗水流してトレーニングに励む日々を送るほうがいい。
 だから、不謹慎な言い方になるが……あと、一二年でもいいから和平協定の樹立が遅れれば、実戦のない空軍に在籍できたのに……と恨みがましく思ってしまう。
 ギルド長はそんな彼女の内心を見通すかのように、慰めの言葉を向ける。

「君のように、国のために戦う気持ちを持った人を切り捨てるなんてな……」
「そっちのはもう良いんです。……で、あたしに何の用で?」

 本題は何かと尋ねれば、ギルド長は手元から地図を取り出して広げて見せた。
 大陸の東部。山間の中にある、赤く塗られた小さな領土を示した。

「君は、クーカイ男爵領というのを知っているかな?」
「クーカイ? ……いんや、初耳ですけど」

 ギルト長は予想通りの彼女の言葉に頷いた。

「ここ数年で劇的な成長を遂げている男爵家なんだが……実はね。この領主が、魔女(ヘクセ)を集めているんだ」
「え? ……その、大丈夫なんですか。それ」
「問題はない。実はこれは――我が商人ギルドトップの、バルロフ=オーフェスティン卿が、冒険者ギルトのほうに流した依頼なんだ。依頼人の身元はしっかりしているよ。
 このクーカイ男爵という人物は、軍縮で魔女(ヘクセ)……特に、後ろ盾を持たない平民出身の魔女達を集めて特殊な部隊を編成しようというらしい」

 と、そこまで言って……ギルド長は少し困ったような顔を見せる。

「君が怪しい話ではないかと疑うのも無理はない。つい昨日今日発令された依頼でね。『もし魔女騎士(ヘクセリッター)の資格を持つ女性が冒険者に存在していたら、なるべく伝えて欲しい』という事なんだよ。……ただ、実際にどのような仕事であるのかは現地で伝えるそうだが……」
「ううん……」

 クラリッサは眉を寄せて考え込む。
 魔女の資格を持つ人間を集めているのだから……再び飛翔甲冑(メイル)を身にまとって空を飛ぶ事ができるかもしれない。魔女の例に漏れず、クラリッサもまた空を飛ぶ事を生き甲斐に感じている人間だった。
 しかし……彼女も帝国軍人として教育を受けた身。
 帝国と連合が戦争になった際、故国に裏切りの刃を向けることになるかもしれないと思うと、気が咎める。
 何より……奨学金で学費を無料にしてもらったため、クラリッサの貯蓄は心もとない。

「でも、この帝都から連合の片田舎まで行くための旅費さえないんですけど」
「もし面接試験を受けるのであれば、通行費を往復分負担してくれるそうだ。当然ここで必要事項に記入はしてもらうがね」

 クラリッサは、ますます訝しげな表情になった。
 彼女は『美味い話には裏がある』という事を知っている。
 こうまで自分にとって都合の良い話が続くと、この世の全てが彼女を謀略に陥れようとしているのではないか? と疑いさえ覚えてしまう。
 だけども……。

「……よし。とりあえず一度行ってみることにします」
「そうか、ありがとう」

 ギルド長はほっとしたように頷くと、隣の女性職員から書類を差し出してくる。
 クラリッサは、少なくともこの時は連合に骨を埋めるつもりはなかった。
 ただ、この国の貴族を優先する主義は、彼女のこれまでの頑張りを裏切った。血豆を潰しながら鍛えた彼女の努力より、血統を優先した。
 なら、自分を『いらない』と言った国にいるよりも……自分のような平民の魔女を雇おうとする連合の小国に、運命を託してみようと思ったのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ